久しぶりに続きが気になるファンタジーシリーズです。
元々はヴォルコシガンシリーズの「戦士志願」を読んでファンになった作家の方です。
上記のヴォルコシガンシリーズは宇宙を舞台に,今シリーズは「イブラ半島」という架空の世界で,宗教的背景も五神教と,その1柱の神を神と認めない4神教を背景とし,様々な国とその制度(同じ宗教圏は少し似ている様ですが)の中で,この作品の主人公は登場時 全く何も持たない身分から始まります。あとは少しでも読んでみられれば,色々判ってくると思います。
久々に最初から興味を持て,最後まで時間をかけながらユックリ読めた作品でした。
続編を是非期待しています。
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チャリオンの影 上 (創元推理文庫) 文庫 – 2007/1/30
ロイス・マクマスター・ビジョルド
(著),
鍛治 靖子
(翻訳)
- 本の長さ400ページ
- 言語日本語
- 出版社東京創元社
- 発売日2007/1/30
- ISBN-10448858702X
- ISBN-13978-4488587024
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登録情報
- 出版社 : 東京創元社; 文庫版 (2007/1/30)
- 発売日 : 2007/1/30
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 400ページ
- ISBN-10 : 448858702X
- ISBN-13 : 978-4488587024
- Amazon 売れ筋ランキング: - 456,912位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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カスタマーレビュー
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トップレビュー
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2007年2月10日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2008年5月4日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
中世スペインがモデルの「異世界の宮廷」を舞台にした、魔術と奇跡の物語です。
宮廷内ので政治的な陰謀から、国姫と国内の平和を守るために、国姫付の家令カザリルが教養と知恵を使って活躍します。
主人公が戦争で捕虜になった際の記憶、五新教という宗教、魔術や幽霊がお話のなかにちりばめられて、独自の世界が立ち上がっています。
貴族達の思惑を読みながら、「国姫を守ろう」と心理的な駆け引きに腐心するカザリルの様子や、追い詰められていく国姫たち一団の姿に、夢中になって読みすすみました。
架空の世界が舞台なのですが、歴史物語のようにするりとその世界に入って楽しめるお話です。
宮廷内ので政治的な陰謀から、国姫と国内の平和を守るために、国姫付の家令カザリルが教養と知恵を使って活躍します。
主人公が戦争で捕虜になった際の記憶、五新教という宗教、魔術や幽霊がお話のなかにちりばめられて、独自の世界が立ち上がっています。
貴族達の思惑を読みながら、「国姫を守ろう」と心理的な駆け引きに腐心するカザリルの様子や、追い詰められていく国姫たち一団の姿に、夢中になって読みすすみました。
架空の世界が舞台なのですが、歴史物語のようにするりとその世界に入って楽しめるお話です。
2007年7月21日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
ヴォルコシガンシリーズが好きな人ならば,絶対に読んで損なし。
SFではなくファンタジーに属する内容ではあるが,そんなこと関係なくおもしろい。
シリーズ次作はヒューゴー賞・ネビュラ賞・ローカス賞を受賞とのことで,早く翻訳してほしい。
SFではなくファンタジーに属する内容ではあるが,そんなこと関係なくおもしろい。
シリーズ次作はヒューゴー賞・ネビュラ賞・ローカス賞を受賞とのことで,早く翻訳してほしい。
2016年6月22日に日本でレビュー済み
かつてはチャリオン国の騎士として対ロクナル戦の前線の砦で城代まで勤めたルーペ・ディ・カザリルは、包囲戦の際に卑劣な裏切りによって奴隷に身を落としロクナル海賊のガレー船のオールに鎖で繋がれることとなった。
1年以上にも渡って死と隣り合わせの日々を送った挙句、カザリルはチャリオンと親交のあるイブラ国の艦隊に救われるのだが、心身ともに傷付いた彼には帰るところもなく、小姓時代に仕えていたバオシア藩の太后の元に身を寄せる。
バオシア藩太后の宮廷には彼女の孫であるテイデス国子とイセーレ国姫が滞在しており、皿洗いでもさせてもらえればと伺候したつもりのカザリルは、地理や語学などの学識と豊かな経験を買われてイセーレの教育係家令に任じられる。
しかし平穏な日々は長くは続かず、国主オリコは国妃との間に子供をもうけることを諦めたらしく、義理の弟で第一継承権を持つテイデスとその姉イセーレは共に首都カルテゴスの宮廷へ出仕を命じられた。
カルテゴスで権力を縦にしているジロナルこそは、かつてカザリルを奴隷の境遇に陥れた張本人であり、彼が生きていることを知れば再び手を打ってくるかも知れない。
カザリルは不安を抱えたままイセーレの家臣としてカルテゴスを訪れるのだが・・・
中世のイベリア半島におけるキリスト教勢力とイスラム教勢力の争いをモチーフにした異世界ファンタジー三部作の開幕。
かつては壮健であったと思われる主人公カザリルは、ガレー船の漕ぎ手としての心身ともにボロボロとなっており、次第に回復しつつはあるものの、特に精神面が脆くなってしまったようで、やたらに涙腺が緩むという体たらく。
未だ三十代半ばながら自分の残りの人生を余生のように思っているカザリルではあるが、主人イセーレ国姫の窮地に際して一命を賭すのは天晴れな家令根性だろう。
前半は殆ど宮廷陰謀劇としての展開に終始するのだが、イセーレが厭う相手との政略結婚を阻止するために命を賭けた呪術を用いたことから神と魔と霊を一つ身体の中に抱えることとなったカザリルを襲う深い苦悩が後半の見所になる。
「依代」を使ってではあるが神々が比較的簡単に顕現したり、ご都合主義的な複線など軽々しい面は異世界ファンタジーとしてはマイナスだと思うが、スピーディな展開と登場人物の元気の良さが気持ちよい。
「スピリット・リング」もそうたが、ビジョルドのファンタジーの中に少女漫画的な部分を感じる。
性別は逆転しているものの、コンプレックスを抱いているがために恋愛に積極的になれない主人公という設定は少女漫画の中ではありふれたものだろう。
三十代半ばのカザリルでは「晩熟」と表現することはできないけれども。
ところで、奴隷船に売られた後は仕方ないとして、それ以前にもカザリルに女の影がないのは極めて怪しいので、ベトリスには国主となったイセーレの力も借りるなどして根堀り葉堀り問いただして欲しいところだ。
1年以上にも渡って死と隣り合わせの日々を送った挙句、カザリルはチャリオンと親交のあるイブラ国の艦隊に救われるのだが、心身ともに傷付いた彼には帰るところもなく、小姓時代に仕えていたバオシア藩の太后の元に身を寄せる。
バオシア藩太后の宮廷には彼女の孫であるテイデス国子とイセーレ国姫が滞在しており、皿洗いでもさせてもらえればと伺候したつもりのカザリルは、地理や語学などの学識と豊かな経験を買われてイセーレの教育係家令に任じられる。
しかし平穏な日々は長くは続かず、国主オリコは国妃との間に子供をもうけることを諦めたらしく、義理の弟で第一継承権を持つテイデスとその姉イセーレは共に首都カルテゴスの宮廷へ出仕を命じられた。
カルテゴスで権力を縦にしているジロナルこそは、かつてカザリルを奴隷の境遇に陥れた張本人であり、彼が生きていることを知れば再び手を打ってくるかも知れない。
カザリルは不安を抱えたままイセーレの家臣としてカルテゴスを訪れるのだが・・・
中世のイベリア半島におけるキリスト教勢力とイスラム教勢力の争いをモチーフにした異世界ファンタジー三部作の開幕。
かつては壮健であったと思われる主人公カザリルは、ガレー船の漕ぎ手としての心身ともにボロボロとなっており、次第に回復しつつはあるものの、特に精神面が脆くなってしまったようで、やたらに涙腺が緩むという体たらく。
未だ三十代半ばながら自分の残りの人生を余生のように思っているカザリルではあるが、主人イセーレ国姫の窮地に際して一命を賭すのは天晴れな家令根性だろう。
前半は殆ど宮廷陰謀劇としての展開に終始するのだが、イセーレが厭う相手との政略結婚を阻止するために命を賭けた呪術を用いたことから神と魔と霊を一つ身体の中に抱えることとなったカザリルを襲う深い苦悩が後半の見所になる。
「依代」を使ってではあるが神々が比較的簡単に顕現したり、ご都合主義的な複線など軽々しい面は異世界ファンタジーとしてはマイナスだと思うが、スピーディな展開と登場人物の元気の良さが気持ちよい。
「スピリット・リング」もそうたが、ビジョルドのファンタジーの中に少女漫画的な部分を感じる。
性別は逆転しているものの、コンプレックスを抱いているがために恋愛に積極的になれない主人公という設定は少女漫画の中ではありふれたものだろう。
三十代半ばのカザリルでは「晩熟」と表現することはできないけれども。
ところで、奴隷船に売られた後は仕方ないとして、それ以前にもカザリルに女の影がないのは極めて怪しいので、ベトリスには国主となったイセーレの力も借りるなどして根堀り葉堀り問いただして欲しいところだ。
2007年2月8日に日本でレビュー済み
ビジョルドの新刊だ!と衝動買いしたところ、「戦士志願」のマイルズが活躍する
SFシリーズとは全く関係ない、完全なファンタジーでした・・・。
しかし読み始めると、さすがのストーリーで一気に読んでしまいました。
剣と魔法や、美男美女が華麗に入り乱れるようなファンタジーではありませんが、
宮廷内の政治的駆け引きや腐敗、血族間の問題など、ヴォルコシガン・サーガでも
おなじみのテーマが語られていきます。
また、魔法使いは出てきませんが、人々の姫神・御子神・庶子神など神々への
信仰は厚く、病や不運も神の啓示として語られたり、聖者の奇跡や呪詛などに
満ち溢れた世界が舞台で、神々との係わりは物語の重要なキーとなっています。
主人公のカザリルは中年じみた35歳の元騎士で、物語の序盤では心身とも傷ついて
卑屈になりながらも、わずかな希望を頼って旅をしています。その後運命か神の導きか、
国主の妹姫の教育係となり、望まずして宮廷の陰謀に巻き込まれて行きます。
けして前向きでも健康でも、若くも美男でもない主人公ですが、日々の役目を
過ごしながら少しずつ、生きている価値や今までの人生の意味を見出していく姿には
共感させられます。
この<五神教シリーズ>は3部作で、これが第1作目ということですが、
1作目の上下巻で物語としてはすっきり完結しますので安心してお読みください。
(2作目はヒューゴー、ネビュラ、ローカスのトリプル受賞作ということなので
次回作も期待できそうです。)
SFシリーズとは全く関係ない、完全なファンタジーでした・・・。
しかし読み始めると、さすがのストーリーで一気に読んでしまいました。
剣と魔法や、美男美女が華麗に入り乱れるようなファンタジーではありませんが、
宮廷内の政治的駆け引きや腐敗、血族間の問題など、ヴォルコシガン・サーガでも
おなじみのテーマが語られていきます。
また、魔法使いは出てきませんが、人々の姫神・御子神・庶子神など神々への
信仰は厚く、病や不運も神の啓示として語られたり、聖者の奇跡や呪詛などに
満ち溢れた世界が舞台で、神々との係わりは物語の重要なキーとなっています。
主人公のカザリルは中年じみた35歳の元騎士で、物語の序盤では心身とも傷ついて
卑屈になりながらも、わずかな希望を頼って旅をしています。その後運命か神の導きか、
国主の妹姫の教育係となり、望まずして宮廷の陰謀に巻き込まれて行きます。
けして前向きでも健康でも、若くも美男でもない主人公ですが、日々の役目を
過ごしながら少しずつ、生きている価値や今までの人生の意味を見出していく姿には
共感させられます。
この<五神教シリーズ>は3部作で、これが第1作目ということですが、
1作目の上下巻で物語としてはすっきり完結しますので安心してお読みください。
(2作目はヒューゴー、ネビュラ、ローカスのトリプル受賞作ということなので
次回作も期待できそうです。)
2011年6月2日に日本でレビュー済み
主人公は35歳のカザリルという男である(ただし下巻235頁では36である)。本書の表紙で馬に乗っている男だ。本の表紙の絵が、まんが風やイラスト風が多い中で、洋書の表紙のように油絵(アクリル?)で精緻に描かれているのが、目に入り気に入った。
14頁「肌寒い風を避けて風車小屋の薄闇の中に逃げ込み、〜。瓦礫の散らばる床に誰かが手足を投げだして横たわっているのが見えた。〜。死体はぴくりとも動かない。」 16頁「この愚か者はどうやら死の魔術を試み、死の魔術に不可避の代価を支払ったらしい。」 土地所有とおぼしき農夫にカザリルは話しかける。18頁「『街道を離れてあそこの風車小屋に寄らせてもらったのだが』〜『死体があった』」 20頁「『〜わたしがあの服をもらっていってもかまわぬだろうか』〜。そして農夫とふたりして、積みあげた薪の上に死体を安置した。」
ヴァレンダの町に着くとまず洗濯屋と風呂屋を教えてもらう。風呂にはいり洗濯屋に戻ると、27頁「『お客さんの本だ。ポケットを調べてよかった。さもなきゃ今頃ぐちゃぐちゃになっちまってるところだ、ほんとに』〜。風車小屋でいそいで衣類をまとめたときには気がつかなかった。」 28頁「表紙をひらいてみると、ぎっしりと手書きの文字がならび、〜、すべて暗号文字だ。〜。しかしながら、これは間違いなくあの魔法に関する記録だ。」
37頁「『〜わたしはルーペ・ディ・カザリルという。藩太后にお目通り願いたい〜』」 39頁「藩妃(藩太后)は〜。『〜、カザリル、よくこの城(ヴァレンダ)をたずねておくれだった』」 43頁「『〜。そう、三年前、わたし(カザリル)はジロナル郡候より、ゴトルゲト砦の城代に任命されました。その後、残念ながら戦局は逆転し〜。〜。〜、敵軍に砦を明けわたしました』」 44頁「『〜。〜わたし(カザリル)は身代金が支払われなかった者たちとともに〜連れていかれ、ガレー船の奴隷としてロクナルの海賊に売られました』」 しかし、好運にもカザリルが漕ぎ手をしていた船が国の艦隊と遭遇した結果救出されて、三週間歩いてこの城に辿り着いたのだった。47頁「『こちらの城においてはいただけませんでしょうか。何かわたし(カザリル)にできる仕事がありましたら。〜』」 カザリルは藩太后の正餐に招かれ席が用意される。まもなく城代のフェレジが駆け込んできて話を始め、52頁「『〜。昨夜、誰が死んだと思いますか』〜『決闘屋として名高いナオザ郷司です』」 53頁「『〜、ナオザは〜毛織物商人のひとり息子と通りで衝突し〜。〜決闘だったと主張しましたが、〜殺人だった〜。しかしながら若者の父親(商人)が法に訴えようとしたとき、証言してくれる者は〜見つかりません〜司法官の〜疑わしいということです』」 54頁「『〜。そこで商人は〜。〜黒魔術を学び〜風車小屋におもむいて、魔を呼びだ(し)〜商人は成功したのですよ!彼(商人)の遺体もまた、〜見つかったということです』」 56頁「『〜。もし、それが事実ならば、なぜそのような男が司法官でいられるのかしら。〜』 正餐の会話の中で、「守銭奴の毛織物商人と剣士と、どちらが国にとって損失が大きい?」という台詞に対して「優れた軍人は敵を殺し、腕のいい決闘屋は見方を殺す」という台詞を作者は当てている。だが意味がよく分からなかった。後で「決闘は敵国の者と行われるのでなくてもっぱら仲間内で行われるゆえに損失である」ということかと合点した。作者はどうも頭の良い人らしい。
姫神の日の祭典でチャリオン国姫イセーレ16歳は、姫神の役割を演じることになっている。神殿維持のための寄進を受け取る役をすることになる。76頁「『〜姫神へ寄進奉る。〜』」 司法官の番になると、イセーレは、76頁「『春の姫神は誠実なる心より寄進を受ける。賄賂は受けとらぬ。〜そのままとりおくがよい』」と応えてしまう。藩妃から、イセーレ国姫の教育係兼家令を命じられたカザリルは、94頁「『〜あの男(司法官)の有罪を確かめるために、国姫はどのような手順を踏まれたのでしょうか』」とイセーレを諌める。しかしイセーレは、97頁「『ではわたしの家令として〜仕事は、観察と報告ということになります。わたしは自分が間違いを犯したのかどうか知りたい〜』」と応ずる。99頁「(カザリルは)〜死んだ毛織物商人の手帳のことを思い出した。〜。もしかするとこの(手帳に書かれた)暗号の中に、〜、司法官の有罪無罪に関する明らかな証拠がひそんでいるかもしれない。」と思う。
第五章113頁「『カズ!』どこからともなく懐かしい声が耳を襲った。〜。カザリルはささやいた。『パリ(アル郷司)ではないか!』」 114頁「『〜おまえ(カザリル)が死んだものと思っていたのだ。おい、カズ、いったいどこにいたのだ』『おれ(カザリル)の−身代金が支払われなかったのだ』〜『〜おれ(カザリル)の名が名簿から抜け落ちていた』」 123頁「<名簿はマルトウ・ディ・ジロナルの自筆だった>」 126頁「『〜はじめて(マルトウの弟の)ドンド・ディ・ジロナルにあったのは、〜もう五年になるか』」 127頁「『おれ(カザリル)とドンドを立たせ、どちらでもいい、もうひとりの首を掻き切った者が〜自軍にもどれるのだと選択にせまった。〜』〜。『最初の選択権はおれに与えられた。おれは剣を拒否した。〜』〜。そしてドンドにむきなおり、選択権を与えた。128頁「『〜。ドンドが−剣をふりおろした』〜。『ふたりの衛兵がドンドを組み伏せて剣をとりあげた。〜』〜ドンドがおれにむきなおった。『もしこのことを口外したら殺してやる』」とドンドは言った。 129頁「『ジロナル兄弟の前で、けっしておれ(カザリル)の名を口にしてはならない。けっしてだ。おまえ(パリアル郷司)はこんな話など聞かなかった。おまえはおれのことなど知らぬのだ。頼むパリ(アル郷司)、俺の友だちというならば、この件には触れないでくれ』」
カザリルは、イセーレの母のイスタから話し掛けられる。136頁「『お待ちなさい−カザリル〜娘(のイセーレ)の学習は進んでいますか』」 142頁「(イスタと国主アイアスの)結婚より五年、(国主アイアスの重臣)ルテスはとつぜんにして国主(アイアス)の寵愛とすべての栄誉を失った。反逆の罪で告発されカルデゴスの偉大なる王城ザングレの地下牢で、拷問の末に獄死したのである。〜裏切りとは若きイスタ国妃への恋慕であるとささやかれた。〜。その後アイアスが〜、ルテスの死より一年とたたないうちに世を去ると、イスタは子供たち(姉イセーレと弟テイデス)を連れてザングレを逃げ出し(ヴァレンダに来)た。」 156頁「「(カザリルの)授業は〜開始され、まもなく娘たちが力を抜いて水に浮くことを学びはじめる〜。〜。夏も終わりに近づいたころ、ふたり(イセーレとお付きのべトリス)は川獺のように、〜もぐったりするようになっていたのだ。」 157頁「ベトリスに対するカザリルの思いは困ったことに日々増殖していった。」 突然報せが舞い込んだ。160頁「『兄上(国主オリコ)からの急使がやってきた。姉上(イセーレ)とわたし(テイデス14歳)に、この秋カルデゴスの宮廷に出仕するようにとの命がくだった!〜』『ザングレ(城)に行くのですって?』」
第七章164頁「子供たちを自分(イスタ)から引き離す命がくだったとの知らせは、国太后(イスタ)を狂気そのものとまではいかずとも、深い錯乱と絶望に突き落とした。」 163頁「おのが血をひく世継ぎを(国主)オリコが(病弱が故に)ついに断念したのであるならば、少年(テイデス)が宮廷に呼びもどされた目的は、後継者としての教育以外あり得まい。」 167頁「ようやく(カザリル一行は)ザングレの大城門にたどりついた。」 174頁「国主(オリコ)がふり返ったので、カザリルは片膝をついた。〜。『テイデス国子とイセーレ国姫は無事に到着にございます』」 184頁「国子(テイデス)と国姫(イセーレ)は主テーブルに導かれてオリコと国妃(サラ)の両脇にすわり、さらにその両脇にジロナル兄弟が陣どった。〜。カザリルは〜主君からそれほど遠くない上座を与えられた。」 188頁「『カザリル荘候、まさしく貴公ではないか。貴公は死んだものと思っていたよ』『いえ、無事に逃げてまいりました』〜。(宰相のマルトゥ・ディ・)シロナルは厳しくうなずき、明らかに安堵した顔で、微笑したまま歩み去った。」
213頁「『よお、(カザリル)荘候殿、ずいぶん元気におなりのようだな!』『パリ(アル)ではないか!』 215頁「『ヤリン殿は以前から、老騎士団長が病を得て死の床についておられるあいだに、このカルデゴスで騎士団監査官が〜自分の懐におさめているのではないかと疑っておられるのだ』〜。『〜、ヤリン殿は明朝、騎士団評議会にこの件のすべて提出なさる。監査官は〜法廷に送られるだろう。〜』」 ところが、暫くすると、220頁「『古き友(カザリル)よ、すぐ失礼する。おれ(バリアル)とヤリン殿とわが隊は、〜退去するよう命じられた。〜』〜。『〜ヤリン殿の訴えを却下したのだ!すべての証拠を押収し、〜証言を聞くこともなくだぞ!』」 221頁「『〜やつらは監査官を無罪とし、〜ヤリン殿の書状にも〜ほとんど目を通そうとしなかった。〜』〜。『おそらく−いや、おれ(バリアル)は心の中で確信しているぞ−ドンド(・ディ・ジロナル)は賄賂を受け取ってあのような裁定をくだしたのだ〜、』」
246頁「『国主(オリコ)がアイアスの塔でカザリル壮候をお待ちです』〜。〜大テーブルのむこうに、国主が宰相(マルトウ・ディ・ジロナル)とともに腰かけていた。〜『カザリル壮候がまいりました』」 248頁「『壮候、噂なのだが〜そなたがイブラで暴行を犯し、晒し台で鞭打たれたのだと−告発するものがいるのだ』『それは偽りでございます。〜』」 250頁「『ロクナルの(ガレー船の奴隷の)漕ぎ手頭より(鞭打を)与えられたものです。〜』」 251頁「『〜(ある日ガレー船の)隣の漕ぎ座に新人がはいったのです。おそらく十五くらいのイブラの少年で、〜。〜ダンニと名のっていましたが、〜。ダンニは彼(漕ぎ手頭)に殴り〜。もし〜漕ぎ手頭に殴りかかれば、ダンニに対する(注意をそらせ)報復をそらせ(助けられ)るのではないかと』」 253頁「『〜そもそもこの話はどこから出てきたのです。〜。誰がわたし(カザリル)を告発したのでしょう−マロック殿、貴殿なのか』」 258頁「オリコ(国主)は頭痛がするかのようにこめかみをこすり、〜、それから小さくうめいた。『困ったことだ。〜』〜、『〜解決策ならあるではないか−公明で公平で公正な解決策が、〜』国主は〜小姓を手招きし、耳もとに何かささやいた。〜。小姓は慌しく駆け去った。」 259頁「いらだたしく長い沈黙が訪れた。もどってきた小姓の告げる声で、〜。『ウメガトがまいりました』〜。『ご用でございましょうか』『ウメガト。外に出て、いちばんはじめに目にした聖なる鴉をつかまえ、ここに連れてきてほしい。〜』〜。オリコがふたたび口をひらいた。『〜。ふむ−カザリル、部屋の端に立つがよい。マロック、おまえは反対側だ』」 261頁「『では、ウメガト、正確に部屋の中心に立ち、わたしの合図で聖なる鴉を放すがよい。鴉がどちらに飛んでいくかで、われらにも真実がわかる!〜』」 262頁「〜、ウメガトが鴉を宙に投げあげ、両腕をおろした。〜。カザリルは〜、〜まっすぐ彼の肩に飛んでくる鴉を、〜見つめた。〜。オリコ(国主)が〜手を打ちあわせた。『よろしい。これで結論は出たようだな。〜』」
279頁「オリコ(国主)が妹(イセーレ)のほうに身をのりだして小声で(イセーレに)告げた。『明日正午、玉座の間でおこなわれる(マルトウ・ディ・)ジロナル候(宰相)の叙任式に、身内のものたちを連れて出席しなさい。式のあとで、全宮廷にめでたい知らせがある。祝い事にもっともふさわしいドレスを選ぶのだぞ。〜』」 285頁「オリコ(国主)は〜宰相(ジロナル候)をひざまずかせた。そしてかねてよりの宣言どおり、証書と剣を与え、誓約を受けた。」 286頁「オリコ(国主)が咳ばらいをした。『〜、ああ、みなに望まれてあるものを発表しよう。イセーレ、立ちなさい−』〜。だが国主の顔には、喜びよりもむしろ不安が浮かんでいる。『彼(宰相)は〜弟(ドンド)のために、わが妹イセーレの手を乞うたのだ。わたしはここに祝福をもって、ふたりの婚約を許す』」 290頁「『ですがお兄さま、わたしはドンド・ディ・ジロナル殿と結婚したくはありません!』」 291頁「『三日だ。心を決めて、(婚礼)衣装を準備しておくがよい。この話はもう聞かぬ』〜。国主は本気だった。その午後、国姫(イセーレ)は四度、オリコの居室にさらなる嘆願をおもむいたが、彼は〜妹を拒んだのだ。」 295頁「追いつめられ絶望にかられたイセーレは、食を絶って祈祷をはじめた。」 299頁「<そうだ>〜。カザリルは熱に浮かされたように手帳をとりだし、〜。三分の一ほどがまだ未解読のままだ。」 304頁「『ためしてみようと思っていることがあります。〜。ただ(ベトリスに)お知らせしておきたかったのです。〜』」 305頁「そしてカザリルは彼女(ベトリス)の顔を見おろした。〜。彼(カザリル)は不器用に身をかがめ、そっと接吻した。」308頁「(ファンサの塔でカザリルは)〜袋から鼠をとりだし、その咽喉に刃をあててささやいた。『わたしの祈りとともにあるじのもとへ走れ』〜。それから鴉に〜腕をのばした。〜。『〜。わたしの祈りとともにあるじのもとへ飛べ』そしてすばやく鴉の首をひねった。〜。『庶子神よ、〜。わが祈りを聞き届けたまえ』〜。気がつくと彼は鴉と鼠の死骸の上につっぷしていた。腹がおそろしく痛みはじめた。」 カザリルは成功すれば相手は死ぬが、代価としても自ら命を落とすという死の魔術を試みたのだった。
310頁「〜記憶がどっと蘇った。<おれ(カザリル)は生きている><ということは失敗したのか>〜。呼吸をしている。そしておそらくドンド・ディ・ジロナルもまだ(生きている)〜?」 314頁「早起きの召使いに会うこともなく〜、よろよろと部屋にもどって扉を閉めた。〜。それから〜寝台に近づき、倒れこんで、〜。」 316頁「『婚礼は中止だ。昨夜真夜中にドンド・ディ・ジロナルが殺された−死の魔術によってな』」 318頁「ジロナル(宰相)が歯ぎしりをした。『誰であろうと、どこであろうと。わたしは(魔術を使って弟を殺した)汚らしい卑怯者の死体を見つけてみせる。チャリオンじゅうをさがさねばならぬとしてもな』」 319頁「『カザリル、いったい何があったの?』〜、イセーレが不思議そうにたずねた。『昨夜、ドンド・ディ・ジロナル殿が殺害されました(ようです)。死の魔術によって』」 321頁「『〜気の毒な魂に祝福を』そしてイセーレは、ひたいとくちびると臍と下腹部に触れ、指をひらいて心臓に触れる正式の印を結んだ。」 色香が漂う記述ではある。329頁「カルデゴスの神殿でおこなわれるドンド・ディ・ジロナルの葬儀には、〜多くの会葬者が押しかけることになった。」
338頁「柱にもたれ〜ウメガトが〜近づいてきて頭をさげた。『カザリルさま、少々お時間をいただけましょうか』」 343頁「『〜カザリルさまは、わたくし(ウメガト)を導き守るために、神々から遣わされた方ではないかと考えておりました〜』」 345頁「『〜きみはなにものなのだ?』ウメガトは〜目尻にしわを寄せて笑い、カザリルを当惑させた。『わたくし(ウメガト)は聖者です』〜。『聖者か。庶子神の』 ウメガトがうなずく。」 356頁「ウメガトは〜目を細くして彼を見つめた。〜。『お身体に触れてもよろしいでしょうか』『かまわないが−』」 358頁「『〜。ドンドさまの霊は〜。〜死の使い魔とともにあり、〜生命ある肉体にとどめられているのです』 ウメガトが指をあげて、まっすぐカザリルを示した。〜(カザリルの)痛みふくれあがる腹を見おろし(た)、〜。」
第十四章が本書の最終章です。381頁「イセーレは長い吐息をついた。『〜何日もずっと考えたわ。独り身でいる限り、わたしはつねに(こんどのように)陰謀の渦中に立たされることになるでしょう。〜。それを防ぐ唯一の方法は、〜、すぐにも結婚することだわ。〜』」 385頁「カザリルがふいに口をはさんだ。『昨日イブラよりもたらされた報を、〜。イブラの国太子は亡くなられました。〜。お若いベルゴン国子がその跡を継がれることは間違いないでしょう。〜』〜。『ほんとうなの−それで、ベルゴン国子はおいくつだったのかしら。〜』『いまはもう十六になられたかと』」 386頁「『しかしながら、兄君オリコ国主はこの七年間、イブラ国主となかば戦争状態にありました。〜』〜。『でも戦を終わらせるのに、結婚による協定以上よい方法はないでしょう?』」 最終の388頁「『〜お兄さまに、国主に、いますぐお願いにあがるわ』」 以上の本書上巻をざっと数えたところ、少なくとも四十一名に及ぶ人名が掲げられていた。
14頁「肌寒い風を避けて風車小屋の薄闇の中に逃げ込み、〜。瓦礫の散らばる床に誰かが手足を投げだして横たわっているのが見えた。〜。死体はぴくりとも動かない。」 16頁「この愚か者はどうやら死の魔術を試み、死の魔術に不可避の代価を支払ったらしい。」 土地所有とおぼしき農夫にカザリルは話しかける。18頁「『街道を離れてあそこの風車小屋に寄らせてもらったのだが』〜『死体があった』」 20頁「『〜わたしがあの服をもらっていってもかまわぬだろうか』〜。そして農夫とふたりして、積みあげた薪の上に死体を安置した。」
ヴァレンダの町に着くとまず洗濯屋と風呂屋を教えてもらう。風呂にはいり洗濯屋に戻ると、27頁「『お客さんの本だ。ポケットを調べてよかった。さもなきゃ今頃ぐちゃぐちゃになっちまってるところだ、ほんとに』〜。風車小屋でいそいで衣類をまとめたときには気がつかなかった。」 28頁「表紙をひらいてみると、ぎっしりと手書きの文字がならび、〜、すべて暗号文字だ。〜。しかしながら、これは間違いなくあの魔法に関する記録だ。」
37頁「『〜わたしはルーペ・ディ・カザリルという。藩太后にお目通り願いたい〜』」 39頁「藩妃(藩太后)は〜。『〜、カザリル、よくこの城(ヴァレンダ)をたずねておくれだった』」 43頁「『〜。そう、三年前、わたし(カザリル)はジロナル郡候より、ゴトルゲト砦の城代に任命されました。その後、残念ながら戦局は逆転し〜。〜。〜、敵軍に砦を明けわたしました』」 44頁「『〜。〜わたし(カザリル)は身代金が支払われなかった者たちとともに〜連れていかれ、ガレー船の奴隷としてロクナルの海賊に売られました』」 しかし、好運にもカザリルが漕ぎ手をしていた船が国の艦隊と遭遇した結果救出されて、三週間歩いてこの城に辿り着いたのだった。47頁「『こちらの城においてはいただけませんでしょうか。何かわたし(カザリル)にできる仕事がありましたら。〜』」 カザリルは藩太后の正餐に招かれ席が用意される。まもなく城代のフェレジが駆け込んできて話を始め、52頁「『〜。昨夜、誰が死んだと思いますか』〜『決闘屋として名高いナオザ郷司です』」 53頁「『〜、ナオザは〜毛織物商人のひとり息子と通りで衝突し〜。〜決闘だったと主張しましたが、〜殺人だった〜。しかしながら若者の父親(商人)が法に訴えようとしたとき、証言してくれる者は〜見つかりません〜司法官の〜疑わしいということです』」 54頁「『〜。そこで商人は〜。〜黒魔術を学び〜風車小屋におもむいて、魔を呼びだ(し)〜商人は成功したのですよ!彼(商人)の遺体もまた、〜見つかったということです』」 56頁「『〜。もし、それが事実ならば、なぜそのような男が司法官でいられるのかしら。〜』 正餐の会話の中で、「守銭奴の毛織物商人と剣士と、どちらが国にとって損失が大きい?」という台詞に対して「優れた軍人は敵を殺し、腕のいい決闘屋は見方を殺す」という台詞を作者は当てている。だが意味がよく分からなかった。後で「決闘は敵国の者と行われるのでなくてもっぱら仲間内で行われるゆえに損失である」ということかと合点した。作者はどうも頭の良い人らしい。
姫神の日の祭典でチャリオン国姫イセーレ16歳は、姫神の役割を演じることになっている。神殿維持のための寄進を受け取る役をすることになる。76頁「『〜姫神へ寄進奉る。〜』」 司法官の番になると、イセーレは、76頁「『春の姫神は誠実なる心より寄進を受ける。賄賂は受けとらぬ。〜そのままとりおくがよい』」と応えてしまう。藩妃から、イセーレ国姫の教育係兼家令を命じられたカザリルは、94頁「『〜あの男(司法官)の有罪を確かめるために、国姫はどのような手順を踏まれたのでしょうか』」とイセーレを諌める。しかしイセーレは、97頁「『ではわたしの家令として〜仕事は、観察と報告ということになります。わたしは自分が間違いを犯したのかどうか知りたい〜』」と応ずる。99頁「(カザリルは)〜死んだ毛織物商人の手帳のことを思い出した。〜。もしかするとこの(手帳に書かれた)暗号の中に、〜、司法官の有罪無罪に関する明らかな証拠がひそんでいるかもしれない。」と思う。
第五章113頁「『カズ!』どこからともなく懐かしい声が耳を襲った。〜。カザリルはささやいた。『パリ(アル郷司)ではないか!』」 114頁「『〜おまえ(カザリル)が死んだものと思っていたのだ。おい、カズ、いったいどこにいたのだ』『おれ(カザリル)の−身代金が支払われなかったのだ』〜『〜おれ(カザリル)の名が名簿から抜け落ちていた』」 123頁「<名簿はマルトウ・ディ・ジロナルの自筆だった>」 126頁「『〜はじめて(マルトウの弟の)ドンド・ディ・ジロナルにあったのは、〜もう五年になるか』」 127頁「『おれ(カザリル)とドンドを立たせ、どちらでもいい、もうひとりの首を掻き切った者が〜自軍にもどれるのだと選択にせまった。〜』〜。『最初の選択権はおれに与えられた。おれは剣を拒否した。〜』〜。そしてドンドにむきなおり、選択権を与えた。128頁「『〜。ドンドが−剣をふりおろした』〜。『ふたりの衛兵がドンドを組み伏せて剣をとりあげた。〜』〜ドンドがおれにむきなおった。『もしこのことを口外したら殺してやる』」とドンドは言った。 129頁「『ジロナル兄弟の前で、けっしておれ(カザリル)の名を口にしてはならない。けっしてだ。おまえ(パリアル郷司)はこんな話など聞かなかった。おまえはおれのことなど知らぬのだ。頼むパリ(アル郷司)、俺の友だちというならば、この件には触れないでくれ』」
カザリルは、イセーレの母のイスタから話し掛けられる。136頁「『お待ちなさい−カザリル〜娘(のイセーレ)の学習は進んでいますか』」 142頁「(イスタと国主アイアスの)結婚より五年、(国主アイアスの重臣)ルテスはとつぜんにして国主(アイアス)の寵愛とすべての栄誉を失った。反逆の罪で告発されカルデゴスの偉大なる王城ザングレの地下牢で、拷問の末に獄死したのである。〜裏切りとは若きイスタ国妃への恋慕であるとささやかれた。〜。その後アイアスが〜、ルテスの死より一年とたたないうちに世を去ると、イスタは子供たち(姉イセーレと弟テイデス)を連れてザングレを逃げ出し(ヴァレンダに来)た。」 156頁「「(カザリルの)授業は〜開始され、まもなく娘たちが力を抜いて水に浮くことを学びはじめる〜。〜。夏も終わりに近づいたころ、ふたり(イセーレとお付きのべトリス)は川獺のように、〜もぐったりするようになっていたのだ。」 157頁「ベトリスに対するカザリルの思いは困ったことに日々増殖していった。」 突然報せが舞い込んだ。160頁「『兄上(国主オリコ)からの急使がやってきた。姉上(イセーレ)とわたし(テイデス14歳)に、この秋カルデゴスの宮廷に出仕するようにとの命がくだった!〜』『ザングレ(城)に行くのですって?』」
第七章164頁「子供たちを自分(イスタ)から引き離す命がくだったとの知らせは、国太后(イスタ)を狂気そのものとまではいかずとも、深い錯乱と絶望に突き落とした。」 163頁「おのが血をひく世継ぎを(国主)オリコが(病弱が故に)ついに断念したのであるならば、少年(テイデス)が宮廷に呼びもどされた目的は、後継者としての教育以外あり得まい。」 167頁「ようやく(カザリル一行は)ザングレの大城門にたどりついた。」 174頁「国主(オリコ)がふり返ったので、カザリルは片膝をついた。〜。『テイデス国子とイセーレ国姫は無事に到着にございます』」 184頁「国子(テイデス)と国姫(イセーレ)は主テーブルに導かれてオリコと国妃(サラ)の両脇にすわり、さらにその両脇にジロナル兄弟が陣どった。〜。カザリルは〜主君からそれほど遠くない上座を与えられた。」 188頁「『カザリル荘候、まさしく貴公ではないか。貴公は死んだものと思っていたよ』『いえ、無事に逃げてまいりました』〜。(宰相のマルトゥ・ディ・)シロナルは厳しくうなずき、明らかに安堵した顔で、微笑したまま歩み去った。」
213頁「『よお、(カザリル)荘候殿、ずいぶん元気におなりのようだな!』『パリ(アル)ではないか!』 215頁「『ヤリン殿は以前から、老騎士団長が病を得て死の床についておられるあいだに、このカルデゴスで騎士団監査官が〜自分の懐におさめているのではないかと疑っておられるのだ』〜。『〜、ヤリン殿は明朝、騎士団評議会にこの件のすべて提出なさる。監査官は〜法廷に送られるだろう。〜』」 ところが、暫くすると、220頁「『古き友(カザリル)よ、すぐ失礼する。おれ(バリアル)とヤリン殿とわが隊は、〜退去するよう命じられた。〜』〜。『〜ヤリン殿の訴えを却下したのだ!すべての証拠を押収し、〜証言を聞くこともなくだぞ!』」 221頁「『〜やつらは監査官を無罪とし、〜ヤリン殿の書状にも〜ほとんど目を通そうとしなかった。〜』〜。『おそらく−いや、おれ(バリアル)は心の中で確信しているぞ−ドンド(・ディ・ジロナル)は賄賂を受け取ってあのような裁定をくだしたのだ〜、』」
246頁「『国主(オリコ)がアイアスの塔でカザリル壮候をお待ちです』〜。〜大テーブルのむこうに、国主が宰相(マルトウ・ディ・ジロナル)とともに腰かけていた。〜『カザリル壮候がまいりました』」 248頁「『壮候、噂なのだが〜そなたがイブラで暴行を犯し、晒し台で鞭打たれたのだと−告発するものがいるのだ』『それは偽りでございます。〜』」 250頁「『ロクナルの(ガレー船の奴隷の)漕ぎ手頭より(鞭打を)与えられたものです。〜』」 251頁「『〜(ある日ガレー船の)隣の漕ぎ座に新人がはいったのです。おそらく十五くらいのイブラの少年で、〜。〜ダンニと名のっていましたが、〜。ダンニは彼(漕ぎ手頭)に殴り〜。もし〜漕ぎ手頭に殴りかかれば、ダンニに対する(注意をそらせ)報復をそらせ(助けられ)るのではないかと』」 253頁「『〜そもそもこの話はどこから出てきたのです。〜。誰がわたし(カザリル)を告発したのでしょう−マロック殿、貴殿なのか』」 258頁「オリコ(国主)は頭痛がするかのようにこめかみをこすり、〜、それから小さくうめいた。『困ったことだ。〜』〜、『〜解決策ならあるではないか−公明で公平で公正な解決策が、〜』国主は〜小姓を手招きし、耳もとに何かささやいた。〜。小姓は慌しく駆け去った。」 259頁「いらだたしく長い沈黙が訪れた。もどってきた小姓の告げる声で、〜。『ウメガトがまいりました』〜。『ご用でございましょうか』『ウメガト。外に出て、いちばんはじめに目にした聖なる鴉をつかまえ、ここに連れてきてほしい。〜』〜。オリコがふたたび口をひらいた。『〜。ふむ−カザリル、部屋の端に立つがよい。マロック、おまえは反対側だ』」 261頁「『では、ウメガト、正確に部屋の中心に立ち、わたしの合図で聖なる鴉を放すがよい。鴉がどちらに飛んでいくかで、われらにも真実がわかる!〜』」 262頁「〜、ウメガトが鴉を宙に投げあげ、両腕をおろした。〜。カザリルは〜、〜まっすぐ彼の肩に飛んでくる鴉を、〜見つめた。〜。オリコ(国主)が〜手を打ちあわせた。『よろしい。これで結論は出たようだな。〜』」
279頁「オリコ(国主)が妹(イセーレ)のほうに身をのりだして小声で(イセーレに)告げた。『明日正午、玉座の間でおこなわれる(マルトウ・ディ・)ジロナル候(宰相)の叙任式に、身内のものたちを連れて出席しなさい。式のあとで、全宮廷にめでたい知らせがある。祝い事にもっともふさわしいドレスを選ぶのだぞ。〜』」 285頁「オリコ(国主)は〜宰相(ジロナル候)をひざまずかせた。そしてかねてよりの宣言どおり、証書と剣を与え、誓約を受けた。」 286頁「オリコ(国主)が咳ばらいをした。『〜、ああ、みなに望まれてあるものを発表しよう。イセーレ、立ちなさい−』〜。だが国主の顔には、喜びよりもむしろ不安が浮かんでいる。『彼(宰相)は〜弟(ドンド)のために、わが妹イセーレの手を乞うたのだ。わたしはここに祝福をもって、ふたりの婚約を許す』」 290頁「『ですがお兄さま、わたしはドンド・ディ・ジロナル殿と結婚したくはありません!』」 291頁「『三日だ。心を決めて、(婚礼)衣装を準備しておくがよい。この話はもう聞かぬ』〜。国主は本気だった。その午後、国姫(イセーレ)は四度、オリコの居室にさらなる嘆願をおもむいたが、彼は〜妹を拒んだのだ。」 295頁「追いつめられ絶望にかられたイセーレは、食を絶って祈祷をはじめた。」 299頁「<そうだ>〜。カザリルは熱に浮かされたように手帳をとりだし、〜。三分の一ほどがまだ未解読のままだ。」 304頁「『ためしてみようと思っていることがあります。〜。ただ(ベトリスに)お知らせしておきたかったのです。〜』」 305頁「そしてカザリルは彼女(ベトリス)の顔を見おろした。〜。彼(カザリル)は不器用に身をかがめ、そっと接吻した。」308頁「(ファンサの塔でカザリルは)〜袋から鼠をとりだし、その咽喉に刃をあててささやいた。『わたしの祈りとともにあるじのもとへ走れ』〜。それから鴉に〜腕をのばした。〜。『〜。わたしの祈りとともにあるじのもとへ飛べ』そしてすばやく鴉の首をひねった。〜。『庶子神よ、〜。わが祈りを聞き届けたまえ』〜。気がつくと彼は鴉と鼠の死骸の上につっぷしていた。腹がおそろしく痛みはじめた。」 カザリルは成功すれば相手は死ぬが、代価としても自ら命を落とすという死の魔術を試みたのだった。
310頁「〜記憶がどっと蘇った。<おれ(カザリル)は生きている><ということは失敗したのか>〜。呼吸をしている。そしておそらくドンド・ディ・ジロナルもまだ(生きている)〜?」 314頁「早起きの召使いに会うこともなく〜、よろよろと部屋にもどって扉を閉めた。〜。それから〜寝台に近づき、倒れこんで、〜。」 316頁「『婚礼は中止だ。昨夜真夜中にドンド・ディ・ジロナルが殺された−死の魔術によってな』」 318頁「ジロナル(宰相)が歯ぎしりをした。『誰であろうと、どこであろうと。わたしは(魔術を使って弟を殺した)汚らしい卑怯者の死体を見つけてみせる。チャリオンじゅうをさがさねばならぬとしてもな』」 319頁「『カザリル、いったい何があったの?』〜、イセーレが不思議そうにたずねた。『昨夜、ドンド・ディ・ジロナル殿が殺害されました(ようです)。死の魔術によって』」 321頁「『〜気の毒な魂に祝福を』そしてイセーレは、ひたいとくちびると臍と下腹部に触れ、指をひらいて心臓に触れる正式の印を結んだ。」 色香が漂う記述ではある。329頁「カルデゴスの神殿でおこなわれるドンド・ディ・ジロナルの葬儀には、〜多くの会葬者が押しかけることになった。」
338頁「柱にもたれ〜ウメガトが〜近づいてきて頭をさげた。『カザリルさま、少々お時間をいただけましょうか』」 343頁「『〜カザリルさまは、わたくし(ウメガト)を導き守るために、神々から遣わされた方ではないかと考えておりました〜』」 345頁「『〜きみはなにものなのだ?』ウメガトは〜目尻にしわを寄せて笑い、カザリルを当惑させた。『わたくし(ウメガト)は聖者です』〜。『聖者か。庶子神の』 ウメガトがうなずく。」 356頁「ウメガトは〜目を細くして彼を見つめた。〜。『お身体に触れてもよろしいでしょうか』『かまわないが−』」 358頁「『〜。ドンドさまの霊は〜。〜死の使い魔とともにあり、〜生命ある肉体にとどめられているのです』 ウメガトが指をあげて、まっすぐカザリルを示した。〜(カザリルの)痛みふくれあがる腹を見おろし(た)、〜。」
第十四章が本書の最終章です。381頁「イセーレは長い吐息をついた。『〜何日もずっと考えたわ。独り身でいる限り、わたしはつねに(こんどのように)陰謀の渦中に立たされることになるでしょう。〜。それを防ぐ唯一の方法は、〜、すぐにも結婚することだわ。〜』」 385頁「カザリルがふいに口をはさんだ。『昨日イブラよりもたらされた報を、〜。イブラの国太子は亡くなられました。〜。お若いベルゴン国子がその跡を継がれることは間違いないでしょう。〜』〜。『ほんとうなの−それで、ベルゴン国子はおいくつだったのかしら。〜』『いまはもう十六になられたかと』」 386頁「『しかしながら、兄君オリコ国主はこの七年間、イブラ国主となかば戦争状態にありました。〜』〜。『でも戦を終わらせるのに、結婚による協定以上よい方法はないでしょう?』」 最終の388頁「『〜お兄さまに、国主に、いますぐお願いにあがるわ』」 以上の本書上巻をざっと数えたところ、少なくとも四十一名に及ぶ人名が掲げられていた。
2008年5月5日に日本でレビュー済み
派手な戦闘がある訳でもないし、主人公に華がある訳でもないのですが、緊迫した展開が続く素晴らしいファンタジー小説です。
痛々しいまでに自分を犠牲にして人を救おうとする主人公が、もう一歩も引けない状況で放つ起死回生の逆転打。
その瞬間、溜まりに溜まった鬱憤が一気に解放され、それは大きなカタルシスを味わうことが出来ます!
痛々しいまでに自分を犠牲にして人を救おうとする主人公が、もう一歩も引けない状況で放つ起死回生の逆転打。
その瞬間、溜まりに溜まった鬱憤が一気に解放され、それは大きなカタルシスを味わうことが出来ます!
2008年4月3日に日本でレビュー済み
久々の長打でした。西欧の某国史を下敷きによく整理された世界。
とくに宗教(五神教、四神教)の扱いが秀逸でした。神々も必要以上に出しゃばりもせず、擬人化もしておらず、良い感じ。
キャラも主人公を筆頭に女性陣は皆すばらしい、悪役はもうちょい頑張れ!
何よりもストーリーがテンポ良くて無理が無いので、作者にうまく騙されてどっぷり本の世界に浸かることができました。
やはりその本の世界にうまくフィットできるのが小説の醍醐味ではないでしょうか。
とくに宗教(五神教、四神教)の扱いが秀逸でした。神々も必要以上に出しゃばりもせず、擬人化もしておらず、良い感じ。
キャラも主人公を筆頭に女性陣は皆すばらしい、悪役はもうちょい頑張れ!
何よりもストーリーがテンポ良くて無理が無いので、作者にうまく騙されてどっぷり本の世界に浸かることができました。
やはりその本の世界にうまくフィットできるのが小説の醍醐味ではないでしょうか。