作者は当時、埼玉県の中・高等学校の理科教師だった。この本の冒頭で、彼は南米で憧れの昆虫と出会った体験を語る。その昆虫とはツノゼミ。ツノゼミのなかには、目的がわからないほど奇妙なツノを生やした種類も少なくない。そこで彼は「なんでこんな生物がいるの?」という疑問をいだく。次に、アマゾンに住む巨大魚ピラルクーや独特の生態をもつハダカデバネズミなどという、特異な生物の説明が入る。以上も充分におもしろいが、そこからがさらにおもしろい。作者は生徒たちとともに、特異な生物に加えて身近な生物にも焦点をあて、「なんでこんな生物がいるの?」という問題を掘り下げていく。
卵を一度に百万個も生む生物もいれば、一つしか生まない生物もいる。生んだ卵を呑みこんで胃の中で孵化させるカエルもいれば、卵を他の種類の鳥にまかせて育児をさせる鳥もいる。十七年ゼミというものもいる。十七年に一度だけ、数種類のセミの成虫が示し合わせたかのように大発生するのだ。作者は世界中の生物を題材にして、なぜそのような生物がいるのかを考えていく。生徒たちのほほえましい掛け合いをはさみながら先へ進んでいくので、読みやすいし理解しやすい。この本に載せられた作者自身の手による緻密なイラストや明快な図の数々も、それを助ける。
生物の在り方には、さまざまな原因がひそんでいる。「食べる/食べられる」や「利用する/利用される」の関係、環境や歴史、人間の文化の影響などなど。それらが複雑に絡み合い、生物はそのなかでそれぞれのニッチ(それがこの本のキーワードだ)をもち、進化したり多様化したりする。この本はその大変なおもしろさを感じさせ、馴染みのある生物にもそのおもしろさを見出すきっかけになると思う。また、人間という存在をかえりみるきっかけにも。
結びとして、この本のなかで特に印象深かった文章を引用する。
“「なんでこんな生物がいるの?」。奇妙な生物を追っていたら、普通の生物の中にも奇妙な点が浮かび上がってくる。生物はまさに、一種一種が独特な生活をもっているのだ”(p.86より)
“ニッチとは何かを知ること自体が目的ではない。そうしたことを知った上で、今度は実際に自分たちが目にする生物に、「なぜこいつはこんな形や生き方をしているの?」という目が向けられることにこそ目的がある”(p.212~213より)
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なんでこんな生物がいるの: ゲッチョ先生の森の学校 単行本 – 1995/4/20
盛口 満
(著)
- 本の長さ219ページ
- 言語日本語
- 出版社日経サイエンス
- 発売日1995/4/20
- ISBN-104532520436
- ISBN-13978-4532520434
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商品の説明
内容(「MARC」データベースより)
不思議な形の動物がいる。奇妙な生き方をする動物がいる。なぜそんな動物がいるのだろう。生き残るためのどんなユニークな工夫があるのだろう。カマキリに因んで"ゲッチョ"と呼ばれる先生の面白本。
登録情報
- 出版社 : 日経サイエンス (1995/4/20)
- 発売日 : 1995/4/20
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 219ページ
- ISBN-10 : 4532520436
- ISBN-13 : 978-4532520434
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,402,079位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 1,814位生物学 (本)
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著者について
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2015年7月10日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
生物に興味のある方、生物学の入門書としても、面白くわかりやすい、おすすめの1冊です。
2015年1月6日に日本でレビュー済み
生物が自然界で生き残るために採る様々な生存戦略。それを独自の切り口から解説する本。
偽装・擬態、ある特定の条件に特化した独特な形態・生態。それらのキーワードを著者は「ニッチ」という言葉で説明している。食べられないために大量の卵を多く産む虫たちが入るかと思えば、食べられるために大量の卵を産むサナダムシもいる。
結構面白い。暇つぶしにはよいだろう。
偽装・擬態、ある特定の条件に特化した独特な形態・生態。それらのキーワードを著者は「ニッチ」という言葉で説明している。食べられないために大量の卵を多く産む虫たちが入るかと思えば、食べられるために大量の卵を産むサナダムシもいる。
結構面白い。暇つぶしにはよいだろう。
2005年11月24日に日本でレビュー済み
珍しい形態の生き物に珍しい生態。まさに「なんでこうなったの?」といいたくなる、とても面白い。教科書には無いような純粋な生物学を教えてくれる一冊。自分の進路の礎にもなった記念すべき本。ぜひ一読してもらいたい。