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脳死は本当に人の死か 単行本 – 2000/3/1
昨年、四回行われた「脳死臓器移植」。違和感を感じた日本人は多かったのではないか。
本書では日本人の「死のあり方」を探究してきた哲学者が改めて脳死の意味を問う。
著者の見解は明快である。「新鮮な臓器を取り出したいためだけに、まだ心臓が動いている人間を死と認定するのは非情ではないか」「デカルト哲学、プラグマティズムで『死の形』を定義しても、日本人の死生観にはしっくりこない」。また「脳死と日本人の死生観」というテーマで対論した柳田邦男氏は、「死を看取った家族、つまり『二人称の立場からの死』抜きに脳死を進めようとする事は危険」「本人の意思表示なしに臓器移植を可能とする臓器移植法改正は間違っている。自ら臓器を提供しようとする人と家族の心を傷つけないよう、全力を尽くし手間をかけるのが医者の役割ではないか」と論じる。
ご都合主義、便宜的な「脳死」論に一石を投じ、日本人の死のあり方を真剣に問う力作。
- 本の長さ189ページ
- 言語日本語
- 出版社PHP研究所
- 発売日2000/3/1
- ISBN-104569610102
- ISBN-13978-4569610108
商品の説明
メディア掲載レビューほか
厚生省の研究班が,本人の意思が不明な場合は家族の同意があれば脳死者からの臓器提供が可能である,ことなどを骨子とする「臓器移植法」の改正試案をまとめた。「臓器移植法」では,施行後3年をめどに,その内容を見直すことがうたわれているが,試案は改正論議に一石を投じることになりそうだ。
脳死を人の死と認めるか――をめぐって賛否両論が激しく飛び交う中,両者の一種の「妥協の産物」として,1997年に臓器移植法が生まれた。以来,3年になろうとしているが,これまで行われた脳死者からの移植は7例にすぎない。移植そのものは大過なく行われているものの,脳死判定に関しては,毎回,さまざまなトラブルや不手際が報じられている。脳死は人の死であるかどうかを考える前に,医師たちに脳死を判定する技量が本当にあるのか,という疑問も生まれてくる。
また,ドナー(臓器提供)・カードは普及しているが,家族(遺族)が難色を示したために臓器提供にいたらなかった例も多いと聞く。これは,臓器移植法制定時にあった,脳死=人の死に対する否定派(慎重派も含めて)の声が,広く社会に浸透している証拠かもしれない。あるいは,死体にむやみに手を触れない,といった日本人独特のメンタリティーがあるのかもしれない。
著者の梅原猛氏は,否定派の代表である。本書は法が制定される前に展開した氏の「人の死」に対する論と,政府の脳死臨調でともに否定派(慎重派)であった4人の対談,それに脳死問題を追い続けている柳田邦男氏との「脳死と日本人の死生観」をめぐる対談を載せている。
臓器移植を推進する立場の医師などからは,よく「医学的に見て脳死は疑いなく人の死である」「欧米のように移植が定着しないのは,日本人にある,死に対する独特の感情が妨げになっている」との指摘がある。しかし,本書を読めば分かるが,否定派(慎重派)の論拠は,まさしく西欧的な割り切り方をするのではなく,この「日本人の,死に対する考え」を無視せずに脳死を論じるべきだとすることにある。そして,科学(医学)のために人の死を左右することを,否定的に見ているのである。
脳死論議はさまざまな問題に波及した。その一つに日本の医師あるいは医療の現状に対する批判がある。技術のみを先行させるあまり「人の心」を忘れているのではないかというのである。その例が,著者と柳田氏との対談で語られている。
それは,梅原氏が「菩薩協会」といったものを作り,すべての医師がそこに加盟することこそ,脳死移植に対する人々の意識改革を進める近道であると,ある医師に提案したことである。しばらくしてその医師は「(医師は)さっぱり入会してくれません」と落胆して言ったという。名誉や金もうけではない,捨身や菩薩の心が必要なのに……。
臓器移植法の見直しはこの2000年10月にも行われる。その前に読んでおきたい一冊だ。 (日本経済新聞社 科学技術部 編集委員 中村 雅美)
(Copyright©2000 ブックレビュー社.All rights reserved.)
-- ブックレビュー社
内容(「MARC」データベースより)
登録情報
- 出版社 : PHP研究所 (2000/3/1)
- 発売日 : 2000/3/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 189ページ
- ISBN-10 : 4569610102
- ISBN-13 : 978-4569610108
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,048,179位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 149,808位ノンフィクション (本)
著者について
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