――「美しいものの科学は存在しない、ただ美しいものの批評が存在するだけだ」
（カント『判断力批判』四四節）。
カントの本音がうかがえる、私が好きな一節だ。だが、これをうまく解釈した人を知らない。ドイツリマン派の統帥シュレーゲルもびっくり、ベンヤミンが泣いて喜ぶ一節だと思うが、こういうカントをうまく解釈した人を知らない。カヴェルの著作のなかにも、たぶんないだろう。「批評」の本質とは何か、これえに返答が批評なのだろうが、いわゆる批評家と呼ばれる人で、このことを自覚しているのは、数えるほどしかいない。
ガダマーはハイデガーの陰にかくれて、そのいぶし銀のような輝きが見えにくい
「哲学的解釈学」の巨匠である。本書「第Ⅰ章」はカントにおける「美学の主観主義化」を論じている。
いくつも重要な論点が出てくるが、なかなか掘り下げることができずにいる。
――カントは自ら趣味の立場を超え出て（…）趣味の完成という理念について語っている。しかしこの趣味の完成とはなんであろうか。（…）趣味は自ら主張するところによると良き趣味である以上、もしその主張が実現された暁には、美的懐疑主義に口実を与える趣味の相対主義は事実ことごとく終結を告げるはずだからである。（旧版８２頁）
「趣味の完成」という理念は興味深い。
――われわれは芸術の経験の中に、経験する者をもとのままにさせてはおかない真の経験が働いているのを見てとり、そのように経験されるもののありようを問う。おそらくこういう形でわれわれは、そこでわれわれが出会う真理がいかなるものであるかを、よりよく理解できるのである。（一四二頁）
冒頭に引いたカントのいう「批評」こそが、解釈学の課題を遂行するように思われる。
こうしたガダマーの認識は、ハイデガーがへーゲルの『精神現象学』のなかにみる「現象としての弁証法」にも繋がるものがあるようだ。
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