弁護士ならではの視点から、法的なものだけでなく「誤訳」まで捉えて解説した推理小説の欠点たる誤訳を暴く決定版!と謳って本人が調子に乗って書いている本。
最初からマルバツ で翻訳者の訳をバツ、自身の訳をマルとしてスタートしている訳がもうすでに小説の文として成り立っていない。
まさにその冒頭であげつらっている「頭のいいやり方ではない」は口語表現のフレーズで、つまり言っているのは「アラも多く、普通の人はまずやらないでしょう」という訝しんでいる部分のほのめかしである。地文で書いていない所がこの本の著者は理解できていない。
さらにこのフレーズが意味することが後段に具体例として続いている上に文芸表現としても自然に作られていて、さすがプロというところだ。
もしかしたら、原文にもう少し寄ってもいいのかもしれないが(私はそう思わないが)全翻訳文中からここだけをあげて「だから翻訳者は辞書を引けと言っている」という怠慢を指摘するような論拠とはなり得ない。
要は「私は英語も翻訳者よりわかっている」「私が本来ならば翻訳者として尊重されるべき」と言いたいのか、ただ無神経に喧嘩を売りたいのか(故人まで含めた実名批判本だ)、わからないが、とにかく読んでいるだけで意固地で偏屈な人格が移ってきそうな本だ。
大体偉そうに言う、多数の翻訳を読み比べて原文を見る、というのは結局原文を深く読んでいるわけでもなく、そこから全体の翻訳の構成を組んで英語から日本語という元々は無茶なことを自然に見せる芸をやっているわけでもない。テレビで複数チャンネルで喋っている同じニュースをみて、官僚より私が偉いと言われているようで、恥ずかしくなる。
確かに、この本の中で一部に挙げられているものには明らかに語義が違って捉えて訳されてしまっている。しかし、納期もあり、色々な都合もあり、さらに人間がやることであるという前提で、翻訳の素人が(なにやら翻訳の理論はさておいて、と冒頭で著者自身が述べている)このような本を出す、そしてそれを出版するというのが下衆だな、と感じる。
「翻訳ってこわい」「こんなに読みにくくされていたなんて」などのレビューも、この尻馬に乗っかって言いたいだけだろうとしか思えない。そこまで公の場で言うのであれば原文を読み、ご自身で訳してしまえば良い。
「辞書を引けばすぐわかることばかり」が間違いで「誤読させられている」のであれば、それが一番簡単だろう。
イヤミでもあるが、それが一番翻訳の心配りや苦悩に沿っていく手段ではないかと私は考えている。それでもわからない人間が、増長してこのような本を書くのであろう。
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推理小説の誤訳 文庫 – 2008/2/1
古賀 正義
(著)
- 本の長さ441ページ
- 言語日本語
- 出版社日経BPマーケティング(日本経済新聞出版
- 発売日2008/2/1
- ISBN-104532194334
- ISBN-13978-4532194338
登録情報
- 出版社 : 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版; New版 (2008/2/1)
- 発売日 : 2008/2/1
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 441ページ
- ISBN-10 : 4532194334
- ISBN-13 : 978-4532194338
- Amazon 売れ筋ランキング: - 874,250位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2010年4月26日に日本でレビュー済み
「推理小説」も「誤訳」も私の脳に反応することば。実は時間がないところで,書店で目にした数冊を購入という暴挙に出たためこの本の出自をよく確かめずに購入しました。「推理小説」とはクリスティーとコナン・ドイルと知ったのはバスの中で読み始めた文庫本前書きで。さらにこの本の初版は1983年で,文庫本が2007年とのこと。奥付は2008年。新装版で,もとが30年も前の誤訳だと知ったのが遅すぎました。確かに指摘された誤訳は結構初歩的で,ごまかしあり,誤解あり,ということは納得。ただし,30年以上も前。ここで遡上に上げられた大家たちのおおよそ50年前の業績です。当時の翻訳環境を考えれば,ワープロもなく,インターネットもなく,イギリス事情にせよ,著者が鬼の首をとったように指摘する「常識」にせよ,確認するのが至難な時代でした。今とは翻訳環境が違いすぎます。原稿用紙に膨大な日本語を書き連ねた大家たちの姿を思い浮かべると頭が下がります。その時代の翻訳について指弾するのはなかなか大変だと思いました。
その著者も辞書は研究社の大英和とConcise Oxford Dictionaryのほぼ2冊だけで,誤訳を摘発,これも大変立派だと思います。きちんとした翻訳にそれほどの道具は必要ないのだと教えてくれます。
この誤訳指摘の教訓は一つ,丹念に辞書を確認しなさい。イギリスの「推理小説」が対象ですので,くれぐれも現在の探偵小説やら推理小説の誤訳について知ることができるとは思わないように。
帯やら端書きを読めばそんな勘違いをする人はいないはずですが(^_^;)
それから,これだけ書くなら,その書いたものに対する批判も覚悟する必要があります。途中から気になって付箋を入れましたが,必ずしも訂正した日本語が正解とは思えない項目もありました。
その著者も辞書は研究社の大英和とConcise Oxford Dictionaryのほぼ2冊だけで,誤訳を摘発,これも大変立派だと思います。きちんとした翻訳にそれほどの道具は必要ないのだと教えてくれます。
この誤訳指摘の教訓は一つ,丹念に辞書を確認しなさい。イギリスの「推理小説」が対象ですので,くれぐれも現在の探偵小説やら推理小説の誤訳について知ることができるとは思わないように。
帯やら端書きを読めばそんな勘違いをする人はいないはずですが(^_^;)
それから,これだけ書くなら,その書いたものに対する批判も覚悟する必要があります。途中から気になって付箋を入れましたが,必ずしも訂正した日本語が正解とは思えない項目もありました。
2014年8月16日に日本でレビュー済み
著者は1927年生まれの弁護士。アガサ・クリスティーとコナン・ドイル、そしてチェスタトンの著作のうち、日本語に翻訳出版された本を俎上にのせ、誤訳の数々を指摘していくという書です。1983年にサイマル出版界から上梓されたものを2008年に日経新聞社で文庫化したものです。
400頁を越える紙数を使って、膨大な量の翻訳書から誤訳の事例を丹念に拾い上げています。なにしろ、福島正実、浅倉久志、深町真理子、加島祥造といった錚々たる著名翻訳者たちの訳文が、ここがまずい、あそこが間違っている、と容赦なく難じられていきます。
その多くが、辞書さえ厭うことなくきちんと引いておけば誤訳のしようがないものだったり、中学高校の英語授業で普通に学べる文法項目の読み誤りだったりするので、始末が悪いのです。
ポワロやホームズの多くが不完全な翻訳によって日本で紹介されてきたことが見えて、読んでいて怖くなりました。私は早川書房のSF翻訳を、上述した福島正実、浅倉久志によって相当数味わった口ですが、おそらく結構な箇所に渡って頓珍漢な訳を読まされていた可能性があると想像するのです。
著者は法律の専門家だけに、英国の司法制度についての説明が大変参考になりました。
アメリカのミステリーのほうになじみがあるだけに、私は今のいままで、英国には<検察官>がいないということを知りませんでした。
著者曰く、英国には検察庁や検事といった制度がなく、また、警察でも尋問は行なわない。被疑者が自発的に供述すれば証拠になるが、そのような場合でさえ、日時の記憶違いを指摘して誤解を解くぐらいが限度で、追及的な尋問は一切してはならないことになっているとか。
では訴追を担当するのは誰かというと、法廷弁護士(barrister)が務めるそうです。したがって、クリスティの小説に登場するthe Director of Public Prosecutionsは、法務長官の指揮のもとで重要事件について訴追を担当するbarristerで、「公訴局長」と翻訳するのが良い、というのが著者の言です。
ただし、この本が書かれた後に英国にも検察庁が設置されたとか。あくまでポワロやホームズ時代のことのようです。
最後に、著者によれば、誤訳の少ない有能な翻訳家は赤冬子氏と恩地三保子氏、綾川梓氏の三氏だということを付言しておきます。
400頁を越える紙数を使って、膨大な量の翻訳書から誤訳の事例を丹念に拾い上げています。なにしろ、福島正実、浅倉久志、深町真理子、加島祥造といった錚々たる著名翻訳者たちの訳文が、ここがまずい、あそこが間違っている、と容赦なく難じられていきます。
その多くが、辞書さえ厭うことなくきちんと引いておけば誤訳のしようがないものだったり、中学高校の英語授業で普通に学べる文法項目の読み誤りだったりするので、始末が悪いのです。
ポワロやホームズの多くが不完全な翻訳によって日本で紹介されてきたことが見えて、読んでいて怖くなりました。私は早川書房のSF翻訳を、上述した福島正実、浅倉久志によって相当数味わった口ですが、おそらく結構な箇所に渡って頓珍漢な訳を読まされていた可能性があると想像するのです。
著者は法律の専門家だけに、英国の司法制度についての説明が大変参考になりました。
アメリカのミステリーのほうになじみがあるだけに、私は今のいままで、英国には<検察官>がいないということを知りませんでした。
著者曰く、英国には検察庁や検事といった制度がなく、また、警察でも尋問は行なわない。被疑者が自発的に供述すれば証拠になるが、そのような場合でさえ、日時の記憶違いを指摘して誤解を解くぐらいが限度で、追及的な尋問は一切してはならないことになっているとか。
では訴追を担当するのは誰かというと、法廷弁護士(barrister)が務めるそうです。したがって、クリスティの小説に登場するthe Director of Public Prosecutionsは、法務長官の指揮のもとで重要事件について訴追を担当するbarristerで、「公訴局長」と翻訳するのが良い、というのが著者の言です。
ただし、この本が書かれた後に英国にも検察庁が設置されたとか。あくまでポワロやホームズ時代のことのようです。
最後に、著者によれば、誤訳の少ない有能な翻訳家は赤冬子氏と恩地三保子氏、綾川梓氏の三氏だということを付言しておきます。
2008年2月6日に日本でレビュー済み
日弁連副会長まで勤めた弁護士が、ミステリーの誤訳を指摘し修正していくという本で、著者が英文学者ではないから、業界への遠慮が全くないのが痛快である。
おそらく専門の翻訳家が同業の翻訳者の間違いを細かくあげつらうのには当然抵抗があるだろうが、筆者は翻訳業界の外部にいるのだから、何にも怯えず、ストレートに大家の誤訳も指摘する。序文で丸谷才一の英語誤読以前の日本語の乱れを指摘するくらいだ。
著者によると、文庫本一冊で約50の誤訳があるという。
誤訳に至った理由も推測しながら、誤訳を鮮やかに論理的に説明する文章は、英語の勉強にも適している。注目すべきは、きちんと辞書を読めば解決するような誤訳ばかりだという。専門家の陥りやすい罠について、著者はよく理解している。
おそらく専門の翻訳家が同業の翻訳者の間違いを細かくあげつらうのには当然抵抗があるだろうが、筆者は翻訳業界の外部にいるのだから、何にも怯えず、ストレートに大家の誤訳も指摘する。序文で丸谷才一の英語誤読以前の日本語の乱れを指摘するくらいだ。
著者によると、文庫本一冊で約50の誤訳があるという。
誤訳に至った理由も推測しながら、誤訳を鮮やかに論理的に説明する文章は、英語の勉強にも適している。注目すべきは、きちんと辞書を読めば解決するような誤訳ばかりだという。専門家の陥りやすい罠について、著者はよく理解している。