この作品においてよく議題に上がるのは、「この作品の喧嘩はリアルか否か」というものですが、路上における喧嘩なんて体験したことのない私にとって、そのような議論にはあまり興味がありません。
あるいは、体験したことがあったとしても、やはりそのような議論にそこまで熱中することはないと思います。
スポーツ経験者だからと言って、スポーツ漫画を読んでいる時にいちいちそれが現実的であるかどうかを意識はしません。もちろんそういうのは作風によっても異なるのでしょうが、スポーツ漫画に類する作品の中で、本当に描写が現実的であるものはごく一部であると思います。スラムダンクにしたって、黒子のバスケほど現実離れはしていないものの、やはりすべてが現実的であるとは言えません。しかし、作品内におけるキャラクターの動きや戦いはあくまで「リアル」で、そのリアリティを生み出すのが作家さんの技術なのではないかと私は思います。
黒子のバスケのような、能力っぽいスポーツ漫画でもそうです。作品内におけるリアリティと、それが「現実的」であるかどうかは別問題です。
そして私は、他の作品にはない強烈なリアリティを感じました。
路上における喧嘩と格闘技の独自的な解釈、筆者の心理を投影した思春期の少年の悩みや強迫観念。
それらを丁寧に作品の中に落とし込もうとしていこうとする描き方が、きっとこの作品にしかあり得ない独特のリアリティを生み出したのだと思います。それらは従来の漫画制作技法と照らし合わせれば、必ずしも達者と言えるものではないのかもしれません。だからこそ賛否両論が生まれるのでしょうし、私のようにこの作品に傾倒する人間も生まれるのでしょう。それはもう作者の天分と呼ぶべきものだと思います。
ホーリーランドの世界には、強い実感が伴っています。
エッセイのような個人の実感が強く伴う主観的な作品は、商業作品とは別の領域に位置していることが多いです。
しかし、ホーリーランドはまるでエッセイのような実感が伴いつつ、商業作品としての良さも同時に成立しています。
美しい言葉や誌的な表現を多用する、疑似エッセイのような漫画なら世の中にたくさんあります。
しかしホーリーランドはそういった作品とは違います。
一見するとそれっぽい価値観を押し付けるのではなく、あくまでもリアルな感情に裏打ちされた言葉をキャラクターが話します。それはその感情を共有する人間にとって、恐ろしいほど鋭く突き刺さります。
きっとその感覚は、この作品でしか味わうことができないのだろうと思います。
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