本書は
アイルランド最大の総合大学
ユニヴァーシティ・カレッジ・ダブリン(UCD)で
現代史の教授ならびに
戦争センター長を務める
ロベルト・ゲルヴァルト教授(1976-)による
『ヒトラーの絞首人 ハイドリヒ』
(白水社 2016)です。
底本は
Robert Gerwarth,
"Hitler's Hangman:
The Life of Heydrich",
2011,Yale University Press
訳者:宮下嶺夫氏(1934-)です。
著者のゲルヴァルト教授はドイツ人ですが
書名が英語であり(おそらく)
本文も英語であろうと思われます。
ラインハルト・ハイドリヒ(1904-1942)は
ドイツ第三帝国(ナチスドイツ)における
国家保安本部(RSHA)長官であり
「ベーメン・メーレン」(ボヘミア・モラヴィア)
保護領副総督を務めたナチ幹部です。
もし戦後まで生き延びたならば100%確実に
絞首刑になっていたであろう戦争犯罪人です。
公安部門に限定すれば
①ヒトラー(1889-1945)=総統
②ヒムラー(1900-1945)=全国SS長官
③ハイドリヒ=RSHA長官
の順になるので第三帝国内で
ナンバースリー(第三の男)に相当します。
国家保安本部(RSHA)は
旧ソ連のKGBにも匹敵(凌駕?)する
国家内の国家と呼ばれる巨大な組織です。
その傘下に
・ゲシュタポ(国家秘密警察)
・SD(親衛隊保安本部)
・クリポ(刑事警察)
・国外諜報部
などがありました。中でも
・ゲシュタポ B-4 課は
ユダヤ人の大量虐殺(ホロコースト)に
従事したセクションです。その課長が
『イエルサレムのアイヒマン』で有名な
アドルフ・アイヒマン(1906-1962)です。
ゲシュタポのトップは
「ゲシュタポ・ミュラー」こと
ハインリヒ・ミュラー(1900-1945? 未確認)
でした。
ラインハルト・ハイドリヒは
悪名高きナチの要人の中でも
変わった特徴を持っています。
例えば
①もしナチ体制が続いていたならば
ヒトラーの後継者になっていただろう
と言われるナチ幹部です。
②連合軍側が暗殺を試み
かつ成功した唯一のナチ幹部です。
③現在に至るまで学問的な評伝が
書かれなかった唯一のナチ幹部です。
①について補足します。
‥第三帝国は千年続くと豪語していましたが
実際には12年しか続きませんでした。
12年も続いたと言うべきでしょうか。
ヒトラーの後継者としては
ルドルフ・ヘス(1894-1987)や
ヘルマン・ゲーリング(1893-1946)
の名前が公式に挙がりましたが
ヘスは英国に単独飛行し
ゲーリングは土壇場でヒトラーを裏切り
すべての官位を剥奪されました。
実際に後継指名されたのは
後継大統領が海軍司令長官の
カール・デーニッツ(1891-1980)
後継首相が国民宣伝啓蒙大臣
ヨーゼフ・ゲッベルス(1897-1945)
でした。「ミニスター」ことゲッベルスは
ヒトラーのあとを追って自殺した
ほぼ唯一のナチ幹部です。
従ってデーニッツは後継大統領として
無条件降伏の手続きにあたりましたが
ゲッベルスは何もしていません。
ノーベル文学賞(1929)を受賞した
トーマス・マン(1875-1987)は
ナチに追われて亡命を余儀なくされた
ドイツ生まれの作家です。
マンはハイドリヒを
ヒトラーの「絞首人」と呼びました。
ハイドリヒはまた「金髪の野獣」とも
呼ばれました。
さらに第三帝国内では
「HHhH」つまり
「ヒムラース・ヒルン・ハイスト・ハイドリヒ」
とささやかれました。
いろいろな訳し方がありますが
「ヒムラーの頭脳。人呼んでハイドリヒ」
「ヒムラーの頭脳すなはちハイドリヒ」
「ヒムラーの脳みそは実はハイドリヒなんだよ」
「ヒムラーの頭脳はハイドリヒと呼ばれる」
くらいの意味になります。
上司のヒムラーよりもハイドリヒの方が
野心むき出しで(悪魔の)仕事もよくできたので
ハイドリヒがヒムラーを追い越して
ヒトラーの後継者になるだろう
という含意の略称が「HHhH」です。
それを本のタイトルにしたのが
フランスの作家
ローラン・ビネ氏(1972-)です。
ビネ氏の『HHhH』
(原著 2009 Grasset)
(邦訳 東京創元社 2013)は
ゴンクール賞の新人部門
(直訳すれば処女小説部門)
を受賞しました。
②について補足します。
‥1942年5月27日
プラハ市内の道路で
オープンカーのベンツで
通勤途中だったハイドリヒは
在英チェコスロバキア亡命政府軍の
ヨゼフ・ガプチークと
ヤン・クビシュに襲撃されます。
ステン機銃は不発でしたが
手投げ(ころがし?)式の爆弾が爆発
ハイドリヒは負傷、入院します。
8日目の6月4日未明
「敗血症」のため死亡しました。
ベンツのシートに使われていた
馬の毛が爆発によって体内に入り
血液の中で細菌が爆発的に増殖して
「敗血症」を起こしたと考えられています。
それを治療するのはペニシリン
すなはち現在で言う抗生物質ですが
英国にはありましたがこの時点で
ドイツにはありませんでした
(少なくとも治療に十分なほどはなかった)。
ちなみに
この2年後にあたる1944年
ようやく日本でもペニシリンの開発に成功し
「碧素」(へきそ)と命名されました。
またハイドリヒの死因は
英国製の爆弾に猛毒の
「ボツリヌス菌」が仕込んであった
のが原因ではないかとする説もあります。
いずれにせよ
ハイドリヒは連合側が暗殺に成功した
唯一のナチの幹部です。
北アフリカでは
英国軍の「コマンドウ」が
ドイツアフリカ軍団(DAK)の
ロンメル将軍(1891-1944)
の暗殺ないし拉致を試みましたが
居場所の情報が間違っていて
失敗に終わりました。
連合国側が
ハイドリヒを暗殺の対象に選んだのは
「ベーメン・メーレン」保護領副総督だった
ハイドリヒの徹底した「アメとムチ」政策が
奏功していたからです。
総督フォン・ノイラート男爵(1873-1956)は
ヒトラーの怒りを買って
強制的に「病気療養中」でしたから
副総督ハイドリヒの独裁体制でした。
ハイドリヒは
反体制派をかたっぱしから大量に逮捕・処刑し
その一方で労働者の待遇は改善しました。よって
「ベーメン・メーレン」つまりチェコの
軍需工業生産は劇的にV字回復していました。
ハイドリヒ暗殺のほぼ1年前に始まっていた
独ソ戦はまだドイツ軍有利で
チェコで生産された武器を大量投入すれば
ソ連が征服されるのは時間の問題
とも考えられていました。
ソ連が降伏すると英国は一国となるので
それだけは避けたい英国の意向もあり
日米開戦(1941年12月)以前の早い段階から
ハイドリヒ暗殺は英国主導で
計画立案されていたと言われます。
首尾よくハイドリヒは死にました。
後任の保護領総督は順に
クルト・ダリューゲ(1897-1946)
ヴィルヘルム・クリック(1877-1946)
が務めますが
実権は保護領ナンバーツーの
カール・フランク(1898-1946)
がずっと握っていました。
フランクは地元ボヘミア(ベーメン)
カールスバート出身でそこで
書店を経営していましたが
ドイツのナチ党からスカウトされ入党し
SS(親衛隊)大将まで昇りつめました。
もちろん戦後、死刑を宣告され
プラハのパンクラーツ刑務所中で
公開処刑(絞首刑)されました。
歴史的に記録映像も残されているので
検索するとご覧になることができると思います。
③について補足します。
‥これまでハイドリヒに関する
学術書はありませんでした。
最大の理由は一次史料がなかったからです。
1942年に死んでしまっているし
国家保安本部(RSHA)は
改変を繰り返して巨大な組織になりましたから
実態を正確にとらえるのが
たいへんだったからと言われます。
昨今、一次資料が発見されるようになり
ようやく学術的な研究所が上梓されました。
それが本書です。
ハイドリヒの研究が進まなかった
もうひとつの理由は心理的なものです。
「犯罪人」がそろったナチの幹部の中でも
ケタ違いに冷酷で野心が強かったため
他のナチ幹部からも嫌われていました。
武装SS(ヴァッフェンSS)の育ての親
「ゼップ・ディートリヒ」将軍こと
ヨーゼフ・ディートリヒ(1892-1966)は
ハイドリヒの訃報に接して
「あの豚もやっとくたばったか」
と言ったそうです。
あとは推して知るべしです。
一般にハイドリヒの人生を知るにつれて
やりきれなさが重くのしかかって来る
のではないかと推測されます。
そういうハイドリヒを記述するに際し
著者のゲルヴァルト教授は
次の3つの方針をとりました。
1)ハイドリヒの生涯を
批判的な距離をもって再構成する。
2)歴史を遡及的に解釈することはしない。
3)歴史学者の役割を戦犯法廷の検察官の役割と
混同することはしない。
‥です。
本書は本文448ページの大著です。
それに
・冒頭の口絵写真(20葉)
・増田好順氏による「解説」
・「訳者あとがき」
・「口絵写真クレジット」
・「参考文献」
・「人名索引」
がついています。
研究所として充実した内容です。
歴史に興味があるすべてのみなさまに
本書をお勧めいたします。
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ヒトラーの絞首人ハイドリヒ 単行本 – 2016/11/25
ロベルト・ゲルヴァルト
(著),
宮下 嶺夫
(翻訳)
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《「ユダヤ人絶滅政策」を推進した男の素顔に迫る》
ホロコーストの悪名高い主犯の生涯。
トーマス・マンに「絞首人」と呼ばれ、「ユダヤ人絶滅政策」を急進的に推進した男の素顔に迫る。最新研究を踏まえた、初の本格的な評伝。地図・口絵写真多数収録。解説=増田好純
*口絵16頁
トーマス・マンに「絞首人」と呼ばれ、「ユダヤ人絶滅政策」を急進的に推し進めた、ラインハルト・ハイドリヒの素顔に迫る、初の本格的な評伝。戦間期と第二次大戦に至る欧州史の概観の中で、「絞首人」の軌跡を追い、ナチの人種政策、東欧占領政策の形成と展開、ナチ支配体制内部の陰湿な抗争、国防軍との競合も精細に描かれる。
ハイドリヒは1942年、在英チェコ亡命政府と英国が送り込んだ工作チームによってプラハ郊外で暗殺される。ベルリンでの大々的な葬儀で、ヒトラーは故人を称えたが、チェコ全土には戒厳令が敷かれ、レジスタンスや民間人にも残忍な報復が行われた……。本書はその死から始め、誕生まで遡って、38年の短い人生と家族関係、政治警察を一手に掌握して行われた、工作、迫害、虐殺の実態を活写する。ハイドリヒは晩年、ベルリン郊外のヴァンゼーで会議を主催し、「ユダヤ人問題」への対応をいっそう激化させる。ヒムラーと共に、ホロコーストの悪名高い主犯ともいうべき存在なのだ。
本書は最新研究を踏まえつつ、読みやすく描かれた、ドイツ現代史の俊才による大著。解説=増田好純。
[目次]
初めに
序文
第1章 プラハに死す
第2章 若きラインハルト
ハイドリヒ家/戦争と戦後/海軍にて/リナ・フォン・オステン/罷免と危機
第3章 ハイドリヒの誕生
第二のチャンス/ヒトラー政権成立/ゲシュタポ掌握/長いナイフの夜/
家族のトラブル
第4章 帝国の敵と戦う
新しい敵を求めて/ユダヤ人/教会/フリーメーソン/反社会的分子/
特権的生活
第5章 戦争のリハーサル
フリッチュ-ブロンベルク事件/オーストリア合邦/水晶の夜(クリスタルナハト)/
チェコスロヴァキアの死/タンネンベルク作戦
第6章 大量殺戮の実験
ポーランド侵攻/人種的新秩序の構築/ポーランド・ユダヤ人の運命/
国内戦線でのテロル
第7章 世界を敵として
西部戦線/マダガスカル計画/総力戦に備えて/バルバロッサ作戦/
運命的な決定/ヴァンゼー会議
第8章 保護領の支配者
ボヘミア・モラヴィア保護領/チェコ「平穏化」プログラム/国家を統治する/
ゲルマン化政策/ホロコースト/文化的帝国主義/抵抗運動の高まり
第9章 破壊の遺産
解説 増田好純
訳者あとがき
口絵写真クレジット
参考文献
人名索引
[原題]HITLER'S HANGMAN: THE LIFE OF HEYDRICH
ホロコーストの悪名高い主犯の生涯。
トーマス・マンに「絞首人」と呼ばれ、「ユダヤ人絶滅政策」を急進的に推進した男の素顔に迫る。最新研究を踏まえた、初の本格的な評伝。地図・口絵写真多数収録。解説=増田好純
*口絵16頁
トーマス・マンに「絞首人」と呼ばれ、「ユダヤ人絶滅政策」を急進的に推し進めた、ラインハルト・ハイドリヒの素顔に迫る、初の本格的な評伝。戦間期と第二次大戦に至る欧州史の概観の中で、「絞首人」の軌跡を追い、ナチの人種政策、東欧占領政策の形成と展開、ナチ支配体制内部の陰湿な抗争、国防軍との競合も精細に描かれる。
ハイドリヒは1942年、在英チェコ亡命政府と英国が送り込んだ工作チームによってプラハ郊外で暗殺される。ベルリンでの大々的な葬儀で、ヒトラーは故人を称えたが、チェコ全土には戒厳令が敷かれ、レジスタンスや民間人にも残忍な報復が行われた……。本書はその死から始め、誕生まで遡って、38年の短い人生と家族関係、政治警察を一手に掌握して行われた、工作、迫害、虐殺の実態を活写する。ハイドリヒは晩年、ベルリン郊外のヴァンゼーで会議を主催し、「ユダヤ人問題」への対応をいっそう激化させる。ヒムラーと共に、ホロコーストの悪名高い主犯ともいうべき存在なのだ。
本書は最新研究を踏まえつつ、読みやすく描かれた、ドイツ現代史の俊才による大著。解説=増田好純。
[目次]
初めに
序文
第1章 プラハに死す
第2章 若きラインハルト
ハイドリヒ家/戦争と戦後/海軍にて/リナ・フォン・オステン/罷免と危機
第3章 ハイドリヒの誕生
第二のチャンス/ヒトラー政権成立/ゲシュタポ掌握/長いナイフの夜/
家族のトラブル
第4章 帝国の敵と戦う
新しい敵を求めて/ユダヤ人/教会/フリーメーソン/反社会的分子/
特権的生活
第5章 戦争のリハーサル
フリッチュ-ブロンベルク事件/オーストリア合邦/水晶の夜(クリスタルナハト)/
チェコスロヴァキアの死/タンネンベルク作戦
第6章 大量殺戮の実験
ポーランド侵攻/人種的新秩序の構築/ポーランド・ユダヤ人の運命/
国内戦線でのテロル
第7章 世界を敵として
西部戦線/マダガスカル計画/総力戦に備えて/バルバロッサ作戦/
運命的な決定/ヴァンゼー会議
第8章 保護領の支配者
ボヘミア・モラヴィア保護領/チェコ「平穏化」プログラム/国家を統治する/
ゲルマン化政策/ホロコースト/文化的帝国主義/抵抗運動の高まり
第9章 破壊の遺産
解説 増田好純
訳者あとがき
口絵写真クレジット
参考文献
人名索引
[原題]HITLER'S HANGMAN: THE LIFE OF HEYDRICH
- 本の長さ524ページ
- 言語日本語
- 出版社白水社
- 発売日2016/11/25
- 寸法14.1 x 4 x 19.5 cm
- ISBN-104560095213
- ISBN-13978-4560095218
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商品の説明
著者について
ロベルト・ゲルヴァルト Robert Gerwarth
1976年生まれ。ドイツ人の歴史家。冷戦期のベルリンで生まれ、13歳で壁の崩壊を目撃する。フンボルト大学、オックスフォード大学で学び、現在ユニヴァーシティ・カレッジ・ダブリン(UCD)の現代史の教授、同大学戦争研究センター長。主要著作に、優れた近現代史研究に贈られるフレンケル賞を受賞した『ビスマルクの神話』The Bismarck Myth(オックスフォード大学出版局)、ドナルド・ブロクサムとの共編『二十世紀ヨーロッパにおける政治的暴力』Political Violence in Twentieth-Century Europe(ケンブリッジ大学出版局)などがある。
訳者: 宮下嶺夫(みやした・みねお)
1934年京都市生まれ。慶応義塾大学文学部卒。主な翻訳書に、H・ファースト『市民トム・ペイン』、N・フエンテス『ヘミングウェイ キューバの日々』(以上、晶文社)、W・ロード『真珠湾攻撃』、R・マックネス『オラドゥール・大虐殺の謎』(以上、小学館)、G・ジャクソン『図説スペイン内戦』(彩流社)、A・ドルフマン『ピノチェト将軍の信じがたく終わりなき裁判』(現代企画室)、P・プレストン『スペイン内戦 包囲された共和国1936-1939』(明石書店)、F・ケンプ『ベルリン危機 ケネディとフルシチョフの冷戦 上下』(白水社)など。
1976年生まれ。ドイツ人の歴史家。冷戦期のベルリンで生まれ、13歳で壁の崩壊を目撃する。フンボルト大学、オックスフォード大学で学び、現在ユニヴァーシティ・カレッジ・ダブリン(UCD)の現代史の教授、同大学戦争研究センター長。主要著作に、優れた近現代史研究に贈られるフレンケル賞を受賞した『ビスマルクの神話』The Bismarck Myth(オックスフォード大学出版局)、ドナルド・ブロクサムとの共編『二十世紀ヨーロッパにおける政治的暴力』Political Violence in Twentieth-Century Europe(ケンブリッジ大学出版局)などがある。
訳者: 宮下嶺夫(みやした・みねお)
1934年京都市生まれ。慶応義塾大学文学部卒。主な翻訳書に、H・ファースト『市民トム・ペイン』、N・フエンテス『ヘミングウェイ キューバの日々』(以上、晶文社)、W・ロード『真珠湾攻撃』、R・マックネス『オラドゥール・大虐殺の謎』(以上、小学館)、G・ジャクソン『図説スペイン内戦』(彩流社)、A・ドルフマン『ピノチェト将軍の信じがたく終わりなき裁判』(現代企画室)、P・プレストン『スペイン内戦 包囲された共和国1936-1939』(明石書店)、F・ケンプ『ベルリン危機 ケネディとフルシチョフの冷戦 上下』(白水社)など。
登録情報
- 出版社 : 白水社 (2016/11/25)
- 発売日 : 2016/11/25
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 524ページ
- ISBN-10 : 4560095213
- ISBN-13 : 978-4560095218
- 寸法 : 14.1 x 4 x 19.5 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 434,217位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 1,591位ヨーロッパ史
- - 64,073位ノンフィクション (本)
- カスタマーレビュー:
カスタマーレビュー
星5つ中4.9つ
5つのうち4.9つ
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2019年3月21日に日本でレビュー済み
2018年6月4日に日本でレビュー済み
戦後アメリカやイギリス、フランスが描いた戦争映画で、冷酷なナチス親衛隊将校のイメージの元になったハイドリヒ。
「残忍で冷酷」
「金髪碧眼長身のアーリア人」
「ハンサムだけど冷たい表情で、踵をカチッと鳴らして、ハイルヒトラー!」
「黒と銀のタイトな制服と真紅のハーケンクロイツ腕章とピカピカ長靴にルガー拳銃」
という、「悪の権化」のカリカチュアとしてのハイドリヒ。
当然ながら、歴史学でもナチス諸政策の影を仕切る悪、「国家保安警察」「ユダヤ人虐殺」「非アーリア人排除」の執行人としての「元凶」でありつづけ、色々と公的記録自体は存在しているのに学術研究の対象とされてきませんでした。
本書は、そうしたハイドリヒを、公的記録文書に基づいて「伝記」という形態をとって記述されたものです。
著者は執筆するにあたって、その姿勢をこう述べています。
「どのような伝記も、その主題たる人物に(たとえそれがラインハルト・ハイドリヒであったとしても)ある程度のエンパシーを抱かなければ成り立ちえない(中略)しばしば「解剖」と「肖像」という対照的な手法を用いる。「解剖」は、その人物に対する客観的でいわば法医学的な検討であり、「肖像」はその人物に対する伝記作家のエンパシーに基づく叙述である。」(p9)
としつつ、さすがにシンパシー(共感)はできないし、エンパシー(心情を汲むこと)もしにくいとして著者は、第三の手法「冷たいエンパシー」をとって執筆したといいます。
それは「『ハイドリヒの生涯を批判的な距離をもって再構築する、ただし、歴史を遡及的に解釈することはしない。あるいは歴史学者の役割を戦犯法廷の検察官のそれと混同することはしない』という態度をとることにした。歴史家の任務は、一義的には歴史的事実を正確に認識しそれを全体的文脈の中で分析することであって、糾弾ではない。それゆえ私は、ハイドリヒの生涯に関する初期の文献に特徴的であったセンセーショナリズムと断罪的トーンは避けるようにした。」(p10)と。
本書の章立ては、最初ハイドリヒ暗殺の章からスタートし、その後生い立ちに戻って編年体で記述されていきます。和訳も丁寧になされ大変読みやすい文体となっています。
本文全体を通したハイドリヒの姿は、増田好純氏の「解説」に簡単明瞭に要約しています。
「ハイドリヒは教養市民層の家庭に育ち、第一次世界大戦をめぐる「戦時青少年世代」としての経験もRSHAの幹部たちと同様であったが、それがナチ党のような極右政党への共感、参加に直結することはなかった。他の「戦時青少年世代」とは異なって、ハイドリヒは政治にさしたる関心を示すことなく海軍士官の道を進むことになる。その後、ハイドリヒは女性問題で海軍からの除隊を余儀なくされた。だが、それは結果として婚約者リナの導きによってナチ党、とりわけヒムラー率いるSSの門をくぐるきっかけになった。海軍士官としての栄達に代わるキャリアを得ることで失点を回復し、リナとその家族の信頼を得ねばならない。承認欲求に駆られたハイドリヒは、ナチ「古参闘士」に比べると「遅参者」であったことを埋め合わせるためにもSSで与えられた任務に没頭した。ハイドリヒは求められていることを先取りし、より先鋭化したプランとして提案することで自らナチ党員としての心的態度を承認させるとともに、以後、ヒトラーやヒムラーの信任を得るためにより急進的な解決策を追求する」(pp.452-453)
総じて、ハイドリヒに関心をお持ちの方であれば、一読する価値のある書だと思います。
「残忍で冷酷」
「金髪碧眼長身のアーリア人」
「ハンサムだけど冷たい表情で、踵をカチッと鳴らして、ハイルヒトラー!」
「黒と銀のタイトな制服と真紅のハーケンクロイツ腕章とピカピカ長靴にルガー拳銃」
という、「悪の権化」のカリカチュアとしてのハイドリヒ。
当然ながら、歴史学でもナチス諸政策の影を仕切る悪、「国家保安警察」「ユダヤ人虐殺」「非アーリア人排除」の執行人としての「元凶」でありつづけ、色々と公的記録自体は存在しているのに学術研究の対象とされてきませんでした。
本書は、そうしたハイドリヒを、公的記録文書に基づいて「伝記」という形態をとって記述されたものです。
著者は執筆するにあたって、その姿勢をこう述べています。
「どのような伝記も、その主題たる人物に(たとえそれがラインハルト・ハイドリヒであったとしても)ある程度のエンパシーを抱かなければ成り立ちえない(中略)しばしば「解剖」と「肖像」という対照的な手法を用いる。「解剖」は、その人物に対する客観的でいわば法医学的な検討であり、「肖像」はその人物に対する伝記作家のエンパシーに基づく叙述である。」(p9)
としつつ、さすがにシンパシー(共感)はできないし、エンパシー(心情を汲むこと)もしにくいとして著者は、第三の手法「冷たいエンパシー」をとって執筆したといいます。
それは「『ハイドリヒの生涯を批判的な距離をもって再構築する、ただし、歴史を遡及的に解釈することはしない。あるいは歴史学者の役割を戦犯法廷の検察官のそれと混同することはしない』という態度をとることにした。歴史家の任務は、一義的には歴史的事実を正確に認識しそれを全体的文脈の中で分析することであって、糾弾ではない。それゆえ私は、ハイドリヒの生涯に関する初期の文献に特徴的であったセンセーショナリズムと断罪的トーンは避けるようにした。」(p10)と。
本書の章立ては、最初ハイドリヒ暗殺の章からスタートし、その後生い立ちに戻って編年体で記述されていきます。和訳も丁寧になされ大変読みやすい文体となっています。
本文全体を通したハイドリヒの姿は、増田好純氏の「解説」に簡単明瞭に要約しています。
「ハイドリヒは教養市民層の家庭に育ち、第一次世界大戦をめぐる「戦時青少年世代」としての経験もRSHAの幹部たちと同様であったが、それがナチ党のような極右政党への共感、参加に直結することはなかった。他の「戦時青少年世代」とは異なって、ハイドリヒは政治にさしたる関心を示すことなく海軍士官の道を進むことになる。その後、ハイドリヒは女性問題で海軍からの除隊を余儀なくされた。だが、それは結果として婚約者リナの導きによってナチ党、とりわけヒムラー率いるSSの門をくぐるきっかけになった。海軍士官としての栄達に代わるキャリアを得ることで失点を回復し、リナとその家族の信頼を得ねばならない。承認欲求に駆られたハイドリヒは、ナチ「古参闘士」に比べると「遅参者」であったことを埋め合わせるためにもSSで与えられた任務に没頭した。ハイドリヒは求められていることを先取りし、より先鋭化したプランとして提案することで自らナチ党員としての心的態度を承認させるとともに、以後、ヒトラーやヒムラーの信任を得るためにより急進的な解決策を追求する」(pp.452-453)
総じて、ハイドリヒに関心をお持ちの方であれば、一読する価値のある書だと思います。
2019年4月22日に日本でレビュー済み
ホロコーストへ至る過程を加害者側から詳述した貴重な歴史書です。東部戦線開始後のアインザッツグルッペによるユダヤ人、ポーランド人、ロシヤ人の大量殺害がどのようにホロコーストにつながったか、その過程が如実に記されています。他の書籍では、ここまで経時的に詳しく経過を記述しているものはないのではないでしょうか。
ハイドリッヒをなやましたミッシュリング(ユダヤ人混血)の問題が何度か取り上げられます。誰をユダヤ人とするのかはナチスにとって、死活的な問題でした。ナチス運動の大黒柱といってもよいでしょう。それが如何に恣意的になされたか、その様相はナチズムの現実の基盤がもろく、空想的なものであったことを示しています。
しかし現在のゲノム解析が応用されたとしたらどんな帰結をもたらしたか、空恐ろしくなります。
ハイドリッヒをなやましたミッシュリング(ユダヤ人混血)の問題が何度か取り上げられます。誰をユダヤ人とするのかはナチスにとって、死活的な問題でした。ナチス運動の大黒柱といってもよいでしょう。それが如何に恣意的になされたか、その様相はナチズムの現実の基盤がもろく、空想的なものであったことを示しています。
しかし現在のゲノム解析が応用されたとしたらどんな帰結をもたらしたか、空恐ろしくなります。