本書は、以前中公新書から出ていた同題の本(1994年)の、版元を変えての増補新版(2007年)です。
評者は、だいぶ前に前者の中公新書で本書を読み、イギリス19世紀当時の女性の職業としてあったガヴァネスについて多くのことを知ることができたという記憶が残っていました。
その後その本は蔵書処分のさい手放してしまいましたが、最近シャーロット・ブロンテの『ジェイン・エア』を再読する機会があり、この本を思い出したしだい。しかし読みなおしてみて、内容は何も覚えていなかったことに愕然…
本書は、第1部が歴史のなかのガヴァネス、第2部は文学にあらわれたガヴァネスという2部仕立ての構成になっています。
以前読んだときと同様、ガヴァネスについての歴史的事実が明らかにされている第1部がやはりとても興味深いものがあります。増補新版では、ガヴァネス海外進出の例が新たに紹介されています。
この第1部でいくつか注意をひいた箇所を、備忘もかねて引用しておきます:
*「当時レディにとって恥ずかしくない(リスペクタブル)と見なされた唯一の職業はガヴァネスだった[…]なぜガヴァネスの仕事が女性の職業の中でもっとも恥ずかしくないものと見なされていたかといえば、それが女性の標準像というべき中産階級の母親によってなされる仕事と類似していたから」
*「中産階級の妻たちは、完全なレディに変貌していく過程で、料理はコックに、掃除は女中に、子育ては乳母にと、主婦業および母親業の代行者を次々に必要としたが、娘たちを教育する仕事の代行者としてガヴァネスを必要としたのだった」
(まあ日本でも戦前までは、中産階級以上の家庭には、ガヴァネスはともかく、女中〈コックもかねる)や乳母といった主婦業および母親業の代行者といえそうな存在が普通にいたはずです)
*「ガヴァネスを苦しめたのが、その社会的地位のあいまいさであった。ガヴァネスは[…]何らかの事情によってたまたま自活を余儀なくされたレディである。職務からいってもガヴァネスは、レディの教育にあたるからには、彼女自身がレディでなければならない。彼女と雇用者の間には、生まれ、振る舞い、教育の点でなんの違いもないのだ。
他方、[…]当時のレディの理念からいえば、レディは〈報酬を受ける仕事〉とは無縁の存在であり、生活のために働くガヴァネスはその観点からはレディとは見なし難いのである。つまり、ガヴァネスは雇用者とは対等ではないのだ。
この対等にして対等ならざる矛盾したガヴァネスの身分…」
第2部については、文学のなかにあらわれたガヴァネスという角度から19世紀イギリス小説が眺めなおされていて、こちらも興味深く読めたしだい。
そこで取りあげられている小説は、旧版ではレディ・ブレッシントン『ガヴァネス』(1839)、サッカレー『虚栄の市』(1847-48)、シャーロット・ブロンテ『ジェイン・エア』(1847)、アン・ブロンテ『アグネス・グレイ』(1847)、ミセス・ヘンリー・ウッド『イースト・リン』(1861)、トロロウプ『ユーステス家のダイアモンド』(1873ン)、ヘンリー・ジェイムズ『ねじのひねり』(1898)、さらに増補新版ではメアリ・ブラッドンのセンセーション・ノヴェル『レイディ・オードリーの秘密』(1862年)の例が付け加えられています。
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ガヴァネス―ヴィクトリア時代の〈余った女〉たち 単行本 – 2007/11/20
川本 静子
(著)
女性の使命は結婚して家庭に入り「良妻賢母」として有閑生活を送ることだと考えられていた19世紀英国の中産階級社会。しかし、1840年代頃から成人男性の海外移住や晩婚化が進み、大量の未婚女性が出現する。彼女たちは〈余った女〉などと揶揄され、自活の道を強いられた。女性が職業を持つのははしたないとされたこの時代、レディの体面を保ったまま就くことのできた唯一の職業が「ガヴァネス」、住み込みの家庭教師だった。
時には子守やお針子代わりにこきつかわれ、薄給と孤独に苦しみながらも「レディ」の誇りにこだわりつづけたガヴァネスたち。本書では、第一部で当時の新聞雑誌やガヴァネスの書簡など多数の一次資料を用いて、現実に生きたガヴァネスの姿に迫り、第二部では、C・ブロンテ『ジェイン・エア』、W・M・サッカレー『虚栄の市』から、当時大ベストセラーとなったセンセーション・ノヴェルに至るまで、いわゆる「ガヴァネス文学」を取り上げ、英文学においてガヴァネスが果たした役割を探る。ヴィクトリア時代の中産階級家庭に必須かつ得意な〈道具立て〉のひとつとして機能した「ガヴァネス」の実像を、歴史と文学の両面から、第一人者が浮き彫りにした。
「ヴィクトリア時代のガヴァネスたちの現実と夢は、遠い時代の遠い国の物語に見えるかもしれない。だが実は、今日の女性たちのほんの昨日の物語なのである」
中公新書版(1994年)の増補新版。
時には子守やお針子代わりにこきつかわれ、薄給と孤独に苦しみながらも「レディ」の誇りにこだわりつづけたガヴァネスたち。本書では、第一部で当時の新聞雑誌やガヴァネスの書簡など多数の一次資料を用いて、現実に生きたガヴァネスの姿に迫り、第二部では、C・ブロンテ『ジェイン・エア』、W・M・サッカレー『虚栄の市』から、当時大ベストセラーとなったセンセーション・ノヴェルに至るまで、いわゆる「ガヴァネス文学」を取り上げ、英文学においてガヴァネスが果たした役割を探る。ヴィクトリア時代の中産階級家庭に必須かつ得意な〈道具立て〉のひとつとして機能した「ガヴァネス」の実像を、歴史と文学の両面から、第一人者が浮き彫りにした。
「ヴィクトリア時代のガヴァネスたちの現実と夢は、遠い時代の遠い国の物語に見えるかもしれない。だが実は、今日の女性たちのほんの昨日の物語なのである」
中公新書版(1994年)の増補新版。
- 本の長さ224ページ
- 言語日本語
- 出版社みすず書房
- 発売日2007/11/20
- ISBN-104622073358
- ISBN-13978-4622073352
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登録情報
- 出版社 : みすず書房 (2007/11/20)
- 発売日 : 2007/11/20
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 224ページ
- ISBN-10 : 4622073358
- ISBN-13 : 978-4622073352
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,303,797位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 399位イギリス・アイルランド史
- - 3,577位ヨーロッパ史一般の本
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