実務に通じた学者は職人である。本書は、良い意味で職人肌の著者による精神鑑定「よもやま話」である。
もはや「精神鑑定」という単語自体は珍しくなくなってきてはいるが、実際にどのような作業が行なわれているのかについては、大方の人にとっては見当がつかないのではないだろうか。本書は具体的な鑑定手順や、場合によっては鑑定受託者の煩悶等にも触れられており、興味深い。
恐らく、意識的に素人向きの体裁を採っているのであろう。司法精神鑑定のラフ・イメージを把握するための導入書としては、非常に有意義な書籍であると思う。
本書には心神喪失者医療観察法に関する言及もなされているが、今後、同法の運用面を含めて様々な議論のありうるところであり、この時期にこのような精神鑑定に関する一般向けの書物が著された意義は大きいと思う。
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