作者の作品を読んだのはデビュー作の「僕を殺した女」以来。アクロバティックなその構想には驚いたものだった。その時から作者の先端科学志向は表れていた。本作でも「前向性健忘症」という症状の助教授が登場する。この病気は、ある時期(本作では交通事故遭遇日)以前の記憶はあるが、それ以降は記憶が1時間と持たないというもの。つまり助教授にとって、事故に遭った以降は記憶が保たれないため、同じ日が毎日繰り返されるというもの。事故に遭ったのは6年前で、その時12才で現在18才の娘も差異が大きいため認識できないでいる。
話は、この助教授一家を含む複数家屋を襲った14年前の連続放火事件と、これに絡んで起きる現代の連続殺人事件の謎を、やはりこの放火で母を無くした青年が追うというもの。青年と助教授の娘は未承認状態の婚約関係にある。デビュー作ほどのアクロバティック性はないものの、特異なトリックを実現させてしまう手腕は評価できる。トリックに不自然さを感じさせないように全篇に渡って伏線を張ってある用意周到さも見逃せない。「前向性健忘症」の助教授が娘に残す最後の手紙も感動を誘う。
欠点を挙げると、デビュー作でも感じた事なのだが、人物造詣が甘く、登場人物が単なる記号のようにしか映らない点であろう。ミステリーは須らくそうした傾向を持つのだが、トリッキーな作風を考えるとスヴィドリガイロフ的性格を登場人物に付与しても良いのではないか。また、「前向性健忘症」という病気をご都合主義的に使っている点が気になった。
作者はデビュー後10年経っても"覆面作家"を貫いている興味ある人物である。また、言語を解する猿を主題にした作品もある程、科学とミステリーの融合を試みている作家でもある。そんな作者のトリッキーな味が楽しめる佳作。
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透明な一日 (創元推理文庫) 文庫 – 2005/7/21
北川 歩実
(著)
- 本の長さ528ページ
- 言語日本語
- 出版社東京創元社
- 発売日2005/7/21
- ISBN-104488453015
- ISBN-13978-4488453015
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登録情報
- 出版社 : 東京創元社 (2005/7/21)
- 発売日 : 2005/7/21
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 528ページ
- ISBN-10 : 4488453015
- ISBN-13 : 978-4488453015
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,754,947位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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