本書は、その対象も着眼点も従来の政治経済学とは毛色の違うものとなっている。
本書が扱うのは「公的活動(特に政治活動)への関与」と「私的利益(自分や家族の利益)の重視」の間の人々の変動である。
筆者は、この二者間で循環がある、つまり公的活動への関与が盛り上がって、少しすると私的利益が重視されて、そして・・・という周期振動の内生的性質があると論ずる。
そして、その際に本書が持ち出す着眼点は「人々の失望」である。
まず、人々が私的利益に関心がある状況で、消費者の行動と心理を考察する。
消費者の失望は、それが購入できない場合だけでなく、それを購入したが期待した機能を果たさなかったり、購入してそれが当たり前の存在になった結果として、かつて抱いていた期待がもはや満たされない場合にも発生する。
それには、サービスのような供給物もクオリティも確定させられないものに、旧来の消費物を購入するような気持ちで消費者が望むことなどにも起因する。
また、経済的成功者が「にわか成金」などとして既成エリートから一段低く見られる状況でも、経済的成功に対して失望を抱く。
その結果、経済活動からの離脱と、政治的な形での(非常に広い意味での)告発が生じる(これは筆者の前著
離脱・発言・忠誠―企業・組織・国家における衰退への反応 (MINERVA人文・社会科学叢書)
の枠組に乗る)。
また、生き方として、単なる物欲によるのではなく「公的により価値のある生き方」を志向して、その失望を埋め合わせようとする。
従来の経済学的な投票行動論は、政治参加を人々の「コスト」と捉えていたが、しかし実際には参加はそれ自体として「充足」を与えるものであり、コストの真逆なのである。
したがってそうした議論で言われるような「ただ乗り」の問題は的外れなのである。
公的政治運動の真の問題点は、上で見た理由のため「高い理想」が常に掲げられ、それは確実に達成されないことによる。
過激な方法(暴力的革命など)は穏健な方法(投票など)に置き換えられており、そして期待は満たされず充実感は得られない。
そうして人々は、より実現が出来そうな経済的成功の方へと再び戻っていくのである。
言われてみると当たり前な気もするが、しかし政治学や経済学で見落とされがちな視点を拾ってくれている議論である。
荒削りではあるが、この観点をさらに深めていくことは有意義であろう。
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失望と参画の現象学: 私的利益と公的行為 (叢書・ウニベルシタス 254) 単行本 – 1988/11/1
- 本の長さ196ページ
- 言語日本語
- 出版社法政大学出版局
- 発売日1988/11/1
- ISBN-104588002546
- ISBN-13978-4588002540
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登録情報
- 出版社 : 法政大学出版局 (1988/11/1)
- 発売日 : 1988/11/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 196ページ
- ISBN-10 : 4588002546
- ISBN-13 : 978-4588002540
- Amazon 売れ筋ランキング: - 871,199位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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