僕は森鴎外の作品を殆ど読んでいない。従い、本来は本書の良き読者になる資質が無いことを痛感しながらも、興味深く読了した次第だ。
森鴎外は森林太郎として、陸軍医総監という地位に昇りつめた陸軍軍医官僚である。日清・日露戦争を遂行する立場にある官僚が、どのように文学者としての自分を扱ったのかということが一義的な本書の狙いだ。
本書の著者は以下のように断言している。
「直接的であれ間接的であれ、文学者は戦争に直面したとき、最も根源的に文学者たるゆえんを問われることになる。
なぜなら戦争は、無条件で個人に国家の意志に服従することを求めてくるからであり、そこでは個人が国家と対峙し、
優越性を主張することで成り立つ文学の根底が否定されてしまいかねないからである」(332頁)
僕にはこの著者の断言が果たして正しいのかどうかが分からない。「最も根源的に文学者たるゆえん」に「国家と対峙する個人」を持ってくることが常に文学なのかという点が本書では解明されていないからだと考えるからだ。
勿論、本書で著者は、その一例として「森鴎外が軍医官僚の中に自分を閉じ込めなかった」点は描いている。本書で描かれる森鴎外という方は、最終的には戦争を嫌悪し、戦争を実行した日本という国家に対して異議を申し立てをしたように読める。
但し、繰り返すが、「戦争と文学」という点に関してまだ納得しかねている僕としては、「最も根源的」な文学は、戦争以外の場面でも、それを問われることがあるような気がしている。
一方話は全く変わってしまうが、柳田國男と森鴎外を比較するようなテーマが有り得るのかどうかとふと思った。柳田は詩人を捨てて高級官僚となり、更にそれも棄てて、民俗学へと進む。高級官僚であることと文学者であることを両立させた森鴎外の人生と柳田國男のそれを比べてみると何かそこから見えてくるものがあるかもしれない。これは完全に個人的な予感でしかないが。
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森鴎外と日清・日露戦争 単行本 – 2008/8/1
末延 芳晴
(著)
- 本の長さ359ページ
- 言語日本語
- 出版社平凡社
- 発売日2008/8/1
- ISBN-104582834078
- ISBN-13978-4582834079
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登録情報
- 出版社 : 平凡社 (2008/8/1)
- 発売日 : 2008/8/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 359ページ
- ISBN-10 : 4582834078
- ISBN-13 : 978-4582834079
- Amazon 売れ筋ランキング: - 149,381位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 31,989位ノンフィクション (本)
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上位レビュー、対象国: 日本
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2011年7月10日に日本でレビュー済み
2010年3月7日に日本でレビュー済み
”夏目漱石”と並ぶ明治の文豪”森鴎外”が、日清、日露戦争に従軍したことを通して、公人としての自分と文人としての自分との狭間で苦悩する姿が良く書かれている。
田山花袋などとの交友などのエピソードも効果的に挿入されていて興味深い。
軍人である鴎外が、戦争の悲惨さを目の当りにしながら、彼の理性が戦争を否定してしまう苦悩の姿にも触れている著者の視点に共鳴できた。
鴎外の生涯を書きながらも、明治という時代を、多面的に捉えて書かれているから、当時の文学界を俯瞰することもできる。
日清日露戦に従軍した兵士の多くが戦病死した記録を何かで読んだことがあるが、それはビタミンB欠乏症の「脚気」が原因であった。
鴎外は、海軍が白米食から麦を加えた食事に変えてから脚気を罹患する兵士が減少したことも知りながら、病原菌原因説に拘り続けたことから陸軍で脚気で多くの兵士が戦病死したと喧伝されている。
「文人」としては、漱石と並ぶ巨人であったかもしれないが、「医学者」としての鴎外の評価については、今でも意見が分かれているようである。
このようなエピソードも本書に挿入されていたら読み応えのある本になっていたのではないかと思いながら読了しました。
田山花袋などとの交友などのエピソードも効果的に挿入されていて興味深い。
軍人である鴎外が、戦争の悲惨さを目の当りにしながら、彼の理性が戦争を否定してしまう苦悩の姿にも触れている著者の視点に共鳴できた。
鴎外の生涯を書きながらも、明治という時代を、多面的に捉えて書かれているから、当時の文学界を俯瞰することもできる。
日清日露戦に従軍した兵士の多くが戦病死した記録を何かで読んだことがあるが、それはビタミンB欠乏症の「脚気」が原因であった。
鴎外は、海軍が白米食から麦を加えた食事に変えてから脚気を罹患する兵士が減少したことも知りながら、病原菌原因説に拘り続けたことから陸軍で脚気で多くの兵士が戦病死したと喧伝されている。
「文人」としては、漱石と並ぶ巨人であったかもしれないが、「医学者」としての鴎外の評価については、今でも意見が分かれているようである。
このようなエピソードも本書に挿入されていたら読み応えのある本になっていたのではないかと思いながら読了しました。