本書を読んで、初めてベケットをおもしろいと思いました。
冒頭でいきなり主人公が裸で椅子に縛られている、どうやら自分で自分を縛り付けたらしい、ところが自分でほどくことができず、駆けつけてきた婚約者にようやく助けられる。その滑稽でみじめな場面でおかしさのスイッチが入り、最後まで笑いながら読み通してしまいました。
この笑いはまさしく不条理な笑い。類例を挙げるとしたら、吉田戦車の「
伝染(うつ)るんです。 (1) (小学館文庫)
」をあげるのが一番わかりやすいでしょう。
このほかの初期作品、たとえば「
蹴り損の棘もうけ
」なども笑えます。
もっともベケットは読者に笑ってほしかったわけではないようで、「蹴り損の棘もうけ」は出版されたものの再販はゆるされなかったし、「モロイ」以降の3部作では、この種のユーモアが消えています。
いずれにしてもベケットのおもしろさを理解するには、この「笑い」という側面から入るのが最も手っ取り早い。
ノーベル賞作家などと思って身構えてしまうと、いつまでもこの人のおもしろさはわからないと思います。
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マーフィー 新装 単行本 – 2001/10/1
ダブリンとロンドンを舞台に、外的世界にうごめく異形の者たちに追跡され、自己の精神の小宇宙のなかに生きようとする人物の悲喜劇を描いた、ベケット文学の原点となった長編小説。
- 本の長さ332ページ
- 言語日本語
- 出版社白水社
- 発売日2001/10/1
- ISBN-104560047308
- ISBN-13978-4560047309
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商品の説明
内容(「MARC」データベースより)
ダブリンとロンドンを舞台に、外的世界にうごめく異形の者たちに追跡され、自己の精神の小宇宙のなかに生きようとする人物の悲喜劇。ベケット文学の原点となった長編小説。1971年刊の新装復刊。
登録情報
- 出版社 : 白水社 (2001/10/1)
- 発売日 : 2001/10/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 332ページ
- ISBN-10 : 4560047308
- ISBN-13 : 978-4560047309
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,267,470位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2004年5月12日に日本でレビュー済み
『マーフィー』に限らず、高橋康成一派が手がける翻訳はどれもこれもベケットの実情をうまく伝えているとはいいがたい。妙に「ユーモア」とかそういうものばかりを強調している。自分は原文も少し読んだが、三輪訳のほうがなんともいえず、ベケット版『ダブリン市民』ともいえるマーフィーの小説世界をよくつかんでいる。この小説はすごく描写が具体的で、その前の短編集『More Pricks than Kicks』なんかにも通じるところがある。とにかく、社会的・政治的背景を捨象したベケット批評はもう結構! ベケットの真のラジカリズムをつかみたい。
2001年11月27日に日本でレビュー済み
このページを読んでいる人に対し、今さら御託を並べる必要もないだろう。私はこの小説を読んで、ベケットはおもしろいということを思い出した。これは声を出して笑いながら読んでもいい小説なのだ。一行一行ごとに裏切られ、肩をすかされ、あまりの天衣無縫さに呆然とし、語り手のひねくれた物言いに首をひねらす。それでいて読むことをやめられない。むろん評価はさまざまだろうが、これほど圧倒的な笑いのエネルギーを秘めた小説は、ラブレー以降なかったのではないか。願わくは意味の病から逃れ、頭をすっからかんにして読んでほしいものだ。