表紙のデザイン的にどうかなぁ？と思いましたが、
そんな地味さにひかれて読み始めてみると、
ロング・セラーとはこういう親切で丁寧な本のことを言うのだ、
と思えるシンプルな逸品でした。
シンプルに至るほどの科学哲学の全体像が奥深く広がり、
理数系の先生でありながら、文系に置き換えたたとえ話がイマジネーション豊か。
例えば言葉の説明：
「情報」とは・・・孤立系（人・細胞・コンピューターetc..）に意味的運動を引き起こさせる信号。
「自己組織化現象」とは・・・求めている解に対応する状態のパターンに変化していくこと。
※（心が）求めているというニュアンスが、文系の心にもフィット！
タイトル通りの本ですが、以下↓こんな本文で始まります。
古代より星の運行は人々の想像力を刺激してきました。・・・ケプラーは太陽中心説による規則的な運動を３つの法則にまとめました。・・・これらの法則をニュートンは万有引力と力学から演繹的に導きだし、
天体の運行の予測に成功してから、未来は一意的に決定できるとする力学的世界観が確立しました。
ところで目を地上に向けると、不規則な運動の方が多いことに気づきます。例えば、大気は不規則な運動をしています。このことは、天気予報の難しさによく現れています。その他、木の葉の落下や川の乱れた流れも不規則な運動をし、またルーレットやパチンコの玉の運動もきわめて不規則です。こうした予測不可能な不規則運動がカオスです。
・・・・
また複雑系では、局所的なルールが与えられたエレメント（要素）から構成された系にマクロなふるまいが自発的に生じ（創発）、これがエレメント（要素）にフィードバックします。たとえば、人が集まると、
人間関係（局所的なルール）が生まれ、それが広がると社会が構成され（創発）、そして自ら構成した社会の規範が個人の行動原理（ルール）に影響を与えます（フィードバック）。
創発性は複雑系を理解するキーワードなのです。
・・・・
カオスによれば、
見かけの上では偶発的な事象と思えるものの中に、必然的な原因で説明できるものがあることになります。
・・・・
複雑な系を理解する適切な方法論を、現在の物理学は持っていません。例えば、脳および脳の力学系モデルを考えてみましょう。これらの系は、巧みにデザインされた機能を付与されています。このような複雑系の運動を認識するためには、運動に内包されている「価値」や「合目的性」を視野に入れた新しい認識方法が必要になります。暴走しているコンピューターの中の電子も正常に計算しているコンピューターの電子も、
同じ法則（シュレーディンガーの方程式）に従っています。
このように、私たちにとって一番重要な「運動が有する価値」を、物理学だけでは説明できないのです。
機能を問題にすると、当然「価値」が入ってきます。しかし、価値は見る立場によって異なります。
適切な立場をどのようにとるかが、複雑系の科学のこれからの課題です。（主観をどう取り入れるか？）
ところで、カオスのいろいろな分野への応用はまだ始まったばかりです。今、注目されているのは、カオスを制御する方法です。カオスのなかには多様な運動が含まれていますが、この方法によると、そのなかの「ある規則運動」が引き出せます。工学、医学、芸術などあらゆる分野でその応用が試みられています。
私たちが問題にする複雑系では、”個々の系の個性”が重要ですので、短時間平均をとります。
瞬間の時間には意味がなく、ある持続した時間（ベルクソン）を考えることによって、
はじめて意味が立ち現れる場合があります。これは音楽を考えるとすぐわかるでしょう。・・・
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