ジム・クレイスの短編64話を収載した作品集。
作者はイギリス人。「四十日」や「死んでいる」で有名になった作家。短い作品
で1ページ、長い作品で10ページほど、多いのは5ページほどの作品であろう。
一つ一つの話は、食べ物のことがキーワードとなっている。缶詰、パン、レス
トラン、戸外での食事、リンゴ、にんにく、会員制クラブ、給仕の仕事、なす、
等々。
何とはなしに手に取り、知らない作家だったのでどういう作品を書く人かも分
からずに読んだ。各々の話には、ピンと辛いアイロニカルな作品が多い。
妙なことに驚いた。一般にアングロサクソン系の作家は、食べ物や食事シーン
に関して、実に淡泊で読み応えのあるシーンは期待していなかった。(危険な偏
見に繋がることもある言い方だが)「民族性」(「食」の快楽を求めない)によ
るのものか。
「食事を楽しむこと」自体を文化的に拒否しているのかとさえ思う。レストラ
ンや家での夕食のシーンでも、「美味しそう」に描写している作家に出会ったこ
とがない。ヘミングウェイにしても、食事の献立で凝ったものは出てこない。最
近の作家でも同じ、精々がイタリア料理を食べたというような簡略な説明のみ。
これとフランスのゾラやバルザックと比較すると、いかにも食事が貧しい。フラ
ンスの作家の食事シーンは濃すぎて胸焼けがするほどなのだが。
この「食糧棚」も、料理や食材自体のさほどの描写はなく、食自体の面白さも
薄いが、その食事や食材は物語の入り口(当たり前ですが)、そこから作者の発
想が思いがけない方向に飛び出す。結末は、どれもプツリと切れてしまうような
印象がある。それが作品をいわば「ストイック」なものとしていて、嫌な後味は
ない。
プリーモ・レーヴィの「周期律」から触発されたとあったが(解説)、レーヴ
ィの「周期律」は元素記号(亜鉛とか鉄とか)を冠した題名であり、ごく短い短
編集だと記憶している。「周期律」には、底流にどうしようもない寂しさや諦念
に似た辛さ、痛みを感じてしまい、ぽつぽつとしか読めなかった思い出がある。
まあ、レーヴィの生きた歴史を考えれば当たり前(アウシュヴィッツから奇跡的に
生還した人物)だろうが。
並々ならぬ力量がある作家なのだろう、世評の高い「死んでいる」をすぐに注
文した。 おすすめです。
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食糧棚 単行本 – 2002/5/1
グルメ堪能の究極メニューを召し上がれ。天使のパン、カレーNo.3、口笛チョップ、悪魔のきのこ……。『死んでいる』の英国作家が腕をふるう、欲望の《卑し》系小説集、64話の醍醐味!
【編集者よりひとこと】
作家ジム・クレイスは、『四十日』『死んでいる』の二作品の前に「明るいとは言えない四年間」を過ごしたという。その後に執筆された本書は、イタロ・カルヴィーノの『見えない都市』、プリモ・レーヴィの『周期律』からインスピレーションを得て、「少しは楽しいもの」を書きたいと考えていたようだが、とんでもない! 胃にドーンとこたえる、天下一品の味をご賞味あれ。
【編集者よりひとこと】
作家ジム・クレイスは、『四十日』『死んでいる』の二作品の前に「明るいとは言えない四年間」を過ごしたという。その後に執筆された本書は、イタロ・カルヴィーノの『見えない都市』、プリモ・レーヴィの『周期律』からインスピレーションを得て、「少しは楽しいもの」を書きたいと考えていたようだが、とんでもない! 胃にドーンとこたえる、天下一品の味をご賞味あれ。
- 本の長さ221ページ
- 言語日本語
- 出版社白水社
- 発売日2002/5/1
- ISBN-104560047464
- ISBN-13978-4560047460
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商品の説明
内容(「MARC」データベースより)
天使のパン、口笛ポークチョップ、目隠しパイ、靴シチュー、悪魔のきのこ…究極メニューを召し上がれ。「食」を題材に想像力という食欲を満足させる、濃厚な味わいの64編。
登録情報
- 出版社 : 白水社 (2002/5/1)
- 発売日 : 2002/5/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 221ページ
- ISBN-10 : 4560047464
- ISBN-13 : 978-4560047460
- Amazon 売れ筋ランキング: - 687,450位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
著者について
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2020年4月7日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
初めて読んだジムクレイスの作品が「死んでいる」で、あまりの衝撃にこちらを読みましたが、印象はだいぶ異なります。
特に短編集なので「なんの話だろうか」と思うこともあるけれど、なんとなく言葉遣いが好きなので買って後悔はしていません。
特に短編集なので「なんの話だろうか」と思うこともあるけれど、なんとなく言葉遣いが好きなので買って後悔はしていません。
2003年4月10日に日本でレビュー済み
恐怖やグロテスクさやおかしみや悲しみや郷愁が,読後にじんわりと,ぼんやりと残る不思議な作品。一行一行噛みしめるように読みました。ただし,「おいしそう~」という話はありません。電車で読んでいるとついつい吐き気がします。