「これは、ネコが登場する映画についての本である。そして、シネマ・スタディーズ
(映画学)を、わかりやすく紹介する入門書でもある。シネマ・スタディーズとは、
ある映画を観たときに、ただ『おもしろかった』で終わらせないで、どうおもしろかった
のかを、技術、美術、歴史、政治、経済、心理などなど、幅広い観点から分析する学問で
ある。……第1部の各章では、基本的な映画のスタイルやテクニックを少しずつ説明して
いこうと思う。そして、第2部の各章では、映画をより幅広い視点から見るときに役に
立ちそうな、映画の理論や歴史を紹介する」。
確かに、フレーミング、ライティング、エディティングという映画の基本にはじまる
一連の「シネマ・スタディーズ」解説もクリアで実に分かりやすいのだが、それ以上に
理論の実践としての映画批評がひたすらに優れた一冊。
とりわけ、ネコとイヌの対照に従って物語を読み解いていく『
ティファニーで朝食を
』の
分析は秀逸。冗長と紙一重の二時間のストーリーから的確に要点を掻い摘んで、筋の通った
理解の下で数十ページに凝縮されているのだから、これで面白くないはずがない。正直、
作品それ自体よりもこの解説の方がはるかに楽しい、とさえ感じてしまったほど。
こうした読み手の高揚感も、筆者の映画への果てなき愛があってこそ成り立ちうるもので、
本編よりも面白い批評ということでは――funnyはともかくinterestingという点では――、
町山智浩を凌いでいるように思う。
取り上げている映画の大半はもはや古典に属している部類のものではあるとはいえ、
ネタバレビューといえばその通りの一冊で、物語の結末を知りたくない、という方には
あまりお薦めすべきではないのかもしれない。
けれども、「学」を呼称するに値するだけの論理で貫かれた一冊。
シナリオの構築法入門、なんていう読み方もあるいは可能なのかもしれない。
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映画はネコである-はじめてのシネマ・スタディーズ (平凡社新書) 新書 – 2011/4/16
宮尾 大輔
(著)
狭くて暗い所、追いかけっこ、演じるのが好きなネコは映画のスタイルと相性がいい。ネコを案内役として馴染みの作品を題材に、技術面から理論、歴史までを紹介。映画を豊かに語る言葉を伝える。
- 本の長さ234ページ
- 言語日本語
- 出版社平凡社
- 発売日2011/4/16
- ISBN-104582855792
- ISBN-13978-4582855791
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登録情報
- 出版社 : 平凡社 (2011/4/16)
- 発売日 : 2011/4/16
- 言語 : 日本語
- 新書 : 234ページ
- ISBN-10 : 4582855792
- ISBN-13 : 978-4582855791
- Amazon 売れ筋ランキング: - 842,456位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 867位平凡社新書
- - 76,143位エンターテイメント (本)
- カスタマーレビュー:
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2011年5月4日に日本でレビュー済み
ネコ好き・映画好きな方ならタイトル買いしてしまうのではないかと思う本。
8つの作品を取り上げ、ネコをキーワードに、技術面・美術面・歴史・理論・作品の政治的背景まで多角的に詳細に映画が解説されている。
メインに取り上げられた作品は
「ティファニーで朝食を」「キャット・ピープル」「泥棒成金」「間諜X27」「仁義」「猫と庄造と二人のをんな」「子猫をお願い」「ミリキタニの猫」
8つの映画は、興味をもつ年代がある程度限られるので、世代的に読者層が絞られてしまう点が非常に惜しい。
また、8つの映画のうちいくつかの作品を見た事があるなど、予備知識がないと辛いと思う。その点で★4にした。
「ティファニーで朝食を」では、ヒロインのホリーを猫、ヒロインと恋に落ちる青年を犬、ホリーの客をネズミと捉えている点が面白い。また、あらゆるシーンで、象徴的な「ネコ」グッズがあった事に気付かされた。特に小道具に使われた「子猫靴」など今まで全く気付きもしなかったし、知らなかった点が多い。映画の技法の180度ラインのシーンの解説は、映画を再見しようという気持ちにさせられる。
もし、原作者のカポーティーが望んだようにモンローがホリーを演じていたら・・の猫のたとえには、思わず笑ってしまった。
「泥棒成金」では、視線の編集「POV」など専門的な用語と手法の解説がなされている。
取り上げられていて嬉しかったのは、森繁久彌、山田五十鈴、香川京子の「猫と庄造と二人のをんな」。
内容的には、専門的な緻密な解説だが、ネコをキーワードとしているため、親しみやすく読みやすかった。
猫と映画をこよなく愛する、著者の映画への「愛」が伝わってくるような本だと思う。
8つの作品を取り上げ、ネコをキーワードに、技術面・美術面・歴史・理論・作品の政治的背景まで多角的に詳細に映画が解説されている。
メインに取り上げられた作品は
「ティファニーで朝食を」「キャット・ピープル」「泥棒成金」「間諜X27」「仁義」「猫と庄造と二人のをんな」「子猫をお願い」「ミリキタニの猫」
8つの映画は、興味をもつ年代がある程度限られるので、世代的に読者層が絞られてしまう点が非常に惜しい。
また、8つの映画のうちいくつかの作品を見た事があるなど、予備知識がないと辛いと思う。その点で★4にした。
「ティファニーで朝食を」では、ヒロインのホリーを猫、ヒロインと恋に落ちる青年を犬、ホリーの客をネズミと捉えている点が面白い。また、あらゆるシーンで、象徴的な「ネコ」グッズがあった事に気付かされた。特に小道具に使われた「子猫靴」など今まで全く気付きもしなかったし、知らなかった点が多い。映画の技法の180度ラインのシーンの解説は、映画を再見しようという気持ちにさせられる。
もし、原作者のカポーティーが望んだようにモンローがホリーを演じていたら・・の猫のたとえには、思わず笑ってしまった。
「泥棒成金」では、視線の編集「POV」など専門的な用語と手法の解説がなされている。
取り上げられていて嬉しかったのは、森繁久彌、山田五十鈴、香川京子の「猫と庄造と二人のをんな」。
内容的には、専門的な緻密な解説だが、ネコをキーワードとしているため、親しみやすく読みやすかった。
猫と映画をこよなく愛する、著者の映画への「愛」が伝わってくるような本だと思う。
2011年4月17日に日本でレビュー済み
さまざまな形でネコが登場する映画8本を中心にして、シネマ・スタディーズとはどんな学問かを楽しく明快に解説してくれる本。まずはネコという着眼点が面白く、それだけでネコ好きな読者にはたまらない。そんなこと今まで考えてみたこともなかったけれど、そう言われてみると、なんらかの形でネコが重要な役割を果たしている映画はけっこう多く、その役割を詳しく見てみると、ネコやそれぞれの映画のことだけでなく、映画というものの技術的・芸術的・心理的・歴史的・社会的な構造がいろいろとわかってくるのがなんとも面白い。
ネコ映画を通じて、フレーミング、ライティング、エディティングといった映画の基本的な技術を解説してくれるその文章は、わかりやすく親しみやすく、そこで語られている映画を観たことがない読者にもとても興味深く読める。楽しいながらも情報量が多く、これを読むだけで映画についての理解度がずいぶん深まり、これから映画を観るときは、単に物語の筋の面白さだけでなく、技術的なことにも目がいくのは確実。(ちなみに私は、この本を読んでどうしても『ティファニーで朝食を』を再び観たくなり、DVDを借りて観ながら「180度ライン」のシーンを何度も巻き戻して確認してしまった。)とりあげる映画のセレクションも素晴らしい。とくに映画通ではない読者でも観たことがあるであろうハリウッドの古典『ティファニーで朝食を』から始まって、ヨーロッパや日本、韓国の映画、そして2001年9月11日のテロ事件を見つめる日系人画家を扱ったドキュメンタリーまでと、時代や文化やジャンルも多様。また、それぞれの章で展開される、作家主義、ジャンル論、映画史などの解説も、素人にわかりやすい平易な文章でありながら、かつ、しっかりとした専門的知識に根ざしていて読み応えがある。
『ミリキタニの猫』を扱った最終章では、この映画が捉える日系人画家ジミー・ミリキタニと、著者が研究対象として長年追ってきた映画スター早川雪洲と、早川そして戦時中強制収容所に送り込まれた日系アメリカ人の姿をとらえた写真家宮武東洋と、そしてアメリカで日本人として映画研究を続ける著者自身の姿を、文章上の「クロスカッティング」で重ね合わせながら、歴史を見つめるネコ、そしてネコを大事に飼っているのだか、ネコにいいように使われているのだかわからない人間たちのありかたを捉えている。まさに、視点と枠の設定(フレーミング)、光と焦点の当て方(ライティング)、語りの構築(エディティング)といった映画の技術を使った見事で感動的な文章。
なんといっても、著者のネコへの愛情、そして映画への愛情が、とてもよく伝わってくる。この本を読むと、本で扱われている映画も、その他のたくさんの映画も観たくなるし、ネコを見かけたら思わずじーっと観察してしまいたくなる。頭にも心にも心地よい刺激を与えてくれる一冊。
ネコ映画を通じて、フレーミング、ライティング、エディティングといった映画の基本的な技術を解説してくれるその文章は、わかりやすく親しみやすく、そこで語られている映画を観たことがない読者にもとても興味深く読める。楽しいながらも情報量が多く、これを読むだけで映画についての理解度がずいぶん深まり、これから映画を観るときは、単に物語の筋の面白さだけでなく、技術的なことにも目がいくのは確実。(ちなみに私は、この本を読んでどうしても『ティファニーで朝食を』を再び観たくなり、DVDを借りて観ながら「180度ライン」のシーンを何度も巻き戻して確認してしまった。)とりあげる映画のセレクションも素晴らしい。とくに映画通ではない読者でも観たことがあるであろうハリウッドの古典『ティファニーで朝食を』から始まって、ヨーロッパや日本、韓国の映画、そして2001年9月11日のテロ事件を見つめる日系人画家を扱ったドキュメンタリーまでと、時代や文化やジャンルも多様。また、それぞれの章で展開される、作家主義、ジャンル論、映画史などの解説も、素人にわかりやすい平易な文章でありながら、かつ、しっかりとした専門的知識に根ざしていて読み応えがある。
『ミリキタニの猫』を扱った最終章では、この映画が捉える日系人画家ジミー・ミリキタニと、著者が研究対象として長年追ってきた映画スター早川雪洲と、早川そして戦時中強制収容所に送り込まれた日系アメリカ人の姿をとらえた写真家宮武東洋と、そしてアメリカで日本人として映画研究を続ける著者自身の姿を、文章上の「クロスカッティング」で重ね合わせながら、歴史を見つめるネコ、そしてネコを大事に飼っているのだか、ネコにいいように使われているのだかわからない人間たちのありかたを捉えている。まさに、視点と枠の設定(フレーミング)、光と焦点の当て方(ライティング)、語りの構築(エディティング)といった映画の技術を使った見事で感動的な文章。
なんといっても、著者のネコへの愛情、そして映画への愛情が、とてもよく伝わってくる。この本を読むと、本で扱われている映画も、その他のたくさんの映画も観たくなるし、ネコを見かけたら思わずじーっと観察してしまいたくなる。頭にも心にも心地よい刺激を与えてくれる一冊。