単純な発想法を述べた安直なものではなく，経験豊かで謙虚な科学者の高い視点から述べられた非常に中身の濃いエッセイである．直接は科学者(とくに物理学者)のあるべき態度についての内容ではあるが，事例を除くほとんどは，「創造的」「知的」「倫理的」「建設的」という言葉が本質的な褒め言葉になる職種全般にあてはまるものだと思う．内的で純粋な好奇心が最も重要であるとか，長期視点で活きてくる勉強や訓練のしかたとか，紛い物を見分けるポイントとか，仕事の内容の評価の妥当性とか，多くの人が陥る罠とか，そんなことが平易な言葉で明解に幅広く述べられている．書いてあることに異論はない．
また，本書の内容は「知的な若者向けの超高濃度の自己啓発本」とも形容できる．科学，工学，経済，政策，医学あたりに興味のある若い人にとっては，無条件に買って読み，長い間手元に置いておくのが適切な本でしょう．本書の内容を心に刻んでおけば，論文は沢山書いたけど研究成果は何もない大学教授，議論が少し深く精密になるとついていけないエセ知識人，現場を知らない経営者や報道陣，車輪の再発明に人生を捧げる人，大発見をしたとブログと自費出版でアピールする人などにはならずに済むでしょう．
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