あとがきにあるとおり、本書は、『エヴァ』がいかなるドラマツルギーやテーマに支えられているのかを、作品自体を精読し、初期の企画書や作り手の発言なども援用しつつ読み解くことに力を注いでいる。いわゆる正攻法の『エヴァ』読解といえるだろう。なお、本書は大部分がTVアニメ版と旧劇場版への考察にさかれている。新劇場版が完成したときには、再び著者の論考を期待したい。
第拾九話「男の戦い」までは、主人公の碇シンジの成長を描いているが、第弐拾話からは大きく方向転換されており、第二のテーマが表に出て来きているといったのが本書の流れだ。ここでは第壱拾九話までのテーマを「偽りのリアリティ」、第弐拾話以降を「ホメオスタシスとトランジスタス」としている。
主人公のシンジは自分なりの行動目的を欠いており、人に流される人物なのに対して、父親のゲンドウは他人を駒として利用し、目的の実現のためには何があっても突き進むような人物だ。彼らは対照的な存在であり、どちらの方が正しいということでもない。加えて、彼らの関係は先ほど挙げた二つのテーマと密接にかかわっている。そしてテレビ版・旧劇では最終的に放棄されてしまった、父と子の対立は、新劇場版シリーズ完結編である「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」ではしっかりと描かれるのかを注目しておこうと思う(はっきり言って個人的にはエヴァQはちょっとあれだったので、完結編にはあまり期待していないのだが)。
個人的には、アスカが急速にレイと仲が悪くなった理由が書かれているのはすごく良かった。ここのところはアニメだけを見ていては分らないだろう。
さらにテレビ版・旧劇と新劇場版の相違点についても書かれており、そこも見どころ。
あとは宇野常寛『ゼロ年代の想像力』の矛盾もついており、大いに楽しめる一冊となっている。
しかし、成熟という檻 『魔法少女まどか☆マギカ』論 のときのようにアニメ絵がてんこ盛りというわけではなく、逆にまったくイラストがない。これでは少し寂しい気がする。まあこれは著者というよりも編集者や出版社の問題だと思うが。
なお、東浩紀大論戦のときみたいに著者がアスカ愛を叫ぶところが無かったのは残念だった。
結論から言えば、アスカはシンジに屈折した恋心を持っている。
アスカの母親は、実験の失敗による後遺症で精神を病んだことで、人形を実の娘であると思い込み、自分を全く見てくれなくなった。その母親を自分に振り向かせようと努力を重ねていたが、弐号機のパイロットに選ばれたその日に母親は人形と心中した。その深いトラウマにより、「泣かなぁい! 私は一人で生きる!」と決意したことで、転じて、周りから必要とされる価値ある自分でいなければならない、という一種の強迫観念を根底に持ち、脆さと紙一重の強さを兼ね備えた人格になってしまった。結果的に、物語の後半(主に第拾九話以降)でその強迫観念で自分自身を苦しめてしまうことになる。
アスカが加持さんに憧れていたのは、一人で飄々と生きることができる、大人の男だからであるが、一方のシンジは、どちらかといえば他人に流されやすい、自身に確固とした行動理念がない少年である。だからアスカはシンジに対して、どうしてもイライラした態度を取ってしまう。アスカはシンジに惹かれているけれど、自分の過去の経験から生じた心の壁がそれを否定しようとしている。そこで葛藤が生じるのだ。
とまあ、こういったことを著者は語っていたはずだ。
できれば、アスカがシンジを好きな理由も著者の文章で読みたかった。
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エ/ヱヴァ考 単行本(ソフトカバー) – 2012/11/24
山川 賢一
(著)
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- 本の長さ224ページ
- 言語日本語
- 出版社平凡社
- 発売日2012/11/24
- ISBN-104582835953
- ISBN-13978-4582835953
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登録情報
- 出版社 : 平凡社 (2012/11/24)
- 発売日 : 2012/11/24
- 言語 : 日本語
- 単行本(ソフトカバー) : 224ページ
- ISBN-10 : 4582835953
- ISBN-13 : 978-4582835953
- Amazon 売れ筋ランキング: - 995,063位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 5,887位漫画・アニメ・BL(イラスト集・オフィシャルブック)
- カスタマーレビュー:
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2014年12月29日に日本でレビュー済み
読み方というか、注目するポイントは私と近い部分を感じた。
批評のキーワードとして
①偽りのリアリティ
②ホメオスタシスとトランジスタシス
を挙げており、②については、比較的理解しやすい印象があった。
①の偽りのリアリティは、組織論?のような視点だろうか?
物語の「男の戦い」までをシンジの成長譚と捉えるのは理解し易いが、その位置付けを「ゲンドウのマインドコントロールから脱し、自分で考え、自分で決定できるようになる」とするあたりに、やや違和感を感じた。
私は、どちらかというと、父子の関わり合いや距離の話ではないかと理解していた。ゲンドウというキャラクターは、もっと不器用だと思うけどなぁ…。
批評のキーワードとして
①偽りのリアリティ
②ホメオスタシスとトランジスタシス
を挙げており、②については、比較的理解しやすい印象があった。
①の偽りのリアリティは、組織論?のような視点だろうか?
物語の「男の戦い」までをシンジの成長譚と捉えるのは理解し易いが、その位置付けを「ゲンドウのマインドコントロールから脱し、自分で考え、自分で決定できるようになる」とするあたりに、やや違和感を感じた。
私は、どちらかというと、父子の関わり合いや距離の話ではないかと理解していた。ゲンドウというキャラクターは、もっと不器用だと思うけどなぁ…。