以前『真理の山』や『ヴォルプスヴェーデふたたび』を読んだときの楽しさをまた味わいたいと思い、手に取りました。
ユングに心酔したアメリカ人大富豪夫婦が、アメリカにユング思想を普及すべく設立した基金と叢書を巡る大パノラマという趣の本です。
関係者総覧という感じの叙述なので、各人に関して掘り下げて論じられていないきらいはあるものの、読んでいると意外なところで思いがけない名前に出会うのが面白く（たとえば私の場合はイーヴﾞリン・ウォーやエリアス・カネッティ）、あっという間に読み終えてしまいました。
個人的に面白かった部分は、エズラ・パウンドに賞を出したことで持ち上がったスキャンダルと、『エヴゲーニー・オネーギン』の翻訳を出す際にナボコフが示した頑固さとそれで生じたトラブルの数々でした。
考古学や神話学とも連動しながらシンボリックなイメージを追うオカルト人文科学に石油資本の巨大財閥の豊富な資金援助がなされ、『永遠回帰の神話』や『千の顔を持つ英雄』などの名著が生まれた、というアメリカらしいスケールの夢物語です。
最近、四方田犬彦著『先生とわたし』を読んだので、コールリッジの『ノートブック』出版の顛末を書いた部分で、由良君美の名がしきりと思い浮かびました。とにかくやたらとたくさんの人物が登場するので、20世紀の人文科学に思いが残っている人であれば、どこかでひっかかる記述に出会うのではないかと思います。
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