この本は、装丁家の菊地信義さん関連で興味を持った。
2020年に菊地氏の作業をテーマにしたドキュメンタリー映画が制作・公開され、
それと連動した形で、自分の中での彼への興味・関心が再燃した。
情報検索する中で、菊地氏が、この著者の本を集中的に担当し、その仕事について
言及するケースを何度か目にし、実物を見てみたいと思った。
特にアマゾン説明文にある「菊地信義の、この作家へのオマージュともいえる装幀」という言葉が気になった。
あの菊地さんが「オマージュを捧げた装丁をする」というのはどういったものなのか。
ネット情報で説明を読んだが、今ひとつよくわからなかった。
手にしてみて、上記アマゾンの文章はちょっと意味が違う、表現が正確ではないことがわかった。
この本は幾重にも独特の工夫・仕掛けが施されている。
カヴァーには書名が大きく天地いっぱいに右隅にレイアウトされ、著者名は金の箔押しで「の」の横に
小さく置かれている。菊地氏のトレードマークとも言える”著者名の英語表記”はない。
これだけでも彼にとって、この本が、特別なものであることがわかる。
このカヴァー表面だけでもユニークだが、背を見るとさらに驚く。
カヴァー表面と同じ大きな級数で、書名が背の左右上下いっぱいにあり、
著者名・出版社名は、ほとんど識別できないほど小さい。
これはどういうことか。それは署名そのものに答えがある。「孔雀の羽の目」。孔雀が羽をいっぱいに
広げた時、その美しい羽の模様が、目に見えた。という著書中に書かれている内容に呼応している。
本の背と正対した時、私たちは、背いっぱいにある「孔雀の羽の目がみてる」という文字に、見られている。
さらには普通、本文下の外側に配置されるノンブルも、中央付近にある。
これも本文を読み進み、一篇を読み終わった時に、本文が外側にあるノンブルに囲まれていないので、
読んだ内容が、外に漏れ広がっていくような感覚になる。
この本を読むことは、かなりなまなましく露出した菊地氏の企みを、読む・味わうという体験になる。
そうしたいくつもの「たくらみ」の中で、最もユニークなのは、約200ページ分の量がある本体部分(本文紙)と
その外側(本体ハードカヴァーというのか)との間に、8mmの間隔が空いていることだろう。
ソフトカヴァーなら、その間隔はゼロだし、ハードカヴァーでも通常3mm程度。
『孔雀の〜』は、倍以上それを取っている。
菊地氏は装丁する場合、その作品内容を彼流に解釈し、最も適切な理解をした上で、
それを表現(ブックデザイン)に落とし込む。その「正確な理解と表現」が形になったのが、これらの工夫。
それはオマージュなどではない。では彼は作品内容をどう理解し、これを行ったのか。
彼は、「本を広げたときに、本文が一気に目に入ってくるようにしたかった」というような発言をしている。
開けたときに、一気に本文が目に入ってくるなら、本紙の余白をそのように取ればできる。しかしそれでは
この著者のこの本の特質を十分に表せていない、と彼は思った。それはどういうことか。
本文を読んでみると、散文(エッセイ)だが、読んでいくと、読点で区切られた文が、詩のようなものに
感じられてくる。内容は日常生活の出来事(友人との外出、博物館見学、庭先で見かけた虫など)を、
難解なところのない語彙で記述していく。だが著者の純度の高い感受性が、それを普通のエッセイと区別する。
菊地氏はこの点に敬意を払った。ほとんどチャイルディッシュっと言いたくなるほどの純度の高さ。
それは「大人の顔つきの普通の本」ではそぐわない。
そこで上述したような特殊な造形となった。
すると確かにこの本は、どこか児童書のような顔つきになる。なぜなら本文紙とその外側にある程度以上の
差があることで、大と小の関係・区別が生まれるから。そのため通常よりは本文級数が大きく設定されている。
この本を読んでいると、PCから出力された著者の原稿を見ている(読んでいる)菊地さんの姿が浮かんでくる。
そして自分が感じ取っているものの特殊さを、愛しんでいるような表情も。本のたたずまいはかなり静かだが、
そうとう過激な、大胆な実験作であることがわかる。
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孔雀の羽の目がみてる 単行本 – 2004/8/1
蜂飼 耳
(著)
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中原中也賞受賞の現代詩界のホープが、身の回りの情景や心震わす書物を、鋭く澄んだ目で見据え、繊細で鋭敏な五感と言葉でつづった待望のベストエッセイ集。
- 本の長さ198ページ
- 言語日本語
- 出版社白水社
- 発売日2004/8/1
- ISBN-104560049955
- ISBN-13978-4560049952
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商品の説明
出版社からのコメント
平成12年に処女詩集『いまにもうるおっていく陣地』で第5回中原中也賞を受賞し、めきめきと頭角をあらわした現代詩のホープによる、はじめてのエッセイ集。 日常という扉の向こうに広がる光景、出来事、生きものなどについての、繊細でありながら鋭いまなざしや、さりげなく丁寧に選ばれたことばがページをめくるごとにきらめいており、いとおしいものに~~目を凝らし、耳を澄ませる作者の姿勢がこころよく伝わってくる。 また対象となる事物や人、たとえば愛着のある作家であったり、祖母をはじめとする家族であったり、あるいはただ偶然すれ違っただけの誰かであったりなどへの、静かな愛情や敬意に支えられた、少し遠慮気味な距離感が、ことばに対するアンビヴァレントな思いや誠実さを感じさせている。 ~~「子どものころ、近くの公園に孔雀がいた。くるりとひと回りするほどの広さしかない檻のなかで孔雀は尾羽を引きずり、もてあましているように見えた。羽を開くところを見たい。そう思い呼びかけるが、孔雀はつまらなさそうだった。ある日、孔雀は怒った。突然ぱあっと開いた羽の先に模様の目がいくつもならんだ。いくつもならんでいっせいに見た。この瞬間を~~憶えておこうと思った」(本文より) 菊地信義の、この作家へのオマージュともいえる装幀が本書をひときわきわだたせ、上質なエッセイを求める読者に、書物をひもとく期待感をふくらませている。
登録情報
- 出版社 : 白水社 (2004/8/1)
- 発売日 : 2004/8/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 198ページ
- ISBN-10 : 4560049955
- ISBN-13 : 978-4560049952
- Amazon 売れ筋ランキング: - 630,522位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 10,087位近現代日本のエッセー・随筆
- - 60,620位ビジネス・経済 (本)
- カスタマーレビュー:
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上位レビュー、対象国: 日本
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2020年6月2日に日本でレビュー済み
2010年10月16日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
蜂飼 耳さんの文章は、いつ読んでも心が洗われます。
本書は、あとがきに「1は、日常という扉の向こうにひろがる光景、出来事、生きものなどについて。2は読書エッセイ、本をめぐる文章。3には旅その他、靴を履き出かけていった先で出会ったことなどを収めた。」と記されているとおり、蜂飼 耳さんのいろいろな文章が堪能できるのですが、私がとりわけすばらしいと思ったのは、1に集められた文章。
日常の何気ない事柄なのに、「著者の目をとおすとこんなふうに見えるのか」と感心します。
そして、静かでひんやりとした空気が心を満たし、静かな共感がわいてきます。
最近は、本書のように、心が静まり、しみじみ共感できる本は少なくなりました。
騒々しくほこりっぽい世の中から、いっとき離れられる貴重な本です。
本書は、あとがきに「1は、日常という扉の向こうにひろがる光景、出来事、生きものなどについて。2は読書エッセイ、本をめぐる文章。3には旅その他、靴を履き出かけていった先で出会ったことなどを収めた。」と記されているとおり、蜂飼 耳さんのいろいろな文章が堪能できるのですが、私がとりわけすばらしいと思ったのは、1に集められた文章。
日常の何気ない事柄なのに、「著者の目をとおすとこんなふうに見えるのか」と感心します。
そして、静かでひんやりとした空気が心を満たし、静かな共感がわいてきます。
最近は、本書のように、心が静まり、しみじみ共感できる本は少なくなりました。
騒々しくほこりっぽい世の中から、いっとき離れられる貴重な本です。
2008年2月27日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
エッセイ集。第一章は日常について、第二章は本について、第三章は旅について書かれている。
デティールの捉え方がものすごくまっすぐだ。その素直な視線に、毎日目にしているものが自然にまかせて成り立っていることを知らされる。それぞれがそれそれの意思を持ちながら。
旅に出てもそこは異国で、無理をして自分をねじこめようとしていない。あくまでも自然体である。とことん清清しい。
こんな日常を過ごしていけたらと思う。
デティールの捉え方がものすごくまっすぐだ。その素直な視線に、毎日目にしているものが自然にまかせて成り立っていることを知らされる。それぞれがそれそれの意思を持ちながら。
旅に出てもそこは異国で、無理をして自分をねじこめようとしていない。あくまでも自然体である。とことん清清しい。
こんな日常を過ごしていけたらと思う。
2004年9月3日に日本でレビュー済み
何でもないような日々の出来事でも、鋭敏な感受性をもってすればこんなにも色濃く鮮やかなものとして浮かび上がってくるのだ!
この本を読むと、蜂飼さんの詩人メガネをちょっと拝借することができる。
まるで初めて訪れた国にいるように目に映るもの、手に触れるものがどれも新鮮でうきうきと高揚してくる。
いっぺんに読んでしまうのはなんだかもったいなくてパラパラと少しずつ読んでいる。
お昼休みにひとつ。寝る前にひとつ。
この本を読むと、蜂飼さんの詩人メガネをちょっと拝借することができる。
まるで初めて訪れた国にいるように目に映るもの、手に触れるものがどれも新鮮でうきうきと高揚してくる。
いっぺんに読んでしまうのはなんだかもったいなくてパラパラと少しずつ読んでいる。
お昼休みにひとつ。寝る前にひとつ。