前伯爵の変死など陰惨な事件があったにも関わらず、石の城の長い歴史の前には些事のようで、何事も変わらずに時は流れ、前作巻末において、幼いながらも第七十七代のゴーメンガースト伯爵となったタイタスは少年期を迎えている。
家訓どおり、市井の子供等に混じって学業に勤しむタイタスだったが、他の子と代わらぬ無邪気さは徐々に失われてく。
城主として日々欠かせない各種の儀式がタイタスを滅入らせるのだ。
そしてそれらの儀式を司るのは、狡猾な策略によって調理場の下働きから今や書庫長に成り上がったスティアパイク。
タイタスは自分を縛り付けるかに感じる儀式を憎むとともに、何時しかその象徴的な存在とも言えるスティアパイクをも憎むようになる。
タイタスの父親セパルプグレイヴ卿を死に追いやったのはスティアパイク本人であり、その憎悪も故無きことではない。
更に、城内の年長者の中にはスティアパイクの犯罪性に感づいている者達が居た。
普段は巨大な体の中に閉じ込められているものの、恐るべき洞察力を秘めた伯爵妃ガートルード、ゴーメンガースト城随一の知性を持ったプルーンスクワラー医師、そしてスティアパイクの計略の犠牲となって城を追放された筆頭家来のフレイは、それぞれの推測から巧妙に成し遂げられたスティアパイクの犯罪を解き明かそうとするのだったが・・・
少年期のタイタスを囲む面子の中では、それぞれの人間性があまりにも如実に描写されている教授陣が面白い。
特にプルーンスクワラー医師の妹であるイルマ嬢と、老齢の塾頭ベルグローヴのロマンスは抱腹絶倒で、重々しい雰囲気の本シリーズの中では清涼剤的な役割を果たしている。
乳兄妹である「やつ」との奇妙な出会いと初恋、そして突然の死、更には心を許せる数少ない存在であった姉フューシャとの死別によって、思いも寄らず早々と少年期に別れを告げることになるタイタスの成長ぶりが見所となる第2部だが、もう一人の主人公とも言えるスティアパイクを中心にしたピカレスク・ロマンとしても読めるダブル・プロットになっている。
直接的に絡む場面の少ないこの二人が、恐るべき豪雨によって巨大なゴーメンガースト城の殆どが水没する中、対決する様子には手に汗を握ってしまった。
本作は、タイタスがゴーメンガーストを捨てて旅立つ場面で終わるのだが、それによって物語全体が見事に纏まっており、この後に第3部が存在するということに戸惑いを覚えるほどだ
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ゴーメンガースト (創元推理文庫 534-2) 文庫 – 1987/2/1
ゴーメンガースト城の当主はいまだ年少の第七十七代伯爵タイタス・グローン。彼は、何千年も前から繰り返される煩瑣な儀式に飽き、未知の外界へ、燃えるような憧れを抱きはじめた。一方、使用人から成り上がったスティアパイクは、狡猾な陰謀の罠を次から次へと張りめぐらしていた。アダルト・ファンタジーの巨編はいよいよ佳境に入る。
- 本の長さ679ページ
- 言語日本語
- 出版社東京創元社
- 発売日1987/2/1
- ISBN-104488534023
- ISBN-13978-4488534028
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登録情報
- 出版社 : 東京創元社 (1987/2/1)
- 発売日 : 1987/2/1
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 679ページ
- ISBN-10 : 4488534023
- ISBN-13 : 978-4488534028
- Amazon 売れ筋ランキング: - 512,009位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
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