ｼﾞｬｽﾞﾌｧﾝといのは、評論家にせよ、一般人にせよ、とにかくうるさくて怖い。好みが激しすぎ、自分の意見と違えばすぐ喧嘩になる。あ、これは自分も含めてだが。だから、ｼﾞｬｽﾞ初心者の頃は、とにかく何から買えばよいのか全然分からなかった。そして、数ある著名な評論家がただ一人、あるいは複数人で討論しているようなｶﾞｲﾄﾞは、ほとんどﾊｽﾞﾚ（自分にとっては）だった。そのﾊｽﾞﾚの理由は何か？
１．ｼﾞｬｽﾞ評論家だのｼﾞｬｽﾞ喫茶のﾏｽﾀｰだのは、あまりにもﾘｸｴｽﾄが多かったり、耳ﾀｺすぎたｱﾙﾊﾞﾑは、聴き飽きたとして外す傾向が高い。ﾏﾆｱｯｸな渋い名盤を紹介しがち。
２．年配・古参のｼﾞｬｽﾞﾌｧﾝ・評論家は、ﾛｯｸ登場以前に、ｼﾞｬｽﾞが洋楽の花形だった時代の思い入れが強すぎ、現在のﾛｯｸもﾎﾟｯﾌﾟｽもｼﾞｬｽﾞもいっしょくたに聴く若者の耳と感性とはかけ離れている。
３．ﾘｱﾙﾀｲﾑで聴いた衝撃が凄くて、歴史を変えた名盤だったとしても、今の若者からしたら当たり前で、その歴史的ｼｮｯｸが伝わらない。またそういう名盤は古くて音が悪い。
といった理由だと思う。え、本作、こういう、評論家も一般人も音楽業界人もﾐｭｰｼﾞｼｬﾝもいっしょくたにｱﾝｹｰﾄを取って選んだ（ﾌﾞﾙｰﾉｰﾄ盤に限ってだが）名盤のﾘｽﾄ、解説を読んで、「なるほど間違いない」と素直に思えた。つまり、すでに持ってるｱﾙﾊﾞﾑはその半分弱（恥ずかしながら）だが、どれもさもありなんと思えるし、だから、まだ持っていないのも間違いなかろうと。非常に面白いことが分かる。
A．「ｼﾞｬｽﾞに名曲なし、名演、名ｱﾄﾞﾘｳﾞあるのみ」なんて、ｼﾞｬｽﾞﾌｧﾝは、ｼﾞｬｽﾞの即興性を神聖視して有難がるのだが、本音では、ﾐｭｰｼﾞｼｬﾝも評論家も一般人も、「分かりやすいﾃｰﾏを持つ名曲が好き」。つまり、ﾃｰﾏはつまらない、あるいはﾃｰﾏもなくｱﾄﾞﾘｳﾞに突入するﾌﾘｰｼﾞｬｽﾞとかは、あまりﾗﾝｸｲﾝしない。普通ﾌﾘｰｼﾞｬｽﾞと分類される、ｴﾘｯｸ・ﾄﾞﾙﾌｨｰやｵｰﾈｯﾄ・ｺｰﾙﾏﾝが高順位だが、それは、彼らのｱﾄﾞﾘｳﾞ感性と理論はﾌﾘｰで複雑だが、そのﾃｰﾏや、ﾌﾚｰｽﾞ一つ一つは案外ｷｬｯﾁｰで分かりやすいからだ。「ﾓｰﾆﾝ」、「ｸｰﾙ・ｽﾄﾗｯﾃｨﾝ」、「ｻﾑｼﾝ・ｴﾙｽ」なんて好例。口笛で吹いたり口ずさみたくなるようなﾋｯﾄ曲があるのが強い。ただ・・・正直ﾏｲﾙｽとｱﾀﾞﾚｲの「ｻﾑｼﾝ・ｴﾙｽ」だけは、「またこれか・・・」と思ってしまう。その傾向が強すぎというか、「枯葉」のあのｲﾝﾄﾛのｽﾞﾝﾄﾞｺ調からﾏｲﾙｽの幽玄なﾃｰﾏに入る瞬間が全てで、ｷｬﾉﾝﾎﾞｰﾙのｿﾛに入ったら、もう聴き流してしまうような・・・。実は3曲目のﾀｲﾄﾙ曲が良いのだが。
B．とにかく音質が良いのが好き。いくら名演でもあまり音質が良くないのはちょっと・・・という傾向。もちろんﾌﾞﾙｰﾉｰﾄ、ﾙﾃﾞｨ・ｳﾞｧﾝ・ｹﾞﾙﾀﾞｰｻｳﾝﾄﾞは最初から良い、最近のﾘﾏｽﾀｰは特に！とは思うが、それでも40年代後半から50年代初頭があまり入らない理由はそのへんだろう。つまり、ﾏｲﾙｽやﾓﾝｸの初期の名盤がなぜ入らないかというと、もちろんそんなに音が悪くはないが、それでも50年代後半以降から他ﾚｰﾍﾞﾙで出した作品と比べると、音楽の良さでは劣らず、歴史的価値は高かろうが、音質的に聴き劣りするのでは？だから、逆に40年代で高順位な例の「ｱﾒｲｼﾞﾝｸﾞ・ﾊﾞﾄﾞ・ﾊﾟｳｴﾙ Vol.1」は、その音質を超えての強烈なｲﾝﾊﾟｸﾄ、それに、本人が50年代にかけて少しずつ精神と体を病んでいく、その以前の絶好調を捉えているからだろう。ﾁｬｰﾘｰ・ﾊﾟｰｶｰもﾌﾞﾙｰﾉｰﾄで作品を残してくれたらよかったのに。大物すぎて契約できなかったのか？
C．その作品ならではの、あるいはそのﾐｭｰｼﾞｼｬﾝならではのｵﾘｼﾞﾅﾙ曲が多いのがﾎﾟｲﾝﾄ。ｽﾀﾝﾀﾞｰﾄﾞのほうが分かりやすくて良いという意見もあろうし、ｽﾀﾝﾀﾞｰﾄﾞをどう料理して、個性的で素晴らしい即興をするのがｼﾞｬｽﾞの醍醐味だ！と、かつてはそう良く言われていたが、現代のﾛｯｸ／ﾎﾟｯﾌﾟｽ世代に取っては、ﾐｭｰｼﾞｼｬﾝの作曲能力、ｵﾘｼﾞﾅﾘﾃｨに高評価を出しているように思う。ｼﾞｬｽﾞﾒﾝｵﾘｼﾞﾅﾙの名曲の有無が名盤を分けている。
といったところだ。ここまで絶賛。ﾌﾞﾙｰﾉｰﾄだけでなく、全ｼﾞｬｽﾞ作品でこういう企画をやってくれないものか。とっくにやってるかもしれないが、こういう大多数からｱﾝｹｰﾄを取って決めるという方式ではどうか。
一つ苦言。本当は星半個減らして4つ半としたいのだが、100名盤は一応挙げても、まともに解説入れているのは上位50．これは、たとえわずかでも100枚ｺﾒﾝﾄすべきだ。解説を読む楽しみで、順位が知りたいのではないからだ。
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