バルト死後の1985年に刊行された『記号学の冒険』に収められた16編のテクストのうち、12編を訳出。
「1 記号学の冒険」――「記号学」は私にとって何なのでしょうか? それは一つの冒険(アヴァンチュール)です。つまり、私に不意に起こること(私のもとに「記号表現」からやって来るもの)です。この冒険は、私の場合、三期にわたっておこなわれました。第一期は、驚嘆の時代です。第二期は、科学の時代、あるいは少なくとも、科学性の時代でした。第三期は、「テクスト」の時代です。
「2 修辞の文彩(あや)の構造的表現」――修辞の文彩は、二つの大きなグループに分類することができる。第一のグループ、つまり変換法のグループには、意味論的な変換をともなうあらゆる共示子(コノテーター)が含まれる。第二のグループ、つまり並列法のグループには、〈正常な〉連辞的連続(A・B・C・D・・・・・・)に影響をおよぼしうる、コード化された言語表現がすべて含まれる。
「3 行為の連鎖」――言うまでもなく物語は、ある行為がおこなわれるたびに、ある二者択一の前に立たされるが、自分にとって有利な選択肢、つまり物語として生きのびることを保証してくれる選択肢以外のものは決して選ばない。
「4 ソシュール、記号、デモクラシー」――ソシュールは、スペンサーからマラルメにいたる同時代人の多くと同じように、「流行」の重要性に注目し、言語活動の領域における「流行」を相互交通と呼んだ。また他方、ソシュールは、言語を永遠のものとすることによって、いわば「起源」をお払い箱にする。
「5 意味の調理場」――世界の記号を解読する、ということは、つねに、対象のある種の無邪気さと戦う、ということである。メッセージの内容ではなく作られ方に焦点を合わせるためには、観察力をたえずとぎすまさなければならない。
「6 社会学と社会論理」――社会学的分析は構造的なものとならなければならないが、それは、対象が〈それ自体〉構造化されているからではなく、社会がたえず対象を構造化するからである。
「7 広告のメッセージ」――ひとことで言えば、広告文は、二重性を含めば含むほど、いや言葉の矛盾を避けて言うなら、それが多重であればあるほど、ますます共示的メッセージの機能を発揮する。
「8 対象(もの)の意味論」――対象は、実際に何かの役に立っているのですが、しかしまた、情報を伝達する役にも立っているのです。これをひとことで要約するなら、対象の用途からはみ出すある意味がつねに存在する、と言えるでしょう。
「9 記号学と都市計画」――都市は、一個のエクリチュールなのです。都市のなかを移動する者、つまり都市の使用者(われわれはみなそうです)は、何をしなければならないか、どのように移動するかに応じて、同じ言表のさまざまな断片を取り上げ、それをひそかに現働化する一種の読者なのです。
「10 記号学と医学」――医者とは、言語活動を媒介にして症候を徴候に変える者、ということになるだろう―私はこの点が非常に重要であると思う。もしこの定義を援用するなら、そのときこそ、現象的なものから意味論的なものに移行したということになるのだ。
「11 物語の構造分析」――「物語の構造分析」は、文献学的な分析とは根本的に異なっています。というのも、「物語の構造分析」は、私がテクストの軌跡、テクストの意味の場所、テクストの可能性の場所と呼ぶものを描き出そうとするからです。
「12 エドガー・ポーの一短編のテクスト分析」――ポーの短編の場合、象徴的な枠組みは、明らかに「死」のタブーの侵犯であり、分類の攪乱であり、ボードレールが「死」に対する「生」の侵入(ありふれた、「生」に対する「死」の侵入ではない)として(実に見事に)訳出したものである。
科学としての記号学の可能性の追求から、読書の快楽へという変化をしていったバルトだが、この2つは地続きのものであることが良く分かる。それは、「11 物語の構造分析」と「12 エドガー・ポーの一短編のテクスト分析」の分析スタイルがそれほど違わないという点に端的に現れている。構造分析とテクスト分析は一続きのものなのである。それはまた、構造主義とポスト構造主義が、実際は地続きのものではないかという、大きな問題に通じているだろう。
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記号学の冒険 新装版 単行本 – 1999/11/1
- 本の長さ271ページ
- 言語日本語
- 出版社みすず書房
- 発売日1999/11/1
- ISBN-104622049686
- ISBN-13978-4622049685
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商品の説明
内容(「MARC」データベースより)
物語記号論の領域における主要な論考「物語の構造分析」「行為の連鎖」「エドガー・ポーの一短編のテクスト分析」のほか、レヴィ=ストロースの「野生の思考」を論じた「社会学と社会論理」等を収録。88年刊の新装。
登録情報
- 出版社 : みすず書房 (1999/11/1)
- 発売日 : 1999/11/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 271ページ
- ISBN-10 : 4622049686
- ISBN-13 : 978-4622049685
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,312,583位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 240位言語研究・記号学
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