平安伝奇活劇。『童の神』を読んでから、そういえばこれも平安時代の「まつろわぬ者」テーマだったなあ、と思い出して再読であります。
主人公「まつろわぬ者の王」こと鬼王丸は戦場で敗死したはずの平将門。全てを失い、甲斐から信濃、能登を目指して逃避行を続ける彼の一行に向けて朝廷から追っ手がかかる。
最大の仇敵である平貞盛をはじめ、陰陽師の賀茂保憲、甲賀忍者、比叡山の僧兵軍団と追っ手は多彩ながら、これが一枚岩ではなく、互いに利用しつつ出し抜こうとする面子ばかりなんだから仁義なき潰し合いが展開されることに。新手の敵が出てくるたびに迎え撃てばいい鬼王丸のある意味でシンプルな行動にまして、追っ手同士の腹の探り合いの方で物語を引っ張っているような気すらいたします。
題材や設定にはとても魅力があるものの、それぞれの人物描写だったり行動目的だったりが釈然とせず、全体に消化不良の感がとても残念。賀茂保憲といい、甲賀三郎といい、当初は敵として立ちはだかる存在だったのに将門たちに惹かれて、なし崩し的に仲間みたいになってしまいます。平貞盛も、ただの底の浅い悪役として描きたくなかったからか、それとも史実との整合性を考えたのか、かえって中途半端な扱いになってしまったのでは。
主人公の鬼王丸=平将門は年齢不詳の童顔?キャラ……って、この設定、最近もいくつか読んだような。ヒロイン枠で娘(夜叉姫)がいるのだから、あんた、いったい何歳なのよ。困ったことにこの将門公、関東独立の戦いに敗れた反逆者で天衣無縫の快男児というキャラクター設定が収まり悪く、何がやりたいのかよく分からなくて、実在の人物を物語で動かすことの難しさを考えさせられることに。娘を登場させながら、父子の交流がほとんど描かれなかったままだったのももったいない……。
登場人物たちが駆使する方術は超能力なものではなく、種も仕掛けもあるトリックだと『魁!男塾』テイストな種明かしがついていますが、とてもそんなレベルではありません。硬功夫で爆発を耐え切ってしまいますし。いくら無痛症だからといっても、飛礫で額を砕かれたり、刀槍が胸を貫通したら死んじゃうでしょう。
そして、そんな物語の中で最大の謎は異国人の巫女「柊」の存在。えーっと、結局、種も仕掛けもあるように見せかけて人外だったというオチでよろしいのですか……?
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カーマロカ―将門異聞 単行本 – 2005/1/1
三雲 岳斗
(著)
平将門は生き延びた! 死んだはずの将門が、突如、朝廷軍の網を抜け、甲斐の国に現れた。絶世の美女と高貴な男を作って…。彼らの目指す先と目的が誰にも分からぬまま、追捕氏、僧兵、陰陽師らが朝命を受けて次々に襲いかかる。そして娘も父を追って…。気鋭・三雲岳斗の筆が将門伝説を相手にうなりを上げる。驚異の一冊!
- 本の長さ352ページ
- 言語日本語
- 出版社双葉社
- 発売日2005/1/1
- ISBN-10457523513X
- ISBN-13978-4575235135
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登録情報
- 出版社 : 双葉社 (2005/1/1)
- 発売日 : 2005/1/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 352ページ
- ISBN-10 : 457523513X
- ISBN-13 : 978-4575235135
- Amazon 売れ筋ランキング: - 840,343位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 212,233位文学・評論 (本)
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著者について
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1970年大分県生まれ。横浜市在住。’98年に『コールド・ゲヘナ』で第5回電撃ゲーム小説大賞“銀賞”を受賞し、デビュー。’99年に『M.G.H.楽園の鏡像』で第1回日本SF新人賞を受賞(「BOOK著者紹介情報」より:本データは『少女ノイズ』(ISBN-10:4334747582)が刊行された当時に掲載されていたものです)
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2019年3月8日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2006年12月19日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
平安時代の闇、まつろわぬ鬼、渡来人、陰陽道に天台密教などに加え、物語の中心に位置するのが討たれたはずの「新皇」将門。人によってはたまらない題材が揃っており、登場人物たちも魅力的。分野は伝奇小説だろうか。なんとなく忍者武芸帳とかを思い出す。文章は長めだが読みやすく、娯楽小説としてお勧めできる。しかし、タイトルとカバーでちょっと損をしている本だと思う。
2005年10月9日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
将門の乱を軸にして、陰陽道など様々な要素があるこの本。
生き延びた将門とそれを追うものたちの人生模様が面白い。
また、妖術と呼ばれるものを科学的に合理的に小説の中で説明しているところが斬新。ただの伝奇小説ではない。
難点は、登場人物の呼び名など読みにくいこと。毎回、振り仮名を振ってもらうと嬉しい。
生き延びた将門とそれを追うものたちの人生模様が面白い。
また、妖術と呼ばれるものを科学的に合理的に小説の中で説明しているところが斬新。ただの伝奇小説ではない。
難点は、登場人物の呼び名など読みにくいこと。毎回、振り仮名を振ってもらうと嬉しい。
2012年4月8日に日本でレビュー済み
2005年に出た単行本のノベルス化。
平将門を主人公とした伝奇小説である。実は将門は死んでおらず、北を目指して逃げ延びていたという設定で、将門と仲間たち、朝廷の命により将門を追う者たち、第三勢力が入り乱れての群像活劇となる。
ちなみにカーマロカとは「煉獄」のこと。
将門に付き従う謎の美女、菅原道真の子孫、天才陰陽師、天台密教の怪僧とみな異能の者たちで、彼らが秘術を尽くしての戦いとなる。それぞれの人物に魅力があり、おもしろかった。
ただ、みんなで戦ってばかり。ストーリーがあってないようものなので、ちょっと不満が残った。
回収されない大きな謎も残っており、続編を意図していたようだが、出ていない。
平将門を主人公とした伝奇小説である。実は将門は死んでおらず、北を目指して逃げ延びていたという設定で、将門と仲間たち、朝廷の命により将門を追う者たち、第三勢力が入り乱れての群像活劇となる。
ちなみにカーマロカとは「煉獄」のこと。
将門に付き従う謎の美女、菅原道真の子孫、天才陰陽師、天台密教の怪僧とみな異能の者たちで、彼らが秘術を尽くしての戦いとなる。それぞれの人物に魅力があり、おもしろかった。
ただ、みんなで戦ってばかり。ストーリーがあってないようものなので、ちょっと不満が残った。
回収されない大きな謎も残っており、続編を意図していたようだが、出ていない。
2006年6月29日に日本でレビュー済み
平将門と言うのは現代においても異様な人物といっていいだろう。何せ、大手町の一等地に社を構えているのだから。明治以降、移転しようとして災難が降りかかったと言う話に事欠かない。
歴史は常に勝者のものである。古事記にいう、まつろわぬ神々というのは、体制に従わなかった地方豪族たちだともいう。そういう観点から見れば、怨霊として扱われた将門も、体制に都合の良くなかった人物だったと言うことなのだろう。本作も、そんな視点から描かれている。
主役は平将門のようだが、実際の主人公は賀茂保憲であり、平貞盛である。それぞれが、将門を認めつつも、それぞれの鬱屈した感情で彼に立ち向かう。その状況を見て、笑っているのは一体誰なのだろうか。
良作とは思うが、最後だけは納得行かない。あのような展開にするのならば、途中で別の展開にすればよかったはずであり、苦労して陰陽術などに理屈をつけたのに、矛盾した行動と言える気がする。…まあ、楽しく読めたからいいけど。
歴史は常に勝者のものである。古事記にいう、まつろわぬ神々というのは、体制に従わなかった地方豪族たちだともいう。そういう観点から見れば、怨霊として扱われた将門も、体制に都合の良くなかった人物だったと言うことなのだろう。本作も、そんな視点から描かれている。
主役は平将門のようだが、実際の主人公は賀茂保憲であり、平貞盛である。それぞれが、将門を認めつつも、それぞれの鬱屈した感情で彼に立ち向かう。その状況を見て、笑っているのは一体誰なのだろうか。
良作とは思うが、最後だけは納得行かない。あのような展開にするのならば、途中で別の展開にすればよかったはずであり、苦労して陰陽術などに理屈をつけたのに、矛盾した行動と言える気がする。…まあ、楽しく読めたからいいけど。