この短編集、殆どの作品が男の主人公。頭の中で考えている気持ちの描写は、全て男性の気持ちとして描かれている。これが当時における本人の気持ちが反映されているのか、男性にこうあって欲しいという希望を表現しているのかは、正直分からない。
けど、何でこの人は女であるハズなのに、男がその時そのタイミングで想っている心情を、こんなに見透かせるのだろうか。こんなの、ハッキリ言って卑怯だ。
でもだからこそ、男である私が、ここまで宇仁田作品にホネヌキにされているのだと思う。
本短編集の中で、個人的に一番好きなのは「たりないひと」という作品。
世間一般の人たちからしてみれば欠陥品扱いされるような男女が、たまたま居合わせた結婚式会場で出逢い、お互いの足りない部分を持っている相手に惹かれ合う。そして男女が出逢ってから同棲を始めるまでの期間が、たった１日。この作品をはじめ、宇仁田ゆみの創作物には全て『普通には在りえそうもない。けど、日本中探せば誰か１人ぐらい、この物語と同じ経験してる人が居そうだよね』と思えてしまう、不思議な魅力がある。
この「たりないひと」、本短編集に続きが載っている。「たりないまま」という、２ページだけの作品。
この、たった２ページ９コマの中に、この男女は心底幸せなんだろうな、という気持ちが全て詰まっている。
こんな作品、これ以外に私は知らない。
もし、宇仁田ゆみ作品を全く読んだことが無い方が居るのならば、騙されないから読むことを薦める。彼女の作品を読んでいないという事は、漫画を読んで温かい気持ちになれる、そんな素敵な機会を逃している。
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