注目したいのは、この一書が1974年に公にされたことである。この《異貌の人文学》叢書の監修者である高山宏氏が言及していないのが不思議でしょうがないのだが、ここで言われる“危機の時代”とは、(すべてではないにしろ)カウンター・カルチャーの時代をもさしていると思われる。少なくとも、読者に想定されている者のなかにカウンター・カルチャー以降の世代が含まれていることは間違いない。例えば、次のような個所。
「それは<荒れ狂っている>世代の目には見通すことができない。和解可能と理性の放棄との分岐点に立っているこのかくも動的な世代の代表者たちは、そのすべてではないとしてもすくなからぬ部分が幻覚剤的陶酔に逃避し、極左もしくは極右の新たな非合理的攻撃に逃避した。秩序の諸力の鈍磨といわれる社会管理者たちの愚鈍にたいする幻滅に起因するこの自己破壊衝動の一局面においてしかし、この世代の多くの者は、彼らの父や祖父の代がおそろしい結果をもたらした不完全な権力を<美しい>装飾で飾り立てたのにひきかえ、かならずしも旧世代より犬儒的シニックではない。精神も教養もない、見せかけの<敬神家>ぶった良識家たちの欺瞞的な偽善はとうの昔から芬々たる腐敗の悪臭をまき散らしている」と。これは、「<二元に分裂した>現存在から<和解した>現存在にいたる道」を探ろうとする思索のなかで出てきた若い世代へのシンパシーである。しかし、ここからが凄い。「とはいえこのことは、かかる先行世代の人びとのなかに一人として<灯台>(ボードレール)が存在しなかったということを意味するものではない(本気でそんなことを言わなければならないのだろうか!)。したがってどんな歴史にもせよ歴史の<回避>は完全な誤謬であり、かならずしも<プラグマチズム>一点張りではない、思考や知や知識を<避けて通ること>は完全な間違いであるだろう。それどころか強力に集中され、熟慮を重ねた精神のエネルギーを展開することがいまこそかつてなく必要であろう」。エクスクラメーション・マークが出てくるのも、このあたりだけだ。珍しくやや興奮気味なのだ。そして、個人的にもっとも感銘を受けた逸話が登場する。「かならず、一つの対立の番つがいからはあの「第三の」、論争を超脱した真理が生まれてくるはずであろう。それかあらぬか、ヨーロッパ盛期中世から晩期ルネッサンスにいたるまでのもっとも重要な大学であったパドヴァの大学では、正講義を行う教授一人にかならず対立意見の持主たる(競争者的)教授(識者)の席を置くことが承認された」!これは、まさにグスタフ・ルネ・ホッケからの大学教育への提起でさえある。「孤立は、何よりも若い世代に新たな信頼への根拠を支えるために、克服されなければならない」。だからこそ、「イデア‐芸術の組み合わせ術アルス・コンビナトリア」は重要性を帯びてくるし、<彼《人間》を何よりも他の生物から際立たせている能力こそは、直接的感覚的な所与を立ち越える超把握(であり)、広大な連関の認識(である)。この能力は、人間が言語を操って思考する生物の共同体に根拠を置いているところに由来している>というヴェルナー・ハイゼンベルクの言葉も生きてくる。ホッケの口吻を伝えよう。「これは確信の言葉である!ここにも不一致の一致を求める志向、物質的世界解釈と精神的世界解釈の<総合>をもとめる志向があるのだ!」エクスクラメーション・マーク2個分だッ!「人間は善においても悪においてもたえず新たに蘇る意外性の生物でもあるのだ」。こんな言葉を吐く大学教授なんて皆無だろうな。グスタフ・ルネ・ホッケーこの人は最高の学者だけでなくして、最高の教師でもあると思う。
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絶望と確信: 20世紀末の芸術と文学のために (高山宏セレクション〈異貌の人文学〉) 単行本 – 2013/3/22
グスタフ ルネ ホッケ
(著),
種村 季弘
(翻訳)
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言い古された「危機の時代」。暴力と薬物耽溺、自殺と格差、飢餓と環境破壊。そして危機なればこそ希望の光もさぐられる大いなる逆説。危機の時代をマニエリスムの世界と捉え、分断が総合への夢を紡ぐ奇妙なダイナミズムを美術や文学に見てきた稀代の見者がついに真向う正面から近現代の哲学と宗教を舞台に問う。悩む力はマニエリスムのみが可能にする究極の希望の原理、希望の神学なのだ。 高山宏(本書解説より)
二十世紀後半、時代は「不安と希望」から「絶望と確信」の局面に入った。核の恐怖が人類の頭上を覆い、環境破壊や人口爆発の脅威が現実化するなか、人々は精神的に根なし草となり、薬物依存とノイローゼが蔓延、不安は絶望へと転化した。一方で一面的なイデオロギーの解体と普遍主義の台頭、科学の進歩は、希望を超えた新たな確信を生み始めてもいる。かつて人類が経験したことのない破壊的な諸力と構成的な諸力が繰り広げる死闘を、我々は日々目撃している。この新しい世界舞台の上で、人間はどのような役を演じるのか。『迷宮としての世界』『文学におけるマニエリスム』で、マニエリスムを後期ルネサンス美術に固有の現象ではなく、歴史上に繰り返し出現する精神史的「常数」とし、文化史の革命的書き換えを行なったホッケが、その方法論を現代の芸術・文学・思想に適用。カミュ、セリーヌ、カフカ、フロイト、ユング、ユンガー、トインビー、ブロッホ、ブルトン、ジュネ、ハックスレー、イオネスコ、クレー、クロソウスキー、ソルジェニーツィン等々、その顔触れは多岐にわたる。終末へと向かう二十世紀の「ネオ・マニエリスム」を論じて、絶望から確信へ至る道を探った警世の書。
二十世紀後半、時代は「不安と希望」から「絶望と確信」の局面に入った。核の恐怖が人類の頭上を覆い、環境破壊や人口爆発の脅威が現実化するなか、人々は精神的に根なし草となり、薬物依存とノイローゼが蔓延、不安は絶望へと転化した。一方で一面的なイデオロギーの解体と普遍主義の台頭、科学の進歩は、希望を超えた新たな確信を生み始めてもいる。かつて人類が経験したことのない破壊的な諸力と構成的な諸力が繰り広げる死闘を、我々は日々目撃している。この新しい世界舞台の上で、人間はどのような役を演じるのか。『迷宮としての世界』『文学におけるマニエリスム』で、マニエリスムを後期ルネサンス美術に固有の現象ではなく、歴史上に繰り返し出現する精神史的「常数」とし、文化史の革命的書き換えを行なったホッケが、その方法論を現代の芸術・文学・思想に適用。カミュ、セリーヌ、カフカ、フロイト、ユング、ユンガー、トインビー、ブロッホ、ブルトン、ジュネ、ハックスレー、イオネスコ、クレー、クロソウスキー、ソルジェニーツィン等々、その顔触れは多岐にわたる。終末へと向かう二十世紀の「ネオ・マニエリスム」を論じて、絶望から確信へ至る道を探った警世の書。
- 本の長さ430ページ
- 言語日本語
- 出版社白水社
- 発売日2013/3/22
- ISBN-104560083037
- ISBN-13978-4560083031
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商品の説明
著者について
グスタフ・ルネ・ホッケ Gustav René Hocke(1908-1985)
ドイツの文化史・美術史家。ブリュッセル生まれ。ベルリン大学、ボン大学で学び、E・R・クルチウスに師事。新聞社の通信員としてローマに赴任、ジャーナリストとして活躍しながら、専門研究と小説の執筆に勤しむ。『迷宮としての世界』(1957、岩波文庫)、『文学におけるマニエリスム』(1959、平凡社ライブラリー)で、マニエリスム現象の分析を通して西欧精神史の隠れた底流を明らかにした。その他の邦訳に、『ヨーロッパの日記』(1963、法政大学出版局)、小説『マグナ・グラエキア』(1960、平凡社)もある。
訳者:種村 季弘(たねむら すえひろ)
1933年生まれ。東京大学文学部卒業。國學院大學教授。2004年没。著書に『ナンセンス詩人の肖像』(筑摩書房)、『壺中天奇聞』(青土社)、『魔術的リアリズム』(ちくま学芸文庫)、『謎のカスパール・ハウザー』(河出文庫)、《種村季弘のネオ・ラビリントス》全八巻(河出書房新社)、訳書にホッケ『迷宮としての世界』(共訳、岩波文庫)、『文学におけるマニエリスム』(平凡社ライブラリー)、バルトルシャイティス『アペラシオン』(共訳、国書刊行会)、ホーフシュテッター『象徴主義と世紀末美術』(美術出版社)他、多数。
ドイツの文化史・美術史家。ブリュッセル生まれ。ベルリン大学、ボン大学で学び、E・R・クルチウスに師事。新聞社の通信員としてローマに赴任、ジャーナリストとして活躍しながら、専門研究と小説の執筆に勤しむ。『迷宮としての世界』(1957、岩波文庫)、『文学におけるマニエリスム』(1959、平凡社ライブラリー)で、マニエリスム現象の分析を通して西欧精神史の隠れた底流を明らかにした。その他の邦訳に、『ヨーロッパの日記』(1963、法政大学出版局)、小説『マグナ・グラエキア』(1960、平凡社)もある。
訳者:種村 季弘(たねむら すえひろ)
1933年生まれ。東京大学文学部卒業。國學院大學教授。2004年没。著書に『ナンセンス詩人の肖像』(筑摩書房)、『壺中天奇聞』(青土社)、『魔術的リアリズム』(ちくま学芸文庫)、『謎のカスパール・ハウザー』(河出文庫)、《種村季弘のネオ・ラビリントス》全八巻(河出書房新社)、訳書にホッケ『迷宮としての世界』(共訳、岩波文庫)、『文学におけるマニエリスム』(平凡社ライブラリー)、バルトルシャイティス『アペラシオン』(共訳、国書刊行会)、ホーフシュテッター『象徴主義と世紀末美術』(美術出版社)他、多数。
登録情報
- 出版社 : 白水社 (2013/3/22)
- 発売日 : 2013/3/22
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 430ページ
- ISBN-10 : 4560083037
- ISBN-13 : 978-4560083031
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,251,189位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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