本作は1992年の正月に購入し28年後の今年 (2020年3月) になって初読しました。
もともと私は積ん読本の多い人間であり、決してこの作品が面白くないからではありません。
じっさい今回読んでみて、ホームズシリーズの長編「緋色の研究」「四つの署名」「恐怖の谷」「バスカヴィル家の犬」の正典4大長編に加えてもいいような作品と感じました。
これは決して過大評価じゃないです。私の持つ本文庫は1974年初版発行の《1991年21版》となっており、仮に1版5000部としても10万5000部です。1版1万部だと21万部!!となり、ちょっとしたベストセラーです。ただし17年間のトータル発行部数なので、そんな言い方はしませんが。
さて内容ですが、第3章(82ページ)までは、いわば導入部で、シャーロック・ホームズの幻の事件簿が現代イギリスの銀行に預けられていたことが判明するところから始まります。
その事件簿のなかで、何と独身主義者のはずのホームズがセクシーなバレリーナのペトロワとあやうく結婚させられそうになる。第3章までの部分は、いかにもシャーロキアンの喜びそうな蘊蓄がたくさんちりばめられていて面白い。蘊蓄はこれ以降の章にも出てきます。
さて第4章からが、本作のメインの事件です。
ある日、ホームズの下宿に一人の女性が運び込まれます。その女性は川に落ちて記憶を失ったのですが、手にしていた荷物の預り証にはホームズの下宿の住所が書き込まれています。川で溺れかけているのを、辻馬車の御者が見つけ預り証の住所を見てホームズの下宿へと運び込んだのです。
預り証の印刷は濡れたために一部消えていましたが、ホームズは女性の手の平に写った文字を判読し彼女の荷物の在処を突き止めます。
荷物から、女性がベルギー人のガブリエル・ヴァラドン夫人であることが分かります。
記憶を取り戻したガブリエル・ヴァラドン夫人の話では、ロンドンのヨナ商会に就職した鉱山技師の夫エミールが行方不明になってしまったとのこと。
さっそくホームズ、ワトソン、ヴァラドン夫人の3人はヨナ商会へと出向きます。しかしヨナ商会を訪ねてみると、店内はもぬけの殻。そこへ多数のカナリアを飼う老婆が現れる。
次に男たちが訪ねてきて、その老婆からカナリアを受け取って老婆とともに去ります。
さらに待っていると、なぜかその空き家にホームズ宛の手紙が舞い込んでくる。差出人はシャーロックの実兄マイクロフト・ホームズ。
ホームズがマイクロフトのいるディオゲネス・クラブを訪問すると、マイクロフトからきっぱりと言われます。「シャーロック、この事件から手を引くんだ」 と。
かえって好奇心を掻き立てられたホームズは俄然この不可解きわまる事件の捜査に本腰を入れます。
ヨナ商会で、カナリアが入っていた籠に敷かれていた新聞の記事から、スコットランドのネス湖に注目したホームズは、ワトソン、ヴァラドン夫人とともにスコットランドへと旅立ちます。
先日、ディオゲネス・クラブでホームズらがたまたま耳にしたマイクロフトの言葉がこの後の展開の重要なキーワードとなります。クラブで、マイクロフトは急使の使者に、「箱を三つグレナハリックに送り、赤い使者 (レッド・ランナー) を城に送るように言いなさい」と命じるのです。その言葉を根拠にして、ホームズ一行はさっそくスコットランドのグレナハリックの墓地を訪れます。
たまたま墓地では、ネス湖で死んだという身元不明の父親と2人の息子の埋葬が行われていました。
その墓に4人の小人が墓参りに来ます。小人を見た時にホームズはひらめきます。埋葬された2人の子供の死体が、実は行方不明になったと先般新聞に出ていた小人兄弟2人なのです。彼らは全部で6人の小人の兄弟です。
だとしたら、同じく死んで共に埋葬された父親とは一体誰なのか。
ホームズは意を決して墓を暴くことにします。
暴いてみると、大きな棺にはガブリエル・ヴァラドンの夫エミール・ヴァラドンの死体が、カナリアの死骸とともに入っていました。しかも奇妙なことに夫の結婚指輪は酸により変色していました。
マイクロフトの言った謎の言葉の後半部分、すなわち 「赤い使者 (レッド・ランナー) を城に送るように言いなさい」 という箇所からスコットランドの古城をいくつも調べていくうちに、ホームズらは、ある城で厳重な警戒の中、硫酸とカナリアが運び込まれているところに遭遇します。
それを目撃して、ようやく真相に見当をつけたホームズは、夜になってワトソン、ヴァラドン夫人とともにネス湖にボートを出します。すると、あろうことか有名な恐竜ネッシーが湖上に姿を現し、ホームズらの乗るボートを転覆させてしまいます。何とか溺れずに、3人はホテルヘ帰館。
ところが、その翌日、兄マイクロフトからホテルヘ招待状が届きます。ここまで事態が推移したところで、ホテルの晩餐の席でホームズは現時点での推理をそのサワリの部分だけ話します。
そのあと、ホテルヘ謎のお迎えがやってくる。
馬車に揺られて、昼間訪ねた城にふたたび到着してみると、そこには他ならぬマイクロフト・ホームズがいるではないか。そのマイクロフトによってこれまでの事件の謎が明らかになります。
ヨナ商会のヨナは、聖書で三日三晩クジラの中で生きていたヨナにちなんでおり、ここでのクジラはネッシーに偽装した潜水艇 (作中の呼び名では<可潜艇>) なのです。潜水艦は、マイクロフトが中心となって、英国の対ドイツ新兵器として開発されていたのです。
試作機が小型のためサーカスの小人6人が操縦士として乗り組んでいたのです。
動力が硫酸電池なので海水が浸水すると塩素ガスが発生してしまう。そのため、塩素ガス発生をいち早く知るためににカナリアも乗り組ませていたのです。
ガブリエル・ヴァラドンの夫エミールは空気ポンプの技術を買われてこのプロジェクトに参加したのだが、運わるく塩素ガスの事故で2人の小人操縦士ともども命を落としたのでした。そのさい塩素ガスでエミールの指輪が変色していたのです。
マイクロフトは、ただ一つホームズが見抜けなかった事実を暴露する。ガブリエル・ヴァラドン夫人の正体は、潜水艦技術を盗むという使命を帯びたドイツの女スパイ、イルザなのです。
だが、マイクロフト一同の苦心作である潜航艇は、その城に視察に来られたビクトリア女王によって全否定されます。いわく、敵の目に見えない水面下から敵を攻撃するとは大英帝国のスポーツマンシップにもとる卑怯きわまる兵器であり英国には不要ですと。この女王の鶴のひと声で潜水艦は廃棄されることとなります。
最終的には、マイクロフトの計略により、潜航艇奪取のため乗り込んだドイツ工作員たちとともに潜航艇は破壊されネス湖の底へと沈んでしまう。
ドイツの女スパイ・イルザは、マイクロフトの粋な計らいによりドイツとの人質交換という形をとって無事ドイツへと帰国します。
だが、後日談として、ホームズが再び暇をもてあましていたある日、悲しい知らせが届きます。あのイルザが、日本でスパイ活動をしているうちに逮捕され処刑されたとのこと。
ラストは、失意のなか、ホームズがヴァイオリンを手に取りチャイコフスキーを弾く。物悲しいメロディはイルザへの追悼の調べなのでした。
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シャーロック・ホームズの優雅な生活 (創元推理文庫 102-1) 文庫 – 1974/7/1
ワトスン博士の死後五十年、ロンドンの銀行で発見された一束の事件簿。それはホームズの私生活にあまりにも重大なかかわりがあるため公表を控えていた事件の数々を綴ったものであった……。熱烈なシャーロッキアンである著者夫妻が、ロンドンの風俗描写を巧みに織り込みながらホームズの知られざる活躍を描いた話題の作品!
- 本の長さ235ページ
- 言語日本語
- 出版社東京創元社
- 発売日1974/7/1
- ISBN-104488102018
- ISBN-13978-4488102012
登録情報
- 出版社 : 東京創元社 (1974/7/1)
- 発売日 : 1974/7/1
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 235ページ
- ISBN-10 : 4488102018
- ISBN-13 : 978-4488102012
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,051,678位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2020年3月18日に日本でレビュー済み
2014年3月2日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
ホームズ作品中に言及しているが書かれなかった事件に興味があり、色々な作家の作品を集めている過程で購入した。そのため、現時点で未読のため論評出来ない。
2018年6月24日に日本でレビュー済み
この小説はミステリーでも何でも無くて、前半のストーリーを後半で繰り返しただけ。共著の作品を色々読んだけど、この作品は書いてる人が変わった場所が分かる。読んだあと、買ったことに対して凄い後悔と作者の無能ぶりに憤りを感じ破り捨てました