過去に何作かヘレン・マクロイの作品(『家蝿とカナリア』『幽霊の2/3』『二人のウィリング』 等)を読んだときは他のミステリーと比べても「それなり」「無難」という印象だったのですが、短編集『歌うダイヤモンド』でSFありデヴィッド・リンチばりのカルト風作品ありとその幅の広さと実力を見直し中だったところへ、今回のこれ。
小説としてもミステリーとしても重厚で、とても面白かったです。
ウィリング博士シリーズと言いつつ、中盤まで本人登場なしだったこともあり冒頭はまったくその色もなく。
休暇中ということだけど何か別の目的も匂わせるダンバー大尉が、行きの飛行機の中で知り合ったスコットランド貴族の男性から聞かされた繰り返される少年の家出騒動。偶然にも宿泊先がその近くだったことから、スコットランドの荒野で少年消失の謎や家庭教師が被害者となった殺人事件などを追って行きます。そして、その裏には第2次世界大戦の影が・・・。
途中までは、荒れ果て風が吹きすさぶ寂寥とした大地の描写に小説『嵐が丘』を重ねてみたり、終戦直後というその時代の不穏な空気を感じたり、他所から移住して来たという家族の謎めいた人間関係に興味をそそられたりと、殺人事件も起こりますが普通の小説としても興味深く、じっくりと読み進み・・・。
そこへ、ウィリング博士が登場するや、一転ミステリー色が強まり、それまでの伏線がどんどん回収され、犯人へと突き進みます。
この緩急の巧みさ、さらに人間消失や密室の謎への興味、犯人の意外性(私には)、それ以上に戦争が招いた悲劇とも言えるラストに言葉も出ず・・・。★5つです。

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逃げる幻 (創元推理文庫) 文庫 – 2014/8/21
目撃者の前で、少年が開けた荒野から忽然と消えた人間消失事件と、密室殺人――スコットランドを舞台に、名探偵ウィリング博士が不可能犯罪に挑む謎解きの傑作。本邦初訳。
- 本の長さ326ページ
- 言語日本語
- 出版社東京創元社
- 発売日2014/8/21
- ISBN-104488168094
- ISBN-13978-4488168094
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登録情報
- 出版社 : 東京創元社 (2014/8/21)
- 発売日 : 2014/8/21
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 326ページ
- ISBN-10 : 4488168094
- ISBN-13 : 978-4488168094
- Amazon 売れ筋ランキング: - 479,931位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 1,751位創元推理文庫
- - 2,960位ミステリー・サスペンス・ハードボイルド (本)
- カスタマーレビュー:
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2015年5月17日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
この数年来、ミステリ好きの間に、新しい楽しみが加わっていることは間違いないでしょう。
それが、本作品の著者、ヘレン・マクロイの再(というか、日本では初?)評価です。
1940年代から60年代を中心に活躍した、このアメリカ人女流作家は、本国では、探偵作家クラブ会長を務めるほどでしたが、日本では一部のマニアを除き、全くの無名。
翻訳された著作も、長らく絶版状態。
ところが、復刊された作品を読んでみると、高水準で、この数年、復刊と初邦訳が続いています。
本作品も、1945年発表後、2014年に初めて邦訳され、同年末の各種ミステリランキングで上位に挙げられています。
内容は「人間消失もの」。
アメリカ人のダンバー大尉は、訪れたスコットランドのハイランド地方で、何度も家出を繰り返す少年の話を聞く。
宿泊先で偶然に発見した少年は何かに怯えていた。
やがて、少年は再び姿を消し、殺人事件が発生する…。
荒涼とした土地(ムア)の果てには、どんな秘密が隠されているのか――本作品は、トリッキーな仕掛けより、1945年という時代の持つ社会背景を取り入れているのが秀逸。
その時代の空気が巧みに織り込まれているため、21世紀の現在でも、古びた印象はありませんでした。
むしろ、「歴史」という範疇に足を踏み入れている、ある事柄が、読者の胸を強く揺さぶることでしょう。
思えば、この題名(原題は、THE ONE THAT GOT AWAY)はよく出来ていて、読後、その意味合いがよく理解できます。
ミステリの達人は、題名からして、緻密に構成していると、感心させられます。
それが、本作品の著者、ヘレン・マクロイの再(というか、日本では初?)評価です。
1940年代から60年代を中心に活躍した、このアメリカ人女流作家は、本国では、探偵作家クラブ会長を務めるほどでしたが、日本では一部のマニアを除き、全くの無名。
翻訳された著作も、長らく絶版状態。
ところが、復刊された作品を読んでみると、高水準で、この数年、復刊と初邦訳が続いています。
本作品も、1945年発表後、2014年に初めて邦訳され、同年末の各種ミステリランキングで上位に挙げられています。
内容は「人間消失もの」。
アメリカ人のダンバー大尉は、訪れたスコットランドのハイランド地方で、何度も家出を繰り返す少年の話を聞く。
宿泊先で偶然に発見した少年は何かに怯えていた。
やがて、少年は再び姿を消し、殺人事件が発生する…。
荒涼とした土地(ムア)の果てには、どんな秘密が隠されているのか――本作品は、トリッキーな仕掛けより、1945年という時代の持つ社会背景を取り入れているのが秀逸。
その時代の空気が巧みに織り込まれているため、21世紀の現在でも、古びた印象はありませんでした。
むしろ、「歴史」という範疇に足を踏み入れている、ある事柄が、読者の胸を強く揺さぶることでしょう。
思えば、この題名(原題は、THE ONE THAT GOT AWAY)はよく出来ていて、読後、その意味合いがよく理解できます。
ミステリの達人は、題名からして、緻密に構成していると、感心させられます。
2014年12月22日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
最終的にはあっと言わせる結末でしたが、全体のはこびが古すぎると思いました。(時代背景が古いためではなく。)アルセーヌ・ルパンもどき。
2016年7月8日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
まあ、湿地帯は死者の心霊を象徴しているのですね。
これはバスカヴィルの故意の二番煎じで。
マクロイはそこに、ドイツのドッペルゲンガーを入れる。
ドイルは妖精を研究し、終生その存在を信じていたし、その研究がいずれネックになると遺言した。ただし、寧ろ自身は愛さなかったホームズにこの問題の解決を任せることもしなかった。
マクロイは、心霊を心霊として語るようなことはしない。ホームズをちゃんと踏襲している。そして、もしかしたら心霊問題を解く重要な鍵になるかもしれないドッペルゲンガーをも本作でホームズ物語並みに敢えて退けて見せているんだと思いますね。
でもね、理想のディテクティヴが今からでも書かれるとすれば、心霊もドッペルゲンガーもそれとして認めないといけない形でちゃんと解明しているものにしないといけない。それが理想の理想でね。
これはバスカヴィルの故意の二番煎じで。
マクロイはそこに、ドイツのドッペルゲンガーを入れる。
ドイルは妖精を研究し、終生その存在を信じていたし、その研究がいずれネックになると遺言した。ただし、寧ろ自身は愛さなかったホームズにこの問題の解決を任せることもしなかった。
マクロイは、心霊を心霊として語るようなことはしない。ホームズをちゃんと踏襲している。そして、もしかしたら心霊問題を解く重要な鍵になるかもしれないドッペルゲンガーをも本作でホームズ物語並みに敢えて退けて見せているんだと思いますね。
でもね、理想のディテクティヴが今からでも書かれるとすれば、心霊もドッペルゲンガーもそれとして認めないといけない形でちゃんと解明しているものにしないといけない。それが理想の理想でね。
2014年12月14日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
面白くない,評価されている程の面白さはない。我慢して読んでいた。
2015年3月11日に日本でレビュー済み
びっくりした!
まさかこんな結末だとは思わなかった。
その意味では「2015本格ミステリベスト10」の
第1位も大納得なのだが、うーむ…
どういうわけか、少々複雑である。
なぜ複雑なのか?
作品そのものには、何の問題もない。
叙述も達者だし、どんでん返しの破壊力もすごい。
それまで読んでいた世界がみずみずしく揺らぐ、
というような経験ができる。
で、結局このモヤモヤの原因は、
帯の文句とか裏表紙の説明文にあるのだと思う。
あまり書いてしまうとネタバレになるので、例えでいうと、
僕は勝手にカーのようなミステリを想像していたのである。
ところがどっこい、実際はクリスティーだった。
というようなことなのだが、うまく伝わったでしょうか?
そりゃあんたが勝手に思ってただけだろ、
といわれれば、まあそれはその通りなんだけど。
それに、読者にそう思わせることで、
サプライズも倍増されるだろうことを考えれば、
これはこれでいいのかもしれないな、という気もするが。
とにかく、びっくりしたことは間違いないのだから。
まさかこんな結末だとは思わなかった。
その意味では「2015本格ミステリベスト10」の
第1位も大納得なのだが、うーむ…
どういうわけか、少々複雑である。
なぜ複雑なのか?
作品そのものには、何の問題もない。
叙述も達者だし、どんでん返しの破壊力もすごい。
それまで読んでいた世界がみずみずしく揺らぐ、
というような経験ができる。
で、結局このモヤモヤの原因は、
帯の文句とか裏表紙の説明文にあるのだと思う。
あまり書いてしまうとネタバレになるので、例えでいうと、
僕は勝手にカーのようなミステリを想像していたのである。
ところがどっこい、実際はクリスティーだった。
というようなことなのだが、うまく伝わったでしょうか?
そりゃあんたが勝手に思ってただけだろ、
といわれれば、まあそれはその通りなんだけど。
それに、読者にそう思わせることで、
サプライズも倍増されるだろうことを考えれば、
これはこれでいいのかもしれないな、という気もするが。
とにかく、びっくりしたことは間違いないのだから。
2014年12月7日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
様々な伏線がページを読み進めるうちに姿をもたげてきます。
上手にストーリーを構成するもんだなあ、と感心、おもしろいです。
上手にストーリーを構成するもんだなあ、と感心、おもしろいです。
2018年10月8日に日本でレビュー済み
内容紹介を読むと、探偵役が「人間消失と密室殺人が彩る事件に挑む」と書かれていて、ヘレン・マクロイってフーダニット物を書くような作家だっけ?と思って手に取ったが、結論からいえば騙されたという感じ。どちらもトリックと言えるようなものではないし、そもそも作家自身がこれらのトリックに自信を持っていたのだろうか。
本編の軸は得体の知れない邪悪な力が何なのか、その不気味な正体に迫ることであり、その点では彼女らしいサスペンス色豊かな作品であり、伏線はあちこちに綿密に張り巡らされており見事騙された。
内容紹介を読むと本格トリックものと誤解する可能性が高いので、これは再考すべきだと思う。
本編の軸は得体の知れない邪悪な力が何なのか、その不気味な正体に迫ることであり、その点では彼女らしいサスペンス色豊かな作品であり、伏線はあちこちに綿密に張り巡らされており見事騙された。
内容紹介を読むと本格トリックものと誤解する可能性が高いので、これは再考すべきだと思う。