平成17年に退官したばかりの元裁判官である著者が、メールマガジンで配信したものに手を加えたエッセイスタイルの本。
神戸の少年殺人事件を担当した裁判官ということで、そこに興味を引かれ購入したがおもしろい。
神戸の事件だけでなく、著者が担当したその他の事件や少年裁判の審理、処分、矯正過程の実態、我々が普段耳にすることのない部分そのもので、読んでいてあきがこない。
そして著者をはじめとした、少年の矯正に真剣に取り組む暖かい人々がそこにいることに驚くし、感動もしてしまう。
お薦めです。
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少年裁判官ノオト 単行本 – 2006/2/1
井垣 康弘
(著)
- ISBN-10453551500X
- ISBN-13978-4535515000
- 出版社日本評論社
- 発売日2006/2/1
- 言語日本語
- 本の長さ275ページ
登録情報
- 出版社 : 日本評論社 (2006/2/1)
- 発売日 : 2006/2/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 275ページ
- ISBN-10 : 453551500X
- ISBN-13 : 978-4535515000
- Amazon 売れ筋ランキング: - 277,682位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 284位司法・裁判(一般)関連書籍
- - 1,129位法律入門
- カスタマーレビュー:
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カスタマーレビュー
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2006年3月30日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2006年6月4日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
神戸市須磨区で起きたあの事件の担当裁判官となったことから一般的な注目を浴び始めた著者。
当該事件担当になったのは偶然との事ですが、本書後半に綴られている回顧録(エッセイ風)を読むと、それ以前から周囲の抵抗に負けず種々の努力実践をなさっていた事がよく判ります。
私が女だからか、「少年A」の行為に関する次のような心理分析には衝撃(=新しい知識)を受けました;
「少年は不幸なことに中学生という年齢(肉体)に達していたにも関わらず、
いまだ性と暴力が未分化であり、
この年代の通常の男子のように異性に性的魅力を感じることが出来ず、
暴力行為に対して性的快感のようなものを感じてしまっていた。
(発達が完成された一形態としての性的サディズムではない)。
この事自体については同じ男性(=鑑定医)として同情を禁じ得ない。」
他の書物でも読みましたが、人間の脳においては性と暴力が同じ部位でつかさどられているそうです(嘆)。
(男性だけ?女性も??)
ともかく、法曹関係者(予備軍)にはおすすめです。
当該事件担当になったのは偶然との事ですが、本書後半に綴られている回顧録(エッセイ風)を読むと、それ以前から周囲の抵抗に負けず種々の努力実践をなさっていた事がよく判ります。
私が女だからか、「少年A」の行為に関する次のような心理分析には衝撃(=新しい知識)を受けました;
「少年は不幸なことに中学生という年齢(肉体)に達していたにも関わらず、
いまだ性と暴力が未分化であり、
この年代の通常の男子のように異性に性的魅力を感じることが出来ず、
暴力行為に対して性的快感のようなものを感じてしまっていた。
(発達が完成された一形態としての性的サディズムではない)。
この事自体については同じ男性(=鑑定医)として同情を禁じ得ない。」
他の書物でも読みましたが、人間の脳においては性と暴力が同じ部位でつかさどられているそうです(嘆)。
(男性だけ?女性も??)
ともかく、法曹関係者(予備軍)にはおすすめです。
2007年2月24日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
著者は、神戸児童殺人事件の「少年A」の審判を担当した井垣康弘氏。
小宮信夫編著『安全はこうして守る』(ぎょうせい、2007年)の中にあった井垣氏の論稿読んで、より知りたいと思い読みました。
「少年A」だけではなく、井垣氏が出遭った数々の少年のエピソードが載っています。
実は、未成年だからといって「更生」ばかりを言う今の少年裁判のあり方には疑問を感じていました。
しかし、裁判官を退官後も弁護士として、裏切られても少年に伴走して立ち直りを支える井垣氏と周囲の人たちの姿には感動すら覚えました。
おすすめです。
小宮信夫編著『安全はこうして守る』(ぎょうせい、2007年)の中にあった井垣氏の論稿読んで、より知りたいと思い読みました。
「少年A」だけではなく、井垣氏が出遭った数々の少年のエピソードが載っています。
実は、未成年だからといって「更生」ばかりを言う今の少年裁判のあり方には疑問を感じていました。
しかし、裁判官を退官後も弁護士として、裏切られても少年に伴走して立ち直りを支える井垣氏と周囲の人たちの姿には感動すら覚えました。
おすすめです。
2010年12月12日に日本でレビュー済み
機会があって、少年院へ訪問したことがある。
少年院へ行く前は、少年院についてほとんど「非行を犯した少年が最終的に行くところ」くらいの認識しか持たず、少年たちとの交流も予定されていたため、訪問が若干怖いような気さえしていた。
しかし、たまたまかもしれないし、交流の機会を持ったのが退院間近な少年たちだったせいかもしれないが、少年たちはみな驚くほど礼儀正しく、素直で純粋で優しく、自分の言葉で率直に意見を述べ、正直「何でこんなにいい子たちが?」と彼らが少年院にいることさえ疑った。
でもそれは、彼らに言わせると「少年院に来れたから」だと言う。
また、少年院の方々も少年院退所後の少年の更生率の高さに自負を持っておられた。
では例の神戸の酒鬼薔薇少年は?
彼も少年院で立ち直ることができたのだろうか。
少年院では、少年の起こした犯罪、少年の個性に応じたきめ細やかな教育プログラムが組まれるというが、あの少年にはどのようなプログラムが組まれ、果たして彼は本当に立ち直ることができたのだろうか?
そんな疑問から本書を読んだ。
きっとそんな疑問に答えられるのは、「少年A」の審判を行った井垣裁判官だけではないだろうか。
少年Aに対する審判の決定書(判決文みたいなもの)に、井垣裁判官が「当分の間、落ち着いた、静かな、一人になれる環境に置き、一対一の人間関係の中で、愛情をふんだんに与える必要がある。」と書かれたように、審判に関係した者(裁判官、調査官、付添人弁護士、鑑定人)すべての人の一致した意見は、「もう一度少年Aを母親の子宮に戻した状態から再出発させ、人から愛されているという体験をさせようというものであった」そうだ。
そして、その方針に基づき、少年院において、「少年Aの生き直しを図る疑似家族が少年院に設定された」そうだ。
読んでいくうちに私は少年Aの更生を信じることができた。
少年Aのケースのほか、様々な少年に関するケースが紹介されている。
また、井垣裁判官ご自身の反省もケースとともに書かれている。
裁判官を定年退職された井垣裁判官の次世代の少年審判に携わる方への願いが込められたメッセージであろうと思う。
少年審判に携わる裁判官にはぜひ一度読んでいただきたい一冊。
少年院へ行く前は、少年院についてほとんど「非行を犯した少年が最終的に行くところ」くらいの認識しか持たず、少年たちとの交流も予定されていたため、訪問が若干怖いような気さえしていた。
しかし、たまたまかもしれないし、交流の機会を持ったのが退院間近な少年たちだったせいかもしれないが、少年たちはみな驚くほど礼儀正しく、素直で純粋で優しく、自分の言葉で率直に意見を述べ、正直「何でこんなにいい子たちが?」と彼らが少年院にいることさえ疑った。
でもそれは、彼らに言わせると「少年院に来れたから」だと言う。
また、少年院の方々も少年院退所後の少年の更生率の高さに自負を持っておられた。
では例の神戸の酒鬼薔薇少年は?
彼も少年院で立ち直ることができたのだろうか。
少年院では、少年の起こした犯罪、少年の個性に応じたきめ細やかな教育プログラムが組まれるというが、あの少年にはどのようなプログラムが組まれ、果たして彼は本当に立ち直ることができたのだろうか?
そんな疑問から本書を読んだ。
きっとそんな疑問に答えられるのは、「少年A」の審判を行った井垣裁判官だけではないだろうか。
少年Aに対する審判の決定書(判決文みたいなもの)に、井垣裁判官が「当分の間、落ち着いた、静かな、一人になれる環境に置き、一対一の人間関係の中で、愛情をふんだんに与える必要がある。」と書かれたように、審判に関係した者(裁判官、調査官、付添人弁護士、鑑定人)すべての人の一致した意見は、「もう一度少年Aを母親の子宮に戻した状態から再出発させ、人から愛されているという体験をさせようというものであった」そうだ。
そして、その方針に基づき、少年院において、「少年Aの生き直しを図る疑似家族が少年院に設定された」そうだ。
読んでいくうちに私は少年Aの更生を信じることができた。
少年Aのケースのほか、様々な少年に関するケースが紹介されている。
また、井垣裁判官ご自身の反省もケースとともに書かれている。
裁判官を定年退職された井垣裁判官の次世代の少年審判に携わる方への願いが込められたメッセージであろうと思う。
少年審判に携わる裁判官にはぜひ一度読んでいただきたい一冊。
2007年5月19日に日本でレビュー済み
少年審判について、多くの事例が書かれており、現代の少年犯罪を考えたり、
その処遇について考えたりなど、本書は様々な活用方法がある。
まず、始めに少年審判の流れについて説明してある。
聞いたことがある言葉であっても、その言葉の意味がよく分からないことが多い。
「不処分」「保護処分」「試験観察」などたくさんの言葉が出てくる。
この表では説明が分かりづらいと思うが、読み進めていくと事例などを通して
言葉の解説がついているので、おおよその言葉の意味は理解することができる。
「自動自立支援施設」という言葉はよく聞くが、言葉の意味が分からない。
どういった施設だろうか、と疑問を抱いたがこの用語についも理解できるようになっている。
「保護観察」という処分があるが、保護司と呼ばれる人が少年の世話をしている
ことがある。
保護司の真摯な姿勢には、ますます感心されされるばかりだと感じた。
少年が犯罪を犯したときに、どのような処分が適切か、裁判官、家裁調査官、
場合によっては鑑別所のスタッフなどが一丸となって考える。
思春期という難しい中で、今後の少年のことを考え適切な処分(処遇)を考えることは
非常に大切だということを痛切した。
少年犯罪が多く発生し、今の社会はどうなってしまったのかと考えてしまうことがある。
本書を読み、そういった問題についてより深く考える契機となることもあるだろう。
子どもに関わる人が読むといいと思う。
また、非行少年を減少させたいと思う人が読んでもいいと思う。
被害者と加害者、双方の視点で書いてあるところもあるので、
両方の視点から考えて読破することも有意義であろう。
その処遇について考えたりなど、本書は様々な活用方法がある。
まず、始めに少年審判の流れについて説明してある。
聞いたことがある言葉であっても、その言葉の意味がよく分からないことが多い。
「不処分」「保護処分」「試験観察」などたくさんの言葉が出てくる。
この表では説明が分かりづらいと思うが、読み進めていくと事例などを通して
言葉の解説がついているので、おおよその言葉の意味は理解することができる。
「自動自立支援施設」という言葉はよく聞くが、言葉の意味が分からない。
どういった施設だろうか、と疑問を抱いたがこの用語についも理解できるようになっている。
「保護観察」という処分があるが、保護司と呼ばれる人が少年の世話をしている
ことがある。
保護司の真摯な姿勢には、ますます感心されされるばかりだと感じた。
少年が犯罪を犯したときに、どのような処分が適切か、裁判官、家裁調査官、
場合によっては鑑別所のスタッフなどが一丸となって考える。
思春期という難しい中で、今後の少年のことを考え適切な処分(処遇)を考えることは
非常に大切だということを痛切した。
少年犯罪が多く発生し、今の社会はどうなってしまったのかと考えてしまうことがある。
本書を読み、そういった問題についてより深く考える契機となることもあるだろう。
子どもに関わる人が読むといいと思う。
また、非行少年を減少させたいと思う人が読んでもいいと思う。
被害者と加害者、双方の視点で書いてあるところもあるので、
両方の視点から考えて読破することも有意義であろう。
2007年11月12日に日本でレビュー済み
エピソードの羅列という構成にもかかわらず,淡白
な井垣の叙述にもかかわらず,本書は,とても強いイ
ンパクトを持っているように感じられます.それは,
いうまでもなく,神戸事件の核心的な,少なくとも最
もバイアスの緩い事実が,特別な誇張もなく並べられ
ているからです.他のエピソードも,少年司法,家事
事件の解決に重要な示唆を与える資料となって良いは
ずなのですが,その価値は,A少年の記述に押されて,
若干,見えにくくなってしまっているようです.
『少年裁判官ノオト』というコンセプトが貫かれて
いる,という見方もできるのかも知れません.けれど
も,仮にそのような企てがあったのだとしても,それ
は多くの読者に気付かれないまま,本書は,「A少年
の審判を綴った本」として,色分けされてしまうのだ
ろうと思います.結局のところ,落ち着きのなさが気
になってしまう,そんな読後感でした.星が1つ減っ
ている所以です.
もっとも,A少年に関する部分はもちろん,井垣が
詰め込んだいずれのエピソードも,そこに現れる彼の
思想も,内容においてこれほど優れたものに出会うこ
とは,そう多くはありません.少年事件の大枠を知り
たいという方の多くは,手続の詳細というよりは,
「家裁では,裁判官が何を語り,少年はどう応えるの
か」というところに関心を持っているのでしょうから,
そうしたニーズに応えるという意味でも,本書は貴重
な存在だといえそうです.
少年司法は,少年を甘やかしているのか,厳しさを
伴っているのか,あるいはそのような対立とは無縁な
のか,厳罰化が一段落したその後,保護主義への揺返
しが起こるその時まで,僕たちは,答え知っておかな
ければならないはずです.井垣の前に立った少年たち
が,そのヒントを与えてくれます.
な井垣の叙述にもかかわらず,本書は,とても強いイ
ンパクトを持っているように感じられます.それは,
いうまでもなく,神戸事件の核心的な,少なくとも最
もバイアスの緩い事実が,特別な誇張もなく並べられ
ているからです.他のエピソードも,少年司法,家事
事件の解決に重要な示唆を与える資料となって良いは
ずなのですが,その価値は,A少年の記述に押されて,
若干,見えにくくなってしまっているようです.
『少年裁判官ノオト』というコンセプトが貫かれて
いる,という見方もできるのかも知れません.けれど
も,仮にそのような企てがあったのだとしても,それ
は多くの読者に気付かれないまま,本書は,「A少年
の審判を綴った本」として,色分けされてしまうのだ
ろうと思います.結局のところ,落ち着きのなさが気
になってしまう,そんな読後感でした.星が1つ減っ
ている所以です.
もっとも,A少年に関する部分はもちろん,井垣が
詰め込んだいずれのエピソードも,そこに現れる彼の
思想も,内容においてこれほど優れたものに出会うこ
とは,そう多くはありません.少年事件の大枠を知り
たいという方の多くは,手続の詳細というよりは,
「家裁では,裁判官が何を語り,少年はどう応えるの
か」というところに関心を持っているのでしょうから,
そうしたニーズに応えるという意味でも,本書は貴重
な存在だといえそうです.
少年司法は,少年を甘やかしているのか,厳しさを
伴っているのか,あるいはそのような対立とは無縁な
のか,厳罰化が一段落したその後,保護主義への揺返
しが起こるその時まで,僕たちは,答え知っておかな
ければならないはずです.井垣の前に立った少年たち
が,そのヒントを与えてくれます.
2006年3月20日に日本でレビュー済み
著者が日本中を一ヶ月以上も震撼させたあの酒鬼薔薇聖斗の審判を担当し、「何を起きたのかを世に知らしめるべきだ」と決定を公表した裁判官であったことに何よりも興味をそそられます。
酒鬼薔薇と名乗って世間に挑戦状をたたきつけた少年Aは逮捕後、「静かなところで一人で死にたい」と語ったといいます。
著者はそれに「医療少年院送致」で更正の機会を与え、毎年面会しました。「無人島で暮らしたい」と徐々に生きるエネルギーを取り戻し、母親とも感情の交流を回復していく7年間の過程を見守っています。
その厳しくも温かい父親のような目に人間性を感じさせ、胸を熱くさせるものがありました。
酒鬼薔薇が本当に立ち直っているとしたら、そうした周囲の熱意が通じたからではないかとさえ思いました。
さらに言うなら、少年を酒鬼薔薇に変えてしまった根底には、やはり親子の絆の断絶、愛情の欠如があったのではないか、と。
誰も酒鬼薔薇の内面世界に入ることはできません。かと言って、犯罪者と一般人を単純に区切ってしまっては、酒鬼薔薇予備軍の心理を知ることも、少年犯罪の解決にも役に立ちません。
著者の姿勢には、犯罪を犯したとはいえ、成長する少年への深い人間的洞察と理解が一貫しており、少年犯罪仁いかに対処すべきかということをおのずと教えてくれます。
著者のキャリアも感動的です。酒鬼薔薇事件を扱ってから八年間も転勤を拒み、退官まで少年犯罪に関わっています。しかも、「井垣裁判官から送られてきた子供の更正への意欲回復は目を見張る」と現場から評価されていたといいます。
官僚化し、世間知らずの裁判官が多く、裁判制度の見直しが進んでいますが、少年審判の改善に本書が一石を投じることを期待したいものです。
酒鬼薔薇と名乗って世間に挑戦状をたたきつけた少年Aは逮捕後、「静かなところで一人で死にたい」と語ったといいます。
著者はそれに「医療少年院送致」で更正の機会を与え、毎年面会しました。「無人島で暮らしたい」と徐々に生きるエネルギーを取り戻し、母親とも感情の交流を回復していく7年間の過程を見守っています。
その厳しくも温かい父親のような目に人間性を感じさせ、胸を熱くさせるものがありました。
酒鬼薔薇が本当に立ち直っているとしたら、そうした周囲の熱意が通じたからではないかとさえ思いました。
さらに言うなら、少年を酒鬼薔薇に変えてしまった根底には、やはり親子の絆の断絶、愛情の欠如があったのではないか、と。
誰も酒鬼薔薇の内面世界に入ることはできません。かと言って、犯罪者と一般人を単純に区切ってしまっては、酒鬼薔薇予備軍の心理を知ることも、少年犯罪の解決にも役に立ちません。
著者の姿勢には、犯罪を犯したとはいえ、成長する少年への深い人間的洞察と理解が一貫しており、少年犯罪仁いかに対処すべきかということをおのずと教えてくれます。
著者のキャリアも感動的です。酒鬼薔薇事件を扱ってから八年間も転勤を拒み、退官まで少年犯罪に関わっています。しかも、「井垣裁判官から送られてきた子供の更正への意欲回復は目を見張る」と現場から評価されていたといいます。
官僚化し、世間知らずの裁判官が多く、裁判制度の見直しが進んでいますが、少年審判の改善に本書が一石を投じることを期待したいものです。