同じ出版社から出ている「小津安二郎物語」が、小津組の厚田雄春キャメラマンへのインタビュー本ならば、本書は成瀬組の美術監督の中古智(ちゅうこ さとし)へのインタビュー本です。「小津安二郎物語」の厚田と同様に、中古が自身を語り、成瀬を語り、成瀬と同時代の監督たちを語り、成瀬組スタッフたちを語り、俳優たちを語り、そして時代を語る、という体裁。
しかも「小津安二郎物語」は松竹のお話で、こちらはPCL−東宝と、お家の事情もだいぶ違うのです。そして撮影と美術では仕事の内容ももちろん違うので、厚田雄春と中古智では、同じ映画製作に携わる身でありながら視点が全く異なり、悩みどころが全然違うのが面白い。たとえば、映画美術はお金と手間暇をかければかけるほど良いものができて、映画のできにも反映されるわけです。しかしそのために予算を超過してしまい、挙句の果てに興業は赤字でしたよ、では元も子もない。そこのところをプロデューサーが厳しく監視しているので、思うようにいかないし、駆け引きも必要になってくる、という具合。
読みどころは沢山あります。まず名作「浮雲」では、もちろん仏印にロケには行っていません。仏印の代わりに伊豆にロケに行って、オープンセットを作ってそれらしい雰囲気を出した。それから鹿児島までは行きましたが、屋久島には行っていない。どうやって屋久島の雰囲気を出したかと言うと、まず鹿児島地方独特の植物を貨車を使って大量に伊豆まで送らせて、それら植物を使って屋久島らしいオープンセットを作りました。そして伊香保の温泉のあの印象的な石段はセットです、等々。それと「めし」の原節子と上原謙が住む大阪の住居まわりは誰が見てもロケだろうと思うでしょうが、実はセットなんです。「めし」を愛する方はもう一度じっくりとその辺をご覧になってください。
厚田も中古もとっくに鬼籍に入っているので、良い時に良い話が聞けて、そして面白くて貴重な本を作った蓮見氏の功績は大きい。カヴァー表の、原節子と山村聡に挟まれて演技指導をする成瀬の写真も素晴らしい(「山の音」撮影時)。その他貴重な写真や中古によるセットのデザイン画も多数挿入されていて、目も楽しませてくれます。読了後大変な幸福感に満たされる、これも上質の映画本。成瀬ファンはまさに必読でしょう。
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成瀬巳喜男の設計: 美術監督は回想する (リュミエール叢書 7) 単行本 – 1990/7/1
- 本の長さ305ページ
- 言語日本語
- 出版社筑摩書房
- 発売日1990/7/1
- ISBN-104480871675
- ISBN-13978-4480871671
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登録情報
- 出版社 : 筑摩書房 (1990/7/1)
- 発売日 : 1990/7/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 305ページ
- ISBN-10 : 4480871675
- ISBN-13 : 978-4480871671
- Amazon 売れ筋ランキング: - 118,747位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2009年3月26日に日本でレビュー済み
卒論のためにこういった関係の本を読んでるのですが、戦前・戦後の日本映画界に携わった人の話を読んでると、もうむちゃくちゃなんですが、実にたのしそうなんですよね。
映画界も今みたいに、エリート集団!見たいな感じじゃ全然なくて、それこ京都の任侠集団がその母体であたり、左翼の隠れ蓑であったり、小学校卒の監督もいれば京大を出て入ってくる人もいて、本当に色んなバックグラウンドを持った人を包み込む、社会の縮図なんですよね。
企業って、こういうほうが絶対いいと思うんだけどな。
大卒ばっかり集めても、高卒ばっかり集めても、偏りが生じるんじゃない?と感じてしまいます。
映画とか出版とか、それこそ一般の人のニーズを汲み取る仕事こそ、色んな経験をした人がいたほうが楽しいものができそうじゃないですか?
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企業って、こういうほうが絶対いいと思うんだけどな。
大卒ばっかり集めても、高卒ばっかり集めても、偏りが生じるんじゃない?と感じてしまいます。
映画とか出版とか、それこそ一般の人のニーズを汲み取る仕事こそ、色んな経験をした人がいたほうが楽しいものができそうじゃないですか?