本書は少なくとも小説ではない。日本海海戦を通じて国際政治史を説明するのが目的だ。
小説は人間を描くものだ。長く読み継がれる作品に描かれる人物は皆いかにもと思わされる。
ただ、それが歴史上の人物だと厄介な点がある。架空の人物ならそれらしければ良い。
実在した人物は必ず多面的な歴史上の評価が行われ定着する。
それに一石を投じるのは作品作りとしてはまっとうなことだ。ただ、社会的評価との鬩ぎあいに勝つ必要がある。
それに負ければその作品は時ともに移ろい消えてゆく。
古典と言われる小説で実在の人物を主人公にしたものが案外少ないのはその辺が大きな原因だ。
司馬遼太郎は「坂の上の雲」で秋山真之を描いた。
その主人公を描くために上司や同僚を引き立て役にするのは致し方ない。
東郷平八郎は当時からそして現在に至るも間違いなく英雄である。
一方で秋山真之は一軍人でしかない。それ以上ではない。だからこそ、スポットをあて、真のヒーローに仕立て上げるのは小説としては定石だ。
ただ、司馬史観が批判を浴びるのはそれが実にそれらしく、そして本人の精力的というより行き過ぎた広報が原因である。
もっとも、歴史に題材をとる小説家は大なり小なりその弊からは逃れられない。
本書は極めて該博な知識と分析に立脚しており、その内容は蓋然性に富んでいる。
要所要所で「坂の上の雲」を引用し批判を加えている。しかしそれは国際法上の整合性や軍制の知識を踏まえている。
やや、感情的と思われるが、少なくとも、詭弁でも珍説でもなかろう。
言葉は厳しいが、事実を指摘している。同時に「坂の上の雲」の限界も示している。
司馬作品のファンは極めて多く、死後に記念館が建てられるほどの人気を保っている。
人間を描くことに巧であったことは疑いの余地はない。
ただ、100年後に司馬遼太郎の作品が読まれているかはわからない。
少なくとも、「坂の上の雲」では主人公の引き立て方を誤った。
つまり「坂の上の雲」は古典には成り得ないことを本書は示している。
本書自体も批判の対象となっているようだが、そうした議論があるうちは「坂の上の雲」の寿命は尽きていないのだろう。
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日本海海戦の深層 (ちくま文庫 ヘ 10-3) 文庫 – 2009/12/10
別宮 暖朗
(著)
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- 本の長さ388ページ
- 言語日本語
- 出版社筑摩書房
- 発売日2009/12/10
- ISBN-10448042668X
- ISBN-13978-4480426680
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- 出版社 : 筑摩書房 (2009/12/10)
- 発売日 : 2009/12/10
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 388ページ
- ISBN-10 : 448042668X
- ISBN-13 : 978-4480426680
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2012年6月21日に日本でレビュー済み
日露戦争の日本海海戦の本当の姿を、事実に基づき冷静に分析した本である。
日本海海戦の歴史観は司馬遼太郎の『坂の上の雲』が、現代日本人の平均的な姿だろう。本書は、様々な歴史的事実を列挙して、司馬史観を批判している。
石炭を積む当時の軍艦の航続力の小ささ。当時の艦隊が遠征するには補給基地が必須であること。'発(とうはつ)という当時原因不明だった砲身で砲弾が爆発する現象。第一次世界大戦までは役に立たなかった徹甲弾。世界に先駆けて実戦で使った日本海軍の斉射法。当時の砲撃方法では、敵前大回頭のポイントを射撃し続けることが困難なこと。
当時世界最強で要所要所に植民地を持っていたイギリスとの日本が同盟を結んだことは、日露戦争を勝つ上で、戦略的にとても大きい影響があったことがわかる。
そして、ロジスティックス無しでは艦隊を有効に機能させることができないことも。
こういった事実を見ていくと、日本海海戦は勝つべくして勝った戦いであったことがよくわかる。
本書のように、日露戦争後、日本海軍が日本海海戦をきちんと分析していたら、第二次世界大戦で、あのような補給を無視し、精神論に基づき、勝利へのシナリオを持たないで戦争を始める馬鹿な戦いはしなかっただろう。本書では、第二次世界大戦の黛大佐が、日露戦争当時の技術を知らず、太平洋戦争の頃の技術を基準に、日本海海戦を分析していることを、強く批判している。
歴史を正しく分析することのおもしろさと難しさがよくわかる本である。
日本海海戦の歴史観は司馬遼太郎の『坂の上の雲』が、現代日本人の平均的な姿だろう。本書は、様々な歴史的事実を列挙して、司馬史観を批判している。
石炭を積む当時の軍艦の航続力の小ささ。当時の艦隊が遠征するには補給基地が必須であること。'発(とうはつ)という当時原因不明だった砲身で砲弾が爆発する現象。第一次世界大戦までは役に立たなかった徹甲弾。世界に先駆けて実戦で使った日本海軍の斉射法。当時の砲撃方法では、敵前大回頭のポイントを射撃し続けることが困難なこと。
当時世界最強で要所要所に植民地を持っていたイギリスとの日本が同盟を結んだことは、日露戦争を勝つ上で、戦略的にとても大きい影響があったことがわかる。
そして、ロジスティックス無しでは艦隊を有効に機能させることができないことも。
こういった事実を見ていくと、日本海海戦は勝つべくして勝った戦いであったことがよくわかる。
本書のように、日露戦争後、日本海軍が日本海海戦をきちんと分析していたら、第二次世界大戦で、あのような補給を無視し、精神論に基づき、勝利へのシナリオを持たないで戦争を始める馬鹿な戦いはしなかっただろう。本書では、第二次世界大戦の黛大佐が、日露戦争当時の技術を知らず、太平洋戦争の頃の技術を基準に、日本海海戦を分析していることを、強く批判している。
歴史を正しく分析することのおもしろさと難しさがよくわかる本である。
2010年5月13日に日本でレビュー済み
本書は以前、他社から『「坂の上の雲」では分からない 日本海海戦』として刊行された本の、改訂文庫版です。
改訂は比較的少なく、図の差し替えと一部の修正に止まっており、本質的な内容には変化はないと見てよいでしょう。
そして先行するこの本の評価は、お世辞にも高いものではありません。
これは、ネット言論上における揚げ足とり的なものばかりではなく、2005年11月の『軍事研究』誌上において、多田智彦氏による同書への痛烈かつ具体的な批判が展開されていることから、一定の広がりをもったものととらえて良いかと思われます。
同氏の著述に共通する極めて基本的な事実関係の誤認(自信たっぷりの一号機雷(連携機雷)に関する珍解釈に関して、根拠文書を知りたいところです)が認められ、筆者の資料収集と分析、執筆スタンスに疑問を感じます。
本書を読まれた初学者の方が「初めて知った」ことに驚き感心することがあるかもしれませんが、それは「初めて知った」ことによる驚きであり、正しいかどうかはまた別問題であるという点に注意して下さい。
例えば、英語の「Battle」の語源が日本語の「場所をとる」の意味だという珍説を聞かされた時、初めて聞く説に驚くことはあっても、その説を無批判に受け入れる人は多くないはずです。本書の主張は、軍事という、一般常識の分野で比較的マイナーなジャンルだからこそ、安易に受け入れられる可能性がある珍説なのです。
それだけに問題点の多い本を(わざわざ)文庫化してまで出版するなら、評価するべき分析視角などが改訂によって明確化される必要があるように思いますが、特にそうした方向での改訂は見られず出版社の見識が問われる一冊と言えます。このレビューではこうした理由から☆一つの評価をさせて頂いています。
改訂は比較的少なく、図の差し替えと一部の修正に止まっており、本質的な内容には変化はないと見てよいでしょう。
そして先行するこの本の評価は、お世辞にも高いものではありません。
これは、ネット言論上における揚げ足とり的なものばかりではなく、2005年11月の『軍事研究』誌上において、多田智彦氏による同書への痛烈かつ具体的な批判が展開されていることから、一定の広がりをもったものととらえて良いかと思われます。
同氏の著述に共通する極めて基本的な事実関係の誤認(自信たっぷりの一号機雷(連携機雷)に関する珍解釈に関して、根拠文書を知りたいところです)が認められ、筆者の資料収集と分析、執筆スタンスに疑問を感じます。
本書を読まれた初学者の方が「初めて知った」ことに驚き感心することがあるかもしれませんが、それは「初めて知った」ことによる驚きであり、正しいかどうかはまた別問題であるという点に注意して下さい。
例えば、英語の「Battle」の語源が日本語の「場所をとる」の意味だという珍説を聞かされた時、初めて聞く説に驚くことはあっても、その説を無批判に受け入れる人は多くないはずです。本書の主張は、軍事という、一般常識の分野で比較的マイナーなジャンルだからこそ、安易に受け入れられる可能性がある珍説なのです。
それだけに問題点の多い本を(わざわざ)文庫化してまで出版するなら、評価するべき分析視角などが改訂によって明確化される必要があるように思いますが、特にそうした方向での改訂は見られず出版社の見識が問われる一冊と言えます。このレビューではこうした理由から☆一つの評価をさせて頂いています。
2009年12月18日に日本でレビュー済み
日本海海戦に関して、戦艦の発展史や砲術の進歩、米西戦争や日清戦争で発生した海戦との比較など多面的な分析で考察されています。
司馬遼太郎の「坂の上の雲」を意識して書かれているのか、司馬遼太郎の記載に関する批判的コメントが多く載っています。私のように司馬遼太郎の作品のイメージで日本海海戦を捉えている人には多くの発見があるでしょう。
司馬遼太郎の「坂の上の雲」を意識して書かれているのか、司馬遼太郎の記載に関する批判的コメントが多く載っています。私のように司馬遼太郎の作品のイメージで日本海海戦を捉えている人には多くの発見があるでしょう。
2010年7月25日に日本でレビュー済み
司馬遼太郎の『坂の上の雲』を読むと、視点が日本側に偏っているためか、日本側の弱点に目が行きがちである。しかし、ロシア側にとっても、日本海の制海権を得るためには、いかに大きな困難がつきまとっていたかと言うことが、本書を読むとよくわかる。日本海海戦は、弱小国家の弱小艦隊が、大国の強大な艦隊を打ち破った、などとは全く言えないのである。日本海海戦を冷静に分析するための一助となる書である。
2023年4月30日に日本でレビュー済み
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文庫本サイズで図解よりも文章で書かれているので、日本海海戦をより詳しく知りたい方にはお勧めです