この本を「みんなにも読んでほしい」と思ったのですが、それをどのように伝えるかに悩みました。結局、この本のあとがきにある、著者さんのことばに尽きます。
「わたくしは初期の主要なウパニシャッドをサンスクリットから日本語に翻訳した。わたくしのこの翻訳を通じて、ウパニシャッドが多くの人々に読まれること、それが、わたくしの切実な望みに他ならない。ここ日本において、われわれは日本語の翻訳を通じてウパニシャッドの精神界にアクセスすべきである。初期の主要ウパニシャッドは、わたくしによって翻訳された。十四の主要なウパニシャッドのうち、わたくしは十三のウパニシャッドを完訳した。(略)インドの伝統によれば、ウパニシャッドの数は百八であると伝えられている。しかし百八ウパニシャッドを、全部、日本語に翻訳するには及ばない、と、わたくしは考える。」
と、本書はこのような本なのです。
では、ウパニシャッドとは、どういう意味なのか、何なのか?
「さて、ウパニシャッドとは何か、ということを、われわれは確かめなければならない。ウパニシャッドについて確実に言えることは、一つしかない。ウパニシャッドは、古代インドの哲学書であり、この書物あるいは小冊子の中には、さまざまな教えが説かれている。このことは疑い得ない。それ以外のことは不確定的である。ウパニシャッドを「奥義書」ないし「秘密の教え」などと翻訳するのは正しくない。普通そのように翻訳されているけれども、そのような翻訳は無根拠である。」
変に聖典聖典とまつりあげることは、むしろウパニシャッドの精神界との出会いを台無しにしてしまう。だから、素直に読んで、自分で確かめればいい、と。このことを踏まえたうえで、著者である湯田さんは、「わたくしのこの翻訳を通じて、ウパニシャッドが多くの人々に読まれること、それが、わたくしの切実な望みに他ならない」と書き記したのです。 (翻訳者に敬礼! 湯田さんに敬礼!)
そして、湯田さんは、ウパニシャッドとは何か、という問いに対して、次のように締めくくります。
「要するに、ウパニシャッドはヴェーダの終わりに来るテクストであり、その中に種々のテーマ(哲学的、非哲学的な)が見い出されるだけである。」
次に、本文から引用します。参考にして下さい。
「希望をブラフマンとして瞑想する人。彼のすべての願望は、希望によって成就される。彼の祈りは空しくない。希望の及ぶ限り、そこにおいて彼は望み通りに行動するようになる、希望をブラフマンとして瞑想する人は。」
(チャーンドーギヤ・ウパニシャッド第7章第14節より)
この本の初版が発行されたのは西暦2000年。なにか意義深いように思う。ぜひ、素直な心で、読みたい本です。
〈補足・ヴェーダとは何か?〉
先に、「ヴェーダ」という語が出てきました。ヴェーダとは何なのか? 岩波文庫に『リグ・ヴェーダ讃歌』という本があります。そのまえがきにおいて、次のように説明されています。
「インドで一番古い宗教文献をヴェーダといい、その中でリグ・ヴェーダは特に古く、かつ最も重要な部分をなしている。古代インドの宗教や神話、文学や哲学、あるいは文化一般に興味をもち、インド思想の根元にさかのぼろうとする人は、多少なりリグ・ヴェーダについて知らなければならない。およそ西暦前一五〇〇年ごろを中心としてインドの西北部パンジャーブへ侵入し、次第に東方へ向かって領土を広めたアリアン人が最初に残した文化的遺産こそリグ・ヴェーダである。彼らは極めて宗教心が強く、精神文化の面では異常な活力を展開した。多くの神々を讃えて財産・戦争・長寿・幸運をこい、その恩恵と加護とを祈った。リグ・ヴェーダはこれらの讃歌の集録である。」
日本語に翻訳されて公刊されているヴェーダ文献は「リグ・ヴェーダ」と「アタルヴァ・ヴェーダ」だけだと思います。どちらも岩波文庫にあります。ちなみに両者とも抄訳です。そして、湯田さんのあとがきにあったように、時間的にみるとウパニシャッドはヴェーダの後に来るのです。ですから、ウパニシャッドを読む前に、リグ・ヴェーダに触れてみるのもよいと思います。リグ・ヴェーダ、わたしはとても好きです。あと、ちなみに、ウパニシャッドのなかで、リグ・ヴェーダやアタルヴァ・ヴェーダなどのヴェーダ文献は、テクストが引用されたり、あるいは名前だけ挙げられたりしていて、所々に登場するんです。例えば……
「このブラフマンの世界をヴェーダの学習によって見いだす人々。このブラフマンの世界は彼らのものである。すべての世界において、彼らは望み通りに行動するようになる。」
(チャーンドーギヤ・ウパニシャッド第8章第4節より)
(だから、もしあなたがウパニシャッドを読んでウパニシャッドに魅力を感じるとしたら、きっとヴェーダも読みたくなると思うので、ヴェーダのほうを先に読んでみるのも良いと思います! また、ヴェーダに魅力を感じないなら、おそらくですが、ウパニシャッドにも魅力を感じないだろうと思うのです。ヴェーダとウパニシャッドは、やっぱりどこか根底において通じているなと、読んでいて感じるからです。本書はやはりかなり高額ですから、比較的安価で手にはいる『リグ・ヴェーダ』や『アタルヴァ・ヴェーダ』を先に読んでみる、そうしてから本書を購入するか否かを考えてみる、というのも良いと思います。)
※わたしが本書のテクストから引用した二つの箇所、そのどちらにも出てきた“ブラフマン”とは何か? 実に、この“ブラフマン”こそ、ウパニシャッド全篇において、問い求められているものなのです。そして、それは何なのかという問いに対しては、湯田さんの言うように、“実際に読んで、ウパニシャッドの精神界に触れることによって、わたしたち自身が確かめなければならない”のだと、わたしは強く思います。きっと湯田さんもそのような思いを歓持していたのだと、わたしは今想像しています。
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ウパニシャッド ペーパーバック – 2000/3/1
湯田 豊
(著)
- 本の長さ722ページ
- 言語日本語
- 出版社大東出版社
- 発売日2000/3/1
- ISBN-104500006567
- ISBN-13978-4500006564
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商品の説明
内容(「MARC」データベースより)
インド思想を理解する上で最も重要な文献のひとつであるウパニシャッド。言語の壁を超えてウパニシャッドの作者たちの声を伝える翻訳版。
登録情報
- 出版社 : 大東出版社 (2000/3/1)
- 発売日 : 2000/3/1
- 言語 : 日本語
- ペーパーバック : 722ページ
- ISBN-10 : 4500006567
- ISBN-13 : 978-4500006564
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,055,511位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 21位ウパニシャッド
- - 274位インドの思想(一般)関連書籍
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2018年11月24日に日本でレビュー済み
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2023年7月24日に日本でレビュー済み
ウパニシャッドの和訳本は他にもあり、現在3万円を余裕で超えているこれをわざわざ買うという選択肢を取る人はあまりいないと思います
しかし!
ブリハッド・アーラニヤカ・ウパニシャッドを全訳で日本語で読めるのはこれしかないのです!
しかもブリハッド・アーラニヤカ・ウパニシャッドはめちゃくちゃ重要でこれを読まずにウパニシャッドは語れないレベルなのです
なのでお金が貯まったら是非ポチってみてください
この一冊がどれだけ重要でどれだけ貴重なものかが分かると思います
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2006年2月1日に日本でレビュー済み
本書は平易な言葉で書かれている。一見すると華麗さや荘厳さは感じられないが、それゆえに真理を雄弁に語っているように思う。
ショーペンハウアーやシュレーディンガーなど多くの哲学者や物理学者を魅了した本であり、中古でも2万円近くしますがそれだけの価値はあると思います。
ショーペンハウアーやシュレーディンガーなど多くの哲学者や物理学者を魅了した本であり、中古でも2万円近くしますがそれだけの価値はあると思います。
2005年3月25日に日本でレビュー済み
ヴェーダ文献において思想的に最も重要な位置にあるのが「ウパニシャッド」と呼ばれる文献群で、その中でも特に古い時代に書かれた重要な13のウパニシャッドを全訳したものです。海外における研究成果も豊富に取り入れられ、学問的にはかなり正確な翻訳ではないかと思います。翻訳の日本語も平明です(ただウパニシャッドの思考自体が難解で何が言いたいのか判らないことが多いですが、それは訳者の責任ではありません)。あとがきには「ウパニシャッドの中心思想は梵我一如ではない」という、訳者による刺激的な論考が収められています。この是非は今後問われるべき問題でしょう。
しかし、高価すぎです。学生はまず買えない値段ですし、ウパニシャッドに興味のある一般の方も退くでしょう。内容は良心的なのに、極めて手に届きがたい価格設定をするのは正直勿体ないと思います。本なんて読んでもらってナンボなんですから、もうちょっと企業努力をするというか、安価で提供できる方策を考えるべきじゃないでしょうか。
しかし、高価すぎです。学生はまず買えない値段ですし、ウパニシャッドに興味のある一般の方も退くでしょう。内容は良心的なのに、極めて手に届きがたい価格設定をするのは正直勿体ないと思います。本なんて読んでもらってナンボなんですから、もうちょっと企業努力をするというか、安価で提供できる方策を考えるべきじゃないでしょうか。