人と人が出会う、すると物語が生まれる。
だから、多くの小説では人と人とが出会い物語がはじまる。
出会いは物語の最も基本的な導入だ。
しかし、桜井鈴茂は疑う。
「そんなに簡単に人って出会わないよな」と。
「終わりまであとどれくらいだろう」は“すれ違い”の物語である。
東京の街で、6人の男女が、
それぞれに大なり小なりの悩みを抱えながら一日を生きる。
そして彼らはすれ違う。
正確にいえば、彼らは全く出会わないわけではない。
出会って会話もするし、お酒を飲み交わしたりもする。
しかし、その出会いは新たな物語の導入では決してない。
出会いによって彼らの抱える問題はなにひとつ解決しないし、
希望が生まれることもない(ほんの少しだけ希望が生まれる予兆はある。
でも、結局は日常の洪水のなかに埋もれていってしまう)。
彼らは窒息しそうなほどの息苦しさのなかでなんとか時をやり過ごす。
結局、彼らの出会いはすれ違いの延長でしかない。
彼らのすれ違いを、そして閉塞と倦怠を、
交響曲のような綿密さで構築し結晶化した作品、
それが「終わりまであとどれくらいだろう」だ。
大きな事件が起きるわけではない。
“彼ら”の悩みも、客観的にみればたいしたものではないのかもしれない。
でも、息苦しい。その息苦しさがぼくにはわかる。
つまり、これが現実であり、世界の様相なのだ。
そして、桜井鈴茂はそんな息苦しさからは簡単には解放してくれない。
きっと明日もまた、彼ら=ぼくらは同じように悩み、同じように時をやり過ごすだろう。
ぼくらはいつだって息苦しい。
調べたところ、この作品はどの文学賞を獲っていないらしい。
文学賞を獲ることがどれほどの価値なのか、ぼくにはわからない。
しかし、この作品は日本文学界の大きな収穫だと断言できる。
この作品に賞を与えずしてどんな作品が賞に値するというのか。
信用すべきはこの作品に賞を与えなかった日本の文壇ではなく、
「すごい小説が読みたい」と常々思っている市井の読者たちだろう。
だから、とにかくこの作品を手にとってほしい。
“すごい小説”がここにあります。
無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません。
ウェブ版Kindleなら、お使いのブラウザですぐにお読みいただけます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
終わりまであとどれくらいだろう (双葉文庫 さ 29-1) 文庫 – 2008/3/13
桜井 鈴茂
(著)
2003年4月5日。桜が咲き乱れる東京を、6人の男女がさまよっていた――。子猫を隠れて飼うロッカー、恋人との別れに怯えるレズビアン、セックス中毒の経営コンサルタント……。破格のスタイルとドライヴ感溢れる文章で、人間の純粋さと弱さ、痛ましい希望を描いた現代日本文学。「アヴェ・マリア」も併録。
- 本の長さ268ページ
- 言語日本語
- 出版社双葉社
- 発売日2008/3/13
- ISBN-104575511889
- ISBN-13978-4575511888
この商品をチェックした人はこんな商品もチェックしています
ページ 1 以下のうち 1 最初から観るページ 1 以下のうち 1
登録情報
- 出版社 : 双葉社 (2008/3/13)
- 発売日 : 2008/3/13
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 268ページ
- ISBN-10 : 4575511889
- ISBN-13 : 978-4575511888
- Amazon 売れ筋ランキング: - 915,508位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
著者について
著者をフォローして、新作のアップデートや改善されたおすすめを入手してください。
著者の本をもっと発見したり、よく似た著者を見つけたり、著者のブログを読んだりしましょう
カスタマーレビュー
星5つ中4.5つ
5つのうち4.5つ
6グローバルレーティング
評価はどのように計算されますか?
全体的な星の評価と星ごとの割合の内訳を計算するために、単純な平均は使用されません。その代わり、レビューの日時がどれだけ新しいかや、レビューアーがAmazonで商品を購入したかどうかなどが考慮されます。また、レビューを分析して信頼性が検証されます。
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2014年8月29日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2007年2月10日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
はじめて桜井鈴茂さんの本を読んだ。
曽我部恵一さんへのSpecial Thanksがあったので即買いした。
読んでみると、6人の視点が切り替わりながらストーリーが展開していくのと、語り口がくだけているので、読むのが遅い僕でも1日かからず読めた。
ストレス、薬、性という要素を、6人の仕事、結婚、恋愛や人生観などの価値観が通して描かれることで、日常の閉塞感や停滞感が細かく伝わり、その先に著者のメッセージが込められている。薬や性については、描写の回数が少なくないので評価はいろいろあると思うけど、僕には面白く読めた。
洋楽のアーティスト名や曲名が所々に散りばめられているから、音楽好きな人にはそれだけでも読みやすいかも。6人の視点がそれぞれ「あーわかるわかる」っていう気持ちで読めたから面白かった反面、そう思えるということは人物描写が浅いということなのかも、と思ったりする。
「なんか最近消費しすぎて疲れたー」とか、「なんとなく最近マンネリ気味」な人にオススメな一冊。
曽我部恵一さんへのSpecial Thanksがあったので即買いした。
読んでみると、6人の視点が切り替わりながらストーリーが展開していくのと、語り口がくだけているので、読むのが遅い僕でも1日かからず読めた。
ストレス、薬、性という要素を、6人の仕事、結婚、恋愛や人生観などの価値観が通して描かれることで、日常の閉塞感や停滞感が細かく伝わり、その先に著者のメッセージが込められている。薬や性については、描写の回数が少なくないので評価はいろいろあると思うけど、僕には面白く読めた。
洋楽のアーティスト名や曲名が所々に散りばめられているから、音楽好きな人にはそれだけでも読みやすいかも。6人の視点がそれぞれ「あーわかるわかる」っていう気持ちで読めたから面白かった反面、そう思えるということは人物描写が浅いということなのかも、と思ったりする。
「なんか最近消費しすぎて疲れたー」とか、「なんとなく最近マンネリ気味」な人にオススメな一冊。
2005年10月30日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
僕はこの人を全然知らなかった。そして特に関心もなく
ただ僕の好きな人が薦めていた本だったので読んでみた。
読み始めると現実だらけのストーリーに戸惑った。
そして読み終えるころににはその中の人物の一人に
自分をみてしまっていた。今の僕らに必要な何かが
この本には書かれている。この本を読み終えたとき
岡本太郎さんの本のことを思い出した。なぜか同じ
匂いのある本だ。この著者、桜井さんに拍手だ。
そしてこの本に出会わせてくれた人、曽我部さん
ありがとう。
ただ僕の好きな人が薦めていた本だったので読んでみた。
読み始めると現実だらけのストーリーに戸惑った。
そして読み終えるころににはその中の人物の一人に
自分をみてしまっていた。今の僕らに必要な何かが
この本には書かれている。この本を読み終えたとき
岡本太郎さんの本のことを思い出した。なぜか同じ
匂いのある本だ。この著者、桜井さんに拍手だ。
そしてこの本に出会わせてくれた人、曽我部さん
ありがとう。
2011年6月20日に日本でレビュー済み
コンテンツ(中身)とスタイル(技法)が見事に符号している。この小説が発表当時どうして話題になっていなかったのか、そして、今なお話題になっていないのか、まったくもって不思議。明らかに純文学なのに、エンタメ系の出版社から刊行されているせいかもしれない。それとも、純文学のフレームにさえ収まり切らないからか。いずれにせよ、00年代(小説の設定は03年春)の東京の生活の一面をこれまど効果的に小説化したものを他に知らない。文庫に収録の石川忠司氏の解説も熱くてわかりやすい。カルトにはしたくないが、今のところカルトな傑作!