厚さが5.1cmある『本の本――書評集1994~2007』(斎藤美奈子著、筑摩書房)は、斎藤美奈子の切れ味抜群の書評がてんこ盛りです。
『打ちのめされるようなすごい本』(米原万里著)の書評を、斎藤は「書評とはひっきょうサービス業であることを米原万里はよく知っていた。そして一日七冊とは、こうやって読むことなのだと改めて教えられるのである」と結んでいます。米原と斎藤の書評に対する考え方に大賛成!
斎藤美奈子に唆されて、読みたくなった本が9冊――。
●容貌差別への挑戦状――『説教師カニバットと百人の危ない美女』(笙野頼子著)
「果敢にも『自覚的なブス』を語り手に迎え、女の容貌問題への正面突破を試みた、おそらく本邦初の長編小説である。この本気さ。しつこさ。正義の味方が悪をくじく活劇のようにおもしろい。しかし同時に、これは恐ろしい小説でもある。読む人の意識も、この活劇はまともに直撃してくるからだ」。
●お勉強よサヨウナラ、新解釈よこんにちは――『文学がもっと面白くなる』(金井景子・金子明雄・紅野謙介・小森陽一・島村輝著)
「読み切りの文章とアンソロジーで構成された本書は、学校教育的な文学観を打ち壊そうとする野心にあふれ、どうして悪くないのである。学校では自然主義文学の嚆矢と習ったはずの田山花袋『蒲団』に<(近代文学史上の重要度)×(思わず笑ってしまう指数)=(教室で笑われる指数)の最も高い作品>、つまり『笑える小説』のラベルを張って巻頭に持ってきている、といえば方針がおぼろげに見えてくるだろう」。
●中世と現代をつなぐ、爽快な「平家」論――『男は美人の嘘が好き――ひかりと影の平家物語』(大塚ひかり著)
「『平家物語』っていわれてもなあ、祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり(だっけ?)しか知らないからなあ、と頭をかく古典音痴の人でも大丈夫。というか古典嫌いの人こそ本書の最良の読者である。なにしろ著者は頭からビシッとかましてくれるのだ。<『平家物語』にはブスがいない>」。
●浪花節とナショナリズム――『<声>の国民国家・日本』(兵藤裕己著)
「そう、『旅ゆけば、駿河の国に茶の香り・・・』という、あの浪花節だっ。いまでは伝統芸能の一種として命脈を保っているにすぎない浪花節も、明治末期から昭和前半期までは、Jポップの最前線をいく、まさに国民的な一大人気ジャンルだった。というだけでも『へえへえへえ』だけれども、本書のテーマは、その浪花節(名前に反してそのルーツは上方ではなく近世の江戸にある)が、『国民』意識の形成に多大な影響を与えたという点にある」。
●文学界の金八、批評の現状を憂う――『メルトダウンする文学への九通の手紙』(渡部直己著)
「知命をすぎても、大学教授になっても、その勢いは衰えず、本人の用語を借りれば『通りすがりのビンタ』にも似た痛罵が、今回も容赦なく繰り出される。とはいえ、この『ビンタ』はむしろ渡部直己の過剰な、鬱陶しいほどの、『もういいからほっといて』と相手が逃げ出したくなるほどの愛によるものであって、その伝でゆくと彼の資質は批評家という以上に教育者に近い。渡部直己はさまぁ~ずというより『文学界の金八』なのだ」。
●エロスな本――『ルビーフルーツ』(斎藤綾子著)
「斎藤綾子は現在もっとも刺激的な官能小説を書ける女性作家。女性ファンも多い、この本は性の快楽を貪欲に求める女の子たちを描いた短編集で『なんてエッチなのっ』と身悶えできること請け合い。SMからレズビアンまで、いろんなパターンが出てきてびっくりするかもしれないけれど、セックス・ファンタジーはこのくらい『飛んでる』ほうが盛り上がれます。ちなみに『ルビーフルーツ』とは女性器の名称を彼女流に表現した言葉」。
●血を流す立場からの選択は――『我、自衛隊を愛す故に、憲法9条を守る――防衛省元幹部3人の志』(小池清彦・竹岡勝美・箕輪登著)
「この改憲は自衛隊を認めるためではなく、米国に追従した海外派兵が目的であること。国際貢献の名の下に海外派兵をしなければ非難されるなど嘘で、日本は平和国家として世界の尊敬を得ているし、自衛隊員も専守防衛を誇りに思っていること。国防と名誉の観点からこそ改憲は阻止すべきだと彼らは主張するのである」。
●十八世紀は科学革命と同時に性差の再編期でもあった――『女性を弄ぶ博物学――リンネはなぜ乳房にこだわったのか』(ロンダ・シービンガー著、小川眞里子・財部香枝訳)
「一番のビッグスターとして登場するのは、あのカール・リンネである。いまの分類学の基礎を築いた『近代分類学の父』だけれども、どうもこのリンネおじさんの女性観(?)が、新しく形成された自然観には色濃く影をおとしているもようなのだ。植物の受精をロマンチックな結婚になぞらえたのもリンネ、哺乳類(英語でママル。ラテン語ではママリア。字義通りに訳せば『乳房類』の意味である由)を哺乳類と名づけたのもリンネである。なんだってまたそんな性的なイコンを、彼は分類上の名前に採用したのか」。
●ナチュラリストだったシートンの横顔が浮かび上がるノンフィクション――『シートン動物誌(全十二巻)』(アーネスト・T・シートン著、今泉吉晴監訳)
「これは『(動物)記』ではなくて『誌』。あっちが『オオカミ王ロボ』のようなフィクションとしての動物物語なら、こっちはまったくのノンフィクション。全巻の邦訳が出るのは今回が初めてである。シートンの出世作である『シートン動物記』は、アメリカでも大好評で迎えられたが、同時に大きな論争にも発展したらしい。この本の成功がつぎつぎと追随者を生み、動物の擬人化が問題になったのだという。本署は、そのような論争の後に、シートンが三十年の歳月を費やして書き上げたライフワークともいえる大著である」。
¥4,699¥4,699 税込
無料配送 6月10日-11日にお届け
発送元: 令和書店 毎日発送中です!【安心の返金保証適用品】 販売者: 令和書店 毎日発送中です!【安心の返金保証適用品】
¥4,699¥4,699 税込
無料配送 6月10日-11日にお届け
発送元: 令和書店 毎日発送中です!【安心の返金保証適用品】
販売者: 令和書店 毎日発送中です!【安心の返金保証適用品】
¥625¥625 税込
配送料 ¥267 6月13日-15日にお届け
発送元: 写楽堂古書店 日曜定休日 販売者: 写楽堂古書店 日曜定休日
¥625¥625 税込
配送料 ¥267 6月13日-15日にお届け
発送元: 写楽堂古書店 日曜定休日
販売者: 写楽堂古書店 日曜定休日
無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません。
ウェブ版Kindleなら、お使いのブラウザですぐにお読みいただけます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
本の本: 書評集1994-2007 単行本 – 2008/3/1
斎藤 美奈子
(著)
{"desktop_buybox_group_1":[{"displayPrice":"¥4,699","priceAmount":4699.00,"currencySymbol":"¥","integerValue":"4,699","decimalSeparator":null,"fractionalValue":null,"symbolPosition":"left","hasSpace":false,"showFractionalPartIfEmpty":true,"offerListingId":"Hjqkiicd41ej1mCPPxv0WeD%2F%2F36C%2FmCNzZdWpEHhNKbCxrXNH6lZQWNgqR%2FKFVr61zJKwAabemU2DNwHu7IxnMvSW9upWSkPBx8TVnS5Zs9IPOuRkfBVNQoQbgJ%2BS6pUJD4blFml6Nn%2FCDYYCR6Y376QjF0vCaSaUJTQHwx45%2FJ7ehZBrh3yFQ%3D%3D","locale":"ja-JP","buyingOptionType":"NEW","aapiBuyingOptionIndex":0}, {"displayPrice":"¥625","priceAmount":625.00,"currencySymbol":"¥","integerValue":"625","decimalSeparator":null,"fractionalValue":null,"symbolPosition":"left","hasSpace":false,"showFractionalPartIfEmpty":true,"offerListingId":"Hjqkiicd41ej1mCPPxv0WeD%2F%2F36C%2FmCNhHRpwqXwTX9VtyJsYu52uVrR16X9oXw8W%2F952RBSUnE0xCZ4gd7jYsCmcrzYAwgdt9brcJnHswG%2FPh7mstnzsYHOsolTCGG%2B9jqx4%2BQ78EYayFLNJGygB7UkW7AZvpIYHieO61vGBp99X7T6gInioG7wLiYtwOIq","locale":"ja-JP","buyingOptionType":"USED","aapiBuyingOptionIndex":1}]}
購入オプションとあわせ買い
「妊娠小説」でデビュー以来、膨大な本の山と格闘し続けた戦いの記録とも言える本書は、じつは書評家・斎藤美奈子の「初の」書評集である(と「あとがき」では語られる)。「ときには伝道者の気分でその魅力を喧伝し、ときには著者になりかわってその意義を力説し、ときには読者の立場でちょっとした苦言や要望を呈」した書評の数々は、圧巻。こんな本だとは知らなかった、こんな本があるとは知らなかった、などたくさんの発見があること間違いなし。祖父江慎の装幀も、圧巻です。
- 本の長さ738ページ
- 言語日本語
- 出版社筑摩書房
- 発売日2008/3/1
- ISBN-104480814876
- ISBN-13978-4480814876
この商品をチェックした人はこんな商品もチェックしています
ページ 1 以下のうち 1 最初から観るページ 1 以下のうち 1
登録情報
- 出版社 : 筑摩書房 (2008/3/1)
- 発売日 : 2008/3/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 738ページ
- ISBN-10 : 4480814876
- ISBN-13 : 978-4480814876
- Amazon 売れ筋ランキング: - 629,228位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 577位読書法
- カスタマーレビュー:
著者について
著者をフォローして、新作のアップデートや改善されたおすすめを入手してください。
著者の本をもっと発見したり、よく似た著者を見つけたり、著者のブログを読んだりしましょう
カスタマーレビュー
星5つ中3.5つ
5つのうち3.5つ
全体的な星の数と星別のパーセンテージの内訳を計算するにあたり、単純平均は使用されていません。当システムでは、レビューがどの程度新しいか、レビュー担当者がAmazonで購入したかどうかなど、特定の要素をより重視しています。 詳細はこちら
6グローバルレーティング
虚偽のレビューは一切容認しません
私たちの目標は、すべてのレビューを信頼性の高い、有益なものにすることです。だからこそ、私たちはテクノロジーと人間の調査員の両方を活用して、お客様が偽のレビューを見る前にブロックしています。 詳細はこちら
コミュニティガイドラインに違反するAmazonアカウントはブロックされます。また、レビューを購入した出品者をブロックし、そのようなレビューを投稿した当事者に対して法的措置を取ります。 報告方法について学ぶ
イメージ付きのレビュー
5 星
斎藤美奈子に唆されて、読みたくなった本が9冊
厚さが5.1cmある『本の本――書評集1994~2007』(斎藤美奈子著、筑摩書房)は、斎藤美奈子の切れ味抜群の書評がてんこ盛りです。『打ちのめされるようなすごい本』(米原万里著)の書評を、斎藤は「書評とはひっきょうサービス業であることを米原万里はよく知っていた。そして一日七冊とは、こうやって読むことなのだと改めて教えられるのである」と結んでいます。米原と斎藤の書評に対する考え方に大賛成!斎藤美奈子に唆されて、読みたくなった本が9冊――。●容貌差別への挑戦状――『説教師カニバットと百人の危ない美女』(笙野頼子著)「果敢にも『自覚的なブス』を語り手に迎え、女の容貌問題への正面突破を試みた、おそらく本邦初の長編小説である。この本気さ。しつこさ。正義の味方が悪をくじく活劇のようにおもしろい。しかし同時に、これは恐ろしい小説でもある。読む人の意識も、この活劇はまともに直撃してくるからだ」。●お勉強よサヨウナラ、新解釈よこんにちは――『文学がもっと面白くなる』(金井景子・金子明雄・紅野謙介・小森陽一・島村輝著)「読み切りの文章とアンソロジーで構成された本書は、学校教育的な文学観を打ち壊そうとする野心にあふれ、どうして悪くないのである。学校では自然主義文学の嚆矢と習ったはずの田山花袋『蒲団』に<(近代文学史上の重要度)×(思わず笑ってしまう指数)=(教室で笑われる指数)の最も高い作品>、つまり『笑える小説』のラベルを張って巻頭に持ってきている、といえば方針がおぼろげに見えてくるだろう」。●中世と現代をつなぐ、爽快な「平家」論――『男は美人の嘘が好き――ひかりと影の平家物語』(大塚ひかり著)「『平家物語』っていわれてもなあ、祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり(だっけ?)しか知らないからなあ、と頭をかく古典音痴の人でも大丈夫。というか古典嫌いの人こそ本書の最良の読者である。なにしろ著者は頭からビシッとかましてくれるのだ。<『平家物語』にはブスがいない>」。●浪花節とナショナリズム――『<声>の国民国家・日本』(兵藤裕己著)「そう、『旅ゆけば、駿河の国に茶の香り・・・』という、あの浪花節だっ。いまでは伝統芸能の一種として命脈を保っているにすぎない浪花節も、明治末期から昭和前半期までは、Jポップの最前線をいく、まさに国民的な一大人気ジャンルだった。というだけでも『へえへえへえ』だけれども、本書のテーマは、その浪花節(名前に反してそのルーツは上方ではなく近世の江戸にある)が、『国民』意識の形成に多大な影響を与えたという点にある」。●文学界の金八、批評の現状を憂う――『メルトダウンする文学への九通の手紙』(渡部直己著)「知命をすぎても、大学教授になっても、その勢いは衰えず、本人の用語を借りれば『通りすがりのビンタ』にも似た痛罵が、今回も容赦なく繰り出される。とはいえ、この『ビンタ』はむしろ渡部直己の過剰な、鬱陶しいほどの、『もういいからほっといて』と相手が逃げ出したくなるほどの愛によるものであって、その伝でゆくと彼の資質は批評家という以上に教育者に近い。渡部直己はさまぁ~ずというより『文学界の金八』なのだ」。●エロスな本――『ルビーフルーツ』(斎藤綾子著)「斎藤綾子は現在もっとも刺激的な官能小説を書ける女性作家。女性ファンも多い、この本は性の快楽を貪欲に求める女の子たちを描いた短編集で『なんてエッチなのっ』と身悶えできること請け合い。SMからレズビアンまで、いろんなパターンが出てきてびっくりするかもしれないけれど、セックス・ファンタジーはこのくらい『飛んでる』ほうが盛り上がれます。ちなみに『ルビーフルーツ』とは女性器の名称を彼女流に表現した言葉」。●血を流す立場からの選択は――『我、自衛隊を愛す故に、憲法9条を守る――防衛省元幹部3人の志』(小池清彦・竹岡勝美・箕輪登著)「この改憲は自衛隊を認めるためではなく、米国に追従した海外派兵が目的であること。国際貢献の名の下に海外派兵をしなければ非難されるなど嘘で、日本は平和国家として世界の尊敬を得ているし、自衛隊員も専守防衛を誇りに思っていること。国防と名誉の観点からこそ改憲は阻止すべきだと彼らは主張するのである」。●十八世紀は科学革命と同時に性差の再編期でもあった――『女性を弄ぶ博物学――リンネはなぜ乳房にこだわったのか』(ロンダ・シービンガー著、小川眞里子・財部香枝訳)「一番のビッグスターとして登場するのは、あのカール・リンネである。いまの分類学の基礎を築いた『近代分類学の父』だけれども、どうもこのリンネおじさんの女性観(?)が、新しく形成された自然観には色濃く影をおとしているもようなのだ。植物の受精をロマンチックな結婚になぞらえたのもリンネ、哺乳類(英語でママル。ラテン語ではママリア。字義通りに訳せば『乳房類』の意味である由)を哺乳類と名づけたのもリンネである。なんだってまたそんな性的なイコンを、彼は分類上の名前に採用したのか」。●ナチュラリストだったシートンの横顔が浮かび上がるノンフィクション――『シートン動物誌(全十二巻)』(アーネスト・T・シートン著、今泉吉晴監訳)「これは『(動物)記』ではなくて『誌』。あっちが『オオカミ王ロボ』のようなフィクションとしての動物物語なら、こっちはまったくのノンフィクション。全巻の邦訳が出るのは今回が初めてである。シートンの出世作である『シートン動物記』は、アメリカでも大好評で迎えられたが、同時に大きな論争にも発展したらしい。この本の成功がつぎつぎと追随者を生み、動物の擬人化が問題になったのだという。本署は、そのような論争の後に、シートンが三十年の歳月を費やして書き上げたライフワークともいえる大著である」。
フィードバックをお寄せいただきありがとうございます
申し訳ありませんが、エラーが発生しました
申し訳ありませんが、レビューを読み込めませんでした
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2023年6月11日に日本でレビュー済み
厚さが5.1cmある『本の本――書評集1994~2007』(斎藤美奈子著、筑摩書房)は、斎藤美奈子の切れ味抜群の書評がてんこ盛りです。
『打ちのめされるようなすごい本』(米原万里著)の書評を、斎藤は「書評とはひっきょうサービス業であることを米原万里はよく知っていた。そして一日七冊とは、こうやって読むことなのだと改めて教えられるのである」と結んでいます。米原と斎藤の書評に対する考え方に大賛成!
斎藤美奈子に唆されて、読みたくなった本が9冊――。
●容貌差別への挑戦状――『説教師カニバットと百人の危ない美女』(笙野頼子著)
「果敢にも『自覚的なブス』を語り手に迎え、女の容貌問題への正面突破を試みた、おそらく本邦初の長編小説である。この本気さ。しつこさ。正義の味方が悪をくじく活劇のようにおもしろい。しかし同時に、これは恐ろしい小説でもある。読む人の意識も、この活劇はまともに直撃してくるからだ」。
●お勉強よサヨウナラ、新解釈よこんにちは――『文学がもっと面白くなる』(金井景子・金子明雄・紅野謙介・小森陽一・島村輝著)
「読み切りの文章とアンソロジーで構成された本書は、学校教育的な文学観を打ち壊そうとする野心にあふれ、どうして悪くないのである。学校では自然主義文学の嚆矢と習ったはずの田山花袋『蒲団』に<(近代文学史上の重要度)×(思わず笑ってしまう指数)=(教室で笑われる指数)の最も高い作品>、つまり『笑える小説』のラベルを張って巻頭に持ってきている、といえば方針がおぼろげに見えてくるだろう」。
●中世と現代をつなぐ、爽快な「平家」論――『男は美人の嘘が好き――ひかりと影の平家物語』(大塚ひかり著)
「『平家物語』っていわれてもなあ、祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり(だっけ?)しか知らないからなあ、と頭をかく古典音痴の人でも大丈夫。というか古典嫌いの人こそ本書の最良の読者である。なにしろ著者は頭からビシッとかましてくれるのだ。<『平家物語』にはブスがいない>」。
●浪花節とナショナリズム――『<声>の国民国家・日本』(兵藤裕己著)
「そう、『旅ゆけば、駿河の国に茶の香り・・・』という、あの浪花節だっ。いまでは伝統芸能の一種として命脈を保っているにすぎない浪花節も、明治末期から昭和前半期までは、Jポップの最前線をいく、まさに国民的な一大人気ジャンルだった。というだけでも『へえへえへえ』だけれども、本書のテーマは、その浪花節(名前に反してそのルーツは上方ではなく近世の江戸にある)が、『国民』意識の形成に多大な影響を与えたという点にある」。
●文学界の金八、批評の現状を憂う――『メルトダウンする文学への九通の手紙』(渡部直己著)
「知命をすぎても、大学教授になっても、その勢いは衰えず、本人の用語を借りれば『通りすがりのビンタ』にも似た痛罵が、今回も容赦なく繰り出される。とはいえ、この『ビンタ』はむしろ渡部直己の過剰な、鬱陶しいほどの、『もういいからほっといて』と相手が逃げ出したくなるほどの愛によるものであって、その伝でゆくと彼の資質は批評家という以上に教育者に近い。渡部直己はさまぁ~ずというより『文学界の金八』なのだ」。
●エロスな本――『ルビーフルーツ』(斎藤綾子著)
「斎藤綾子は現在もっとも刺激的な官能小説を書ける女性作家。女性ファンも多い、この本は性の快楽を貪欲に求める女の子たちを描いた短編集で『なんてエッチなのっ』と身悶えできること請け合い。SMからレズビアンまで、いろんなパターンが出てきてびっくりするかもしれないけれど、セックス・ファンタジーはこのくらい『飛んでる』ほうが盛り上がれます。ちなみに『ルビーフルーツ』とは女性器の名称を彼女流に表現した言葉」。
●血を流す立場からの選択は――『我、自衛隊を愛す故に、憲法9条を守る――防衛省元幹部3人の志』(小池清彦・竹岡勝美・箕輪登著)
「この改憲は自衛隊を認めるためではなく、米国に追従した海外派兵が目的であること。国際貢献の名の下に海外派兵をしなければ非難されるなど嘘で、日本は平和国家として世界の尊敬を得ているし、自衛隊員も専守防衛を誇りに思っていること。国防と名誉の観点からこそ改憲は阻止すべきだと彼らは主張するのである」。
●十八世紀は科学革命と同時に性差の再編期でもあった――『女性を弄ぶ博物学――リンネはなぜ乳房にこだわったのか』(ロンダ・シービンガー著、小川眞里子・財部香枝訳)
「一番のビッグスターとして登場するのは、あのカール・リンネである。いまの分類学の基礎を築いた『近代分類学の父』だけれども、どうもこのリンネおじさんの女性観(?)が、新しく形成された自然観には色濃く影をおとしているもようなのだ。植物の受精をロマンチックな結婚になぞらえたのもリンネ、哺乳類(英語でママル。ラテン語ではママリア。字義通りに訳せば『乳房類』の意味である由)を哺乳類と名づけたのもリンネである。なんだってまたそんな性的なイコンを、彼は分類上の名前に採用したのか」。
●ナチュラリストだったシートンの横顔が浮かび上がるノンフィクション――『シートン動物誌(全十二巻)』(アーネスト・T・シートン著、今泉吉晴監訳)
「これは『(動物)記』ではなくて『誌』。あっちが『オオカミ王ロボ』のようなフィクションとしての動物物語なら、こっちはまったくのノンフィクション。全巻の邦訳が出るのは今回が初めてである。シートンの出世作である『シートン動物記』は、アメリカでも大好評で迎えられたが、同時に大きな論争にも発展したらしい。この本の成功がつぎつぎと追随者を生み、動物の擬人化が問題になったのだという。本署は、そのような論争の後に、シートンが三十年の歳月を費やして書き上げたライフワークともいえる大著である」。
『打ちのめされるようなすごい本』(米原万里著)の書評を、斎藤は「書評とはひっきょうサービス業であることを米原万里はよく知っていた。そして一日七冊とは、こうやって読むことなのだと改めて教えられるのである」と結んでいます。米原と斎藤の書評に対する考え方に大賛成!
斎藤美奈子に唆されて、読みたくなった本が9冊――。
●容貌差別への挑戦状――『説教師カニバットと百人の危ない美女』(笙野頼子著)
「果敢にも『自覚的なブス』を語り手に迎え、女の容貌問題への正面突破を試みた、おそらく本邦初の長編小説である。この本気さ。しつこさ。正義の味方が悪をくじく活劇のようにおもしろい。しかし同時に、これは恐ろしい小説でもある。読む人の意識も、この活劇はまともに直撃してくるからだ」。
●お勉強よサヨウナラ、新解釈よこんにちは――『文学がもっと面白くなる』(金井景子・金子明雄・紅野謙介・小森陽一・島村輝著)
「読み切りの文章とアンソロジーで構成された本書は、学校教育的な文学観を打ち壊そうとする野心にあふれ、どうして悪くないのである。学校では自然主義文学の嚆矢と習ったはずの田山花袋『蒲団』に<(近代文学史上の重要度)×(思わず笑ってしまう指数)=(教室で笑われる指数)の最も高い作品>、つまり『笑える小説』のラベルを張って巻頭に持ってきている、といえば方針がおぼろげに見えてくるだろう」。
●中世と現代をつなぐ、爽快な「平家」論――『男は美人の嘘が好き――ひかりと影の平家物語』(大塚ひかり著)
「『平家物語』っていわれてもなあ、祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり(だっけ?)しか知らないからなあ、と頭をかく古典音痴の人でも大丈夫。というか古典嫌いの人こそ本書の最良の読者である。なにしろ著者は頭からビシッとかましてくれるのだ。<『平家物語』にはブスがいない>」。
●浪花節とナショナリズム――『<声>の国民国家・日本』(兵藤裕己著)
「そう、『旅ゆけば、駿河の国に茶の香り・・・』という、あの浪花節だっ。いまでは伝統芸能の一種として命脈を保っているにすぎない浪花節も、明治末期から昭和前半期までは、Jポップの最前線をいく、まさに国民的な一大人気ジャンルだった。というだけでも『へえへえへえ』だけれども、本書のテーマは、その浪花節(名前に反してそのルーツは上方ではなく近世の江戸にある)が、『国民』意識の形成に多大な影響を与えたという点にある」。
●文学界の金八、批評の現状を憂う――『メルトダウンする文学への九通の手紙』(渡部直己著)
「知命をすぎても、大学教授になっても、その勢いは衰えず、本人の用語を借りれば『通りすがりのビンタ』にも似た痛罵が、今回も容赦なく繰り出される。とはいえ、この『ビンタ』はむしろ渡部直己の過剰な、鬱陶しいほどの、『もういいからほっといて』と相手が逃げ出したくなるほどの愛によるものであって、その伝でゆくと彼の資質は批評家という以上に教育者に近い。渡部直己はさまぁ~ずというより『文学界の金八』なのだ」。
●エロスな本――『ルビーフルーツ』(斎藤綾子著)
「斎藤綾子は現在もっとも刺激的な官能小説を書ける女性作家。女性ファンも多い、この本は性の快楽を貪欲に求める女の子たちを描いた短編集で『なんてエッチなのっ』と身悶えできること請け合い。SMからレズビアンまで、いろんなパターンが出てきてびっくりするかもしれないけれど、セックス・ファンタジーはこのくらい『飛んでる』ほうが盛り上がれます。ちなみに『ルビーフルーツ』とは女性器の名称を彼女流に表現した言葉」。
●血を流す立場からの選択は――『我、自衛隊を愛す故に、憲法9条を守る――防衛省元幹部3人の志』(小池清彦・竹岡勝美・箕輪登著)
「この改憲は自衛隊を認めるためではなく、米国に追従した海外派兵が目的であること。国際貢献の名の下に海外派兵をしなければ非難されるなど嘘で、日本は平和国家として世界の尊敬を得ているし、自衛隊員も専守防衛を誇りに思っていること。国防と名誉の観点からこそ改憲は阻止すべきだと彼らは主張するのである」。
●十八世紀は科学革命と同時に性差の再編期でもあった――『女性を弄ぶ博物学――リンネはなぜ乳房にこだわったのか』(ロンダ・シービンガー著、小川眞里子・財部香枝訳)
「一番のビッグスターとして登場するのは、あのカール・リンネである。いまの分類学の基礎を築いた『近代分類学の父』だけれども、どうもこのリンネおじさんの女性観(?)が、新しく形成された自然観には色濃く影をおとしているもようなのだ。植物の受精をロマンチックな結婚になぞらえたのもリンネ、哺乳類(英語でママル。ラテン語ではママリア。字義通りに訳せば『乳房類』の意味である由)を哺乳類と名づけたのもリンネである。なんだってまたそんな性的なイコンを、彼は分類上の名前に採用したのか」。
●ナチュラリストだったシートンの横顔が浮かび上がるノンフィクション――『シートン動物誌(全十二巻)』(アーネスト・T・シートン著、今泉吉晴監訳)
「これは『(動物)記』ではなくて『誌』。あっちが『オオカミ王ロボ』のようなフィクションとしての動物物語なら、こっちはまったくのノンフィクション。全巻の邦訳が出るのは今回が初めてである。シートンの出世作である『シートン動物記』は、アメリカでも大好評で迎えられたが、同時に大きな論争にも発展したらしい。この本の成功がつぎつぎと追随者を生み、動物の擬人化が問題になったのだという。本署は、そのような論争の後に、シートンが三十年の歳月を費やして書き上げたライフワークともいえる大著である」。
このレビューの画像
2008年8月2日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
斎藤さんの本は『物は言いよう』しか読んでないというビギナーですが、それでも十分に楽しめました。
書評集としての本書の特徴は、
・その時々の新刊本が多い
・小説以外の本もたくさん取り上げられている
・フェミニズムの観点がある
・文芸批評、読書案内系の読み物が豊富である
・記事のカラーはいわゆる「闘う書評」に属するが、「切捨て御免」という一方的なスタイルではなく、客観性と公平性が保たれている(と思う)
といった所でしょうか。
読み物としての面白さは勿論、700冊という収録数の多さ、索引の充実度からして、
斎藤ファン以外でも、読書人には便利な事典であると思います。
斎藤ファンとして(といっても初心者ですが)特に興味深かったのは、
大江健三郎『取替え子(チェンジリング)』と野嶋剛『イラク戦争従軍記』の書評です。
この2冊は(訳あって)異なる角度から2回書評されてるんですが、読み比べると
斎藤さんの「芸」の深さを味わえるのではないかと思います。
書評集としての本書の特徴は、
・その時々の新刊本が多い
・小説以外の本もたくさん取り上げられている
・フェミニズムの観点がある
・文芸批評、読書案内系の読み物が豊富である
・記事のカラーはいわゆる「闘う書評」に属するが、「切捨て御免」という一方的なスタイルではなく、客観性と公平性が保たれている(と思う)
といった所でしょうか。
読み物としての面白さは勿論、700冊という収録数の多さ、索引の充実度からして、
斎藤ファン以外でも、読書人には便利な事典であると思います。
斎藤ファンとして(といっても初心者ですが)特に興味深かったのは、
大江健三郎『取替え子(チェンジリング)』と野嶋剛『イラク戦争従軍記』の書評です。
この2冊は(訳あって)異なる角度から2回書評されてるんですが、読み比べると
斎藤さんの「芸」の深さを味わえるのではないかと思います。
2009年7月14日に日本でレビュー済み
この重い・分厚い・高い本をわざわざ買う人は
もともと斎藤 美奈子の書くものに好意的な人でしょう。(私もそうですが)
そんな彼女のファンにはとっても楽しく役に立つ本。
鋭いけどヒステリックじゃなく、面白いけど根はマトモ。
そんな斎藤 美奈子の書評が一挙に読めます。
特に子供や若い人向けの文章では
へんな猫なで声でなく丁寧で真摯に
「本を読む楽しさ」を伝えようとする姿勢があり
なんだかジンと来ちゃいました。
ま、アホらしい本やダメな本には相変わらずの辛辣さなのはモチロンです。
とっても多岐にわたる分野。
類書まで精読しなくちゃ書けない深い考察。
「本がいっぱい読めていいなあ〜」と
単純にうらやんでいた書評の仕事が
大変な重労働だということがよ〜くわかりました。
もともと斎藤 美奈子の書くものに好意的な人でしょう。(私もそうですが)
そんな彼女のファンにはとっても楽しく役に立つ本。
鋭いけどヒステリックじゃなく、面白いけど根はマトモ。
そんな斎藤 美奈子の書評が一挙に読めます。
特に子供や若い人向けの文章では
へんな猫なで声でなく丁寧で真摯に
「本を読む楽しさ」を伝えようとする姿勢があり
なんだかジンと来ちゃいました。
ま、アホらしい本やダメな本には相変わらずの辛辣さなのはモチロンです。
とっても多岐にわたる分野。
類書まで精読しなくちゃ書けない深い考察。
「本がいっぱい読めていいなあ〜」と
単純にうらやんでいた書評の仕事が
大変な重労働だということがよ〜くわかりました。
2008年4月27日に日本でレビュー済み
94−07年の間に週刊誌などに発表(一部初出不明もあるが)された書評をまとめた一冊。発売直後に購入したのだが、全部で783ページもあるので、暇を見つけて少しずつ読んでも、読了するまで一ヶ月以上を費やした。いくら斎藤美奈子の評論のファンであるわたしでもこの厚さの本をイッキに読むのは無理だった。時間的にも体力的にも・・・。
しかし、文芸(あるいは本にまつわる)評論が彼女の本職ではないかと考えているわたしにとって、彼女の書評が詰まったこの本を少しずつ読むことは就寝前の至福のひと時であった。
この本の構成は、年代別ではなくテーマ別である。そして巻末には書名別・著者別の索引も用意されている。だから、斎藤美奈子はどんな本を読みどんな書評を書いてきたのか、ということが分かると同時に、読書好きにはとっては良質なブックガイドともいえそうな一冊だ。
とはいえ、斎藤美奈子という批評家を知らずに「ちょっと読んでみっか」という興味で手に取るには約800ページは大部すぎる。だから、どんな人にも薦めることのできる一冊という訳ではないような気がする。
しかし、文芸(あるいは本にまつわる)評論が彼女の本職ではないかと考えているわたしにとって、彼女の書評が詰まったこの本を少しずつ読むことは就寝前の至福のひと時であった。
この本の構成は、年代別ではなくテーマ別である。そして巻末には書名別・著者別の索引も用意されている。だから、斎藤美奈子はどんな本を読みどんな書評を書いてきたのか、ということが分かると同時に、読書好きにはとっては良質なブックガイドともいえそうな一冊だ。
とはいえ、斎藤美奈子という批評家を知らずに「ちょっと読んでみっか」という興味で手に取るには約800ページは大部すぎる。だから、どんな人にも薦めることのできる一冊という訳ではないような気がする。
2008年8月31日に日本でレビュー済み
しかし厚さにひるみますが、細切れ読みすればいいのでその辺は気楽です。
あとがきで著者も書いているように、おもしろい本はないかなぁ、とガイドとして
使うよりも読んだ後でどのように評価されているかを読むのも楽しい使い方だと思います。
読み疲れたら昼寝の枕にもなります。
あとがきで著者も書いているように、おもしろい本はないかなぁ、とガイドとして
使うよりも読んだ後でどのように評価されているかを読むのも楽しい使い方だと思います。
読み疲れたら昼寝の枕にもなります。