中世史家今谷明さんによる、世界的視野に立った封建制論入門書です。
本書は大きく分けて2つのことを縷説しています。
1つには「封建制」システムの利点を確認します。世界史上、モンゴル帝国の侵略を防ぎ得た地域は、日本、ドイツ、マムルークだけで、これらに共通するのは、「封建制」というシステムが存在していたのであり、このシステムは優れた面を持っていた、ということを論じています。日本については、従来、蒙古襲来の際の「神風」が強調されていますが、それは行き過ぎで、日本側の防衛計画や鎌倉武士の活躍を評価すべきとしています。
2つには、さまざまな封建制論が紹介されています。そもそも、いつ、どこが「封建制」だったのか、ということが、学者の中で区々であり、日本においても、封建時代はいつからいつまで、あるいは、日本に封建時代はあったのか、という議論があり、また、「封建制」はすべて悪か、それとも評価する面があるのか、というのも議論があります。今谷さんが注目するのは、江戸封建制があったからこそ近代化に成功したと評価する島崎藤村で、「第一次世界大戦中に藤村が公表したこの見解は、日本の封建制学説上、先駆的、画期的な意義をもつ」(145頁)としています。
とにかく、封建制というのは、定義が明確にされておらず、1930年代、西洋史家上原専禄が、日本学者の「封建制」の語が混乱していると警告したくらいです。そのためか、現在、西洋史学界では「封建制」の使用に慎重になっているようです。
封建制そのものを筆者なりに深めるというよりは、封建制をめぐる議論を整理したという本です。あとがきに、本書に登場した、牧健二、ウィットフォーゲル、上原専禄の知られざる晩年が紹介されており、少し感傷的な気持ちになります。
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封建制の文明史観 (PHP新書 560) 新書 – 2008/11/15
今谷 明
(著)
封建制は民主制の反対概念として、悪しきものの形容詞にされてきた。
しかし、歴史学的に検証すれば正しい評価といえるのだろうか? 十三世紀、
蒙古軍の侵略をはね返した日本、西欧、エジプトの三地域では、いずれも封建制が
確立していた。中国やペルシアなど、官僚制が行き渡っていた領域、あるいは
東欧のように建国ほどなく封建制も緒についていない地域は、たやすく蒙古軍に
踏み破られたのだ。また、ルネッサンスや産業資本主義も、極東、西欧、中東という、
モンゴルの影響を逃れた地域から発展している。私たちは、封建制なる事象を
どう考えてゆけばよいのか。
本書では「封建」の歴史的経緯や語源をたどりながら、福沢諭吉、梅棹忠夫、網野善彦、
ウィットフォーゲルなどの学説を丹念に検証。第二次大戦後、日本の敗戦は
前近代の封建制が充分に克服されていなかったとする進歩的文化人の見解に
異議を申し立て、歴史遺産としての封建制に光をあてた真摯な論考である。
しかし、歴史学的に検証すれば正しい評価といえるのだろうか? 十三世紀、
蒙古軍の侵略をはね返した日本、西欧、エジプトの三地域では、いずれも封建制が
確立していた。中国やペルシアなど、官僚制が行き渡っていた領域、あるいは
東欧のように建国ほどなく封建制も緒についていない地域は、たやすく蒙古軍に
踏み破られたのだ。また、ルネッサンスや産業資本主義も、極東、西欧、中東という、
モンゴルの影響を逃れた地域から発展している。私たちは、封建制なる事象を
どう考えてゆけばよいのか。
本書では「封建」の歴史的経緯や語源をたどりながら、福沢諭吉、梅棹忠夫、網野善彦、
ウィットフォーゲルなどの学説を丹念に検証。第二次大戦後、日本の敗戦は
前近代の封建制が充分に克服されていなかったとする進歩的文化人の見解に
異議を申し立て、歴史遺産としての封建制に光をあてた真摯な論考である。
- ISBN-104569704700
- ISBN-13978-4569704708
- 出版社PHP研究所
- 発売日2008/11/15
- 言語日本語
- 本の長さ266ページ
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登録情報
- 出版社 : PHP研究所 (2008/11/15)
- 発売日 : 2008/11/15
- 言語 : 日本語
- 新書 : 266ページ
- ISBN-10 : 4569704700
- ISBN-13 : 978-4569704708
- Amazon 売れ筋ランキング: - 406,885位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2019年11月26日に日本でレビュー済み
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日本という国を語る時、封建制と言う事を避けては通れないのにも関わらず、封建制についての研究書は、とても少なく残念に思っていたが、この本では、コンパクトではあるが、日本における封建制の意味合いが的確に書かれていてとても参考になりました。
2009年5月4日に日本でレビュー済み
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最近、この手の封建制論というのは、根本的に間違っているのではないかという疑問を持つようになった。
封建制論の問題意識とは、典型的にライシャワー博士のような、近代ヨーロッパをもたらした何ものかが、封建制という社会組織(フューダリズム)にあるという論理だが、封建制を特徴づける3つの要素、1.職業戦士による従士制、2.従士に分与される封土制、3.封土における地主制、の三位一体が、中国史では、政権の秩序維持能力が崩れると必ず現れ、強固な中央集権が樹立されると消えるという繰返しだったし、江戸幕府の領邦君主(大名)制も、その実、ビザンティン帝国の軍事組織と、政治的にも社会的、経済的にも類似する点が少なくない。
封建制は、要するに産業資本主義化以前の社会では、商業資本と軍隊を含む官僚制のネットワークによる国家行政の管理能力が、強固な中央政権を成立させるのに必要十分な水準の高みから、秩序が崩壊し低いところへ転落する過程で、あるいは逆に、組織化の低いところから高い体制へと上昇する徒爾に、過渡的に現れる社会形態であって、それ以上でも以下でもないのではないかという疑問だ。
日本の鎌倉幕府、ホーリーローマン、マムルーク朝の封建騎士団だけがモンゴル軍の攻撃を退けた(著者はインド侵攻を見落としている)というが、モンゴルの軍事組織も封建制的色彩が濃いところへ持ってきて、3つのケースとも、モンゴル側の視点から見ると、辺境的にすぎない存在への行きがけの駄賃的な攻撃であって、クビライの南宋攻略戦のごとく本腰を入れて10〜20年をかけた攻勢ではなく、日本の場合も、最後のところは大元ウルス内部の反乱発生で侵攻再起を諦めたところが大きい。
むしろ、このような過渡的体制である封建制が、西欧や日本のようなユーラシア大陸の辺境地域で、なにゆえ長期政権化してしまうのかに注目すべきではないか。
西欧の近代化に一つの仮説を立てるとするなら、政治的統合の失敗による分権割拠・集合離散が、適度な軍事的緊張をもたらし、政権中枢をして太平楽に構えている余裕を許さなくなった不安定さが、社会・経済・政治に様々の意味で活気を呼び起して、次の近代化(軍事的強大化)時代に成功を導き出したとはいえまいか。とくに、プロテスタントとカソリックの分裂抗争が、印刷術普及と相俟って知性の解放を呼び覚まし、デカルトやニュートンの理知、ワットやスティヴンソンの技術を生み出したことに注目したいと思う。
近頃、本書が紹介している「大隈重信」氏の「着眼」のようなのは、全体としては支離滅裂なようで、案外と一部では本質的なところを衝いているのではないかと思うようになった。
封建制論の問題意識とは、典型的にライシャワー博士のような、近代ヨーロッパをもたらした何ものかが、封建制という社会組織(フューダリズム)にあるという論理だが、封建制を特徴づける3つの要素、1.職業戦士による従士制、2.従士に分与される封土制、3.封土における地主制、の三位一体が、中国史では、政権の秩序維持能力が崩れると必ず現れ、強固な中央集権が樹立されると消えるという繰返しだったし、江戸幕府の領邦君主(大名)制も、その実、ビザンティン帝国の軍事組織と、政治的にも社会的、経済的にも類似する点が少なくない。
封建制は、要するに産業資本主義化以前の社会では、商業資本と軍隊を含む官僚制のネットワークによる国家行政の管理能力が、強固な中央政権を成立させるのに必要十分な水準の高みから、秩序が崩壊し低いところへ転落する過程で、あるいは逆に、組織化の低いところから高い体制へと上昇する徒爾に、過渡的に現れる社会形態であって、それ以上でも以下でもないのではないかという疑問だ。
日本の鎌倉幕府、ホーリーローマン、マムルーク朝の封建騎士団だけがモンゴル軍の攻撃を退けた(著者はインド侵攻を見落としている)というが、モンゴルの軍事組織も封建制的色彩が濃いところへ持ってきて、3つのケースとも、モンゴル側の視点から見ると、辺境的にすぎない存在への行きがけの駄賃的な攻撃であって、クビライの南宋攻略戦のごとく本腰を入れて10〜20年をかけた攻勢ではなく、日本の場合も、最後のところは大元ウルス内部の反乱発生で侵攻再起を諦めたところが大きい。
むしろ、このような過渡的体制である封建制が、西欧や日本のようなユーラシア大陸の辺境地域で、なにゆえ長期政権化してしまうのかに注目すべきではないか。
西欧の近代化に一つの仮説を立てるとするなら、政治的統合の失敗による分権割拠・集合離散が、適度な軍事的緊張をもたらし、政権中枢をして太平楽に構えている余裕を許さなくなった不安定さが、社会・経済・政治に様々の意味で活気を呼び起して、次の近代化(軍事的強大化)時代に成功を導き出したとはいえまいか。とくに、プロテスタントとカソリックの分裂抗争が、印刷術普及と相俟って知性の解放を呼び覚まし、デカルトやニュートンの理知、ワットやスティヴンソンの技術を生み出したことに注目したいと思う。
近頃、本書が紹介している「大隈重信」氏の「着眼」のようなのは、全体としては支離滅裂なようで、案外と一部では本質的なところを衝いているのではないかと思うようになった。
2009年8月21日に日本でレビュー済み
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近代国家成立の端緒を知ることができる。歴史書と思いきや、さもあらず。多くが過去の封建制度論争についやされているのは残念
2021年9月28日に日本でレビュー済み
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著者の視点は面白いが、内容は、封建制に関する学説史の域を出ていない。封建制に関する学説 ー これも主題との関連がいまいちよくわからない ー を延々と引用して解説しているが、自分で設定した問題提起に対する分析といえるような記述は全体の一割程度にも満たない。気が付いたら読み終わっていて、他の統治形態と比較して、封建制のどのような特徴が、元寇に対して有効だったのかという、肝心な論点は不明のままである。
2008年12月10日に日本でレビュー済み
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戦後日本では評判の悪い「封建制」の意義を再検討する本。
封建制を経験した地域は、日本と西欧など世界のごく一部。そうした国は、共通して元の侵攻を防ぐことに成功した経験をもつ。また、近代産業社会の樹立に成功した地域でもある。封建制は、世に言われている前近代性を表すものではなく、実は、近代産業社会を生み出すための条件を準備する機能を有しているのではないか。そうした主張を行う。
本書の主張は、梅棹忠夫氏の「文明の生態史観」を裏付けるものともいえる。また近年の川勝平太氏、渡辺利夫氏らが展開する海洋国家論を下支えする議論であるとも読める。
近代社会を成立させる条件とは何かということを、封建制という社会制度を通じて考えさせる。非常に啓発的な本である。
さらにいえば、「東アジア」の名の下に日本と半島、大陸諸国を一緒くたにしてしまう昨今の粗雑な左派的言論に対する批判の立脚点を与えてくれる本でもある。
封建制を経験した地域は、日本と西欧など世界のごく一部。そうした国は、共通して元の侵攻を防ぐことに成功した経験をもつ。また、近代産業社会の樹立に成功した地域でもある。封建制は、世に言われている前近代性を表すものではなく、実は、近代産業社会を生み出すための条件を準備する機能を有しているのではないか。そうした主張を行う。
本書の主張は、梅棹忠夫氏の「文明の生態史観」を裏付けるものともいえる。また近年の川勝平太氏、渡辺利夫氏らが展開する海洋国家論を下支えする議論であるとも読める。
近代社会を成立させる条件とは何かということを、封建制という社会制度を通じて考えさせる。非常に啓発的な本である。
さらにいえば、「東アジア」の名の下に日本と半島、大陸諸国を一緒くたにしてしまう昨今の粗雑な左派的言論に対する批判の立脚点を与えてくれる本でもある。
2019年5月25日に日本でレビュー済み
元寇の各国の反応を並べているのは興味深いが、ベトナムはシナ型の官僚制国家であったので、なぜ彼らが元寇を撃退できたかという説明になっておらず説得力があまりにない。
以降はただの大学院生程度ができる学説史であって、読むに値しない。歴史の大家が書くようなものではない。
以降はただの大学院生程度ができる学説史であって、読むに値しない。歴史の大家が書くようなものではない。
2009年6月9日に日本でレビュー済み
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モンゴルの侵攻を食い止めた3例(鎌倉幕府・マムルーク朝・神聖ローマ)が封建制を採っていたことを挙げ、封建制がもたらす軍事システムの優位性から論を起こし、明治維新後目の敵にされた封建制が、日清戦争の頃から再評価されはじめてからの議論を縷々紹介する。
この中で面白かったのは、大正2年から3年間の洋行で”パリ日本人村の村長”といわれた島崎藤村の述懐である。
「あれほど労働者を卑しむ心持は僕らにはみられない」「下等な英吉利人にはつくづく厭になった」
藤村は、彼我の文明の価値観が全く異なることに気付き、日本が植民地化されなかったのは封建制度のおかげだと確信する。
ほかに、元左翼のウィットフォーゲルが紆余変遷の末辿り着いた、封建制は私有財産制の源流をなす社会システムで、近代産業資本主義の母体となった、という説に、左派が支配する日本の歴史学会はえらく冷淡だったとか、なるほどという話が多かった。
この中で面白かったのは、大正2年から3年間の洋行で”パリ日本人村の村長”といわれた島崎藤村の述懐である。
「あれほど労働者を卑しむ心持は僕らにはみられない」「下等な英吉利人にはつくづく厭になった」
藤村は、彼我の文明の価値観が全く異なることに気付き、日本が植民地化されなかったのは封建制度のおかげだと確信する。
ほかに、元左翼のウィットフォーゲルが紆余変遷の末辿り着いた、封建制は私有財産制の源流をなす社会システムで、近代産業資本主義の母体となった、という説に、左派が支配する日本の歴史学会はえらく冷淡だったとか、なるほどという話が多かった。