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定本 北条民雄全集 上 (創元ライブラリ) 文庫 – 1996/9/20
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かつて万人恐怖の病であったハンセン氏病に冒され、文学への志を高く持ち続けながらも、二十四年のその短い生涯を癩院で終えた天才作家北條民雄。川端康成がその才能に感動し、雑誌に発表、文學界賞を受賞した「いのちの初夜」を始め、世を驚嘆震撼せしめた小説、小品、童話、未発表原稿、覚書等を収録。旧版の付録も再録し完全文庫化。
■目次
○小説
いのちの初夜
間木老人
癩院受胎
吹雪の産声
癩家族
望郷歌
道化芝居
青春の天刑病者達
癩を病む青年達
○小品・童話
童貞記
白痴
戯画
月日
可愛いボール〔童話〕
すみれ〔童話〕
○未完成作品
○作品構想の覚え書
○北條民雄年譜…光岡良二
○上巻編纂の辞(昭和十三年版)…川端康成
○覚書(昭和五十五年版)…川端香男里
○定本北條民雄全集(昭和五十五年版)付録
忘れられない本…福永武彦
創元選書『いのちの初夜』あとがき…川端康成
光明の文学…島木健作
■目次
○小説
いのちの初夜
間木老人
癩院受胎
吹雪の産声
癩家族
望郷歌
道化芝居
青春の天刑病者達
癩を病む青年達
○小品・童話
童貞記
白痴
戯画
月日
可愛いボール〔童話〕
すみれ〔童話〕
○未完成作品
○作品構想の覚え書
○北條民雄年譜…光岡良二
○上巻編纂の辞(昭和十三年版)…川端康成
○覚書(昭和五十五年版)…川端香男里
○定本北條民雄全集(昭和五十五年版)付録
忘れられない本…福永武彦
創元選書『いのちの初夜』あとがき…川端康成
光明の文学…島木健作
- 本の長さ491ページ
- 言語日本語
- 出版社東京創元社
- 発売日1996/9/20
- 寸法14.9 x 10.5 x 2 cm
- ISBN-104488070086
- ISBN-13978-4488070083
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登録情報
- 出版社 : 東京創元社; 文庫版 (1996/9/20)
- 発売日 : 1996/9/20
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 491ページ
- ISBN-10 : 4488070086
- ISBN-13 : 978-4488070083
- 寸法 : 14.9 x 10.5 x 2 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 220,646位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 63位日本文学の全集・選書
- - 87位個人全集の全集・選書
- - 1,726位アート・建築・デザイン作品集
- カスタマーレビュー:
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2018年11月22日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
ハンセン病の作家として知られる北條民雄の全集。上巻は小説では以下を収録。最もよく知られる「いのちの初夜」。最初に出版された「間木老人」では、全生園が舞台で、マウスが動物実験に用いられていること、狭い部屋、結核も併発している患者が多いこと、“天刑病”と称されて天罰とされていたこと、病気の症状なども紹介されている。「癩院受胎」では感覚麻痺に陥った主人公が“一見ささいな知覚上の快感が無数に重なり合って、限りなく豊かな人間の感覚生活が築き上げられている”ことを考えるp82シーンからはじまる.喉頭病変のため窒息にいたりそうな患者の緊迫した場面p95は、「癩を病む青年たちp325」にほぼ同じ場面が登場。患者の中で“肉体を捨てることです。どんな廃残の肉体の中にも、美しい精神は育つp102」とするものに対し、「癩になって生きることそれ自体虚偽だ。時間を以前に引き戻すことが可能でない限りどんな解決も嘘です。出来てしまったことは仕方ないから最善の方法をもって解決する。これくらい体のいい虚偽はまたとありゃしないp124」と言って自殺を考えている対局の患者が登場する。主人公は”間違いなく必ず死ぬのだと思えば、もがき苦しむ必要もあるまい。もし何万年でも生きていなければならぬのなら、自殺する必要もあろうけれども、しかしほんの短い時間の後には死ぬのだ“と考え、院で生まれようとする子供に希望を託すのが”この解決はやっぱり虚偽なのか“と思うところで物語は終わる。本作は川端康成との往復書簡によれば題は「危機」であったが川端が現在のものに変更した(北條民雄全集下巻p407、415)。また、北條は川端にこの作品を書くことで”自分に欠けていたものを発見することが出来“たとしいる(同p417)。次いで収録されている「吹雪の産声」は続編ではないのだが、テーマは引き継がれる。患者である主人公は”生れ出る子供の中に自己のいのちの再現を見ようとしているのかp145“と考える。そんな時に、以前自殺を考えていた時に同じ病気の矢内にもらった手紙を思い出す”君は君の生命が君だけのものではないということを考えるべきです。君のものであると共にみんなのものです。みんなの中の君であると共に、君の中のみんななのです。君の中に僕が在るように僕の中にも君が在ることを考え、どうでも生きて貰いたい僕の願いです“。そんな矢内は現在死にかけているのだが、院に妊婦が来たことで主人公と会話を交わす。”(矢内)死ぬ人もあるけれど、生まれる者もあるんだね。僕は今まで、人間が生まれるということを知らなかった。忘れていた。僕は今まで、既に生まれている者だけしか頭になかったんだ“、”(主人公)うん。僕もそうだったよ。いや、僕は僕だけしか、今まで見えなかった。君にあの手紙を貰うまではね“。死んでいく矢内が”いのちは、ねえ、いのちにつながっているんだ“と生まれてくる(他人ではあるが)赤ん坊のことを語ると、主人公は”生命と生命とのつながり、私は今こそ彼の手紙がはっきりと読めた“とし、産声に死んだ矢内の声を聞き涙する。「癩家族」は親子で院に入っている家族の人間関係を描く。北條の日記によれば”1936年10月18日。癩家族を書き上る。愉快なり。だが駄作(北條民雄全集下巻p285)“「望郷歌」は療養所内の小学校の話。「道化芝居」は中編で読み応えがあり、この長さのものは他には「癩院受胎」しかないので貴重。「青春の天刑病者達」と「癩を病む青年達」は昭和13年に編纂された時は全生園の検閲にあったため川端康成が全集には含むことができなかった作品p472。小品・童話は「童貞記」「白痴」「戯画」「月日」「「可愛いポール」「すみれ」を収録。未完成作品は12編を掲載。「キリスト者の告白」が優れている。また「人間再建」の次の抜粋は深い。”思想では決して救われない。信じるか信じないか、これだけだ。人間を動かすものは思想でも知識でもない、ただ思想や知識が信念と化した時にのみ力を持つ」p436。作品構想の覚書は4編を収録。以下は「地下室の青年達」からの抜粋。“人間の愛情は、真剣であればあるほど増悪につきまとわれる。増悪のない愛、それは軽蔑である」p452.巻末に、年譜、川端康成らの文章が掲載。なお「北條民雄全集下巻」には、随筆、感想、日記、書簡、追悼記などを収録。著者の自作に対する感想などが書かれているので、作品の深い理解には適しているが小説のみを読みたいという人には、上巻にすべて収録されている。
2018年7月10日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
今は絶版の本。中古本とはいえ、定価より安く手に入り、かなり嬉しかったです。
手に入り、大切に何回も読んでいます。
惜しい方を亡くしました。
作者本人の体験からなる、ハンセン病の小説です。
手に入り、大切に何回も読んでいます。
惜しい方を亡くしました。
作者本人の体験からなる、ハンセン病の小説です。
2013年11月7日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
『北條民雄全集』に関しては、ほぼ下巻(
定本 北条民雄全集〈下〉 (創元ライブラリ)
)のレビューに書いてしまったため、そちらも合わせてご覧いただけると幸いです。
ここに収録されている作品に批評を下すことは私にはできない。客観的に見て、全ての作品が「名作」といえるかどうかはわからない。
ただ、私は、北條民雄の作品に強く惹きつけられる。
これらの作品は、普遍性を持つような気がしてならない。
彼が亡くなった年齢は、師匠の川端康成でいうなら、まだ『伊豆の踊子』を発表するよりも何年も前のことだ。
この作家が、僅か二十数年でその生を終えることなく、その後も成長し続ければ、どんな作品が生まれただろう――と考えると、あまりにも早逝が惜しまれる。
可能ならば若いうち――これらの作品を書いていた北條と同じ、20代前半頃までに、読んでおきたい一冊だと思う。
詳しくは下巻のレビューに書いたが、個人的には、上巻に劣らず下巻(日記・書簡など)にも強い魅力を感じる。
ここに収録されている作品に批評を下すことは私にはできない。客観的に見て、全ての作品が「名作」といえるかどうかはわからない。
ただ、私は、北條民雄の作品に強く惹きつけられる。
これらの作品は、普遍性を持つような気がしてならない。
彼が亡くなった年齢は、師匠の川端康成でいうなら、まだ『伊豆の踊子』を発表するよりも何年も前のことだ。
この作家が、僅か二十数年でその生を終えることなく、その後も成長し続ければ、どんな作品が生まれただろう――と考えると、あまりにも早逝が惜しまれる。
可能ならば若いうち――これらの作品を書いていた北條と同じ、20代前半頃までに、読んでおきたい一冊だと思う。
詳しくは下巻のレビューに書いたが、個人的には、上巻に劣らず下巻(日記・書簡など)にも強い魅力を感じる。
2009年3月22日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
「いのちの初夜」の存在を今更ながら知り、本書を購入しました。角川版「いのちの初夜」とどちらを買うか悩みましたが、こちらを買って正解でした。
北条民雄が21歳から24歳間の間に書き残した全てが、上下巻約千頁に納められています。
上巻は小説が中心で存命中に発表されたもの、死後川端康成から発表された小説、全9編と小品、未完成品などが納められています。
北条民雄が存命中は、川端康成が発表をためらった「道化芝居」は小説として完全でないだけに逼迫した名作です。
巻末に同じ病院内で知り合い、無二の親友となった東條耿一が描いた北条民雄の肖像画が掲載さて居ます。
東條氏は詩を志し、三好達治を師と仰いだが、信仰を取り戻した時に全ての文章を破棄してしまったそうです。
私は好きな作家は全集で読みますが、正直発表された小説以外興味が無く、随筆や日記、ましてや書簡など読むのは邪道かと思っていました。
しかし、この本には限って当てはまりませんでした。
文学とは何かと、改めて考えさせられた本でした。
北条民雄が21歳から24歳間の間に書き残した全てが、上下巻約千頁に納められています。
上巻は小説が中心で存命中に発表されたもの、死後川端康成から発表された小説、全9編と小品、未完成品などが納められています。
北条民雄が存命中は、川端康成が発表をためらった「道化芝居」は小説として完全でないだけに逼迫した名作です。
巻末に同じ病院内で知り合い、無二の親友となった東條耿一が描いた北条民雄の肖像画が掲載さて居ます。
東條氏は詩を志し、三好達治を師と仰いだが、信仰を取り戻した時に全ての文章を破棄してしまったそうです。
私は好きな作家は全集で読みますが、正直発表された小説以外興味が無く、随筆や日記、ましてや書簡など読むのは邪道かと思っていました。
しかし、この本には限って当てはまりませんでした。
文学とは何かと、改めて考えさせられた本でした。
2003年9月28日に日本でレビュー済み
北条民雄全集が、こうして文庫という形態で現れる日がくることが
あるとはにわかには信じがたい。
北条民雄。
この名前には、私にとって一種魔物のような魅力がある。
虚無からの肯定を模索しつづけた挑戦者。
そうした印象が強い。
本書は、北条民雄の小説を中心に収録されている。
名作「いのちの初夜」をはじめ、戦慄の作品群が。
一読してみてください。
あるとはにわかには信じがたい。
北条民雄。
この名前には、私にとって一種魔物のような魅力がある。
虚無からの肯定を模索しつづけた挑戦者。
そうした印象が強い。
本書は、北条民雄の小説を中心に収録されている。
名作「いのちの初夜」をはじめ、戦慄の作品群が。
一読してみてください。
2022年9月11日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
北條民雄さん(以下 著者)は1914年生まれ。小学校(高等小学校)より
文学への傾倒が見られた。卒業後すぐに上京し仕事に就く。1933年(19歳)
でハンセン病に罹患していることが確定し、1934年(20歳)で「全生病院」
に入院し、そのまま病院内で生きることになった。入院するころにはすでにいく
つかの作品を発表しており、川端康成さん(以下 川端 敬称略)の知遇を得て
作品を川端に送っている。川端の評価は高かった。1937年に結核により死去。
わずか23年間の人生であった。
著者の名は「いのちの初夜」において非常に高い。時代を超えて現在でも読み
継がれている。私は同病であった伊藤保さんの「仰日」を読み、そして著者に出
会った。「いのちの初夜」を読んだ時には、あまりの現実の辛さと、その現実の
中で著者が心を削るようにして綴った一連の小説に圧倒された。一篇一篇をゆっ
くり読んだが、その一篇ごとの内容の重さに、すぐにはページをめくれなかった
ことを覚えている。
著者の全作品がこの「定本 北條民雄全集」にある。川端による「上巻編纂の
辞」では、「青春の天刑病者達」と「癩を病む青年達」を省いたとあるが、本書
では、再刊する際にこれらの作品も収載してある。当時の全生病院の「検閲」に
よって不可とされた作品であり、川端の編纂した1938年当時は掲載が無理だ
ったようだ。「いのちの初夜」(角川文庫版)に収載してある、「眼帯記」、「
癩院記録」と「続癩院記録」は、「全集下巻」に収載され、残りの作品は「全集
上巻」に収載。
ハンセン病という、当時は(あるいは現在でも)差別が強く残っている病気の
持つ「社会からの徹底的な排除」という状況のもとで、著者がどれほど強く生を
希求していたかが分かる。その魂の軌跡が全てこの全集(上下巻)の中にある。
故郷からも(病者によっては家族からも)切り離されて、一生閉じ込められ、病
状は悪化の一途をたどる(もちろん現在では、特効薬もあり「死に到るい禍々し
い病」などではなく、感染力の著しく低い病気でしかない)。しかしその絶望ば
かりが描写されているのではなく、作品の到る所に希望や癒やしの光が見える。
これが全ての作品を、単なる「嘆き」や「宗教的諦念」におとすことなく、心の
そのものを表した文章となっている。
著者はかなり早くから文学を志し、そして15歳の時には、小林多喜二の「不
在地主」に強い衝撃を受け、18歳では葉山嘉樹(「セメント樽の中の手紙」が
一番有名か)に手紙を書き、返信を得て喜んだ。
この「全集上巻」に収載されている「道化芝居」はその「プロレタリア文学」
の影響をかなり受けている作品であり、著者の持つ文学的多面性をよく示してい
る。1934年(20歳)の時に川端に自分の作品を送り、川端より好意ある評
価をもらっている。川端は、「先ず、ドストエフスキイ、トルストイ、ゲエテな
どを読み、文壇小説は読まぬこと」という戒めを送ったらしい。
その縁によって川端は、「いのちの初夜」も「全集」も編纂に携わっている。
川端はやはり、「小説に何らかの政治的意味合いを付ける」ことにはかなり否定
的であったことが分かる。「いのちの初夜」に「道化芝居」を収載しなかったこ
とも川端の小説にたいする態度の表れだろう。「主(あるじ)つきの文学は認め
たくない」という意識か。
私自身もこの「道化芝居」だけはかなりの「違和感」を持って読んだ。少し政
治臭が強すぎるきらいがあるが、これはあくまでも私個人の感想。
また、島木健作が推薦の辞として「光明の文学」という文章を寄せている。これ
には少なからず驚いた。偏見ですが「島木健作は転向した作家」として著名、代
表作は「癩」や「生活の探求」など。
年譜を読んでいてあれっと思ったのが、「いのちの初夜」と「全集」では、年
齢の数え方に一歳の違いがあること。年代自体としては、西暦、元号とも全く同
じだが、この「全集」では生まれた年を一歳としている。「全集」では、「昭和
五十五年に光岡良二さんが作成したもの」であり、それがこの違いを生んだもの
と思われる。
北條さんが亡くなったのが、二十三歳か二十四歳のどちらか、少し困惑した。
その作品の素晴らしさの割に、あまり知られていないがいないかと思っていた
が、文庫本で全集が刊行され、すでに四版を重ねている。このように刊行してい
ただいたのは、本当にありがたい。
もちろん ☆☆☆☆☆ です。
文学への傾倒が見られた。卒業後すぐに上京し仕事に就く。1933年(19歳)
でハンセン病に罹患していることが確定し、1934年(20歳)で「全生病院」
に入院し、そのまま病院内で生きることになった。入院するころにはすでにいく
つかの作品を発表しており、川端康成さん(以下 川端 敬称略)の知遇を得て
作品を川端に送っている。川端の評価は高かった。1937年に結核により死去。
わずか23年間の人生であった。
著者の名は「いのちの初夜」において非常に高い。時代を超えて現在でも読み
継がれている。私は同病であった伊藤保さんの「仰日」を読み、そして著者に出
会った。「いのちの初夜」を読んだ時には、あまりの現実の辛さと、その現実の
中で著者が心を削るようにして綴った一連の小説に圧倒された。一篇一篇をゆっ
くり読んだが、その一篇ごとの内容の重さに、すぐにはページをめくれなかった
ことを覚えている。
著者の全作品がこの「定本 北條民雄全集」にある。川端による「上巻編纂の
辞」では、「青春の天刑病者達」と「癩を病む青年達」を省いたとあるが、本書
では、再刊する際にこれらの作品も収載してある。当時の全生病院の「検閲」に
よって不可とされた作品であり、川端の編纂した1938年当時は掲載が無理だ
ったようだ。「いのちの初夜」(角川文庫版)に収載してある、「眼帯記」、「
癩院記録」と「続癩院記録」は、「全集下巻」に収載され、残りの作品は「全集
上巻」に収載。
ハンセン病という、当時は(あるいは現在でも)差別が強く残っている病気の
持つ「社会からの徹底的な排除」という状況のもとで、著者がどれほど強く生を
希求していたかが分かる。その魂の軌跡が全てこの全集(上下巻)の中にある。
故郷からも(病者によっては家族からも)切り離されて、一生閉じ込められ、病
状は悪化の一途をたどる(もちろん現在では、特効薬もあり「死に到るい禍々し
い病」などではなく、感染力の著しく低い病気でしかない)。しかしその絶望ば
かりが描写されているのではなく、作品の到る所に希望や癒やしの光が見える。
これが全ての作品を、単なる「嘆き」や「宗教的諦念」におとすことなく、心の
そのものを表した文章となっている。
著者はかなり早くから文学を志し、そして15歳の時には、小林多喜二の「不
在地主」に強い衝撃を受け、18歳では葉山嘉樹(「セメント樽の中の手紙」が
一番有名か)に手紙を書き、返信を得て喜んだ。
この「全集上巻」に収載されている「道化芝居」はその「プロレタリア文学」
の影響をかなり受けている作品であり、著者の持つ文学的多面性をよく示してい
る。1934年(20歳)の時に川端に自分の作品を送り、川端より好意ある評
価をもらっている。川端は、「先ず、ドストエフスキイ、トルストイ、ゲエテな
どを読み、文壇小説は読まぬこと」という戒めを送ったらしい。
その縁によって川端は、「いのちの初夜」も「全集」も編纂に携わっている。
川端はやはり、「小説に何らかの政治的意味合いを付ける」ことにはかなり否定
的であったことが分かる。「いのちの初夜」に「道化芝居」を収載しなかったこ
とも川端の小説にたいする態度の表れだろう。「主(あるじ)つきの文学は認め
たくない」という意識か。
私自身もこの「道化芝居」だけはかなりの「違和感」を持って読んだ。少し政
治臭が強すぎるきらいがあるが、これはあくまでも私個人の感想。
また、島木健作が推薦の辞として「光明の文学」という文章を寄せている。これ
には少なからず驚いた。偏見ですが「島木健作は転向した作家」として著名、代
表作は「癩」や「生活の探求」など。
年譜を読んでいてあれっと思ったのが、「いのちの初夜」と「全集」では、年
齢の数え方に一歳の違いがあること。年代自体としては、西暦、元号とも全く同
じだが、この「全集」では生まれた年を一歳としている。「全集」では、「昭和
五十五年に光岡良二さんが作成したもの」であり、それがこの違いを生んだもの
と思われる。
北條さんが亡くなったのが、二十三歳か二十四歳のどちらか、少し困惑した。
その作品の素晴らしさの割に、あまり知られていないがいないかと思っていた
が、文庫本で全集が刊行され、すでに四版を重ねている。このように刊行してい
ただいたのは、本当にありがたい。
もちろん ☆☆☆☆☆ です。