本書は、北インドの小都市アヨーディアにおけるヒンドゥー教徒とイスラム教徒の「聖地」をめぐる激しい争い(『ラーマーヤナ』におけるアヨーディアと現在のそれを同一視し、そこにモスクを建立したことに端を発する争い)のバックグランドを歴史的に辿る。歴史的具体相の記述は質が高く、時に素晴らしく興味深いのだけれども、本書の結論はふともらされた感想という形をとっているとしても、いささか鼻白むものがあった。つまり、人間は、個においてもグループにおいても自己が自己である理由を、また自己の生きる意味を強く求めたがるものであるばかりでなく、それをシンボリカルに行動に表さないではいられない生き物だ、と言う。歴史的な事実の積み重ねの部分とこの結論には飛躍しすぎた距離を僕は感じた。
「ビルマ向け乾肉輸出問題」を扱った章は、僕の想像力をいたく刺激する記述が少なくない。しかし、記述内容は確固としていても断片的であり、「コミュナリズムの表舞台」をそれらをたよりに読解せよと言われても無理があるように思う。インドに興味があっても基礎的知識を欠く僕のような読者には分からないことが多すぎる。少なくとも、次の点が明らかになっていればもっと有意義な読書ができたのだと思う。すなわち、1)二十世紀初頭の植民地インドにおける自治権の実態、2)乾肉輸出によってインドのどういうグループの人々が利益を得ていたのか、3)輸出された乾肉は、ビルマでどのように消費されていたのか、等々。
僕の読書のひとつの楽しみは、一般読者向きに書かれた優れた学問的著作を読むことだ。この本は、もう一歩のところでその段階に達していないと思った。
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これからの世界史 5 単行本 – 1993/11/1
小谷 汪之
(著)
ラーム神話と牝牛-ヒンドゥー復古主義とイスラム-
- 本の長さ267ページ
- 言語日本語
- 出版社平凡社
- 発売日1993/11/1
- ISBN-104582495257
- ISBN-13978-4582495256
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登録情報
- 出版社 : 平凡社 (1993/11/1)
- 発売日 : 1993/11/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 267ページ
- ISBN-10 : 4582495257
- ISBN-13 : 978-4582495256
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,089,411位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 558位その他のアジア史の本
- カスタマーレビュー:
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