この新装版が出版されたのは2019年ですが、その元となった「トラウマの医療人類学」が出版されたのは2005年です。
著者の宮地さんはトラウマ研究の第一人者でいらっしゃって、本書にもトラウマに関する論考が収められています。ただし、トラウマに関する基礎的な解説などはなく、著者がトラウマやトラウマに関する社会状況などについて医療人類学の視点から考察されたことが主な内容になっています。
(本のタイトルには「トラウマ」の文字はありますが、トラウマだけが考察のテーマではありません。)
したがって、
・トラウマの基礎的なことについて知りたい
・トラウマからどのように回復したらよいのかヒントを得たい
・トラウマの治療法について知りたい
という方には本書はお勧めできません。(基本的なことが学びたい方は岩波新書の『トラウマ』がお勧めです)
一方、
・医療人類学、文化精神医学について学びたい
・トラウマという現象をどのように捉えればよいのか多様な視点から捉えたい
という方にはお勧めできると思います。
個人的には、社会の様々なテーマに迫っていく著者の視点の鋭さに触れてよい学びになりましたし(時に、自分も批判される対象に含まれましたので、息苦しく感じることもありましたが)、自分が曖昧にしか考えていなかったことを明確化する上で有益な本でした。
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トラウマの医療人類学 単行本 – 2005/7/22
宮地 尚子
(著)
トラウマという言葉が飛び交うようになって久しい。
冷戦終結後には世界各地で内戦が起こり、「民族浄化」という名の虐殺がつづいた。
9・11以降、世界の暴力化は加速していき、イラク戦争下の2004年にはアブグレイブの拷問の写真が新聞の一面を飾った。
もとは米国でのベトナム戦争帰還兵への対処から生まれたPTSD概念も、
トラウマ同様、日本では阪神淡路大震災と地下鉄サリン事件をきっかけに注目され、
自然災害や交通事故から殺傷事件、ドメスティック・バイオレンス、レイプや幼児虐待その他、
それぞれの事情に対処するための重要なキイワードとなってきた。
だが、これらの言葉は正しく理解されているのだろうか。
ヴィジョンなき概念の使用から、さまざまな問題が生まれてきているのではないだろうか。
大学で平和社会論を教えるいっぽう、精神科医として医療人類学・文化精神医学にかかわり、
性暴力についてのカウンセリングや難民医療にも力を注いできた著者は、
このような時代の中で、何を考え、どのような実践をしてきたのか。
本書にはそのすべてが映し出されている。
移住者問題、薬害エイズ、「慰安婦」問題、PTSD概念と法・裁判、拷問とトラウマ、
マイノリティのための精神医学など、その力強く具体的な筆致からは、
今を生きるわれわれへの大切なメッセージが伝わってくる。
冷戦終結後には世界各地で内戦が起こり、「民族浄化」という名の虐殺がつづいた。
9・11以降、世界の暴力化は加速していき、イラク戦争下の2004年にはアブグレイブの拷問の写真が新聞の一面を飾った。
もとは米国でのベトナム戦争帰還兵への対処から生まれたPTSD概念も、
トラウマ同様、日本では阪神淡路大震災と地下鉄サリン事件をきっかけに注目され、
自然災害や交通事故から殺傷事件、ドメスティック・バイオレンス、レイプや幼児虐待その他、
それぞれの事情に対処するための重要なキイワードとなってきた。
だが、これらの言葉は正しく理解されているのだろうか。
ヴィジョンなき概念の使用から、さまざまな問題が生まれてきているのではないだろうか。
大学で平和社会論を教えるいっぽう、精神科医として医療人類学・文化精神医学にかかわり、
性暴力についてのカウンセリングや難民医療にも力を注いできた著者は、
このような時代の中で、何を考え、どのような実践をしてきたのか。
本書にはそのすべてが映し出されている。
移住者問題、薬害エイズ、「慰安婦」問題、PTSD概念と法・裁判、拷問とトラウマ、
マイノリティのための精神医学など、その力強く具体的な筆致からは、
今を生きるわれわれへの大切なメッセージが伝わってくる。
- ISBN-104622071509
- ISBN-13978-4622071501
- 出版社みすず書房
- 発売日2005/7/22
- 言語日本語
- 本の長さ375ページ
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登録情報
- 出版社 : みすず書房 (2005/7/22)
- 発売日 : 2005/7/22
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 375ページ
- ISBN-10 : 4622071509
- ISBN-13 : 978-4622071501
- Amazon 売れ筋ランキング: - 773,472位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 1,123位医学
- カスタマーレビュー:
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上位レビュー、対象国: 日本
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2021年1月20日に日本でレビュー済み
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2005年10月27日に日本でレビュー済み
宮地尚子さんのこの本はすごい。この本は、トラウマということをめぐるさまざまな論考を集めたものであるが、彼女の問題意識の鋭さ、複雑性への目配り、繊細性、権力性、暴力性、立場性、当事者/非当事者性、加害者性、文化依存性、恣意性への自覚、つまり、「自覚的であること」、そうした全体における、高くスピリチュアルなレベルが如実に出ている。ジェンダーフリーへのバックラッシュがあるが、この宮地さんのレベルに触れれば、もう勝敗は明らかだろう。
彼女は複雑に思考する。めちゃめちゃバランスがいいから、あれもこれも見えて、考える。学問的な最低ラインは押さえた上で、あっちやこっちやから光を当てる。たとえば、途上国の人を「救う」ということの欺瞞を見たうえで、それでも行動するという無思慮の必要性にいたる。暴力被害者の複雑な心理を的確に言葉にできる。それは臨床で当事者に出会い、聞き続けてきたからだ。そしてサバイバーに感謝の念を感じる魂を持っている。この人は決して偉そうでないのだ。そのスタイル全体が、非暴力である。そしてその深さをスピリチュアルと私は呼ぶ。
彼女は複雑に思考する。めちゃめちゃバランスがいいから、あれもこれも見えて、考える。学問的な最低ラインは押さえた上で、あっちやこっちやから光を当てる。たとえば、途上国の人を「救う」ということの欺瞞を見たうえで、それでも行動するという無思慮の必要性にいたる。暴力被害者の複雑な心理を的確に言葉にできる。それは臨床で当事者に出会い、聞き続けてきたからだ。そしてサバイバーに感謝の念を感じる魂を持っている。この人は決して偉そうでないのだ。そのスタイル全体が、非暴力である。そしてその深さをスピリチュアルと私は呼ぶ。
2009年5月5日に日本でレビュー済み
この本から、テキスト的な知識を求めてはいけない。トラウマに関する書籍もまた、医療人類学に関する書籍も多く、何かを学ぼうとする者は、もっと基礎的なテキストから入って欲しい。本書は、初心者向けではなく、少なくとも文化人類学が現在置かれている問題を知悉しつつ、それに悩む者を対象にしている。エッセイではあるが考えさせられる。
確かに、すべての行為は政治的ではあろうが、しかし、人は何かをせずにはいられないのだ。
確かに、すべての行為は政治的ではあろうが、しかし、人は何かをせずにはいられないのだ。