通称「ホホイ」の著した一冊.
ホホイのこれまでの「御活躍」ぶりは,「林信吾 珍説」でgoogle検索すればお分かりの通り.
したがってバイアスを警戒しながら読まねばならず.
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結論から言えば,参考文献に基いて書かれたと思われる部分については,大筋ではさほど的外れなことは書いておらず.
その点は,同じ著者の『「戦争」に強くなる本』と良く似た傾向.
逆に言えば,著者の主張が前に出てきている部分や,参考文献に基く記述の間の「つなぎ」の部分には,怪しい部分が少なくなし.
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改憲論の要約(p.15)が,まずおかしい.
たしかに「米国に押しつけられた憲法だから」という論理を展開する極右も,皆無ではないが,そんなものはごく少数(極右が少数であるように)で,改憲論のメインは,「非武装じゃやっていけなくない?」というところのはず.
結党当時の社会党の党内右派を,まるで社会主義者の中の右派であるかのごとく書いているのも変(p.29-30)
彼らはただの社会主義者ではなく,「国家」社会主義者であり,どちらかといえばナチズムに近い立場.
しかも社会党結党は彼らが主役で,マルクス主義者は結党当時は「客分」.
5.15事件のクーデター勢力に資金援助したこともある徳川義親を,党首に担ごうとした,なんてのがその証拠.
共産党が武力革命を放棄した(p.62)というのも誤り.
機会主義という言葉を使い,先送りしているだけ.
アフ【ガ】ーンでは,ソ連軍侵攻が先にあって,アミン暗殺後にカルマルを帰国させたのであって,本書の記述は順序が逆(p.146)
イラン革命がイスラーム過激原理主義の「問題の根」???(p.146-147)
森首相時代の数々の「失言」(p.210)にしても,相当程度のマスコミによるミスリードがあったことが,今日では判明しているわけだが.
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また,当方浅学ゆえ,間違っているのかどうかまでは分からないが,腑に落ちない疑問点も数々あり.
改憲派は「党人派」(だけだったか?)(p.27)
昭電疑獄はGHQの陰謀(?)(p.34)
吉田茂が鳩山一郎首班を忌避したのは,軍国主義復活への警戒感から(?)(p.39)
終戦直後の共産党は,平和革命を志向していた(?)(p.59)
田中角栄逮捕についての陰謀論を否定するために,別な陰謀論を持ち出してきて,どうするんだ?(p.137-138 苦笑)
「冷戦も終わったのに,いつまでもマルクス主義でもあるまい」という意識が,社会党員や支持者の間にも,相当広まっていた(?)(p.188)
福島瑞穂を見ると,とてもそうとは思えないが……
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さらに,意図的なのか,天然ボケなのか不明だが,この種の本では書かれるべきであろうと思われる事実が,幾つか書かれていないのも気になるところ.
たとえば,左派社会党の問題点について一切記述なし.
本書の参考文献の一つとされている『戦後史の中の日本社会党』では,彼らはその綱領の中で,議会で絶対多数を占めたら,その後は,改憲してマルクス主義一党独裁国家に変え,報道管制なども行う旨,述べていたことを,ちゃんと書いているのだが.
共産党の方針変更(p.60)について,ソ連からの指示に忠実に従っていただけであることも書かれていない.
『赤旗』の発行部数の多さを称賛している箇所もある(p.112)が,末端党員には新規獲得ノルマがあって,それを消化し切れず,一人で10部,20部ととっている例も少なくないことは,かつてしばしば保守系週刊誌で報じられてきた.
社会党の議会勢力が伸びない理由として,党内抗争などを繰り返し挙げているが,それ以上に大きな要因のはずの,非武装中立論について考察なし.
それどころか,非武装中立論という言葉自体,殆ど登場せず.
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こうした,
・怪しい部分
・書かれていない部分
がいずれも,社会党や共産党にとって不都合な事項であることを考えるに,本書の意図は明瞭であろうと推測される.
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こんなミスリードくさい本を読むくらいなら,参考文献一覧に挙げられている書籍群読破を優先すべし.
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日本人の選択: 総選挙の戦後史 (平凡社新書 378) 新書 – 2007/6/1
- 本の長さ237ページ
- 言語日本語
- 出版社平凡社
- 発売日2007/6/1
- ISBN-104582853781
- ISBN-13978-4582853780
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登録情報
- 出版社 : 平凡社 (2007/6/1)
- 発売日 : 2007/6/1
- 言語 : 日本語
- 新書 : 237ページ
- ISBN-10 : 4582853781
- ISBN-13 : 978-4582853780
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,679,181位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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著者について
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(はやし・しんご)
1958年、東京生まれ。神奈川大学中退。
1983年、英国ロンドンに渡り、現地発行日本語新聞『英国ニュースダイジェスト』の記者となる。
日本のメディアにも寄稿を続け、1989年には『地球の歩き方・ロンドン編』の企画と執筆で中心的な役割を果たす。
1993年に帰国して以降は、フリーで執筆活動に専念している。
英国史・ヨーロッパ史から軍事問題、日本国憲法、サッカーに至るまで、幅広いテーマで執筆している。
また、ノンフィクションとフィクション、どちらもこなせる。
2013年10月には、
作家・ジャーナリスト 林信吾の地球に優しいブログ
http://ameblo.jp/gojibuji
を開設した。
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2007年9月2日に日本でレビュー済み
学校の授業、歴史でも政治経済でも途中で終わってしまうことの多い戦後史。これをきちんと語ってくれればずっと楽しく、役に立つものになるだろうに…、といつも思ってきたが、そういう場合の格好の教科書となりそうなのが本書だ。吉田内閣から始まって、普通なら中曽根内閣あたりでなぜか終わってしまいそうなこの手の本だが、本書は小泉、安倍内閣まできちんと書かれている。今回は共著ということもあるが、林信吾氏の最近の本にみられたような不自然なまでの感情的な主張やヒステリックな他者への論駁は影を潜め、以前の「昔、革命的だったお父さんたちへ」に見られたようにわかりやすく、淡々とその時代に起こった事象を語ってくれる。こういう本がもっと早く出版されていれば日本の政治もわかりやすくなったろうとも思えるし、最近はインターネットで政治家の経歴などもかなり詳しく閲覧できるのでこの本の価値が多少割り引かれる感があるのは残念だ。細部の内容などがどの程度正確かは自分にはわかりかねるが、それもそのうちネットで色々意見は出るだろう。