自分は最近になって現代哲学におけるカントの持続的な影響力に気づいた。そんなときに、こんなタイトルの本を知り早速読んでみたのだが、その内容の薄さとカントとの関係のなさに呆れ返ってしまった。いくら著者が専門家向けには書いていないと断言してるとはいえ、いくらなんでもこれはないじゃないか?
この本ではカントの認識論(知識論)の影響に焦点を当てており、その他の哲学分野については触れられていない。例えば政治哲学としてのカントを論ずるアレントやロールズは扱われないことになるが、テーマを限定することは中身を濃くするための手段としては適切だろう。だがそうした配慮は何の貢献もしていないことに気づく羽目になる。
20世紀の哲学に対するカントの影響について書かれた本だと、著者本人も言っているしタイトルからもそうだと期待する。しかし、読み始めるとその期待は裏切られる。内容を概観した第一章とカントそのものを論じた第二章の後は、各章で20世紀において重要とされた四つの哲学領域に分けて論じられている。最初はマルクス主義の章なのだが、マルクス主義とカントにどんな関係が?と疑問を持ちながら読み進めるが、マルクス主義の歴史に詳しくなれるだけでカントにはほとんど言及されてない。これはもうしょうがない!でも今度はカント好きのパースがいるからな〜、と期待して次のプラグマティズムの章を読み始めると、パースとカントの関係については軽く触れられるだけで後はプラグマティズム一般の話があるだけなのを見て嫌な予感が湧いてくる。次の現象学の章に進むと、現象学史に関する薄〜い概論ばかりという、その嫌な予感を凌駕するひどい出来。最後の分析哲学の章もご多分に漏れず分析哲学史の薄〜い概論ばかりで、カントの話なんてほとんどない。読み終わってみて、ふざけんな!とつい悪態をつきたくなってしまった。
最も読み応えがありかつカントについて最も論じているのは第二章だが、この章だけでは副題にある20世紀にさっぱり届いていない。たとえ新カント派を除いたとしてもパースにフッサールにハイデガーにセラーズにストローソンと、カントの認識論について論じた興味深い哲学者はこんなにいるのに、それについてほとんど論じられることもなく、ほとんどが表面的な哲学史的な概論に終始していて、本のタイトル(ほぼ原題通り)を見事に裏切っている。それにしても、論理実証主義が相対性理論の影響で(ニュートン力学を前提にした)カントに否定的に接したというようなエピソードにさえ触れられていなくて、哲学史的な概論としてさえどうなの?と疑問に感じる。
この本を見て感じるが、二次文献中心で構わないなら素人の自分の方がもっとマシな本を書けるじゃないかとまで夢想してしまう。自分なら「純粋理性批判」に限っても、分析論か弁証論かどっちを重視するか?第一版か第二版かどっちを重視するか?で主要な哲学者のカント解釈を整理したくなる。自分の方がマシな本が書けるかは冗談にしても、もっときちんとしたカントの影響を追った哲学史の著作が読みたかったなぁ〜と思った。
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カントの航跡のなかで: 二十世紀の哲学 (叢書・ウニベルシタス 900) 単行本 – 2008/10/1
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- 本の長さ430ページ
- 言語日本語
- 出版社法政大学出版局
- 発売日2008/10/1
- ISBN-104588009001
- ISBN-13978-4588009006
登録情報
- 出版社 : 法政大学出版局 (2008/10/1)
- 発売日 : 2008/10/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 430ページ
- ISBN-10 : 4588009001
- ISBN-13 : 978-4588009006
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,572,450位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2013年1月13日に日本でレビュー済み
2014年8月8日に日本でレビュー済み
未だ拾い読み程度なので、ひょっとしたら読み方によって印象が変わることもあるのかもしれません。しかしながら、単なる知識のメモ書と見紛う記述が延々と続くため、とても出来の悪い教科書を読まされている気分になりました。一般読者の興味を引出すことに成功しているとは言い難いから、入門書、概説書としても失格の代物です。かと言って研究目的で読むには記述が薄過ぎる。ここから何が得られるかは分からないですが、読み進めること自体に非常な忍耐を要するものと思われます。結局、誰に向けた著作なのかが判然としない。既読の限りで、表題の内容は十分に展開されることがなく、また情報としての価値も甚だ低い。ネット検索や別の一般向け入門書から得られる程度の知識以上のものはないのではないか。
先の評者も指摘していますが、それで5,000円は高価過ぎる。刊行を決定した出版者の見識が疑われます。それとも、何を出すかの判断が、学術出版業界の商慣習として、半ば惰性的自動的になされているだけのことなのでしょうか。ここの叢書から出されている書物にはこの手の失敗作も少なくないと感じる。それから監訳者あとがきの記述を見る限り、本書の中途半端さは、十分承知の上であると思われます。監訳者は、『ディルタイ全集』の編集代表としての仕事の傍ら、本書については何か片手間に作業を行なったのではないか、との疑念が拭えません。原書の完成度に問題があると知りつつ、それでも敢えて出すのならば、もう少し何か編集上の工夫の仕様がなかったのかと思う。
本文280ページ、監訳者あとがき20ページ、原注・訳注105ページ、人名索引+事項索引23ページ。
目次は次の通り。
序 論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
第一章 二十世紀の哲学の解釈に向けて ・・・ 18
第二章 カントとカント以後の論争 ・・・・・・・・・ 36
第三章 二十世紀のマルクス主義について ・・ 79
第四章 認識論としてのプラグマティズム・・・・121
第五章 現象学としての大陸哲学 ・・・・・・・・・164
第六章 アングロ=アメリカの分析哲学・・・・・214
第七章 カントと二十世紀の哲学・・・・・・・・・・256
監訳者あとがき ・・・・・・・・・・・・・・・・281
原注・訳注
事項索引
人名索引
本文
先の評者も指摘していますが、それで5,000円は高価過ぎる。刊行を決定した出版者の見識が疑われます。それとも、何を出すかの判断が、学術出版業界の商慣習として、半ば惰性的自動的になされているだけのことなのでしょうか。ここの叢書から出されている書物にはこの手の失敗作も少なくないと感じる。それから監訳者あとがきの記述を見る限り、本書の中途半端さは、十分承知の上であると思われます。監訳者は、『ディルタイ全集』の編集代表としての仕事の傍ら、本書については何か片手間に作業を行なったのではないか、との疑念が拭えません。原書の完成度に問題があると知りつつ、それでも敢えて出すのならば、もう少し何か編集上の工夫の仕様がなかったのかと思う。
本文280ページ、監訳者あとがき20ページ、原注・訳注105ページ、人名索引+事項索引23ページ。
目次は次の通り。
序 論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
第一章 二十世紀の哲学の解釈に向けて ・・・ 18
第二章 カントとカント以後の論争 ・・・・・・・・・ 36
第三章 二十世紀のマルクス主義について ・・ 79
第四章 認識論としてのプラグマティズム・・・・121
第五章 現象学としての大陸哲学 ・・・・・・・・・164
第六章 アングロ=アメリカの分析哲学・・・・・214
第七章 カントと二十世紀の哲学・・・・・・・・・・256
監訳者あとがき ・・・・・・・・・・・・・・・・281
原注・訳注
事項索引
人名索引
本文