近年の日本で最高の仏教学者、文献学者松本さんが誠心誠意筆を尽くした入門書。
言語について、思考について、信仰について考え抜かれた論考。
神秘思想を排し、危機的存在である人間の、言語による批判的思考による縁起の認識と、徹底した利他こそ本来の仏教とする。
「神秘主義は、人間を否定するとともに、ことばを否定する。人間とはことば以外にないからである。・・・
ある体験があり、それをことばで表現できるできないか、などという問題ではなく、ことば以外に体験などあり得ないのである。・・・
アッシジのフランチェスコが阿弥陀仏を見ることもなく、一遍上人が十字架のキリストの姿を見ることもない。彼らはすべて、みずからのことば、みずからの宗教によって見、そして体験するのである。・・・
「念仏の外の余言をば皆たはごととおもふべし。
・・・私が一遍を好きなのは、彼がこのように「言う」からであって、彼が念仏を称えるからではない。・・・しかしその名号をくり返すことにではなく、「たはごと」を語るところに人間の意味があるのではないだろうか。・・・
「大乗といわれる仏の乗り物に乗る人は、実は仏であって、しかも仏になることをめざしている。仏であるものが仏になることを求めるというのは矛盾である。しかしこの矛盾以外に人間存在の意味はない。・・・
(常不敬菩薩は)すべての人は菩薩であり、仏になるものである、それゆえ私はすべての人を敬うといっているのである。・・
こうして人間は、まったく危機的な存在(菩薩)であることがわかる。いうまでもなく、これが空と縁起の意味である。・・・
人間は菩薩であって仏ではない。ということは人間は危機的であって、けっして絶対者それ自身ではないということである。」
空也上人の話は駒沢大で著者の13年先輩で、スティーブ・ジョブスの師、乙川弘文を思わせる。
「年老いた病女の世話に当たり、病が癒えた老女が望んだことは空也と性的な関係が持ちたいということであった。・・・
「上人はしばらく考えておられたが、遂にこの女と交わってもよいとの気色を示された。病女は嘆息して、吾は神泉苑の老狐、上人は真の聖人、といいおわって忽然として姿を消した。」・・・
彼は他人への愛ゆえに自己のすべてを完全に捨て去ったのである。自己の名声をも、そしてまた、自己の清らかさも。・・・
これほど徹底的な自己放棄、これほど無私な愛がどこにあるであろうか。」(一部堀一郎の「空也」の孫引き)
本書の前身「仏教の実践」が発行された1983年、既に弘文がアメリカに渡ってから15年がすぎ、最初の妻との結婚生活は破綻していた。弘文その後57歳でドイツ人女性と「出来婚」している。当時アメリカで禅僧は信じられないくらいモテたということらしい。弘文は期せずして「仏教への道」を現実に生きてしまったとも言えるし、本書は弘文へのオマージュだとも言える。
「あぁ・・・あぁ、ともに地獄に堕ちたんだね・・・弘文さんは、女性たちとともに自ら"願って"地獄に墜ちたんだ・・・。
私は今あなたから弘文さんが「結婚は修行だ」と言っていたと聞いて、合点がいった気持ちですよ。弘文さんは、自分だけ悟りすますのではなく、自分の本能のままに相手の女性を救い、ともに地獄に堕ちる道を選んだのです。」(永平寺で弘文とともに特別僧堂生だった田中真海)「宿無し弘文」柳田由紀子2020
「われわれはこの苦しみの沙婆世界に、過去世の行為(業)の結果として生じたのではなく、みずから願って一切衆生を済度するために生まれて来たのである。ということは、ある意味では菩薩は仏以上の存在であり、人間は神以上にとうとい存在であることを示している。」(本書135頁)
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仏教への道 (東書選書 134) 単行本 – 1993/6/1
松本 史朗
(著)
仏教の普遍的真理は何か? 原始仏教から日本の鎌倉仏教にいたる流れの中で,最も重要と思われる教説・思想について著者自身の立場から解説し,そこに一貫する真理を探る。
- 本の長さ266ページ
- 言語日本語
- 出版社東京書籍
- 発売日1993/6/1
- ISBN-104487722349
- ISBN-13978-4487722341
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商品の説明
内容(「MARC」データベースより)
原始仏教から日本の鎌倉仏教に至る仏教の流れの中においてもっとも重要と思われる基本的教説や思想について、著者自身の立場から解説を試みたもの。本書が、読者にとって仏教入門としての役割をはたし、仏教へと向かうひとつの道になってほしい。
登録情報
- 出版社 : 東京書籍 (1993/6/1)
- 発売日 : 1993/6/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 266ページ
- ISBN-10 : 4487722349
- ISBN-13 : 978-4487722341
- Amazon 売れ筋ランキング: - 455,289位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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トップレビュー
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2020年2月10日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2022年5月30日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
著者の仏教解釈を前提とし、その実証、証明の為の解説書。
持論、自身の主観に多く、宗教家、教祖の著作の様に感じる部分が多い。
持論、自身の主観に多く、宗教家、教祖の著作の様に感じる部分が多い。
2019年5月31日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
まず、文章が平易な言葉から成り、簡潔で読みやすく、内容を理解しやすい名文である。だから単純に読み物として読んでも優れているし、楽しめる。
本書の内容は原始仏教から日本の鎌倉仏教に至る中で最も重要な事柄を説明したものである。その説明は筆者の深い仏教理解と精密な研究に裏打ちされたものであり、正確にして説得力がある。
本書は入門書とされるが内容として非常に刺激的で奥深いものがある。中でも筆者の縁起についての理解は魅力的であり、その簡潔な名文と相まって目の覚めるような思いだ。
本書をしっかり読んで内容を理解したならば、読者の仏教理解は確かなものになるだろう。
本書の内容は原始仏教から日本の鎌倉仏教に至る中で最も重要な事柄を説明したものである。その説明は筆者の深い仏教理解と精密な研究に裏打ちされたものであり、正確にして説得力がある。
本書は入門書とされるが内容として非常に刺激的で奥深いものがある。中でも筆者の縁起についての理解は魅力的であり、その簡潔な名文と相まって目の覚めるような思いだ。
本書をしっかり読んで内容を理解したならば、読者の仏教理解は確かなものになるだろう。
2015年5月30日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
仏教一般,及び日本の仏教について,最も基本的な事柄を誠実に記述した本だと思います.
基本的(悪く言えば通念的)知識だけでなく,その本質について語ってくれます.
例えば「縁起」
--- 引用開始 ---
縁起説において重要なことは,その支分の数や系列づけのあり方ではない.無明,つまり無知が縁起の因果
系列の第一支とされることさえ,本質的な重要性をもつものではない.それは,無明を万物の根源と規定す
るものではないからである.むしろ縁起説全体が無根源の思想であり,非根源の思想である.
--- 引用終了 ---
仏教徒,或は仏教者として,どの方向に進むのであれ,起点になり得る本だと思います.
特に,高校生(中学生でも可)あたりに読んで欲しい.
(文庫でもいいから復刊を強く望みます.)
基本的(悪く言えば通念的)知識だけでなく,その本質について語ってくれます.
例えば「縁起」
--- 引用開始 ---
縁起説において重要なことは,その支分の数や系列づけのあり方ではない.無明,つまり無知が縁起の因果
系列の第一支とされることさえ,本質的な重要性をもつものではない.それは,無明を万物の根源と規定す
るものではないからである.むしろ縁起説全体が無根源の思想であり,非根源の思想である.
--- 引用終了 ---
仏教徒,或は仏教者として,どの方向に進むのであれ,起点になり得る本だと思います.
特に,高校生(中学生でも可)あたりに読んで欲しい.
(文庫でもいいから復刊を強く望みます.)