チャーチルの親日的言動の背景には、母親から聞いた明治中期の日本と日本人が影響していたという。
母親が旅行したのはほぼ1ヶ月、横浜に入港し箱根・日光・京都などを巡り浮かび上がる情景は、明治初期に日本を旅行したやはり英国人女性、イザベラ・バードの記録した日本とほぼ同じ「魅力に満ち心安らぐ国、礼節を心得た男性と声色の穏やかな女性の国」である。
母親の耳朶にいつまでも残る“田園の道をゆく盲目の按摩のうら寂しい葦笛”―今はもう失われた光景を想像して、読んでいる方まで哀惜の念に駆られる。
それはよいのだが、この著者、ところどころでおかしな歴史認識を語る。
満州事変を日本の侵略行為と決め付けたり、連盟から脱退して国際社会での孤立を深めたとか、日中戦争は中国民の大同団結をもたらしたとか、戦後教育史観というか謝罪史観の片鱗が覗く。
やっぱり外務官僚かと溜息がでるが、それ以外はよい。
最終章の扉のページに、エリザベス女王戴冠式に出席するため訪英した皇太子殿下(今上天皇)が、チャーチルの会釈を受ける写真が出ている。午餐会の席上でのチャーチルの挨拶がまた味わい深い。
かつて日本人から母に贈られた青銅の馬の置物を指して、その日本人が母にこう言ったことを紹介する。
日本にはこういう美術を生む文化があるのに西洋人はそれを認めようとせず野蛮国のように扱い、日本が何隻かの軍艦をもつようになって初めて一流国と認めた。
チャーチルは続いてこう言う。どの国もこのような美術品の制作に力を注ぎ、軍備にはカネを費やさないですむようにしたいものだ…。
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チャーチルが愛した日本 (PHP新書 513) 新書 – 2008/3/15
関 榮次
(著)
イギリスの歴史的な名宰相ウィンストン・チャーチルは終生、日本に対して好意と深い理解を示していた。幼少のころ愛する母から伝えられた美しい日本の印象が、忘れがたい記憶として残っていたからである。箱根、東京、日光、京都を旅したチャーチルの母は、明治期の日本に何を見たのか? 戦中、戦後のチャーチルが、荒廃した日本に何を望んだのか? 歴史的名宰相の目に映った日本の隆盛と衰退、そして再生とは……。名宰相と母の物語を、未邦訳資料を踏まえながら、元外交官が見事に描ききる。――1894年チャーチルの母は世界一周旅行の途上、日本にひと月あまり滞在した。彼女が残した詳細な旅行記に描かれていたのは、大方の日本人が忘れてしまった古きよき日本の姿であった。第1章「夜空に輝く星――チャーチルの母」、第2章「消えやらぬ二つの音色」、第3章「同盟、敵対、そして協調へ」、第4章「戦後日本とチャーチル」
- 本の長さ226ページ
- 言語日本語
- 出版社PHP研究所
- 発売日2008/3/15
- ISBN-104569693652
- ISBN-13978-4569693651
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登録情報
- 出版社 : PHP研究所 (2008/3/15)
- 発売日 : 2008/3/15
- 言語 : 日本語
- 新書 : 226ページ
- ISBN-10 : 4569693652
- ISBN-13 : 978-4569693651
- Amazon 売れ筋ランキング: - 806,784位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 217位イギリス・アイルランド史
- - 1,833位PHP新書
- - 2,160位ヨーロッパ史一般の本
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2008年6月6日に日本でレビュー済み
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2020年3月30日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
チャーチルが第二次世界大戦における日本の参戦の阻止に向けて、心を砕いていた事がよくわかります。また、まさか気でも狂わない限り、長期的に勝ち目のない英米との戦いに参戦しないだろうと。その期待は見事に裏切られるわけですが、冷静な判断を促そうと松岡洋右に渡した質問リストを読むと、あらためて俯瞰的にみて、日本が参戦すべきいかなる合理的な理由もなかった事がよくわかります。彼が終始日本に対して好意的であり、ある種の信頼を持って接していたのが良くわかりました。非常に興味深いです。ただ全体として半分近くがチャーチルの前半生や、彼の母親の日本旅行記からの抜粋です。内容自体は非常に興味深いものの、構成として少し無理がある気がします。
2012年7月3日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
先の天皇皇后両陛下のご訪英にあたって、戦後間もない頃エリザベス女王陛下の戴冠式に皇太子(当時)が参列された際、首相チャーチルの心遣いが素晴らしかったというエピソードが紹介された。その原典ともいえる本。
元エリート外交官の手による、英国の名宰相チャーチルとその母、彼らと日本との関係が見事に描かれている。良書だが、ひとつだけ気にかかる点があった。
チャーチルの母が日本をこよなく愛し息子に伝えたかったのは、日本の自然や文化だけでなく当時(明治)に生きる日本の市井の人々の姿や言葉であったはずだ。ところが本書の後半、筆者の主張は「チャーチルは素晴らしかった、松岡・重光はダメだった」と言っているようにみえる。確かにそうかもしれないが、国と国の関係をトップ同士さえ上手くいっていればよい、とする日本外交の層の薄さを感じざるを得ない。
エリザベス女王陛下と同様、今上天皇が両国の国民に愛され敬われているのは、そのお心が常に国民の傍らにあると分かっているからだ。パーティで親しく語ったとか、マスコミの対応が良かったとか、そういう些末なことではない。よき君主(象徴)を抱えている幸運を、その側近たちはちゃんと自覚しているのだろうか?
「英国では君主は君臨するが統治はしない。君主は誤らないという格言が英国にあるが、そのこともお心に留めておいていただきたい。政治家が誤りを犯せば国民が選んだ議会によって交替させられる。間違ったことをやれば、それは政府の責任だし、事実政府は間違ったことばかりやっていると言う人が多いかもしれない。」というチャーチルの言葉は重い。
元エリート外交官の手による、英国の名宰相チャーチルとその母、彼らと日本との関係が見事に描かれている。良書だが、ひとつだけ気にかかる点があった。
チャーチルの母が日本をこよなく愛し息子に伝えたかったのは、日本の自然や文化だけでなく当時(明治)に生きる日本の市井の人々の姿や言葉であったはずだ。ところが本書の後半、筆者の主張は「チャーチルは素晴らしかった、松岡・重光はダメだった」と言っているようにみえる。確かにそうかもしれないが、国と国の関係をトップ同士さえ上手くいっていればよい、とする日本外交の層の薄さを感じざるを得ない。
エリザベス女王陛下と同様、今上天皇が両国の国民に愛され敬われているのは、そのお心が常に国民の傍らにあると分かっているからだ。パーティで親しく語ったとか、マスコミの対応が良かったとか、そういう些末なことではない。よき君主(象徴)を抱えている幸運を、その側近たちはちゃんと自覚しているのだろうか?
「英国では君主は君臨するが統治はしない。君主は誤らないという格言が英国にあるが、そのこともお心に留めておいていただきたい。政治家が誤りを犯せば国民が選んだ議会によって交替させられる。間違ったことをやれば、それは政府の責任だし、事実政府は間違ったことばかりやっていると言う人が多いかもしれない。」というチャーチルの言葉は重い。
2010年12月10日に日本でレビュー済み
著者は外交官として活躍した後、国際関係史について研究を行っている人物らしい。
本書は、イギリスの首相として有名なウィンストン・チャーチルと、その父親のランドルフ・チャーチルについて、日本との関係について紹介したもの。
前半はランドルフ・チャーチルについて。その人生、政治家としての仕事、それから世界旅行の途次に立ち寄った日本でのことが取り上げられている。ランドルフ夫人(ウィンストンの母)の旅行記の抄訳も収められており、興味深い。
後半はウィンストンと日本についての外交史。第二次大戦へ至るまでのチャーチルと日本人外交官/政治家たちの関係、チャーチルが日本に抱いていた感情などが、ざっと並べられている。
しかし、全体的に信頼できない本であると感じた。資料の取り上げ方に脈絡がなく、説明が曖昧。また、自身の主張の根拠をハッキリと示さず、憶測だけでどんどん話を進めがち。特に文章に難があるように思う。ここはもう少し説明が必要だろうというところほど、さらっと流してしまうのである。
調べたことを乱暴に並べただけの本であり、ちょっとどうかなあと思った。
本書は、イギリスの首相として有名なウィンストン・チャーチルと、その父親のランドルフ・チャーチルについて、日本との関係について紹介したもの。
前半はランドルフ・チャーチルについて。その人生、政治家としての仕事、それから世界旅行の途次に立ち寄った日本でのことが取り上げられている。ランドルフ夫人(ウィンストンの母)の旅行記の抄訳も収められており、興味深い。
後半はウィンストンと日本についての外交史。第二次大戦へ至るまでのチャーチルと日本人外交官/政治家たちの関係、チャーチルが日本に抱いていた感情などが、ざっと並べられている。
しかし、全体的に信頼できない本であると感じた。資料の取り上げ方に脈絡がなく、説明が曖昧。また、自身の主張の根拠をハッキリと示さず、憶測だけでどんどん話を進めがち。特に文章に難があるように思う。ここはもう少し説明が必要だろうというところほど、さらっと流してしまうのである。
調べたことを乱暴に並べただけの本であり、ちょっとどうかなあと思った。
2009年12月27日に日本でレビュー済み
これは掘り出し物でした。
チャーチルの母が戦前日本に来ていたことを知っていたけど、箱根の富士屋ホテルに泊まったり、日光にまで足を伸ばしていたとは知らなかった。
この母親の当時の日本への深い理解と愛が、そのままチャーチルに伝わった経緯がよくわかる。
イギリスを愛する「親英派」というのは、日本のインテリ層に綿々と受け継がれてきており、それはある面では共感できるものの、そこまでアングロサクソン信じていいのかよ、とも感じてきた。
しかし引用されている、チャーチルの手記を読んでいると、もし戦前の日本政府がこのチャーチルの意をくむことができていれば、あんな暴挙に走ることはなかったろうにとの感が深い。
チャーチルの母が戦前日本に来ていたことを知っていたけど、箱根の富士屋ホテルに泊まったり、日光にまで足を伸ばしていたとは知らなかった。
この母親の当時の日本への深い理解と愛が、そのままチャーチルに伝わった経緯がよくわかる。
イギリスを愛する「親英派」というのは、日本のインテリ層に綿々と受け継がれてきており、それはある面では共感できるものの、そこまでアングロサクソン信じていいのかよ、とも感じてきた。
しかし引用されている、チャーチルの手記を読んでいると、もし戦前の日本政府がこのチャーチルの意をくむことができていれば、あんな暴挙に走ることはなかったろうにとの感が深い。
2008年4月23日に日本でレビュー済み
この本で著者はチャーチルが日本との戦争を望まなかったと色々書いている。しかし表題に指摘した事実を考えると、アメリカが参戦するなら話は別ということではなかったか。チャーチルが日米暫定協定案に蒋介石と共に反対し、その代わりにハル・ノートが出されたことは知られている。(近年のNHKの番組でも取り上げていた。)
チャーチルが望まなかったのは英国が「アメリカ抜きで」ドイツに加え日本とも戦うことではなかったか。
当時のアメリカの反戦勢力を考えると米英可分論が妥当でありそれが英国の弱点だった。(小室直樹氏も指摘していた。)
ところでチャーチルは沖縄戦について日本に好意的なコメントしていたようだが関氏は何かご存知ないだろうか。
チャーチルが望まなかったのは英国が「アメリカ抜きで」ドイツに加え日本とも戦うことではなかったか。
当時のアメリカの反戦勢力を考えると米英可分論が妥当でありそれが英国の弱点だった。(小室直樹氏も指摘していた。)
ところでチャーチルは沖縄戦について日本に好意的なコメントしていたようだが関氏は何かご存知ないだろうか。