〇 まずはテーマの面白さ。要領がわるくて世間的にはとても成功者とは言えない男が、困っている人のために問題を解決してやるビジネスをひっそりと営んでいたという話は興味を惹き付ける。なぜそういうことになったのか、いったいどんなことをしていたのか、どんな人が依頼者なのかと知りたいことが次々に浮かんでくる。
〇 次は巧みな話法。娘が父の遺品を整理しているうちに生前の父がそうした仕事をしていたことを知り、父と縁のあった人々の話を聞いてその仕事の全容を解明していく。いわば間接話法がこの小説では採用されているのだが、そのために「父」と読者との間に時間のずれと適度な距離が生まれることになり、それがこの物語にふさわしくて心地よい。めぐらし屋の全貌がすこしずつ明らかになるというという謎解きの面白さもこれに加わる。
〇 そして父親と同じように不器用でやや生きづらさを感じながらゆっくりと生活をしている娘が、いつしか父のビジネスに共感する結末である。父が依頼されていた、花に囲まれて眠ってみたいという老婦人の願いを実現してやろうと算段を始めるところで物語は終わる。娘がめぐらし屋を引き継ぐのは花の老婦人の依頼だけなのか、それとも仕事を全面的に引き継ぐことになるのか、そこは読者が自由に想像すれば良いのだが、すくなくともこの時点で娘は父親を理解し共感し父とひとつになった。世間的にはパッとしない平凡な人たちの物語があたたかい幸福感に満たされて終わる。
〇 堀江さんの文章は相変わらずうまい。技巧を凝らしていながらそれを感じさせない。子供のように素朴で素直な文体がこの物語にふさわしいと感じた。作品中に散りばめられている罪のない小ネタも実に楽しい。
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めぐらし屋 単行本 – 2007/4/1
堀江 敏幸
(著)
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- 本の長さ189ページ
- 言語日本語
- 出版社毎日新聞出版
- 発売日2007/4/1
- ISBN-104620107115
- ISBN-13978-4620107110
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登録情報
- 出版社 : 毎日新聞出版 (2007/4/1)
- 発売日 : 2007/4/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 189ページ
- ISBN-10 : 4620107115
- ISBN-13 : 978-4620107110
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,090,925位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 25,007位日本文学
- カスタマーレビュー:
著者について
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1964(昭和39)年、岐阜県生れ。1999(平成11)年『おぱらばん』で三島由紀夫賞、2001年「熊の敷石」で芥川賞、2003年「スタンス・ドット」で川端康成文学賞、2004年、同作収録の『雪沼とその周辺』で谷崎潤一郎賞、木山捷平文学賞、2006年、『河岸忘日抄』で読売文学賞を受賞。おもな著書に、『郊外へ』『いつか王子駅で』『めぐらし屋』『バン・マリーへの手紙』『アイロンと朝の詩人―回送電車III―』『未見坂』ほか。
-
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上位レビュー、対象国: 日本
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2018年5月28日に日本でレビュー済み
何か素敵なことが始まりそうな終盤で終わってしまったのが残念。日常の些細な描写の積み重ねが心地よくて、読んでいてほっと安心できる。
2007年12月16日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
小学校の置き傘とか、電気ストーブの扱い方とか、百葉箱とか、「ジビインコウカ」とか。とっくの昔に忘れていたことやら、普段から気になっているけど話題にするまでもないので普段は忘れているようなことがらが次々と綴られて、読みながら「そういえばそうだった」とか「そうそう」とか思わずうなずいてしまいます。蕗子さんという名前の由来やら、百科事典のエピソードとかは、いかにも堀江敏幸という感じで。相変わらずいい人しか出てきません。「こんな世界なんて、あり得ね〜」と思いながら、ファンは「やっぱり読んでよかった〜」と思ってしまうでしょう。ほんわかしているようで、ふと頑固なものがチラっとする瞬間も相変わらず魅力的です。今回は、女性が主人公で、しかも40代と思しき微妙な年齢設定になっていたのが新鮮でした。
装幀は、オフホワイトの上品なカバーと内側の鮮やかなレモン色の対比が印象的で、本の魅力を増しています。
装幀は、オフホワイトの上品なカバーと内側の鮮やかなレモン色の対比が印象的で、本の魅力を増しています。
2010年7月17日に日本でレビュー済み
ここまで読後に何も心に残らない小説も珍しいと感じた。ストーリーに揺さぶられるものがあるわけでもなく、作品全体を貫く情景が幻影として残るわけでもない。
エスプレッソや傘や大福など、細部には素敵な表現が散りばめられている。それらの時としてユーモラスな表現には、著者の独特な感性が滲み出ている。しかし、それらに作品全体を貫くだけの力は無いし、そんなものでもない。
本作品は小説というよりも、「蕗子さん」という距離を置いた三人称で描かれた主人公に語らせた、エッセイのようなものではないかと思う。
エスプレッソや傘や大福など、細部には素敵な表現が散りばめられている。それらの時としてユーモラスな表現には、著者の独特な感性が滲み出ている。しかし、それらに作品全体を貫くだけの力は無いし、そんなものでもない。
本作品は小説というよりも、「蕗子さん」という距離を置いた三人称で描かれた主人公に語らせた、エッセイのようなものではないかと思う。
2010年7月19日に日本でレビュー済み
〈蕗子さん〉の父は〈ハイライト〉を愛煙していた。そうして、煙草の語が出たとたん、連想の糸が紡がれる。この場面が〈ハイライト〉であるかのように。
両のてのひらに包まれたマグカップの、ロイヤルミルクティーからなんだか、古い記憶にまみれた煙草のえぐみが沁みだしてくるようだ。百の葉、千の葉、たばこの葉、紅茶の葉。
〈蕗子さん〉の父親が遺したノート。その〈表紙裏〉には傘の絵が貼られていた。〈蕗子さん〉は過去の自分を分析し始める。あるいは、過去の自分に思いを〈めぐら〉せ始める。
黄色といっても、ずいぶん幅がある。当時はまだ、自分のなかで黄色という言葉の定義がもっとゆるかったのだろう。澄んだ軽やかなレモンイエローも黄色なら、オレンジやミカンの色も黄色、まだ渋みのある柿も熟柿もぜんぶ黄色に近い色という程度の認識である。
蕗子さんの手に渡った一本は非の打ちどころのない柿色で、家にあるどんな傘よりもどっしりしていた。
当然のことながら、〈蕗子さん〉は同時に、現在、を生きている。
定期的に倉庫を見てまわって、蕗子さんがいつもつまずいてしまうのは、伝票に記載された荷の総重量、体積の数字と、実際に積みあげられている、色も、形も、素材もちがう箱ぜんたいが押しつけてくる量感とのずれだった。(略)数字といくらにらめっこしても、目のまえにある物たちの圧倒的な存在感は説明できない。
レモンイエロー。レモン。檸檬。「どっしり」。重量感。連想の糸が導くのは、
――つまりはこの重さなんだな。――/その重さこそ常づね尋ねあぐんでいたもので、疑いもなくこの重さはすべての善いものすべての美しいものを重量に換算して来た重さであるとか、思いあがった諧謔心からそんな馬鹿げたことを考えてみたり――なにがさて私は幸福だったのだ。
〈蕗子さん〉にとっても、〈黄色い傘〉は〈幸福〉への通路となりうるのか? それは読んでのお楽しみ。
その他、〈濡れたハンカチ〉の〈比喩〉に感心したり、美味しそうな豆大福に、よだれが出そうになったり、〈気圧〉と〈血圧〉、〈鼻〉と〈花〉のダジャレめいた取り合わせに感心したり、……。またしても、まとまりのない文章になった。やはり、実物を読むことをおすすめして、このレヴューを閉じたい。お粗末さまでした(なお、梶井「檸檬」の引用は、青空文庫による)。
両のてのひらに包まれたマグカップの、ロイヤルミルクティーからなんだか、古い記憶にまみれた煙草のえぐみが沁みだしてくるようだ。百の葉、千の葉、たばこの葉、紅茶の葉。
〈蕗子さん〉の父親が遺したノート。その〈表紙裏〉には傘の絵が貼られていた。〈蕗子さん〉は過去の自分を分析し始める。あるいは、過去の自分に思いを〈めぐら〉せ始める。
黄色といっても、ずいぶん幅がある。当時はまだ、自分のなかで黄色という言葉の定義がもっとゆるかったのだろう。澄んだ軽やかなレモンイエローも黄色なら、オレンジやミカンの色も黄色、まだ渋みのある柿も熟柿もぜんぶ黄色に近い色という程度の認識である。
蕗子さんの手に渡った一本は非の打ちどころのない柿色で、家にあるどんな傘よりもどっしりしていた。
当然のことながら、〈蕗子さん〉は同時に、現在、を生きている。
定期的に倉庫を見てまわって、蕗子さんがいつもつまずいてしまうのは、伝票に記載された荷の総重量、体積の数字と、実際に積みあげられている、色も、形も、素材もちがう箱ぜんたいが押しつけてくる量感とのずれだった。(略)数字といくらにらめっこしても、目のまえにある物たちの圧倒的な存在感は説明できない。
レモンイエロー。レモン。檸檬。「どっしり」。重量感。連想の糸が導くのは、
――つまりはこの重さなんだな。――/その重さこそ常づね尋ねあぐんでいたもので、疑いもなくこの重さはすべての善いものすべての美しいものを重量に換算して来た重さであるとか、思いあがった諧謔心からそんな馬鹿げたことを考えてみたり――なにがさて私は幸福だったのだ。
〈蕗子さん〉にとっても、〈黄色い傘〉は〈幸福〉への通路となりうるのか? それは読んでのお楽しみ。
その他、〈濡れたハンカチ〉の〈比喩〉に感心したり、美味しそうな豆大福に、よだれが出そうになったり、〈気圧〉と〈血圧〉、〈鼻〉と〈花〉のダジャレめいた取り合わせに感心したり、……。またしても、まとまりのない文章になった。やはり、実物を読むことをおすすめして、このレヴューを閉じたい。お粗末さまでした(なお、梶井「檸檬」の引用は、青空文庫による)。
2010年10月20日に日本でレビュー済み
今まで読んでいなくて本当によかった。短編集「セラニウム」から読みましたが、長編である本作もすばらしい。40歳くらいの女性主人公が亡くなった父親のあいまいな生前の姿(めぐらし屋)を追い求めるという物語としての直線的な進行もないわけではないけれど、脇道へとそれるのが気持ち良すぎます。肌荒れや低血圧や化粧のノリを気にしたり、小学生時分に書いた絵や黄色い傘を思い出したり。
主人公は度々記憶を失うように眠りにつくのですが、その後の急展開がすごい。全体的にいたって平坦な、何がおこるわけでもない小説なのですが、言葉のレベルではとんでもないスピードで事態が進んでいます。新聞連載だったという理由では説明がつかないものすごい急展開。たとえば文庫本で115ページ以降。父が亡くなった部屋で寝てしまった主人公が目を覚ました翌日、会社の同僚と行く焼肉場面のすさまじさ。同僚の男の妙に詳しいトリビア的知識が、生前の父の仕事に関係していたことがわかっていくのですが、言葉の喚起力によって現実が変わっていくというすごいことになっています。焼肉のセンマイ、学校にある百葉箱、百科事典、シマウマ娘、サバンナ、そして雨。つながるはずのない言葉がつながっていく心地よさ。因果関係の「つながり」ではなくイメージの「つらなり」。
うまく説明できないのでぜひ一読あれ。
主人公は度々記憶を失うように眠りにつくのですが、その後の急展開がすごい。全体的にいたって平坦な、何がおこるわけでもない小説なのですが、言葉のレベルではとんでもないスピードで事態が進んでいます。新聞連載だったという理由では説明がつかないものすごい急展開。たとえば文庫本で115ページ以降。父が亡くなった部屋で寝てしまった主人公が目を覚ました翌日、会社の同僚と行く焼肉場面のすさまじさ。同僚の男の妙に詳しいトリビア的知識が、生前の父の仕事に関係していたことがわかっていくのですが、言葉の喚起力によって現実が変わっていくというすごいことになっています。焼肉のセンマイ、学校にある百葉箱、百科事典、シマウマ娘、サバンナ、そして雨。つながるはずのない言葉がつながっていく心地よさ。因果関係の「つながり」ではなくイメージの「つらなり」。
うまく説明できないのでぜひ一読あれ。
2007年7月2日に日本でレビュー済み
全くないわけじゃないけれど、堀江敏幸の小説で、女性が主人公なのは珍しい。
全く作風が変わるわけではない。離婚して、別に暮らしていた父の遺品である“黒い背にすり切れた金文字の商標が入っている厚手の大学ノート”を広げると、もちろんそこには、隠された出生の秘密や謎の女性の影……といったものは何もなく、読者は期待どおりの堀江ワールドに誘われる。すなわち、小学校時代、鍵のかかる木箱に納まっていた黄色い貸し傘、学級閉鎖の日にひょうたん池に落ちた少年、完結しないまま版元が倒産した百科事典、造り酒屋の美味しい水で煎れた緑茶と豆大福、濡れたハンカチのしまい場所に、うどん屋で飲むエスプレッソ……
主人公の蕗子さんは四十歳くらいの、会社勤めをしている独身女性なのだが、作中全くといっていいほど恋の話がない。これって小説としては珍しくないですか?でも、日常生活ではリアルじゃないですか?学生時代はあんなに恋愛の話をしていたのに、最近恋の話はしなくなって、実際何もなさそうで、まじめなのに時々妙にかわいいというか、色っぽい感じのする女性。冷え性で、長湯した夜更けに、アッサムのロイヤルミルクティーを自分ひとりのためにいれて飲みながら、さまざまのことに思いを馳せるような。
ああそうか、上司である蕗子さんを何の違和感もなく“蕗子さん”と呼ぶ若い重田君と、いい雰囲気になっていくのかなあ……と想像しつつ、あ、作者に愛されているんだ、とふと思う。きまじめで人のよい蕗子さんは、いつも作者のあたたかいまなざしに背後から包まれていて、それで何がなし色っぽいのかな、と。
一章ごとに余韻が漂う。初出の毎日新聞日曜版ではどんなレイアウトだったのか気になる。
全く作風が変わるわけではない。離婚して、別に暮らしていた父の遺品である“黒い背にすり切れた金文字の商標が入っている厚手の大学ノート”を広げると、もちろんそこには、隠された出生の秘密や謎の女性の影……といったものは何もなく、読者は期待どおりの堀江ワールドに誘われる。すなわち、小学校時代、鍵のかかる木箱に納まっていた黄色い貸し傘、学級閉鎖の日にひょうたん池に落ちた少年、完結しないまま版元が倒産した百科事典、造り酒屋の美味しい水で煎れた緑茶と豆大福、濡れたハンカチのしまい場所に、うどん屋で飲むエスプレッソ……
主人公の蕗子さんは四十歳くらいの、会社勤めをしている独身女性なのだが、作中全くといっていいほど恋の話がない。これって小説としては珍しくないですか?でも、日常生活ではリアルじゃないですか?学生時代はあんなに恋愛の話をしていたのに、最近恋の話はしなくなって、実際何もなさそうで、まじめなのに時々妙にかわいいというか、色っぽい感じのする女性。冷え性で、長湯した夜更けに、アッサムのロイヤルミルクティーを自分ひとりのためにいれて飲みながら、さまざまのことに思いを馳せるような。
ああそうか、上司である蕗子さんを何の違和感もなく“蕗子さん”と呼ぶ若い重田君と、いい雰囲気になっていくのかなあ……と想像しつつ、あ、作者に愛されているんだ、とふと思う。きまじめで人のよい蕗子さんは、いつも作者のあたたかいまなざしに背後から包まれていて、それで何がなし色っぽいのかな、と。
一章ごとに余韻が漂う。初出の毎日新聞日曜版ではどんなレイアウトだったのか気になる。
2007年11月7日に日本でレビュー済み
「いびつさのなかにこそ親しんできた光景がある」ってことを、著者は主人公に語らせている。この小説は、これまであまり言語化されてこなかったような“いびつな”あるいは“どうでもいいような”光景を丁寧に言葉に定着させていて、読んでいて楽しい。例えば、「最初はほんのちょっとだけ入れてスプーンでよくかき混ぜ、黒くとろみのある液体になったところで湯を追加してそれを薄める」というインスタントコーヒーの入れ方。自動傘にはない普通の傘の「操作完了を告げる軽やかな機械音」の安心感、「火の組み合わせは三通り」で融通の利かない電気ストーブへの不満。日めくりの「先負」を、「なんと読むんだっけ?せんぷ、せんぶ、せんまけ、それとも、さきまけ?」。意外にこういうささいな事象への共感ってある。そして「薄皮の和菓子」と「仔猫のお腹」の感触、「百葉箱」と「牛モツ」の関係といった、ささいな記憶、事象同士の意外な接点。
もうひとつは「親しいとか親しくないとか、そういうこととはべつに、ひととのつながりは、こうしたちいさな交流の堆積からなっているのかもしれない」ということ。主人公は、父が死んではじめて父の裏稼業を知り、その役割を引き継ぐんだけど、こういうのって親子だからってことじゃなくてもあると思うんだよね。それもひょんなきっかけとか、予想もしない展開で。
人やモノってそれ自体いびつだし、人と人、事象と事象のつながりって整然としているわけじゃない。言葉にしようとするとどうしても、いびつな部分、ささいな部分がカットされて、通りの良い文脈に整形されちゃう訳だけど。実際は「連想ゲーム」のように、「ヒントは、それを与える側の感性と受け取る側の感性のバランスによって、残酷に変化する。正答をだれもが確信していたやりとりが、とんでもない方向にずれていく」ってことでさ。そこらへんの微妙な機微がこの小説には描かれていてとても面白い。
もうひとつは「親しいとか親しくないとか、そういうこととはべつに、ひととのつながりは、こうしたちいさな交流の堆積からなっているのかもしれない」ということ。主人公は、父が死んではじめて父の裏稼業を知り、その役割を引き継ぐんだけど、こういうのって親子だからってことじゃなくてもあると思うんだよね。それもひょんなきっかけとか、予想もしない展開で。
人やモノってそれ自体いびつだし、人と人、事象と事象のつながりって整然としているわけじゃない。言葉にしようとするとどうしても、いびつな部分、ささいな部分がカットされて、通りの良い文脈に整形されちゃう訳だけど。実際は「連想ゲーム」のように、「ヒントは、それを与える側の感性と受け取る側の感性のバランスによって、残酷に変化する。正答をだれもが確信していたやりとりが、とんでもない方向にずれていく」ってことでさ。そこらへんの微妙な機微がこの小説には描かれていてとても面白い。