心をわしづかみにされるような、強いストーリーとキャラを持つ小説だった。舞台は少し昔の日本の地方都市。そこにユーゴスラビアの娘マーヤがやって来た。
あらすじはシンプル。マーヤは地元の高校生と友情をはぐくみ、やがて内戦が起こった祖国に帰っていく。主人公君は悲惨なニュースが流れる戦地に渡航しようとするが……
最初は外国人のマーヤの小さな疑問や勘違いから始まる、日本でのありきたりな場面を小さなミステリーとして謎解きが続く。読者たる私はそのプロセスで登場人物の人となりを知り、感情移入していった。
描写は長いが冗長に感じない。なぜなら、文章がうまい。無駄がないのだ。読んだ文章は全て、結末に強い感情を与えるべくなっていた。
私が注目したのはマーヤの国家感だ。
マーヤの父は恐らく共産党エリート官僚で、マーヤ自身も政治家を目指している。
今はなきユーゴスラビアは六つの国家でなりたっていた。
マーヤはユーゴスラビアという連邦自体を七つ目の国家として考え、自分はそれに属する新しい国民だと宣言した。
彼女が政治家を目指すのは、そういう信念あればこそ。
すごく素敵ではないの?
だが、ユーゴは崩壊した。時代、そして人間の考え方の変化にマーヤは悲しむ。理想のもとに一つにユーゴスラビアが、ばらばらに戻ったからだ。感情移入した私も悲しい。
共産主義も連邦制も理想だ。残念ながら人間は理想だけでは生きてはいない。美しい理想だけでなく、醜い内面もある。嫉妬、マウンティング、金銭欲、肉欲……。それらは理想に巣食う癌で、理想は永続しない。
最近は日本でも外国人差別や排斥があり、一昔前の理想が鼻で笑われている。そういう意味でも心にささる小説だった。ディズニーのIt’s a small world は人気がないのか?
肝心のミステリーについては、私は楽しめた。地理をもとにしたミステリーが斬新だ。地図帳の挿絵など有れば、もっと楽しめただろう。私のように「大航海時代」というゲームが好きな人なら、絶対に楽しめる。
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さよなら妖精 (ミステリ・フロンティア 3) 単行本 – 2004/2/1
米澤 穂信
(著)
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一九九一年四月。雨宿りをするひとりの少女との偶然の出会いが、謎に満ちた日々への扉を開けた。遠い国からはるばるおれたちの街にやって来た少女、マーヤ。彼女と過ごす、謎に満ちた日常。そして彼女が帰国した後、おれたちの最大の謎解きが始まる。覗き込んでくる目、カールがかった黒髪、白い首筋、『哲学的意味がありますか?』、そして紫陽花。謎を解く鍵は記憶のなかに――。忘れ難い余韻をもたらす、出会いと祈りの物語。気鋭の新人が贈る清新な力作。
- 本の長さ312ページ
- 言語日本語
- 出版社東京創元社
- 発売日2004/2/1
- ISBN-104488017037
- ISBN-13978-4488017033
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商品の説明
内容(「MARC」データベースより)
1991年4月。雨宿りをするひとりの少女との偶然の出会いが、謎に満ちた日々への扉を開けた。遠い国からはるばるやって来た少女、マーヤ。謎を解く鍵は記憶の中に…。余韻あふれる出会いと祈りの物語。
登録情報
- 出版社 : 東京創元社 (2004/2/1)
- 発売日 : 2004/2/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 312ページ
- ISBN-10 : 4488017037
- ISBN-13 : 978-4488017033
- Amazon 売れ筋ランキング: - 612,011位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 100,980位文学・評論 (本)
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著者について
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米澤 穂信(よねざわ・ほのぶ)
1978年岐阜県生まれ。2001年、第5回角川学園小説大賞(ヤングミステリー&ホラー部門)奨励賞を『氷菓』で受賞しデビュー。11年『折れた竜骨』(東京創元社)で第64回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)、14年『満願』(新潮社)で第27回山本周五郎賞を受賞。『満願』、15年刊の『王とサーカス』(東京創元社)はそれぞれ3つのミステリ・ランキングで1位となり、史上初の2年連続3冠を達成。
(本データは「いまさら翼といわれても 「古典部」シリーズ」が刊行された当時に掲載されていたものです。「BOOK著者紹介情報」より)
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2017年10月1日に日本でレビュー済み
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「王とサーカス」の主役がこちらでは脇役。
語り部は守屋君だけれども、「王とサーカス」には登場していなかった様な。
読み返してみると、ここでの大刀洗はマーヤに持って行かれた感が有ってちょっと可哀想かな。
この物語は語り手の守屋の物語だから仕方がないのかな。
語り部は守屋君だけれども、「王とサーカス」には登場していなかった様な。
読み返してみると、ここでの大刀洗はマーヤに持って行かれた感が有ってちょっと可哀想かな。
この物語は語り手の守屋の物語だから仕方がないのかな。
2019年10月1日に日本でレビュー済み
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村上春樹の隣に置いてあれば、満点でもいいんですが
創元推理文庫だよね、ミステリが読みたいんですよ、私は
ユーゴスラビアの事よく調べてるし、人物描写も良
残念なのは裏表紙の【最大の謎解き】が、ヒロインがどこの国から来たか?
え?それだけ?
日常ミステリの小ネタが2つか3つありましたが、単なる箸休め
本編をもう少し短くして、短編サイズの事件があれば☆☆☆☆なんですが
創元推理文庫だよね、ミステリが読みたいんですよ、私は
ユーゴスラビアの事よく調べてるし、人物描写も良
残念なのは裏表紙の【最大の謎解き】が、ヒロインがどこの国から来たか?
え?それだけ?
日常ミステリの小ネタが2つか3つありましたが、単なる箸休め
本編をもう少し短くして、短編サイズの事件があれば☆☆☆☆なんですが
2021年3月21日に日本でレビュー済み
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著者は、ミステリー界で活躍しています。本作では、世界の歴史の現実がかかわってきます。
かえりみると、著者による数々のミステリーのなかでは、現代の歴史、現実が、きわめてていねいに、選ばれた要素の集合のなかで構成されていることがわかります。そこには、選ばれた現代、選ばれた現実が機能しているのです。
かえりみると、著者による数々のミステリーのなかでは、現代の歴史、現実が、きわめてていねいに、選ばれた要素の集合のなかで構成されていることがわかります。そこには、選ばれた現代、選ばれた現実が機能しているのです。
2016年11月6日に日本でレビュー済み
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米澤氏の初期の作品らしい、少し荒削りの面が垣間見える仕上がりだと感じた。
王とサーカスを読む上で必須ではないけれども太刀洗シリーズファンとして読んでみたかった。
構成や文体が時を経て練られる前の若々しさを感じられるのではないか。
王とサーカスを読む上で必須ではないけれども太刀洗シリーズファンとして読んでみたかった。
構成や文体が時を経て練られる前の若々しさを感じられるのではないか。
2021年11月9日に日本でレビュー済み
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大きな流れと、地元の小さな推察ごと。主に青春ものですが、もう少し軽くて美しいものかと思っていたら、情け容赦のない追い詰められ方でした。この主題はつらいです。
妖精とは何を指すのだろう。それぞれのなかの幼い部分かもしれないと思った。
(東欧だからコマネチを連想したよ、っていうと年よりはって言われますねw)
妖精とは何を指すのだろう。それぞれのなかの幼い部分かもしれないと思った。
(東欧だからコマネチを連想したよ、っていうと年よりはって言われますねw)
2024年5月12日に日本でレビュー済み
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ユーゴスラビアの惨状や悲劇についてはわかったが、それを知りたくて読もうとしたわけではないので。
2014年11月13日に日本でレビュー済み
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実際はリアルな日常を描いていて、ミステリーの要素もないではないけど、青春小説というのがいちばんピッタリはまるような気がします。
この本は作者の出世作らしいですね。
細かいこと言うと、主人公が妙に理屈っぽかったり、ミステリーの素材が(最後のひとつを除いては)あまりにも日常的すぎたりと気になるところはありますが、作者が書きたかったことを素直に読んでいくなら、最後はなかなか深い余韻を残す結末になっていると思います。
この本は作者の出世作らしいですね。
細かいこと言うと、主人公が妙に理屈っぽかったり、ミステリーの素材が(最後のひとつを除いては)あまりにも日常的すぎたりと気になるところはありますが、作者が書きたかったことを素直に読んでいくなら、最後はなかなか深い余韻を残す結末になっていると思います。