「戦争と平和についての観察」は『関与と観察』の中で書かれた、さまざまなトピックスをひとつにまとめたような文章。《戦争を知るものが引退するか世を去ったときに次の戦争が始まる例が少なくない》(p.56)というあきらめのような気分で書かれ、1)中クラスの国家にとどまるべきこと2)アングロサクソンを挑発しないこと3)近隣の恨みを買わないことを基本としたビスマルクを罷免したヴィルヘルム二世の政策によって、ドイツは世界大戦二連敗という唯一の体験をすることになるというあたりを力説していたのが新味。あとがきでは《日本の第二次大戦は欧州の第一次大戦に相当する。まだ、日本はほんとうの試練に逢ってないのかもしれない。歴史と地理と偶然が日本を甘やかしてきた》という悲痛な文章が書きつがれています。
「睡眠医学からの助言」は個人的に納得のいくことばかり。《睡眠は二時間ごとに浅くなる。夜目覚めるのは二時間置きか、二時間の倍数である》《このように二時間をセットとして睡眠時間は四セットで一晩分である。一セットには睡眠の全要素が入っている》というのは実感できますし《時々、睡眠は四時間で大丈夫だという人がいる。たしかに一セットの睡眠が一番深く、第二セットがその次という人が多い》というのは以前の自分でした。しかし、《年をとると、第一セットの眠りも浅くなってくる。睡眠の深さを四段階に分けるとたいていの人が第四段階には達しない、睡眠薬も第三段階どまりである(第四段階まで達するという薬は夢遊病を起こしやすい)。酒は第二段階を長引かせる。そして、夢が足りない》(pp.12-124)ということは気をつけよう、と。
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樹をみつめて 単行本 – 2006/9/21
中井 久夫
(著)
〈私はふと思った。植物界を人間と動物の活動の背景のようにみなしてきた。植物に注目するのは、もっぱら人間のために役立つかどうかという点からである。中米のサトイモは人間のホルモンであるステロイドのまとまった量を作ってくれるとか。石油代わりの液を出す植物に注目して「地球にやさしい」とか。…医学は人体を宇宙の中心に据えた天動説生物学になりがちである。天動説は根強い。医学だけではない。自国からしかものが見えない傾向が強まっているのも天動説復帰であろう。時には植物の側から眺めると見えてくるものがある。そういう眼を持ちたいものである。何の役に立つかという天動説的観点から離れ、役に立たないどころか悪臭を放つ実を降らせるフクギの、いわば存在自体を肯定して、福をもたらすとするのが沖縄の心ばえである。おそらく無用にみえるものの存在を肯定すること自体が福をもたらすのであろう〉(樹をみつめて)
それぞれ100枚を超える長文エッセイ「戦争と平和についての観察」「神谷美恵子さんの「人と読書」をめぐって」の2編を軸に、「甲南裏山物語」「治療における強い関係と弱い関係」「数学嫌いの起源」「最晩年の定家」など、書き下ろしもふくめ22編を収録。著者の現在の視点をつたえる。
それぞれ100枚を超える長文エッセイ「戦争と平和についての観察」「神谷美恵子さんの「人と読書」をめぐって」の2編を軸に、「甲南裏山物語」「治療における強い関係と弱い関係」「数学嫌いの起源」「最晩年の定家」など、書き下ろしもふくめ22編を収録。著者の現在の視点をつたえる。
- 本の長さ260ページ
- 言語日本語
- 出版社みすず書房
- 発売日2006/9/21
- ISBN-104622072440
- ISBN-13978-4622072447
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登録情報
- 出版社 : みすず書房 (2006/9/21)
- 発売日 : 2006/9/21
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 260ページ
- ISBN-10 : 4622072440
- ISBN-13 : 978-4622072447
- Amazon 売れ筋ランキング: - 130,057位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 2,491位近現代日本のエッセー・随筆
- - 14,547位ビジネス・経済 (本)
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著者について
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1934年生まれ。1959年、京都大学医学部卒業。はじめウイルス研究者。東大分院において精神科医となる。神戸大学名誉教授。1985年、芸術療法学会賞、1989年、読売文学賞(翻訳研究賞)、1991年、ギリシャ国文学翻訳賞、1996年、毎日出版文化賞(「BOOK著者紹介情報」より:本データは『 ヴァレリー詩集 コロナ/コロニラ (ISBN-13: 978-4622075455 )』が刊行された当時に掲載されていたものです)
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2006年11月27日に日本でレビュー済み
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2010年2月28日に日本でレビュー済み
第2章「戦争と平和についての観察」は,『西欧精神医学背景史』を彷彿とさせる,歴史の知識を駆使した傑作です。
近年のきな臭い世界情勢の中でこそ,もっと読まれるべきではないかと。
近年のきな臭い世界情勢の中でこそ,もっと読まれるべきではないかと。
2006年10月19日に日本でレビュー済み
宮崎哲弥氏の名言に「カウンセリング如きで世界を語るな!」というのがあるが、実際、精神医学の専門用語をそこここにまぶしながら、愚にも付かない駄弁を弄する精神科医には洵にうんざりさせられる。勿論、中井氏はそのような精神科医ではない。自分の専門に関する記述があっても、それは議論の土台になっていて、思索の中に溶かし込んであるのが殆どなのである。その例が本書の大論文「戦争と平和についての観察」であり、大読書家としての氏の思索力を示して圧巻だ。また、氏の敬愛する神谷美恵子についての長文の解説は、主として神谷と書物との関りを語って間然とするところがない。その他のエッセイ群についても、深い読書体験を背景にしながら、静かな口調で語られているのが印象に残る。本として美しいことも、付言しておこう。
2011年1月5日に日本でレビュー済み
本書所収の「神戸」論に興味があったのだが,今ひとつ。しかし,「戦争と平和についての観察」はとてもおもしろかった。●戦争維持よりも平和維持のほうがエネルギーを必要とすること,●戦争遂行と生存者罪悪感の関係性,●戦争開始時の祝祭期間と平和憧憬,●戦争指導者の願望思考,●非対称性に基づく戦争,●戦争の終わり方,など,ところどころに精神科医らしい視点が生きている「観察」がすばらしく,考えさせられる。読むべき人は,読まなければならない文献である。ただ,もうちょっとまとまっていると,ありがたかったかもしれない。「神谷美恵子」論は,自分には今ひとつだった。秩序に少数のランダムを加えることで効率化するというネットワーク論をもとにした「治療における強い関係と弱い関係」は,短い文章であるものの,ひっかかるものがあった。