私は作者のデビュー当時からのファンで、「陰と陽」、「白と黒」を一瞬の内に反転させてしまう作者の作風を愛好して来た(最高傑作は短編集「夜よ鼠たちのために」だろう)。本作の存在は初めて知ったが、冒頭で"俺"と「運が悪いと弁解し、罪を告白する」"あいつ"とが登場し、以下、"俺"と思われる"花ジン"という落ち目(小田という若手俳優に主役の座を奪われてしまう)の時代劇大スターのマネージャー梁一("花ジン"を憎んでいるが、"花ジン"に奴隷の様に仕えざるを得ない自身をより憎んでいる)と"あいつ"と思われる美人局上がりで役者志望の秋葉(ガタイは良くシャイだが本番に強い)の回想譚が展開されるが、これまでの経験上、「梁一⇔秋葉」の入れ替わりを本線に注意深く読み進めた。この他、秋葉の美人局の相棒で奇矯な鈴子が主要登場人物で、梁一は"花ジン"の代りに秋葉と鈴子のマネージャーとなる事を決意する。
芸能界の模様が巧みに描かれ、小刻みな「陰と陽」の反転が畳込まれるが、"花ジン"の出演作品の監督の野倉が"G"で、秋葉だけではなく梁一も「脱ぐと凄いんです」という設定になっている点がグロテスクであると共に梁一の正体を益々怪しくしている(と思った)。一方、"俺"と"あいつ"は額面通りの様にも思える。梁一の復讐計画は麻薬所持の罪で"花ジン"を葬る事だったが、初めから警察が介入していたので、計画は結果的に成功したという所。これに依って、野倉が秋葉を代役候補に挙げるが、秋葉・鈴子が熱海に心中旅行に出向き、秋葉が死に掛けているという状況は、誰にとって「運が悪い」のか ? (熱海について)省略があって、秋葉が「本番に強い」特性を活かしてスターに伸し上がって行く過程と、必ずしも現状に満足していない秋葉が鈴子との心中を仄めかし、次第に罪を告白して行く姿が描かれる(即ち、額面通り)上に梁一は秋葉の代りに自首を申し出る。ただし、梁一は少なくてもこの時点で誰かに話し掛けて(説明して)いるので、既に捕まったという事か?。そして、省略した熱海の部分が本作の肝で、秋葉・鈴子と梁一とが"互いの夢"を背負って騙し合っていた事と秋葉・鈴子・梁一の変則三角関係が浮かび上がって圧巻。
そして、当初の予想の「梁一⇔秋葉」の入れ替わりが"意表を突く形"で復活・実現する展開はアクロバティックという他は無い。作者の"騙し"の技巧が炸裂した隠れた傑作だと思った。
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流れ星と遊んだころ 単行本 – 2003/5/1
連城 三紀彦
(著)
- 本の長さ325ページ
- 言語日本語
- 出版社双葉社
- 発売日2003/5/1
- ISBN-104575234621
- ISBN-13978-4575234626
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商品の説明
内容(「MARC」データベースより)
酒場で出会った風変わりな男が持つスターの素質に惚れ込んだ芸能マネージャー・北上は、その男をスターにするべく奔走するが…。男たちの最後の夢を賭けたドラマがいま始まる。
登録情報
- 出版社 : 双葉社 (2003/5/1)
- 発売日 : 2003/5/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 325ページ
- ISBN-10 : 4575234621
- ISBN-13 : 978-4575234626
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,599,707位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 38,048位日本文学
- カスタマーレビュー:
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2021年7月8日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2014年5月18日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
深層心理をつく見事な構成と、文体にいつの間にか引き込まれている。
語り手が何度も交錯し、渦中に投げ込まれたような感覚を味あわされた。
語り手が何度も交錯し、渦中に投げ込まれたような感覚を味あわされた。
2023年4月11日に日本でレビュー済み
『暗色コメディ』の書評でも書きましたが、やはり連城三紀彦氏のミステリのおもしろさは短編ものに尽きる、と思えます。長編はとにかく冗長に感じてしまい、回りくどさや説明の丁寧さがかえって苦痛でした。特に今作のように過去と現在、一人称と三人称が目まぐるしく入れ替わる物語は、一気に読まないと何が何だかあまりに複雑で、かえって驚きが減じてしまうように思えますし、叙述トリックなのだなということが見抜けてしまいます。どんでん返しもむしろ短編の方が鮮やかな伏線に感嘆するのですが、長編だと埋もれてしまったり忘れてしまったりというマイナス面も・・・。本格ミステリというよりは普通のいわゆる大衆文学に近い小説かと。芸能界はやはり恐ろしい世界だということだけは堪能できました(笑)。
2014年11月5日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2013年10月に、65歳という、天寿を全うしたとは言えぬ年齢で、この世を去った著者が、最後から2番目の長編として遺したのが、本作品で、雑誌連載後、2003年に単行本として、刊行されました。
本書は、著者の没後、2014年2月に文庫化されたものです。
作品の舞台は、芸能界。
人気が下降気味の映画スターのマネージャー、北上梁一は、秋葉一郎と、連れの柴田鈴子(レイコ)の2人と出会い、新しいスターを生み出すために画策する──という物語。
連城ミステリを読んだことのある方なら、定番と言える、どんでん返しに次ぐ、どんでん返しの連続は、本作品でも、健在です。
上記の主要な3人以外の脇役までもが、それぞれの思惑で行動し、その意図が明らかになるたびに、読者は騙されたことに気づき、驚きを隠すことは、できないでしょう。
ましてや、物語の行き着く先を予測することは、ほとんど不可能だろうと思います。
また、本作品は、文体に特色があり、「俺」という一人称の文章と、北上梁一視点の三人称の文章が、何度も入れ替わります。
それは、段落が変わる部分だけでなく、一段落の中の文章と文章を、「──」で繋ぐ形で切り替わったりもします。
このため、うっかりすると、三人称のつもりで読んでいたら、知らぬ間に一人称の文章になっていたなどということもありますので、ご注意を。
恐らく、ほとんどの読者は違和感を覚えつつ、読み進めることになるでしょうが、人称の入れ替わりに込められた著者の企みを見破ることは、非常に困難であろうと思います。
私も自分なりの予想は立てていたのですが、当たりませんでした。
本作品は、この文体の趣向を知るだけでも、読む価値があると思います。
なお、先述のとおり、物語は、二転三転はおろか、何転するか分からない、どんでん返しのオンパレードなので、決して飽きることなく、気がつくと最終頁──などということは、著者の作品群では、よくあることなのです。
これほど、ひとつの作品に「意外性」を詰め込んだ作風を持った作家は、唯一無二と言ってよいでしょう。しかも、直木賞を受賞するだけあって、文章そのものも、流麗で、極めて心地よいものなのです。
65歳なら、現代ではまだまだ活躍できる年齢だったはず。
その意味で、著者の死を強く悼むものです。
本書は、著者の没後、2014年2月に文庫化されたものです。
作品の舞台は、芸能界。
人気が下降気味の映画スターのマネージャー、北上梁一は、秋葉一郎と、連れの柴田鈴子(レイコ)の2人と出会い、新しいスターを生み出すために画策する──という物語。
連城ミステリを読んだことのある方なら、定番と言える、どんでん返しに次ぐ、どんでん返しの連続は、本作品でも、健在です。
上記の主要な3人以外の脇役までもが、それぞれの思惑で行動し、その意図が明らかになるたびに、読者は騙されたことに気づき、驚きを隠すことは、できないでしょう。
ましてや、物語の行き着く先を予測することは、ほとんど不可能だろうと思います。
また、本作品は、文体に特色があり、「俺」という一人称の文章と、北上梁一視点の三人称の文章が、何度も入れ替わります。
それは、段落が変わる部分だけでなく、一段落の中の文章と文章を、「──」で繋ぐ形で切り替わったりもします。
このため、うっかりすると、三人称のつもりで読んでいたら、知らぬ間に一人称の文章になっていたなどということもありますので、ご注意を。
恐らく、ほとんどの読者は違和感を覚えつつ、読み進めることになるでしょうが、人称の入れ替わりに込められた著者の企みを見破ることは、非常に困難であろうと思います。
私も自分なりの予想は立てていたのですが、当たりませんでした。
本作品は、この文体の趣向を知るだけでも、読む価値があると思います。
なお、先述のとおり、物語は、二転三転はおろか、何転するか分からない、どんでん返しのオンパレードなので、決して飽きることなく、気がつくと最終頁──などということは、著者の作品群では、よくあることなのです。
これほど、ひとつの作品に「意外性」を詰め込んだ作風を持った作家は、唯一無二と言ってよいでしょう。しかも、直木賞を受賞するだけあって、文章そのものも、流麗で、極めて心地よいものなのです。
65歳なら、現代ではまだまだ活躍できる年齢だったはず。
その意味で、著者の死を強く悼むものです。
2004年3月30日に日本でレビュー済み
本の紹介の謳い文句に惹かれて読んだのですが、どこまでいっても主な登場人物達が、名前が入れ替わったり、抱くの抱かれるのの関係が煩雑でした。逆にそれが、この作品の張りつめるだけ張りつめた緊張感を醸しだしているのですが。どうなって行くのか?何処に繋がっていくのか?と、ずっとこちらの神経を試されているような感じでした。北上が秋葉をスターにするために、ものすごく尽力するのはわかるのですが、入れ子になった箱というか合わせ鏡のようで、混乱してしまいました。謎解きのトリックにはあっ!と言わされましたが、心ゆくまでというふうに楽しめませんでした。
2014年2月15日に日本でレビュー済み
2003年初刊。千街晶之氏の熱の入った総括的連城論というべき解説を付した文庫再刊。(解説だけでも買う価値がある)
連城三紀彦の余りに若すぎる死は本当にショックだった。これ以上ない繊細な筆致で描かれた恋情と破天荒な奇想と騙しの技巧を常に両立させた稀有な作家が逝ってしまった。
本書もどんでん返しに次ぐどんでん返しの連続で読者を翻弄する。予備知識なしで、出来れば表紙裏の粗筋さえ見ないで読むのをお勧めする。
ミステリとしての驚きと、人生で誰もが抱く欲望や悔恨と痛みを表現した傑作。鮮やかで悲痛な結末も素晴らしい。穏やかな優しさの中にどこか無常観が漂うのは氏が仏門に帰依していた影響もあるのだろうか。
さらに連城作品に浸りたい向きには、奇想の極地というべき歴史ミステリ『敗北への凱旋』(1983年)、フランスミステリを思わせるエレガントな雰囲気の中に驚天動地の叙述トリックを仕掛けた『私という名の変奏曲』(1984年)。そしては読後絶句必至、有名猟奇事件に材を採った極めつけの怪作短編「親愛なるエス君へ」(短編集『凱旋灯』(1984年)に収録)といった名作群を是非に。
心から連城ミステリの再評価を願うばかりだ。
連城三紀彦の余りに若すぎる死は本当にショックだった。これ以上ない繊細な筆致で描かれた恋情と破天荒な奇想と騙しの技巧を常に両立させた稀有な作家が逝ってしまった。
本書もどんでん返しに次ぐどんでん返しの連続で読者を翻弄する。予備知識なしで、出来れば表紙裏の粗筋さえ見ないで読むのをお勧めする。
ミステリとしての驚きと、人生で誰もが抱く欲望や悔恨と痛みを表現した傑作。鮮やかで悲痛な結末も素晴らしい。穏やかな優しさの中にどこか無常観が漂うのは氏が仏門に帰依していた影響もあるのだろうか。
さらに連城作品に浸りたい向きには、奇想の極地というべき歴史ミステリ『敗北への凱旋』(1983年)、フランスミステリを思わせるエレガントな雰囲気の中に驚天動地の叙述トリックを仕掛けた『私という名の変奏曲』(1984年)。そしては読後絶句必至、有名猟奇事件に材を採った極めつけの怪作短編「親愛なるエス君へ」(短編集『凱旋灯』(1984年)に収録)といった名作群を是非に。
心から連城ミステリの再評価を願うばかりだ。
2015年2月13日に日本でレビュー済み
これだけ「どんでん返し」があると、最後まで読み切らない事には、何が真実なのか解りません。
とにかく、登場人物たちの嘘の付き合い、騙し合いが凄くて、読んでいても全く安心出来ません。
大体、文章も一人称で書かれたり、三人称で書かれたりします。
この理由も、かなりの終盤まで行かないとその理由が解りません。
これだけの「真実」の見えない世界、「嘘」の横行する世界を描くためには、「芸能界」と言う世界が必要だったかも知れません。
いずれにしても、これだけ騙され続けられる小説に会えることだけでも素晴らしいことだと思います。
連城三紀彦さんの作品は、デビュー当時から読んでいるのですが、「戻り川心中」のイメージが余りにも強くて、正直、この作品にはちょっと違和感がありました。
面白く楽しい作品ではありましたが・・・。
とにかく、登場人物たちの嘘の付き合い、騙し合いが凄くて、読んでいても全く安心出来ません。
大体、文章も一人称で書かれたり、三人称で書かれたりします。
この理由も、かなりの終盤まで行かないとその理由が解りません。
これだけの「真実」の見えない世界、「嘘」の横行する世界を描くためには、「芸能界」と言う世界が必要だったかも知れません。
いずれにしても、これだけ騙され続けられる小説に会えることだけでも素晴らしいことだと思います。
連城三紀彦さんの作品は、デビュー当時から読んでいるのですが、「戻り川心中」のイメージが余りにも強くて、正直、この作品にはちょっと違和感がありました。
面白く楽しい作品ではありましたが・・・。
2009年6月23日に日本でレビュー済み
この作者さんの話を読むのは初めてでした。
他の方が仰っているように三人称と一人称の使い分けで
少しこんがらがりそうになります。
掴みやトリック(?)というか途中のヤマなどはありがちかなという気はしますが、
全体的によく出来ていると思いました。
ただ主人公二人の目線で話が進んでいるせいか他の人物たちの印象が薄いかなと思いました。
主人公の一人北上が担当していた俳優花ジンや監督、唯一主要な女性の登場人物、鈴子など
魅力的な人物が沢山いるので少し残念です。
ラブストーリーではないと仰る方もいますがその要素も十分にあると思います。
感情的になっていた過去を冷静な眼で振り返っている分、切なさが増します。
他の方が仰っているように三人称と一人称の使い分けで
少しこんがらがりそうになります。
掴みやトリック(?)というか途中のヤマなどはありがちかなという気はしますが、
全体的によく出来ていると思いました。
ただ主人公二人の目線で話が進んでいるせいか他の人物たちの印象が薄いかなと思いました。
主人公の一人北上が担当していた俳優花ジンや監督、唯一主要な女性の登場人物、鈴子など
魅力的な人物が沢山いるので少し残念です。
ラブストーリーではないと仰る方もいますがその要素も十分にあると思います。
感情的になっていた過去を冷静な眼で振り返っている分、切なさが増します。