私は安吾の書くエッセイやミステリのファンなのだが、こんな破天荒な時代小説を書いているとは知らなかった。普通の小説では筆が伸びない安吾だが、本作は小説の掟破り、と言って良い書きっぷりで、エッセイに近い読後感がある。「二流の人」とは別の味。
「梟雄」は斉藤道三の一生を描いたもの。道三の心理にズケズケと入り込んで、その半生を30頁に凝縮して描く。司馬氏「国盗り物語」より先行しており、安吾の先見性が窺える。それにしても、「濃姫」の呼称の命名者が安吾だったとは流石に驚いた(正式名は未詳)。「決戦川中島」は上杉謙信を扱ったものだが、前作より更に趣向が進んで、謙信(=安吾)の一人称で話が進む。いつもの安吾節が冴え、細かいギャグがあったり、太平洋戦争に言及する等、時空を超えた遊び心が楽しいが、太平洋戦争への批判を川中島の戦いに託したような気がする。「狂人遺書」は秀吉の遺書と言う体裁で書かれたもの。晩年の秀吉の心境が、「梟雄」より更に深い洞察で、安吾流に表現されている。安吾の遺作でもある。朝鮮出兵を中心に描かれているが、「狂人」と銘打ってある割には、内容に説得力があるのは安吾の筆力のなせる技か。別の見方をすれば、無謀な戦争に突入した日本軍部への批判とも取れる。「イノチガケ」は文字通り、命懸けで日本に訪れた宣教師と日本人切支丹達の苦難の歴史を描いたもの。前半は、キリスト教弾圧の記録が非常に克明に描かれる。前三作と合わせ、安吾が執筆前に周到な調査を行なっている事が良く分かる。後半はシローテと言う宣教師を新井白石が審問した有名な逸話が描かれる。シローテの情熱と白石の怜悧さの対比が見事だが、読む者に不思議な感動を与える。
異色の時代小説と言う新しい形式で、新しい安吾の魅力を打ち出した佳作。
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安吾 戦国痛快短編集 (PHP文庫 さ 17-2) 文庫 – 2009/5/2
坂口 安吾
(著)
『堕落論』で有名な坂口安吾だが、彼の作風の神髄は、
戦国小説においてこそ発揮されている。本書は、無頼の生涯を送った奇才・坂口安吾が
戦中・戦後に著した、戦国時代を舞台にした四編(「梟雄」「決戦川中島 上杉謙信の巻」
「狂人遺書」「イノチガケ」)を収録。
確かな史料に基づいた、短編ながらも道三の波乱に満ちた生涯が
手に取るようにわかる「梟雄」、自由自在に時代を駆け巡る、
安吾独特のルポ「決戦川中島」、秀吉が死の床で自らの半生を回想する「狂人遺書」、
伴天連に襲いかかる苦難を臨場感あふれる筆致で描いた「イノチガケ」など、
『白痴』『桜の森の満開の下』だけではない、歴史小説の「開拓者」坂口安吾の
縦横無尽な筆致による傑作群が一度に堪能できる一冊!
巻末には、「最後の安吾番」として編集者生活をおくり、
実際に本書収録の「梟雄」の原稿を受け取った作家・半藤一利氏のインタビュー付き。
戦国小説においてこそ発揮されている。本書は、無頼の生涯を送った奇才・坂口安吾が
戦中・戦後に著した、戦国時代を舞台にした四編(「梟雄」「決戦川中島 上杉謙信の巻」
「狂人遺書」「イノチガケ」)を収録。
確かな史料に基づいた、短編ながらも道三の波乱に満ちた生涯が
手に取るようにわかる「梟雄」、自由自在に時代を駆け巡る、
安吾独特のルポ「決戦川中島」、秀吉が死の床で自らの半生を回想する「狂人遺書」、
伴天連に襲いかかる苦難を臨場感あふれる筆致で描いた「イノチガケ」など、
『白痴』『桜の森の満開の下』だけではない、歴史小説の「開拓者」坂口安吾の
縦横無尽な筆致による傑作群が一度に堪能できる一冊!
巻末には、「最後の安吾番」として編集者生活をおくり、
実際に本書収録の「梟雄」の原稿を受け取った作家・半藤一利氏のインタビュー付き。
- 本の長さ266ページ
- 言語日本語
- 出版社PHP研究所
- 発売日2009/5/2
- ISBN-104569672477
- ISBN-13978-4569672472
登録情報
- 出版社 : PHP研究所 (2009/5/2)
- 発売日 : 2009/5/2
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 266ページ
- ISBN-10 : 4569672477
- ISBN-13 : 978-4569672472
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,382,963位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 4,833位PHP文庫
- カスタマーレビュー:
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