こんな凄いソリッドな本を中古の安い値段で買えたこと先ず感謝ですね そうですか初版から二十年以上経っていますか 宜なるかな此の持続 先行使用者が扉に落款（何々蔵書）を丁寧に押し亦奥付きには初版と同月の購入日を赤の細字で慎ましく記されている此の本、界を隔て感動をいま此処に引き継ぎます
本書表紙に大写しで装丁されている風信帖始めの「風」の起筆部、何此の引っ掛けは？と臨書するにいつも曖昧でした それに灌頂歴名に出てくる「人」、何此の海鼠のような第二画の厚み？ 下手ナ此れまこと空海の書？ わだかまっていたこんな疑念は本書に於ける筆者(石川氏)洞察の快刀振りに綺麗に霧散致しました 空海という刷り込まれた並知識しか持たなかった己れの貧しさをいま恥じます
空海書に見る上記の手鉤型起筆や海鼠型厚みは益田池碑銘の奇怪さと共に疑似中国を脱して日本的なものが胎動する初期の相であるとする筆者の分析は明晰ですね 空海に負う日本文化独立の根部を感動と共に改めて自覚できましたこと
本書が豊かなる所以は空海を中央に置いてたっぷり見せる以外にサラッと聖徳太子(法華義疏)、聖武天皇(雑集)、光明皇后(楽毅論)の書も大型本両開きの迫力で見せてくれていること、更に空海の後には最澄(久隔帖)、三筆の嵯峨天皇(光定戒牒)と橘逸勢(伊都内親王願文)の書も供覧してくれており相互の比較を容易にしていることでしょう 豪華です 三筆の橘逸勢の書についての石川分析は見事で日本人には内から湧き出てくるidentityを覚えさせますこと 有難う空海、有難うはやなり 本書のお陰で伊都内親王願文を改めてつくづく眺め、その「母」の波打つ横画、「故」の細太（なんと仮名的）、、、に感動を新鮮に致しました
本の後部には中西進「漢字の伝来と日本語表現」、古谷稔「聖武天皇と王羲之書法」等の学識論文も付けられていること本書の内容を厚くしています 充足感を残してくれる好著です
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