普段利用している紀伊國屋書店の社長の著書ということで期待感を持って読んだ・・・ Kindleで。リアル書店で紙の本、アマゾンで紙の本、Kindleで電子の本、とジャンルや状況によって、私の書店や本との関わり方はさまざま。昨今の読者の多様性に対して、あの紀伊國屋書店がどのように考えているのか興味があり、しかもカスタマーレビューがまだ未登録だったので初めて投稿してみることにした。
内容は全体的に、【出版業界に携わる人たちに対する提言】 という感じ。
高井氏は執筆の動機を 「日本人が長く大切にしてきた『本』の文化を、正しい形で未来に手渡したい」 と述べ、前半は出版業界の変遷と現状分析、中盤は著者の高井氏が携わってきた仕事経験(外商、海外との取引、データベース構築、図書館づくり等)を通して、今後の業界として取るべき成長戦略などについて持論を展開している。
個人的には、高井氏の仕事での苦労話、終盤の 「私を形作ってくれた本たち」 と名づけれた章での、高井氏が影響を受けた本の紹介が良かった。一方、中盤までの業界分析や成長戦略については、読者の立場からすると残念ながら違和感の方が大きかった。
(出版業界に携わる人が読んで、読者の中には 「こういう感覚を持っているんだ」 と感じてもらいたく、長くなるが書いてみようと思う)
たとえば、書籍・雑誌の売上高は1996年の2兆6564億円をピークに減少を続け、昨年2013年は1兆7000億円まで落ち込んでいるとのことだが、高井氏はこの状況の原因として以下の4つを挙げている。
1)少子化
2)読書離れ
3)インターネットやスマートフォンの普及
4)公共図書館の貸出増加
まず1)に関しては 「人口の減少そのものは読者の減少に直結する」 と述べられているので、ワードとしては 「人口減」 というべきだと思う。しかし、日本の人口は総務省統計局の数字で調べてみると、1997年は1.25億人、2012年は1.27億人と微増している。人口が微増で、むしろ少子高齢化であれば
本を自分で買えない子どもが減り、買える大人が増えている?
読者は増えているとしたら、なぜ売上がこんなに落ち込んでいるのか?
・・・と、こういう思考プロセスになるのが自然ではないだろうか。まずここに違和感を感じた。
2)では 「若い世代の読者離れ」 のデータとして大学生の読書時間の減少が挙げられているが、果たしてこれだけの売上の落ち込みは、「少子化」「若い世代の読書離れ」 によるものなのだろうか? ここに疑問がわく。読者の内訳と各々の読書量の推移にまで踏み込まれていないので、どうにも説得力を感じないのである。
一方、3)については、最近の通勤・通学時間帯の光景を思い浮かべれば非常に納得性がある。もはや電車の中で書籍・雑誌を読んでいる人はほとんど見かけられず、スマホなどの電子機器でゲームやSNSにいそしんでいる人ばかりだからだ。4)についても、確かに新刊やベストセラーが図書館で借りられるようになったので、買わずに借りるという読者は増えたかも知れない。
先ほどの違和感(いや正直に言えば、最近買って後悔した本が多いことに対する不信感) の原因は、本自体の価値が 「買うに値する」 ものかどうかという 「自責」 の観点がないからかも知れない。これは、1)から4)までで共通して言えることだ。
読書に価値があれば 「読む」 し、何度も読みたい、手元に置いておきたいと思えば 「買う」。SNSの方が楽しければ本は読まないし、買う価値がなければ借りて済ますのが読者の心理だろう。高井氏は、
「読書離れになった責任は、一に親、二に学校、三に出版界にある」
「出版界の不振の理由を外的要因だけに求めるのは間違い」
と出版界の努力不足は認めている。
「出版社は本が売れないと嘆く前に、まず良書を提供する余裕を持たなければいけない」
というスタンスも読者にとってはありがたい限りである。しかし、読書離れの責任として、出版界を1番目ではなく、3番目に挙げていることは少々鼻につく(私が一児の父親という立場もあるかも知れないが・・・)。
また、書店の問題 (最近感じるのは、書店員の読書量や商品知識が減っていること、新刊をとっかえひっかえ煽るようにして売り、衝動買いをさせていることなど) にはほとんど触れられていないことも 「他責」 にしているように感じさせる。私は紀伊國屋書店は大好きな書店チェーンの1つなので、特に不満は感じていないが、こうして著書で提言する以上は、書店の立場で非を認める 「自責」 のトーンも出して欲しかった。
あと、小売業である以上、顧客(読者)視点でももう少し語って欲しい。新興勢力に対する主張も構わないが、高井氏自身のユーザー体験として、アマゾンや電子書籍ならではの利便性に触れた上で、書店はこうあるべき! と述べられていたら違った印象を持ったかも知れない。残念ながら両者を使いこんでいる感じは伝わってこなかったので、本書を 【出版業界に携わる人たちに対する提言】 (つまり身内の身内による提言という意味で) と書いた。
本書を Kindle版で購入したことは冒頭触れたが、高井氏は 「最近の作品では 『一路』 が好き」 と内容に触れて称賛していた。私は思わず 『一路』(浅田次郎著) をこれまた Kindle版 で買ってしまった。
リアル書店で味わう本との出会いも捨てがたいし、すぐに買えるネット書店、すぐに読める電子書籍の良さも読者にとってはありがたい。そして電子書籍ではハイライト情報がクラウド上にアップされて、SNSなどで2次利用・自己発信できる、著者の立場では読者がどの部分にハイライトしているか分かるので次の著作に活かせる・・・ こういった各々の利便性をふまえた上で 「リアル書店のあるべき姿」 をリアル書店の経営者の方々には考えて欲しい。きっと、ネット書店や電子書籍では味わえない魅力的な空間にできるはずなのだが・・・ だってリアルの " 場 " を持っているのだから。
紀伊國屋書店は絶対になくなって欲しくないので、高井社長みずからネット書店や電子書籍のユーザー体験をして欲しいと思った。リアル書店ならではの新しい価値を創出し、全国の書店を率いる存在になって欲しいと心から願いたい。
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本の力 単行本 – 2014/11/21
高井 昌史
(著)
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購入オプションとあわせ買い
著者は言う。「『本』は、その国の文化の土台である」と。その「本」を全国津々浦々に流通させてきた「出版界」という仕組みがあったからこそ、日本は、敗戦という大きな歴史事実に傷つきながらも、先人の残した素晴らしい文化を受け継ぐことができ、国民の知の水準を高く保つことができた。「本離れ」と言われながらも、日本の出版物販売額はいまだ世界でもトップクラスである。われわれ日本人は、「知」を求めてやまない国民なのだ。だからこそ、この大切な「本」の文化を正しい形で未来に手渡さなければならない。それこそが、これからも日本を繁栄し続けさせるための不可欠な道なのだ。現在の出版界は苦境の中にある。それはなぜなのか。グローバルな視点に立てば出版界にも明るい未来がある。それはいかなるものなのか。出版界のトップリーダーとして、言わずば止まない熱き思いを凝縮した、まさに渾身の一冊。
- 本の長さ200ページ
- 言語日本語
- 出版社PHP研究所
- 発売日2014/11/21
- 寸法13.6 x 1.8 x 19.5 cm
- ISBN-104569822290
- ISBN-13978-4569822297
商品の説明
出版社からのコメント
序章 いま、出版界は
第1章 紀伊國屋書店が日本に存在する意義(大学教授に本を売る:外商という仕事
書店と図書館の連携:理想の図書館づくりをサポートする
知識へのアクセスを楽にする:知識を体系化する仕事
「文化への愛着」を忘れてはいけない)
第2章 本の未来、出版界の未来(「ゴホン!と言えばアマゾン」:アマゾンの脅威
曲がり角にさしかかった業界ルール:新興勢力の台頭
業界の覚悟を持て)
第3章 いまこそ、世界を目指せ!(グローバル化こそ出版界の成長戦略
いまこそ、原点回帰のとき)
終章 私を形作ってくれた本たち
第1章 紀伊國屋書店が日本に存在する意義(大学教授に本を売る:外商という仕事
書店と図書館の連携:理想の図書館づくりをサポートする
知識へのアクセスを楽にする:知識を体系化する仕事
「文化への愛着」を忘れてはいけない)
第2章 本の未来、出版界の未来(「ゴホン!と言えばアマゾン」:アマゾンの脅威
曲がり角にさしかかった業界ルール:新興勢力の台頭
業界の覚悟を持て)
第3章 いまこそ、世界を目指せ!(グローバル化こそ出版界の成長戦略
いまこそ、原点回帰のとき)
終章 私を形作ってくれた本たち
著者について
(株)紀伊國屋書店代表取締役社長
登録情報
- 出版社 : PHP研究所 (2014/11/21)
- 発売日 : 2014/11/21
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 200ページ
- ISBN-10 : 4569822290
- ISBN-13 : 978-4569822297
- 寸法 : 13.6 x 1.8 x 19.5 cm
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- - 320位書店・古書店の本
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