19世紀末から20世紀初めにかけての大英帝国とその当時の世界、特にヨーロッパの動きを、英国王の立場から眺めるとこういう風に見えるのかと納得。第1次世界大戦が「従兄弟たちの戦争」として始まったが、やがてその終末は全国民による総力戦となってしまい、その結果は、王朝のヨーロッパが民族自決のヨーロッパに、そして大衆民主主義政治のヨーロッパに変質していった過程がうまく説明されている。
英国の議会政治に関しては、ロイド・ジョージとジョージ5世が犬猿の仲であったのに対して、ロイド・ジョージ率いる自由党の自滅に伴って台頭して政権の座に就いた労働党党首マグドナルドとジョージ5世は、互いに好感を持ち協力し合って、退嬰していく大英帝国を現代的民主主義国家に変革していく道を模索していったのだという点には、新鮮な驚きを感じた。
ジョージ5世とニコライ2世が母親同士が姉妹の従兄弟であり、背格好容貌まで瓜二つであり、生前は極めて仲が良かったが、ロシア革命勃発の際には、英国への革命の伝播を怖れたジョージ5世はニコライの救出に手が出せなかったことの記述も興味深い。
それにしても、第1次大戦の結果は明らかに植民地を多く持つ帝国主義国家は時代にそぐわないものになってしまったことを、英国王自身が認識していたというのに、当時の日本はまさにこれから帝国主義国家の覇権を目指そうとしたのだから、全くの時代錯誤であった。
更にもうひとつこの薄い本から学んだことは、現代日本の政治の手本とされている英国の立憲君主制と議院内閣制の組み合わせによる国家運営体制は、実はそれほど古いのものでなく、まさにジョージ5世の統治のもとに出来上がっていったものであることだ。
最後に一つだけ苦言を呈すると、文章、特に前半のジョージ5世を取り巻く欧州各国王室の関係を説明するくだりの文章が、非常に生硬で読みにくい。せっかく良い研究をしているのだから、この著者はもう少しこなれた文章術を身に着けてほしいものだと思った。
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ジョージ五世: 大衆民主政治時代の君主 単行本 – 2011/6/1
君塚 直隆
(著)
現代英国の礎を築いた国王、ジョージ5世。予期せぬ皇太子就任、突然の即位から、第一次世界大戦、大英帝国の凋落までをいかに生きたのか。昭和天皇が終生手本として尊敬した国王の人間味あふれる劇的な人生を明らかにする。
- 本の長さ237ページ
- 言語日本語
- 出版社日経BPマーケティング(日本経済新聞出版
- 発売日2011/6/1
- 寸法11 x 1.3 x 17.4 cm
- ISBN-104532261279
- ISBN-13978-4532261276
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登録情報
- 出版社 : 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版; New版 (2011/6/1)
- 発売日 : 2011/6/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 237ページ
- ISBN-10 : 4532261279
- ISBN-13 : 978-4532261276
- 寸法 : 11 x 1.3 x 17.4 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 726,392位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 10,566位世界史 (本)
- - 113,247位ノンフィクション (本)
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上位レビュー、対象国: 日本
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2011年6月29日に日本でレビュー済み
君塚さんの「ジョージ5世」を読んだ。「肖像画で読み解く イギリス王朝の物語」(光文社新書)を読んで、その語り口に魅せられたが、今回も期待に応えてくれる・・。
イギリスの王様といえば、「最後まで残るのはトランプの4人の王様とイギリスの王様」とかなんとか言われながら、しぶとく生き残っている。この本をを読んだ感想は、「やはり名君が続いたんだ!」という事。この「ジョージ5世」もあまり知られていないけど読んでみるとなかなかの名君だ。
血筋から言うと、ヴィクトリア女王の孫。本来なら長男(アルバート)が後を継ぐところ、長男は病死してしまい急遽後を継ぐ。しかも長男の許婚(メイ)を「可哀想だ」と妻とする。・・そして五男一女に恵まれる。その初めての「内孫」が「リリベット」と呼ばれたのちのエリザベス2世。2歳の頃かチャーチルが「まだ子供なのになんて威厳と思慮深さを兼ね備えているのか・・」と感嘆した資質がエリザベス2世にはあったらしい・・。
ともかくその偉大な二人の女王を橋渡しするかのように常識派だが英邁な王様だった。時あたかも、第一次大戦の勃発とか、大英帝国の拡大、植民地の独立の兆しとか激動の時代。「いとこ」にはロシアのニコライ二世だの、ドイツ皇帝のヴィルヘルム2世だのが居る。
困難な時代を精勤に務め抜いて次にバトンタッチしている。最初は気楽な次男坊で海軍に長く居たりしたんだけど・・。お鉢が回ってきた。
その息子は、「英国王のスピーチ」に出てくるけど、長男は元人妻に惑わされて王様を降りてしまったエドワード8世。次男がドモリを克服して国民にスピーチしたジョージ6世。その娘が後継のエリザベス2世。できがよければ女王様でも全く問題ない。やはり王様はマジメで精勤な方に限る。
君塚さんは十作目の著作らしいが、英王室を文献を漁って描き続けている。次はジョージ5世の父君エドワード7世だそうだ・・・。「追っかけ」をして著作をドンドン読んでいくとおのずから英国の歴史にも詳しくなる。ありがたい限りだ!!
イギリスの王様といえば、「最後まで残るのはトランプの4人の王様とイギリスの王様」とかなんとか言われながら、しぶとく生き残っている。この本をを読んだ感想は、「やはり名君が続いたんだ!」という事。この「ジョージ5世」もあまり知られていないけど読んでみるとなかなかの名君だ。
血筋から言うと、ヴィクトリア女王の孫。本来なら長男(アルバート)が後を継ぐところ、長男は病死してしまい急遽後を継ぐ。しかも長男の許婚(メイ)を「可哀想だ」と妻とする。・・そして五男一女に恵まれる。その初めての「内孫」が「リリベット」と呼ばれたのちのエリザベス2世。2歳の頃かチャーチルが「まだ子供なのになんて威厳と思慮深さを兼ね備えているのか・・」と感嘆した資質がエリザベス2世にはあったらしい・・。
ともかくその偉大な二人の女王を橋渡しするかのように常識派だが英邁な王様だった。時あたかも、第一次大戦の勃発とか、大英帝国の拡大、植民地の独立の兆しとか激動の時代。「いとこ」にはロシアのニコライ二世だの、ドイツ皇帝のヴィルヘルム2世だのが居る。
困難な時代を精勤に務め抜いて次にバトンタッチしている。最初は気楽な次男坊で海軍に長く居たりしたんだけど・・。お鉢が回ってきた。
その息子は、「英国王のスピーチ」に出てくるけど、長男は元人妻に惑わされて王様を降りてしまったエドワード8世。次男がドモリを克服して国民にスピーチしたジョージ6世。その娘が後継のエリザベス2世。できがよければ女王様でも全く問題ない。やはり王様はマジメで精勤な方に限る。
君塚さんは十作目の著作らしいが、英王室を文献を漁って描き続けている。次はジョージ5世の父君エドワード7世だそうだ・・・。「追っかけ」をして著作をドンドン読んでいくとおのずから英国の歴史にも詳しくなる。ありがたい限りだ!!
2023年7月29日に日本でレビュー済み
P.196に第二次世界大戦時のヨーロッパ諸王室の対応として「ナチス・ドイツ軍により国土を蹂躙され、ホーコンとクリスチャンはイギリスに亡命した。」とあります。しかし史実ではデンマーク王のクリスチャン(10世)はナチス占領下でもデンマークにとどまり続け、ナチスに反発し続けながら占領下のデンマーク国民を鼓舞し続け、デンマーク国民から敬愛されました。
本全体からするとマイナーなミスですが、戦時下の困難な状況の君主を主人公とする本書の趣旨からすると無礼、かつ致命的なミスです。著者はイギリス以外のヨーロッパ諸国の歴史には無関心かつ素人だと思います。
本全体からするとマイナーなミスですが、戦時下の困難な状況の君主を主人公とする本書の趣旨からすると無礼、かつ致命的なミスです。著者はイギリス以外のヨーロッパ諸国の歴史には無関心かつ素人だと思います。
2011年8月1日に日本でレビュー済み
2010年アカデミー賞作品賞を射止めた「
英国王のスピーチ コレクターズ・エディション [Blu-ray
]」で、主人公ジョージ六世の謹厳実直な父として登場するジョージ五世の伝記。映画の中で、当時、王太子だったエドワードの放縦ぶりに悩む姿を見て関心を持ち、本書を手に取った。
ジョージ五世王の時代、彼はもちろん、ヴィクトリア女王の孫たちが各国の君主に就いており、ヨーロッパの王室はあたかも一つの閨閥のようだった。そんな時代にあって、親戚づきあいは即ち王室外交、ひいては国際関係とも言えた。エドワード七世(ジョージ五世の父)は母・ヴィクトリア女王に「怠け者バーディ」と呼ばれて政務から遠ざけられ、パリの社交界で遊びほうけていた。ところが即位するとその社交的な性格が幸いし、英露協商、英仏協商を次々と成立させる。大戦前は、この王室外交を中心に話は展開する。逆に息子のジョージ五世はまじめだが、人付き合いも外国語も苦手だった。著者は「オーストリア皇太子暗殺時、王座がバーディであれば、各国の親戚を説得に回って事態を収拾したのではないか?」ともいう。
ともあれ、大戦は起きた。大戦中、そりが合わない宰相・ロイド・ジョージとの関係に怒りながらも精勤した。5万人に勲章を授与し、連隊450個を視察する。いとこのニコライ二世もヴィルヘルム二世も皇位から去った大戦後は、世界に広がる大英帝国の維持、英国政治で調整力と指導力を発揮する。巻末では日本皇室との関係も紹介され、明治時代に海軍士官として来航したジョージ五世が、彫り師に入れ墨を入れてもらった、という興味深いエピソードもある。
内容は手堅く重厚。しかし、エピソードや写真も多く盛り込まれており飽きさせずに読ませてくれる。何より系図が冒頭に置かれているのはいい。私も多少、ヨーロッパ王家の閨閥を知っていたつもりだが、アリックスやらバーディが複数出てくるので、系図を見ながらじゃないと混乱する。なにせ、ジョージ五世から見て、ニコライ二世は母方のいとこ、その妻は父方のいとこなのだからややこしい。ともあれ、新書としては非常に読み応えのある内容。英国王室史というと、ヴィクトリアとエリザベス二世という両女王の輝きが余りにまぶしく、男性の影が薄い。しかし、両女王の間に挟み込まれた波乱かつ華やかな半世紀を名君が乗り切っていたことが分かる。
ジョージ五世王の時代、彼はもちろん、ヴィクトリア女王の孫たちが各国の君主に就いており、ヨーロッパの王室はあたかも一つの閨閥のようだった。そんな時代にあって、親戚づきあいは即ち王室外交、ひいては国際関係とも言えた。エドワード七世(ジョージ五世の父)は母・ヴィクトリア女王に「怠け者バーディ」と呼ばれて政務から遠ざけられ、パリの社交界で遊びほうけていた。ところが即位するとその社交的な性格が幸いし、英露協商、英仏協商を次々と成立させる。大戦前は、この王室外交を中心に話は展開する。逆に息子のジョージ五世はまじめだが、人付き合いも外国語も苦手だった。著者は「オーストリア皇太子暗殺時、王座がバーディであれば、各国の親戚を説得に回って事態を収拾したのではないか?」ともいう。
ともあれ、大戦は起きた。大戦中、そりが合わない宰相・ロイド・ジョージとの関係に怒りながらも精勤した。5万人に勲章を授与し、連隊450個を視察する。いとこのニコライ二世もヴィルヘルム二世も皇位から去った大戦後は、世界に広がる大英帝国の維持、英国政治で調整力と指導力を発揮する。巻末では日本皇室との関係も紹介され、明治時代に海軍士官として来航したジョージ五世が、彫り師に入れ墨を入れてもらった、という興味深いエピソードもある。
内容は手堅く重厚。しかし、エピソードや写真も多く盛り込まれており飽きさせずに読ませてくれる。何より系図が冒頭に置かれているのはいい。私も多少、ヨーロッパ王家の閨閥を知っていたつもりだが、アリックスやらバーディが複数出てくるので、系図を見ながらじゃないと混乱する。なにせ、ジョージ五世から見て、ニコライ二世は母方のいとこ、その妻は父方のいとこなのだからややこしい。ともあれ、新書としては非常に読み応えのある内容。英国王室史というと、ヴィクトリアとエリザベス二世という両女王の輝きが余りにまぶしく、男性の影が薄い。しかし、両女王の間に挟み込まれた波乱かつ華やかな半世紀を名君が乗り切っていたことが分かる。
2011年6月27日に日本でレビュー済み
今までのこの時代の英国王室に関する物としては、エドワード8世とシンプソン夫人の「王冠を賭けた恋」の話が中心で、二人の反対側から描いた物は皆無だった。
が、この本は、そういう日本人の、エドワード8世とシンプソン夫人に同情的な見方を覆す傑作だと思う。
いかに、父のジョージ5世が、息子のエドワード皇太子(8世)に批判的だったかがよくわかる本だと思う。この本に拠ると、真面目なジョージ5世は、随分早い時期から享楽的な長男が破滅する事がよくわかっていたようです。今までのこの時代の英国王室に関するものでは、父のジョージ5世の苦悩は描かれてきませんでした。
王族とはどうあるべきか、がよくわかる本だと思います。
この春公開された英国映画「英国王のスピーチ」を補完する本でもあります。この本を読み映画も見れば、この時代の英国王室を完璧に知る事が出来るでしょう。
終章には、日本の皇室とジョージ5世との関わりが書かれていて、昭和天皇と今上陛下が模範としたのが、このジョージ5世である事が明記されています。終章は必読だと思います、日本の皇室を考える意味で。
君塚氏、今まで英国王室に関して日本で書かれて来なかった空白な面を補おう、と大変な努力をされているようで、心から尊敬しています。
この本も傑作です。
が、この本は、そういう日本人の、エドワード8世とシンプソン夫人に同情的な見方を覆す傑作だと思う。
いかに、父のジョージ5世が、息子のエドワード皇太子(8世)に批判的だったかがよくわかる本だと思う。この本に拠ると、真面目なジョージ5世は、随分早い時期から享楽的な長男が破滅する事がよくわかっていたようです。今までのこの時代の英国王室に関するものでは、父のジョージ5世の苦悩は描かれてきませんでした。
王族とはどうあるべきか、がよくわかる本だと思います。
この春公開された英国映画「英国王のスピーチ」を補完する本でもあります。この本を読み映画も見れば、この時代の英国王室を完璧に知る事が出来るでしょう。
終章には、日本の皇室とジョージ5世との関わりが書かれていて、昭和天皇と今上陛下が模範としたのが、このジョージ5世である事が明記されています。終章は必読だと思います、日本の皇室を考える意味で。
君塚氏、今まで英国王室に関して日本で書かれて来なかった空白な面を補おう、と大変な努力をされているようで、心から尊敬しています。
この本も傑作です。
2011年6月24日に日本でレビュー済み
この本は、ジョージ5世の読みやすく興味深い伝記である。
しかし、同時に、学術的価値も高い本である。
王室の行動を詳細にたどることにより王室の象徴的意義が、実に即して解明されている。
王室の外国の君主との関係が同時に当時の国際関係の説明になっており、グローバルヒストリーの観点が貫かれている。
背景の説明においても、アスキスとロイド=ジヨージの関係など従来の概説書では理解しにくかった部分のいくつかが明快に説明されている。
さらに、グラッドストンのアイルランド自治法案の再評価など、わが国ではまだ紹介されていない本国の最新の研究動向がさりげなく盛り込まれている。
小品ではあるが、今後、20世紀のイギリス史を学ぶものにとって必読の書となることは疑いない。
しかし、同時に、学術的価値も高い本である。
王室の行動を詳細にたどることにより王室の象徴的意義が、実に即して解明されている。
王室の外国の君主との関係が同時に当時の国際関係の説明になっており、グローバルヒストリーの観点が貫かれている。
背景の説明においても、アスキスとロイド=ジヨージの関係など従来の概説書では理解しにくかった部分のいくつかが明快に説明されている。
さらに、グラッドストンのアイルランド自治法案の再評価など、わが国ではまだ紹介されていない本国の最新の研究動向がさりげなく盛り込まれている。
小品ではあるが、今後、20世紀のイギリス史を学ぶものにとって必読の書となることは疑いない。